交通事故の慰謝料【相場や計算方法を弁護士が徹底解説】

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故の慰謝料とは、交通事故により被った精神的苦痛に対する金銭賠償のことです。

人の性格や価値観によって、交通事故によって受ける精神的苦痛は変わってきます。

しかし、一つの一つの交通事故について、個別具体的に慰謝料金額を決定するには非常に時間がかかります。

また、金額に差が出すぎると不公平な結果になることもあり得ます。

したがって、慰謝料の金額は、治療期間や後遺障害の程度、被害者の立場などによってある程度基準化されおり、いわゆる「相場」があります。

以下では、交通事故慰謝料についての詳しい内容のほか、相場と正しい計算方法、請求する場合のポイントに付いて解説いたします。

この記事でわかること

  • 自分の慰謝料がいくらになるのかを簡単に計算できる
  • 慰謝料の具体的な内容を知ることができる
  • 慰謝料の正しい計算方法を知ることができる
  • 慰謝料を請求する上でのポイントを知ることができる

慰謝料の自動計算機

このページでは慰謝料の正しい計算方法を詳しく解説しています。

しかし、早く結果を知りたいという方もいらっしゃるかと思います。

すぐにご自身の慰謝料の概算額を知りたいという方は、こちらのページをご覧ください。

交通事故の慰謝料とは?

交通事故の慰謝料とは、交通事故により被った精神的苦痛に対する金銭賠償のことです。

ここでポイントとなるのは、慰謝料は「精神的な苦痛」の対価であるということです。

交通事故に遭われると、精神的苦痛以外にも様々な損害が発生します。

例えば、車の修理代、治療費や入院費などの支出は、比較的わかりやすい損害です。

また、後遺症を負った場合の逸失利益、会社を休むことになった場合の休業損害なども損害です。

これらの損害のことをまとめて「賠償金」といいます。

したがって、慰謝料は、賠償金の中の一つということになります。

慰謝料の根拠

慰謝料の法律上の根拠は、民法第710条という法律にあります。

この法律では、交通事故のような不法行為が問題となる事案において、財産以外の損害(精神的苦痛)であっても、賠償義務を認めています。

【根拠条文】

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

引用元:民法|電子政府の窓口

 

 

慰謝料には3つの基準がある

慰謝料の金額は、治療期間や後遺障害の程度、被害者の立場などによってある程度基準化されています。

しかし、この慰謝料の基準には、①自賠責基準、②任意保険基準、③裁判基準(弁護士基準)の3つの基準があります。

この3つの基準を理解しておくことは、適正な慰謝料を請求する上で重要となるため、くわしく解説します。

 

①自賠責基準

自賠責基準とは、自賠責保険が、賠償金を計算する場合の基準です。

自賠責保険は、強制加入の保険であり、加入せずに運転すると刑事罰が科されます(1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります)。

加害者である運転手が無保険でしかもお金がない場合には、被害者は全く補償を受けることができなくなる可能性があるため、被害者が最低限の補償を受けることができるよう自賠責保険が強制加入保険として創設されたのです。

こうした経緯で自賠責保険は創設されたので、他の2つの基準と比べて賠償金額の水準は低額になっています(最低限の補償という意味合いです)。

例えば、加害者が任意保険に加入していないような事案では、自賠責保険に対し、保険金を請求することがあります。

この場合、まずは自賠責保険から、最低限の補償を受け取り、不足する額については加害者に直接請求することになります。

加害者に支払い能力がなければ、事実上、賠償金全額を回収できないかもしれません。

しかし、自賠責保険があるおかげで、最低限の補償を受けることが可能となります。

 

②任意保険会社の基準

任意保険会社の基準は、その名のとおり、任意保険会社が内部的に定めている賠償の水準です。

各保険会社が、被害者に対して賠償の提示を行う際に使用している水準で、外部に明確には公表はされていません。

明確な賠償基準は、各社によって異なる部分はありますが、自賠責保険の基準よりは高い賠償水準になります。

被害者に対して、書面で賠償の提示が出された場合に、「弊社基準」などの記載がされることがありますが、それが任意保険会社の基準ということになります。

ただ、その内容をみると自賠責保険の基準で計算されているような場合もあります。

すなわち、保険会社からの最初の賠償金の提示は、自社の基準さえも下回る提示の場合もあり得ます。

 

