後遺障害14級9号の慰謝料の計算|相場やポイントを弁護士が解説

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


後遺障害14級9号の後遺障害慰謝料の相場は、110万円です。

この慰謝料は弁護士基準といい、裁判所が用いる計算方法で算定した適正な金額です。

保険会社は、この110万円よりも少ない金額を提示してくるため注意が必要です。

このページでは、交通事故に注力する弁護士が後遺障害14級9号の後遺障害慰謝料の計算方法、賠償金を適切に獲得するためのポイントについて解説しています。

ぜひ参考になさってください。

後遺障害14級9号とは

後遺障害14級9号とは、自賠責保険において、交通事故による後遺障害が「局部に神経症状を残すもの」として認められた場合に、認定される後遺障害等級になります

具体的には、ちうち(外傷性頚部症候群など)や腰部捻挫といった診断名で、6ヶ月以上通院しても痛みが残った場合などです。

残存している痛みについて、医学的に証明(レントゲンなどの画像所見がない)はできないが、説明(受傷時の状態や治療経過などから、痛みの連続性や一貫性が認められる)はできるときに、14級9号が認定されます。

 

 

後遺障害慰謝料とは

後遺障害慰謝料は、交通事故により、痛みが残存する、骨が変形する、動かしづらくなるというような状態で、自賠責保険で後遺障害等級が認定された場合等に認められる賠償金です。

後遺障害慰謝料は、あくまで後遺障害が残存したことによる精神的苦痛に対する賠償です。

後遺障害慰謝料と似たものとして、入通院慰謝料(傷害慰謝料)というものがあります。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、入院や通院をしたことによる精神的苦痛に対する賠償になります。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)について、詳しくはこちらをご覧ください。

後遺障害慰謝料を獲得するためには、自賠責保険で後遺障害等級が認定されていることが必須の要件ではありませんが、基本的には自賠責保険で後遺障害等級が認定されていることが前提となります。

後遺障害14級について、詳しくはこちらをご覧ください。

なお、後遺障害慰謝料には、以下の3つの種類があります。

交通事故の慰謝料全般について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

後遺障害14級9号の慰謝料の相場

では、後遺障害14級9号が認定された場合、後遺障害慰謝料はいくらになるでしょうか。

まず、弁護士基準の相場は、110万円となります。

続いて、自賠責基準は、32万円となります。

なお、自賠責保険で14級9号が認定された場合、被害者の方は、自賠責保険から75万円を受領することが多いと思います。

この75万円は、後遺障害慰謝料と、後述する後遺障害逸失利益を含む金額です。

その75万円の中で、後遺障害慰謝料分は、32万円ということになります。

後遺障害14級の75万円という金額について、詳しくはこちらをご覧ください。

次に、任意保険会社の基準は、非公表ですが、基本的には、自賠責基準よりも高く、弁護士基準よりも低い金額となります。

上記をまとめると、以下のようになります。

【 14級9号の後遺障害慰謝料 】

自賠責基準 任意保険会社の基準 弁護士基準
32万円 非公表(通常は、自賠責基準 < 任意保険会社の基準 < 弁護士基準) 110万円

このように、弁護士基準が金額として一番高額になります。

 

 

後遺障害14級9号の慰謝料以外の賠償金の計算方法

交通事故の賠償金は、後遺障害慰謝料だけではありません

後遺障害慰謝料以外の賠償金の請求も重要です。

具体的には、治療費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害逸失利益などがあります。

以下、それぞれの内容について解説します。

治療費

治療費は、通院して実際にかかった病院や整骨院の費用です。

なお、後遺障害が残ったとしても、請求できる治療費は、原則的に症状固定までの治療費です。

症状固定後に通院しても、その治療費は回収できないことがほとんどです。

症状固定について、詳しくはこちらをご覧ください。

症状固定後の治療費について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

通院交通費

通院交通費とは、病院や整骨院に通院した際に支出した交通費です。

自家用車の場合は1km15円、公共交通機関の場合は実際に支出した金額が支払われることになります。

 

休業損害

休業損害は、事故によって仕事を休み、収入が減少した分の損害です。

休業損害は、以下の計算式で算出します。

【 計算式 】
収入日額 × 休業日数

休業損害について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

入通院慰謝料(傷害慰謝料)

