後遺障害の異議申し立てで非該当から等級を獲得する方法
交通事故によるケガの症状が残っているのに、後遺障害に認定されないことは本当に残念なことです。
後遺障害に認定されなかったことに納得がいかない場合には、異議申し立てという手続きを行うことで、再度、自賠責保険(共済)に後遺障害の審査をしてもらうことができます。
この記事では、異議申し立ての方法やポイントについて解説します。
目次
後遺障害認定に不服がある場合
交通事故において、後遺障害の申請をしても、必ずしも後遺障害等級が認定されるわけではありません。
後遺障害の結果は、後遺障害の審査の結果が記載された書面が1枚と認定の理由が記載された「別紙」の書面で知ることができます。
後遺障害の等級は、大きく分けて1級から14級まであります。
そのいずれも認定されなかった場合のことを非該当と呼びます。
非該当になったり、ある等級が認定されたとしても認定された等級に不服がある場合は、異議申立てをすることができます。
異議申立ては、時効にかからない限り、何度も行うことができます。
異議申立ての方法
異議申し立ての方法としては以下の2つの方法があります。
事前認定による方法
事前認定による方法は、保険会社を通して異議申し立てを行う方法です。
被害者は、異議申し立てに必要な書類を集めて、保険会社に送付することで異議申し立てをすることができます。
稀に、親切な相手保険会社の担当者が異議申し立てのアドバイスや協力をしてくれることもあるようですが、そういった協力を得られない場合には、専門の弁護士に相談すべきでしょう。
被害者請求による方法
被害者請求による方法は、被害者自身で異議申し立てを完結させる方法です。
弁護士に依頼された場合には、弁護士は、被害者請求の方法により異議申し立てを行います。
異議申し立ての必要書類
異議申し立てにあたっては、異議申立書を提出する必要があります。
また、必須ではありませんが、異議申立書に記載のあることを基礎づける証拠資料を添付して異議申し立てをすることがほとんどです。
1回目の後遺障害申請においても、自賠責保険で十分な審査を行った上で、判断がなされています。
したがって、後遺障害の認定を覆すには、後遺障害申請時には提出していなかった新たな証拠を提出しなければ認定を覆すことは難しいのです。
異議申立書の様式は特に決まっていませんが、住所・氏名、自賠責保険の証明書番号など事故を特定する事項と、異議申立ての趣旨及び異議申立ての理由は記載する必要があります。
異議申立ての趣旨は、どの症状がどの等級に該当するべきなのかを記載することになります。
異議申立ての理由は、異議申立ての趣旨を根拠付ける理由を記載することになります。
異議申し立ての期間
異議申し立てを行って、審査結果が返ってくるまでの期間は事案によってばらつきがありますが、早くても2ヶ月はかかります。
複雑な事案では半年程度を要する場合もあります。
審査機関が、後遺障害の認定を検討するにあたって、病院などに医療照会を行う場合には、病院が回答する時間も必要となるため、それだけ時間がかかることが多いです。
審査機関
後遺障害の認定は、損害保険料率算定機構・自賠責損害調査センター事務所で審査されます。
損害保険料率算定機構・自賠責損害調査センター事務所は、中立的な機関として後遺障害の審査を行っています。
参考:損害保険料率算定機構
異議申し立て成功へのポイント
1度目の後遺障害の審査と異議申立の審査は、同じ損害保険料率算定機構で行われます。
したがって、1度目の後遺障害申請と同じ資料で同じ主張をしても認定は覆りません。
認定を覆すには、新たな証拠に基づき、新たな主張を行う必要があります。
認定結果の分析
まず、自賠責保険からの認定結果が記載されている通知文書とその「別紙」で、後遺障害の認定(非該当)の理由を確認します。
次に、その理由に対して、現状の証拠で反論できないか検討します。
現状の証拠で反論できなさそうな場合には、反論するために必要となりそうな新たな証拠がないか検討します。
例えば、非該当の認定の理由が「画像所見がない」という理由であれば、本当に画像所見がないのか、主治医に確認して必要に応じて意見書を作成してもらうことを検討します。
また、画像鑑定の専門業者に依頼して、本当に「画像所見がない」のかを鑑定してもらうことも検討すべきでしょう。
また、例えば、症状の一貫性や連続性に疑いがあるのであれば、それを払拭するために病院のカルテを取得することを検討すべきでしょう。
このように、認定結果の理由を分析して、それに反論できる証拠がないかを十分に分析することが大切です。
認定に有利になりうる資料
医師の意見書、医療照会
後遺障害の審査は、医療記録に基づいて行われています。
したがって、残存している症状の存在が医学的に証明できるか、少なくとも説明できるレベルであることを主張立証しなくてはいけません。
その際に、有力な証拠となるのが、医師の意見書です。