③裁判基準(弁護士基準)

裁判基準は、裁判になった場合に裁判所が用いる賠償の水準であり、3つの基準の中で最も高い賠償水準です。

なお、示談交渉の段階であっても、弁護士が介入した場合には、基本的に裁判基準を前提に賠償の交渉を行います。

そのため、弁護士基準と呼ばれることもあります。

 

 

3基準のメリットとデメリット

3つの基準の一般的な傾向について、メリットとデメリットをまとめると下表のとおりとなります。

基準 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準
特徴 自賠責保険が賠償金を計算する場合の基準 任意保険会社が内部的に定めている賠償の水準 裁判所が用いる賠償の水準
メリット 加害者が任意保険に加入していない場合にも請求可能 被害者が応じれば裁判をせずに早期に解決できる
  • 裁判所が認める賠償金であり、納得感がある
  • 最も高額となる傾向
デメリット 最低補償であり、支払われる金額は最も低い
  • 裁判所が認める賠償金であり、納得感がある
  • 最も高額となる傾向
保険会社が応じない場合裁判を起こす必要があり、解決まで長期間を要する

上記のとおり、3つの基準にはメリットとデメリットがあります。

しかし、加害者が任意保険に加入している場合では、最も高額な賠償金を得ることができる裁判基準を請求すべきでしょう。

保険会社が裁判基準の支払に応じない場合は、裁判となって長期化する可能性もありますが、まずは裁判基準で請求し、保険会社の回答を見るという方法があります。

専門の弁護士が保険会社と交渉して、それでも納得できる慰謝料を支払わない場合に、裁判を起こすか、それとも、譲歩して早期解決を選択するかの判断を行うのがベストだと思われます。

 

 

慰謝料には3つの内容がある

交通事故の慰謝料とは、上記のとおり、精神的苦痛に対する金銭賠償です。

交通事故において、この精神的苦痛が生じる場合は、裁判実務上、3つの場面があると考えられており、①傷害慰謝料、②後遺障害慰謝料、③死亡慰謝料に類型化されています。

以下、この3つの慰謝料について、具体的な内容と相場や計算方法を解説します。

 

傷害慰謝料(入・通院慰謝料)

傷害慰謝料とは、交通事故によりケガでの入院や通院に対する慰謝料です。

したがって、傷害慰謝料の金額は、入院期間、通院期間をもとに算定されることになります。

算定にあたっては、上述した3つの基準があるため、それぞれの場合はいくらになるかを解説いたします。

 

自賠責基準での算定

自賠責基準での慰謝料の算定方法を説明します。

自賠責基準の慰謝料は、1日4300円です。

日数の算定方法は少し複雑です。

実際に通院した日数(実通院日数)を2倍にした日数通院期間における日数のいずれか少ない方を慰謝料の対象となる日数とします。

具体例 事故発生から120日の間に、50日病院や整骨院に通院した場合

50日 × 2 = 100日(実通院日数の2倍)120日(通院期間)

この場合、実通院日数を2倍した100日の方が通院期間の120日よりも少ないので、

100日が慰謝料算定の対象日数となります。

したがって、この場合、4300円 × 100日 = 43万円が慰謝料金額となります。

 