入通院慰謝料は、事故によって入院や通院をしたことによる精神的苦痛に対する賠償です。

入通院慰謝料について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益は、後遺障害が残った場合に、将来の収入減少に対する賠償のことです。

後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出します。

【 計算式 】
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

後遺障害逸失利益について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

物損

修理費、代車使用料、評価損、携行品などが考えられます。

物損について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

後遺障害慰謝料の適正額がわかる自動計算機

後遺障害慰謝料や、その他の損害を手っ取り早く計算する自動計算機がありますので、ぜひご活用ください。

 

 

後遺障害慰謝料請求の4つのポイント

ポイント①まずは後遺障害の申請をする必要がある

継続して6ヶ月以上(目安)通院し、症状固定になったら、まずは、14級9号を獲得するため、自賠責保険に後遺障害の申請をする必要があります。

症状固定のタイミングで、主治医に、後遺障害診断書を作成してもらいます

なお、後遺障害診断書は、整骨院ではなく、病院の医師しか作成できませんので、整骨院も通院されている方は病院も並行して通院するようにしてください。

後遺障害診断書について、詳しくはこちらをご覧ください。

そして、医師に後遺障害診断書を作成してもらったら、その他の必要書類を準備し、後遺障害の申請をします。

ここで、後遺障害の申請には、被害者自身(あるいは被害者が依頼している弁護士)が行う「被害者請求」と、相手方保険会社が行う「事前認定」の2つの種類があります。

筆者としては、事前認定は、被害者側からどのような書類を提出しているかわからないため、弁護士に依頼したうえで、提出書類を選べる被害者請求で後遺障害申請をした方が良いと考えています。

被害者請求に必要な書類について、詳しくはこちらをご覧ください。

事前認定のメリット、デメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

ポイント②弁護士に依頼しないと弁護士基準では認めてくれない?

仮に14級9号が自賠責保険で認定されていて、被害者個人で相手方保険会社に後遺障害慰謝料を弁護士基準の110万円で請求したとしても、相手方保険会社は交渉段階で当該金額を認めてくれることはそう多くはないでしょう。

被害者個人で交渉している場合、相手方保険会社は自賠責基準や任意保険会社の基準といった金額の低い基準しか提示してこない可能性が高いです。

したがって、たとえ弁護士基準の相場を知っていたとしても、弁護士基準の後遺障害慰謝料を請求するためには、弁護士に依頼することが必要になってきます

弁護士に依頼するメリットは後遺障害の慰謝料の増額だけではないので、交通事故に遭われた被害者の方は、一度弁護士に依頼されることを検討してみてください。

交通事故で弁護士に依頼するメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

ポイント③本当に110万円だけで大丈夫?慰謝料の増額事由も主張!

たしかに、上記で解説したとおり、14級9号の後遺障害慰謝料の弁護士基準の相場は、110万円です。

もっとも、110万円はあくまで「相場」なので、絶対的に縛られる基準ではありません

具体的な事案の内容によっては、110万円から増額されるケースがあります。

慰謝料増額を主張すべき場合

加害者側や被害者側に以下のような事情があれば、慰謝料の増額を主張すべきです。

  • 加害者に故意もしくは重過失(無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、殊更に信号無視、薬物等の影響により正常な運転ができない状態等)
  • 加害者に著しく不誠実な態度があった場合
  • 事故当時、被害者が妊娠していて、事故が原因で流産した場合

 

慰謝料増額が認められた裁判例(14級9号以外の事例も含む)

判例 サッカー選手の事案(東京地裁平成15年6月24日交民36巻3号865頁)

【 事案の概要 】

  • 事故によって右足関節の痛みが残存し、後遺障害等級14級10号(現在の14級9号に相当)が認定されていた。
  • 被害者は、事故時27歳男性で、メキシコでプロサッカー選手として活躍していた実績を有していたが、事故によって事実上、選手生命を断たれた。

【 結論 】

後遺障害慰謝料として250万円が認められた(14級の相場は110万円)。

判例 パイロットの事案(東京地裁平成21年3月30日交民42巻2号491頁)

【 事案の概要 】

  • 頚椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負い、14級10号(現在の14級9号に相当)が認定された。
  • 被害者の職業はパイロットで、事故による後遺障害が職業に影響するという将来に対する不安があった。