意見書という体裁で作成してもらう場合には、医師にも相応の労力がかかるため、費用も高額になります。
また、医師としても責任が大きくなると考え、作成に消極的な場合も多いかと思います。
そういった場合には、医療照会という形を取ることを検討すべきです。
医療照会とは、被害者側で医師への質問事項を用意して、それに対して医師の見解を簡潔に記載してもらうという方式です。
こうした方式であれば、費用も抑えられますし、協力してくれる医師も多いかと思います。
できれば、医療照会の前に、医師面談をして医師の見解を聞いておいた方がいいでしょう。
仮に、医師の見解も自賠責保険と同様で後遺障害に否定的であれば、医療照会が無駄になってしまうからです。
カルテ
病院で作成されたカルテ(診療録)は、通院中の被害者の体の状態の推移が記録されたもので、重要な証拠の一つです。
後遺障害申請にあたって、必須となる診断書には記載されていない細かい情報が記載されていることもあり、後遺障害の認定に有利な証拠となりえます。
もっとも、カルテには、後遺障害の認定にあたって不利となる事情も記載されていることもあります。
例えば、「痛みは軽減」「痛みはなくなった」といった記載がある場合には、認定に不利に考慮されます。
被害者としては、こうした発言をした意図や記憶がなくても、こうした記載が残っていることもありますので、カルテを提出する場合には内容をしっかりと確認すべきでしょう。
画像鑑定報告書
主治医は、レントゲン等の画像に異常があると診断しているのに、自賠責保険の認定では、異常所見がないと判断されることがあります。
こうした場合には、主治医に画像についての見解を聴取して、上記した医療照会を実施することを検討します。
また、画像を鑑定してくれる業者に依頼して、異常があるかどうかを別の医師に鑑定してもらう方法もあります。
鑑定にあたっては、費用はかかりますが、その鑑定によって、異常所見があるということであれば、認定に有利な証拠として提出することができます。
鑑定費用については、弁護士費用特約で賄えることもありますので、ご加入の保険会社に確認されたほうがいいでしょう。
新たな画像(レントゲン、CT、MRI等)
後遺障害認定において、画像所見があるかどうかは重要です。
画像に異常が見られる場合には、その異常が痛みや体の動かしづらさの原因となっている可能性があるため、後遺障害認定に有利な証拠となり得ます。
通常の場合、事故後、骨折の有無を確認するためにレントゲンを撮影しているので、後遺障害の申請にあたっては、レントゲン画像は提出されていることが多いでしょう。
しかし、レントゲン画像では骨の状態は分かりますが、体の軟部組織や靭帯の損傷、骨挫傷、血腫等は発見することが出来ません。
したがって、事案によっては、改めてMRIやCTを撮影することも検討すべきでしょう。
もっとも、事故から時間が経過してからの撮影となるため、仮に異常があったとしても事故との関係性が問題になる可能性があります。
刑事記録
刑事記録としては、実況見分調書や供述調書などが挙げられます。
実況見分調書とは、事故の状況を詳細に記載したもので、警察官が作成するものです。
実況見分調書では、具体的な事故状況が記載されています。
例えば、追突されたことで、被害者の車がどの程度、前に押し出されたかといったことまで記載されています。
実況見分調書は、事故態様だけでなく、事故の規模を証明するためにも重要な証拠となる場合があります。
人身事故の届け出をしていない場合には、物件報告書という簡略化したものしか作成されませんので、事故でケガをして後遺障害や過失割合などで争いになりそうな場合には、人身事故の届け出をした方がよいでしょう。
また、事故によっては、加害者の供述調書が開示されることもあります。
供述調書により加害者が、事故当時、どの程度のスピードでどのような運転をしていたかが分かることもありますので、供述調書も重要な証拠となりえます。
刑事記録は、加害者が不起訴の場合や刑が確定した場合、検察庁へ閲覧、謄写の申請が可能です。
ただし、全ての範囲の刑事記録が開示されるわけではなく、捜査機関において、開示可能な資料が開示されることになります。
被害者の陳述書
事故の状況、治療の経過、現在の症状、後遺障害の日常生活・就労への影響等を記載した被害者の陳述書を提出する場合もあります。
異議申し立てにより後遺障害認定された事例
当事務所での解決事例の一つをご紹介します。
現状の「後遺障害の不服申立ての1例」の「弁護士依頼までの経緯」以降を掲載
まとめ
自賠責保険において、十分に検討して出された後遺障害等級の結果を覆すことは容易ではありません。
多角的な視点から考察し、適切な証拠を収集し、証拠に基づき説得的に論証できなければ認定を覆すことは難しいでしょう。
後遺障害に納得がいかず、お困りの場合には専門の弁護士に相談されることをお勧めします。