任意保険基準の算定

任意保険会社の算定基準は、上述のとおり、各保険会社が独自に基準を定めています。

また、公開はされていないため確定的な金額を示すことはできません。

もっとも、かつては、すべての保険会社が共通で使用していた損害賠償の算定基準(旧任意保険基準・下表)が存在していました。

規制緩和のため、平成11年に旧任意保険基準は撤廃されましたが、このときの基準の一部又は全部を踏襲していると考えられます。

したがって、任意保険会社の基準については、旧任意保険基準が一応の目安になると考えます。

旧任意保険基準
入院 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月
通院 25.2 50.4 75.6 95.8 113.4 113.4 128.6 141.2 152.4 162.6
1ヶ月 12.6 37.8 63.0 85.6 104.7 120.9 134.9 147.4 157.6 167.6 173.9
2ヶ月 25.2 50.4 73.0 94.6 112.2 127.2 141.2 152.5 162.6 171.4 176.4
3ヶ月 37.8 60.4 82.0 102.0 118.5 133.5 146.3 157.6 166.4 173.9 178.9
4か月 47.8 69.4 89.4 108.4 124.8 138.6 151.3 161.3 168.9 176.4 181.4
5ヶ月 56.8 76.8 95.8 114.6 129.9 143.6 155.1 163.8 171.4 178.9 183.9
6ヶ月 64.2 83.2 102.0 119.8 134.9 147.4 157.6 166.3 173.9 181.4 185.4
7ヶ月 70.6 89.4 107.2 124.3 136.7 149.9 160.1 168.8 176.4 183.9 188.9
8ヶ月 76.8 94.6 112.2 128.6 141.2 152.4 162.6 171.3 178.9 186.4 191.4
9ヶ月 82.0 99.6 116.0 131.1 143.7 154.9 165.1 173.8 181.4 188.9 193.9
10ヶ月 87.0 103.4 118.5 133.6 146.2 157.4 167.6 176.3 183.9 191.4 196.4

(単位:万円)

表の見方 慰謝料算定では1ヶ月=30日とします入院のみのとき⇒「入院」の欄の入院期間(一番上の行の月数)に対応する部分の金額が慰謝料の基準となります。

通院のみのとき⇒「通院」の欄の通院期間(一番左の列の月数)に対応する部分の金額が慰謝料の基準となります。

入院と通院があった場合⇒入院した月数と通院した月数とが交わる欄に記載された金額が慰謝料の基準となります。

 

具体例① 事故発生から120日の間に、50日病院や整骨院に通院した場合

「自賠責基準の算定」で説明した具体例(事故発生から120日の間に、50日病院や整骨院に通院した場合)を上表に当てはめてみます。

120日間の通院のみですので、「通院」の欄の通院期間(一番左の列の月数)の「4か月」に対応する部分の数字に「47.8」とあることから、47万8000円となります。


具体例② 骨折をして60日間入院し、その後120日間通院を継続した場合

この場合、入院「2月」の横軸と通院「6月」の横軸の交わる「102.0」、すなわち、102万円が傷害慰謝料となります。

 

裁判基準

裁判基準でも、上記の任意保険基準で説明した表と同様に、傷害慰謝料は、入院・通院期間を基礎として算定されます。

ただし、任意保険基準とは異なり、表が2つあり、かつ、金額も異なります。

表1は、骨折や脱臼など他覚的所見がある場合(レントゲン等で異常があると分かる場合)に用いられる表です。

表2は、むちうち症や打撲、挫創など、他覚的所見がない場合に用いられる表です。

【表1】骨折などの場合
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 344
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344
8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 341
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326
13月 158 187 213 238 262 282 300 316
14月 162 189 215 240 264 284 302
15月 164 191 217 242 266 286

引用元:赤い本 別表Ⅰ 入通院慰謝料基準|日弁連交通事故相談センター

 

【表2】捻挫や打撲などの軽傷時
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 35 66 92 116 135 152 165 176 186 195 204 211 218 223 228
1月 19 52 83 106 128 145 160 171 182 190 199 206 212 219 224 229
2月 36 69 97 118 138 153 166 177 186 194 201 207 213 220 225 230
3月 53 83 109 128 146 159 172 181 190 196 202 208 214 221 226 231
4月 67 95 119 136 152 165 176 185 192 197 203 209 215 222 227 232
5月 79 105 127 142 158 169 180 187 193 198 204 210 216 223 228 233
6月 89 113 133 148 162 173 182 188 194 199 205 211 217 224 229
7月 97 119 139 152 166 175 183 189 195 200 206 212 218 225
8月 103 125 143 156 168 176 184 190 196 201 207 213 219
9月 109 129 147 158 169 177 185 191 197 202 208 214
10月 113 133 149 159 170 178 186 192 198 203 209
11月 117 135 150 160 171 179 187 193 199 204
12月 119 136 151 161 172 180 188 194 200
13月 120 137 152 162 173 181 189 195
14月 121 138 153 163 174 182 190
15月 122 139 154 164 175 183