【 結論 】

後遺障害慰謝料として180万円が認められた(14級の相場は110万円)。

判例 後遺障害が3つの部位に及んだ事案(京都地裁平成30年3月19日自保ジャーナル2028号69頁)

【 事案の概要 】

  • 頚椎捻挫後の症状につき、14級9号が認定された。
  • 腰痛捻挫後の症状につき、14級9号が認定された。
  • 左耳鳴については、14級相当と認定された。
  • 以上3つの部位で併合14級が認定されていた。

【 結論 】

後遺障害慰謝料として150万円が認められた(14級の相場は110万円)。

判例 加害者が飲酒運転をしていた等により増額した事案(大阪地裁平成21年1月30日交民42巻1号96頁)

【 事案の概要 】

  • 事故により、歯の後遺障害で10級4号が認定された。
  • 加害者が、相当な飲酒をしたうえで加害者車両を運転して本件事故を起こしたこと、常習的な飲酒運転であったこと、救護義務や報告義務に違反したひき逃げであること、逃走後に加害者車両を修理するなどして堙滅工作を図っていること、無車検・無保険車運転であること、過失の内容自体、後方車両にばかり気をとられて全く前方に注意を払っていなかったという重大な過失であることなどの事情が認められた。

【 結論 】

後遺障害慰謝料として795万円が認められた(10級の相場は550万円)。

 

ポイント④自賠責保険で14級9号が認められなかった場合の対処法

痛みが残存しているにもかかわらず、後遺障害申請をした結果、後遺障害が認定されないというケースもあります。

そのような場合でも、簡単に諦める必要はありません。

以下の手段を用いれば、後遺障害慰謝料を獲得できる可能性があります

自賠責保険の認定を覆す方法パート1〜異議申立て〜

最初の申請で後遺障害が認定されなかったとしても、自賠責保険へ異議申立てをしたら認定が覆ることもあります。

異議申立ては、時効にかからない限り、何度も行うことができます

ただし、一度判断されているものを覆すためには、新しい証拠を添付して申請する必要があります

新しい証拠の例は、以下のとおりです。

カルテ(診療録)

カルテには、これまでの診療経過や、被害者がどのような痛みを訴えてきたかが記載されています。

一貫して痛みを訴えていた場合、新たな証拠としての価値は高いです。

医師の意見書

後遺障害の認定において、医師の意見は重要です。

痛みが残存していることについて、何らかの医師の説明がなされた意見書があれば、証拠として提出することを検討すべきでしょう。

後遺障害診断書ですでに医師の意見は表明されていますが、紙幅の関係で十分に書かれていない場合もあるので、意見書は後遺障害診断書を補完する機能があります。

物損資料

物損資料は、事故の衝撃の大きさを示すために有用です。

大破を示す車両写真、修理見積書の金額が高額になっている場合などは、証拠価値が高いものとして提出することがあります。

刑事記録
実況見分調書などの刑事記録も、事故規模等を示す証拠となり得ます。
被害者の陳述書
治療経過、痛みの推移、事故状況等を示すために、被害者の陳述書を作成し提出することがあります。

後遺障害の異議申立てについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

自賠責保険の認定を覆す方法パート2〜紛争処理機構申立て〜

自賠責保険へ異議申立てをしても結果が覆らなかった場合、紛争処理機構(正式名称は、「一般社団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構」)へ申立てをし、後遺障害等級を判定してもらえることができます。

参考:一般社団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構

紛争処理機構で判定が覆り、14級9号が認定されたら、14級分の後遺障害慰謝料を請求することができます

 

訴訟提起により14級相当の主張をする

仮に、自賠責保険や紛争処理機構で14級9号が認定されなかったとしても、裁判所へ訴訟提起をして、14級相当の後遺障害が残っているとして後遺障害慰謝料を請求することもできます。

もっとも、自賠責保険等で後遺障害等級が認定されていない場合、裁判官も簡単には後遺障害慰謝料を認めてくれません。

訴訟の中で、どのような痛みが残存し、日常生活や仕事にどのような影響が出ているかを、証拠を駆使して丁寧に主張していくことが求められます。

以下は、自賠責保険で後遺障害が認められなかったが、裁判では後遺障害慰謝料が認められた裁判例です。

判例 自賠責保険で非該当になったが、裁判で14級相当の後遺障害慰謝料が認められた裁判例(東京地裁平成22年10月13日交民43巻5号1300頁)