引用元:赤い本 別表Ⅱ 入通院慰謝料基準|日弁連交通事故相談センター

表の見方について説明します。

表の見方慰謝料算定では1ヶ月=30日とします

入院のみのとき⇒「入院」の欄の入院期間(一番上の行の月数)に対応する部分の金額が慰謝料の基準となります。

通院のみのとき⇒「通院」の欄の通院期間(一番左の列の月数)に対応する部分の金額が慰謝料の基準となります。

入院と通院があった場合⇒入院した月数と通院した月数とが交わる欄に記載された金額が慰謝料の基準となります。

 

具体例 120日の間に、50日通院した場合

事故発生から120日の間に、50日病院や整骨院に通院した場合を上表に当てはめてみます。

骨折などの場合

表1を使用します。

120日間の通院のみですので、「通院」の欄の通院期間(一番左の列の月数)の「4か月」に対応する部分の数字に「90」とあることから、90万円となります。

捻挫や打撲などの軽傷時

表2を使用します。

120日間の通院のみですので、「通院」の欄の通院期間(一番左の列の月数)の「4か月」に対応する部分の数字に「67」とあることから、67万円となります。

 

算定上の注意点

裁判基準では、上記のとおり、入通院期間を踏まえて算定されます。

但し、入通院期間が長期にわたる場合には、症状、治療内容、通院頻度を踏まえて、実通院日数(実際に通院した日数)の3.5倍程度(むちうちなど他覚的所見がない場合は3倍程度)を通院期間として算定されることがあります。

例えば、骨折で2年間にわたり月1回、合計24日通院していたという場合、通院期間をそのまま2年間とするのではなく、24日 × 3.5倍 = 84日として通院期間を計算される場合があるということです。

また、生死が危ぶまれる状態が継続したとき、麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき、手術を繰り返したとき等も増額されることがあります。

 

3つの基準による違い

「自賠責基準の算定」で説明した下記の具体例をもとに、自賠責基準、裁判基準、旧任意保険基準でどの程度保険料が異なるのか、検討してみます。

具体例:事故発生から120日の間に、50日病院や整骨院に通院した場合

骨折などの場合
自賠責基準 旧任意保険基準 裁判基準
傷害慰謝料の額 43万円 47万8000円 90万円
裁判基準を100%
とした場合の割合
48% 約53% 100%

 

捻挫や打撲などの軽傷の場合
自賠責基準 旧任意保険基準 裁判基準
傷害慰謝料の額 43万円 47万8000円 67万円
裁判基準を100%
とした場合の割合
約64% 約71% 100%

上表のとおり、この計算では旧任意保険基準は裁判基準の約53%(軽症時で約71%)となったことがわかります。

※あくまで一つの計算例であって、任意保険会社から提示される傷害慰謝料の金額や裁判基準の額は、状況に応じて増減します。

 

 

後遺障害慰謝料

むちうちや傷痕などで後遺症が残った場合

交通事故により、身体に痛みが残ったり、動かしづらくなったり、傷痕が残った場合などで、後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。