【 事案の概要 】

  • 被害者は事故当時66歳男性で、歩行中に車に後ろから追突された。
  • 被害者は、頚椎捻挫、右肩打撲等の負傷をした。
  • 被害者に首の痛み等の痛みが残存し、後遺障害の申請(事前認定)や異議申立てがなされたが、自賠責保険は後遺障害を認めなかった。

【 結論 】

裁判所では、神経症状が悪化し、生活等への支障も生じていること、本件事故で被害者が首への強い衝撃を受けたこと等を考慮して、後遺障害慰謝料として110万円が認められた

 

 

後遺障害14級9号の解決事例

以下では、当事務所で扱った14級9号の事案になりますので、参考になさってください。

事例 むちうちで14級9号の認定、弁護士の交渉で160万円増額した事例

【 事例の概要及び結果 】

被害者の方は、追突事故に遭いました。
病院に通院した結果、頚椎捻挫(むちうち)と診断されました。
事故から1年近く治療しましたが、首の痛み等が取れず、後遺障害を申請した結果(事前認定)、14級9号が認定されました。
保険会社から示談案が提示されましたが、妥当なものか知りたく、当事務所の弁護士に相談されました。

示談案では後遺障害慰謝料は50万円となっていましたが、弁護士基準の110万円を認めてもらい、全体で見ると160万円の増額に成功しました。

事例 後遺障害申請を弁護士に依頼し、むちうちで14級9号を獲得した事例

【 事例の概要及び結果 】

被害者の方は、青信号で交差点を直進していたところ、右側から信号無視してきた自動車と衝突し、負傷しました。
被害者の方は、事故から2日後に整形外科を受診し、頚椎捻挫と診断されました。
6ヶ月程通院していましたが、相手方保険会社から治療費の打ち切りの打診があったため、被害者の方は当事務所の弁護士に相談されました。
当事務所の弁護士は、被害者の方から痛みの現状を聞き取り、後遺障害申請をすべきと考えました。
そして、事故の衝撃の大きさを示すため、相手方保険会社から示談済みの物損資料を取り付け、その他の必要書類とともに後遺障害の申請(被害者請求)をしました。

その結果、頚部痛、手のシビレの症状について14級9号が認定されました。
その後、示談交渉をし、示談成立に至りました。

事例 異議申立てをして後遺障害14級9号が認定された事例

【 事例の概要及び結果 】

被害者の方は、青信号の交差点を直進で進入したところ、対向車線から交差点を右折してきた加害車両と衝突する事故に遭いました。
被害者の方は、病院に通院し、頚椎捻挫の診断を受け、事故から数週間後に当事務所に相談に来られました。
事故から約7ヶ月後に主治医から症状固定と診断されたため、後遺障害の申請をしましたが、結果は非該当(何の等級にも該当しない)でした。
そこで、当事務所の弁護士は、被害者が通院していた2箇所の病院からカルテを取り寄せ、被害者が一貫して痛みを訴えていたことを主張して、審査機関に異議申立てをしました。

その結果、認定は覆り、首の痛みに14級9号が認定されました。
その後、14級9号を前提に相手方保険会社と賠償金の交渉をし、後遺障害慰謝料についても、弁護士基準相当で示談できました。

その他の当事務所の解決事例については、こちらから検索することができます。

あわせて読みたい
当事務所の解決事例

 

まとめ

  • 後遺障害慰謝料は、交通事故により、痛みが残存する、骨が変形する、動かしづらくなるというような状態で、自賠責保険で後遺障害等級が認定された場合等に認められる賠償金であること。
  • 後遺障害14級9号の後遺障害慰謝料の弁護士基準の相場は、110万円であること
  • 後遺障害慰謝料を請求するためには、自賠責保険へ後遺障害申請をすべきこと
  • 適切な後遺障害慰謝料を獲得するためには、弁護士に依頼した方が良いこと
  • 110万円はあくまで相場であり、増額事由があれば主張すべきであること
  • 自賠責保険で14級9号が認定されなくても、後遺障害慰謝料を請求できる余地があること

最後になりますが、14級9号の後遺障害慰謝料を請求し、認定されるためには、様々なハードルがあり、専門的知識も必要になります。

14級9号の事案でお困りの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

 

 

慰謝料


 
賠償金の計算方法

なぜ交通事故は弁護士選びが重要なのか

続きを読む