後遺障害慰謝料の金額についても、①自賠責基準、②任意保険基準、③裁判基準の3つがあります。

これを比較したものが下表となります。

【後遺障害慰謝料の3つの基準の比較】
自賠責保険基準 旧任意保険基準 弁護士基準
1級 1150万円(1650万円) 1600万円 2800万円
2級 998万円(1203万円) 1300万円 2370万円
3級 861万円 1100万円 1990万円
4級 737万円 900万円 1670万円
5級 618万円 750万円 1400万円
6級 512万円 600万円 1180万円
7級 419万円 500万円 1000万円
8級 331万円 400万円 830万円
9級 249万円 300万円 690万円
10級 190万円 200万円 550万円
11級 136万円 150万円 420万円
12級 94万円 100万円 290万円
13級 57万円 60万円 180万円
14級 32万円 40万円 110万円

※( )内は「介護を要する後遺障害」の場合の金額です。
※任意保険基準は、上述の旧任意保険基準であり、各保険会社の基準は異なる場合があります。

引用元:自動車損害賠償保障法施行令|電子政府の総合窓口

【検討】

上表のとおり、旧任意保険基準と裁判基準とでは、後遺障害慰謝料はまったく異なります。

具体的には1級の場合で1200万円( 2800万円 – 1600万円 )、14級の場合で70万円( 110万円 − 40万円 )の差となります。

割合としては、1級の場合で旧任意保険基準は裁判基準の約57パーセント、14級の場合で約36パーセントとなってしまいます。

弁護士が、交渉する場合や裁判になった場合には、上記表の裁判基準の金額で交渉を行うことになります。

ただし、この数字は絶対的なものではありません。

被害者に残存している後遺症の程度に応じて、裁判基準からさらに増額の主張をすることもあります。

また、等級に該当しなかった場合であっても、後遺症慰謝料が認められるケースもあります。

判例 後遺障害に非該当でも、後遺症慰謝料が認められたケース

後遺障害に該当する視力障害までは残らなかったものの、後遺症慰謝料として70万円を認めました。

【東京地判平13.4.11】

 

 

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、交通事故によって被害者が死亡した場合の被害者自身やそのご遺族の精神的苦痛に対する慰謝料のことをいいます。

 

自賠責保険の基準

自賠責保険の基準では、亡くなった被害者本人の慰謝料は400万円とされています。

遺族固有の慰謝料を請求することができるのは、被害者の父母、配偶者、子に限られおり、請求権者の人数に応じて金額が決まっています。

1名の場合は550万円、2名の場合は650万円、3名以上の場合は750万円となっています。

また、被害者に被扶養者がいる場合には、上記からさらに200万円が加算された金額が遺族の慰謝料となります。

例えば、被害者に配偶者と扶養すべき子ども2人がいた場合には、以下の金額になります。

具体例 被害者に配偶者と扶養すべき子ども2人がいた場合

400万円(被害者本人)+( 750万円 + 200万円 )= 1350万円

 

任意保険基準

上述したとおり、任意保険基準は現在、各保険会社が独自に作成しており、公開はされていません。

参考として、旧任意保険基準をご紹介すると下表のとおりとなります。

死亡した被害者の属性 慰謝料の額
一家の大黒柱 約1500万円~2000万円
専業主婦・主夫、配偶者 約1300万円~1600万円
子供や高齢者、その他 約1100万円~1500万円

上表のとおり、自賠責基準とは異なり、「被害者の属性」、すなわち、被害者がどのような立場にあったかで慰謝料の額が異なります。

 

裁判基準

裁判基準による死亡慰謝料の具体的な金額の目安は下表のとおりです。

類型 慰謝料の額
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他 2000万円~2500万円

「一家の支柱」とは、亡くなった被害者が被害者の家族の家計を支えていた場合です。

「その他」とは、独身の男女、子供、幼児等です。

【検討】

上記のとおり、旧任意保険基準と裁判基準とでは、死亡慰謝料もまったく異なります。

具体的には一家の大黒柱が亡くなった場合、800万円から1300万円の差が生じます。

弁護士が、交渉する場合や裁判になった場合には、基本的には裁判基準の金額で交渉を行うことになります。

ただし、上記の金額は、あくまで目安であり、扶養家族の数や加害者側の加害行為の態様などによって、金額は増減することがあります。

例えば、増額事由としては、加害者の飲酒運転及び高速道路の逆走など加害行為の態様が悪質である場合や、事故後の救護・報告義務違反、不合理な弁解を繰り返すなどの不誠実な対応をしている場合に慰謝料の増額を認めた裁判例があります。

 

 

近親者の慰謝料

民法711条には「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」と規定されています。

この規定により、被害者の父母、配偶者、子は、加害者に対して、被害者が亡くなったことによる精神的苦痛について慰謝料を請求することができます。

また、被害者が亡くなったケースでなくても、重度の後遺障害が残るなど亡くなったときと同じくらいの精神的苦痛を被った場合においても、近親者は慰謝料請求することができると考えられています。

どの程度の後遺障害が残存した場合に近親者慰謝料を請求できるかは、事案によって異なりますが、後遺障害1~3級に該当するような重度の後遺障害で介護を要するような場合に、認められるケースが多いようです(4級以下の等級でも近親者慰謝料が認められた裁判例はあります)。

 

 

慰謝料の増額事由

裁判においては、慰謝料の増額が認められるのは以下の場合です。

慰謝料の増額事由
  • 交通事故を意図的に発生させた場合(故意がある場合)
  • 重過失(無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、ことさらに信号無視、薬物等の影響により正常な運転ができない状態で運転など)がある場合
  • 著しく不誠実な態度等がある場合

こうした事情がある場合には、慰謝料増額事由として主張していくべきです。

また、上記に記載のない事情であっても、通常の交通事故からは発生しないような特に苦痛を伴うような個別事情がある場合には、慰謝料増額事由として主張すべきでしょう。

判例① 死亡事故での慰謝料増額裁判例

兼業主婦の事例で、加害者が多量に飲酒しており(呼気一リットル中約0.55ミリグラム)正常な運転ができない状態で運転し、仮眠状態になったことで事故を発生させていること、運転の動機が身勝手(翌朝も車で出勤したい)であることなどの事情を勘案して本人分2700万円、夫200万円、子3人各100万円の合計3200万円の賠償を認めています。

【東京地判平18.10.26】


判例② 傷害事故での慰謝料増額裁判例

加害者が、赤信号無視で交差点に進入したものの、警察に青信号で侵入したと虚偽の供述をした結果、被害者が被疑者として取り調べを受けたことや、被害者が胃炎や円形脱毛症を発症するに至ったことなどから、慰謝料として200万円(事故から1年9カ月通院)が認められました。

【名古屋地判平13.9.21】

 

 

慰謝料の金額に影響する相手方の主張

素因減額

素因減額とは、被害者の疾患や心因的な要因などが原因で、損害が発生拡大した場合に損害額を一定割合控除することです。

交通事故で負傷した部位について、事故前から障害があり、それが原因で治療期間が長引いたり、後遺障害の等級が重くなるような場合には、相手方から素因減額の主張がされる可能性があります。

素因減額が認められると、賠償金が一定割合控除されることになります。

 

過失相殺

過失相殺とは、交通事故の発生について、被害者側にも落ち度があるときに、損害額を被害者の責任割合に応じて控除するという考え方です。

過失相殺は、被害者に何らかの原因があった場合に、被害者に生じた損害のすべてを加害者に負わせるのは妥当ではなく、被害者の責任部分については、減額するというのが損害の公平な分担であるという考えに基づいています。

 

 

物損で慰謝料請求できるか

交通事故によって、自動車などが破損した場合には、その修理費用、あるいは、修理費用が時価額を上回る場合にはその時価額が賠償されることになります。

こうした修理費用や時価額とは別に、物損について慰謝料が請求できるかについてですが、原則として物損の慰謝料は認められません。

修理費用や時価額が賠償されることで、物損については、被害者の精神的苦痛も慰謝されるので、別個に慰謝料は発生しないと考えられています。

ただし、ペットが事故により死亡した場合など、例外的に慰謝料が認められる場合もあります。

 

 

慰謝料の請求時期

入通院慰謝料は、通院期間や通院日数によって金額が決まります。

したがって、入通院慰謝料は、症状固定になった時点、あるいは、ケガが治癒した時点で治療期間が確定するため、これらの時点以降、請求が可能になります。

もっとも、症状固定として後遺障害の申請をする場合には、後遺障害の結果が確定した後に、後遺障害慰謝料などとまとめて請求することが多いです。

保険会社によっては、後遺障害の結果が出るまで、入通院慰謝料の示談も行わないと主張してくることもあります。

後遺障害慰謝料を請求できるのは、後遺障害の等級が確定した時点です。

損害保険料率算出機構に対して、後遺障害申請を行い等級認定がなされた時点から請求が可能です。

死亡慰謝料については、被害者が亡くなった後に、請求することになります。

 

 

慰謝料の時効

消滅時効の期間

慰謝料の請求には、時効が存在します。

ケガをした場合の消滅時効は、基本的には5年となります。

なお、物損の場合や自賠責保険への被害者請求の消滅時効は3年です。

【根拠条文】

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

引用元:民法|電子政府の窓口

 

時効開始の起算点

人身傷害事故の消滅時効が基本的に5年として、次に重要なのは、それがいつから開始するか、という起算点の問題です。

法律上は、「損害及び加害者を知った時から」と規定されていますが、傷害慰謝料の場合、事故日と考えられます。

ただし、後遺障害の慰謝料については症状固定日、死亡慰謝料の場合は死亡日となります。

【時効と起算点のまとめ】
慰謝料の種類 消滅時効の期間 起算点
傷害慰謝料 5年 事故日
後遺障害慰謝料 症状固定日
死亡慰謝料 死亡日

※症状固定とは、これ以上治療を行っても症状の改善を期待することができないであろうという時点をいいます。

合わせて読みたい
損害賠償の消滅時効

 

 

慰謝料の請求の流れ〜事故発生から支払まで〜

慰謝料は、通常、交通事故発生から以下の流れで支払われることとなります。

 

 

慰謝料請求の4つのポイント

①しっかりと治療に専念すること

傷害慰謝料は、上述のとおり、基本的には入院している期間と通院している期間の長さで判断されます。

交通事故に遭った方の中には、会社や学校が忙しいという方もいらっしゃるでしょう。

しかし、ケガの痛みを我慢して治療をおろそかにしてしまうと、本来請求できるはずの適切な慰謝料を支払ってもらうことができない可能性があります。

したがって、治療の必要性がある場合はしっかりと治療を継続することが重要です。

 

②保険会社の提示を鵜呑みにしないこと

上述のとおり、慰謝料には、①自賠責基準、②任意保険基準、③裁判基準があります。

裁判基準は、仮に裁判となった場合に認定される損害額です。

すなわち、公平な第三者である裁判所が認める「適切な賠償金」といえます。

これに対して、任意保険の基準は、保険会社が独自に定めた基準であり、上述したとおり、一般的には裁判基準を下回っています。

被害者としては、当然、裁判基準の慰謝料を受け取りたいと考えるでしょう。

そのため保険会社から提示される金額を鵜呑みせず、裁判基準を請求することが重要です。

 

③賠償金の適切な金額を知ること

慰謝料は、基本的には上述した裁判基準の額が適切といえます。

また、交通事故で請求できる賠償金は慰謝料だけではありません。

治療費などの積極損害の他、後遺障害がある場合は逸失利益、仕事を休んだ場合は休業損害等も請求可能です。

これらの賠償金について、適切な額を知ることが重要です。

被害者の方の中には、早期解決のために、保険会社の提示額に応じるという方もいらっしゃいます。

しかし、前提として「本来もらえるべき金額」がどの程度かを知ることは、意思決定を行うための重要なプロセスです。

 

④専門家に相談すること

賠償金の適切な額を知るために、交通事故を専門とする弁護士に相談されるべきです。

現在は、インターネットで専門的な情報も入手可能です。

ただ、インターネットはとても便利ですが、情報の信用性という点で専門書には劣ります。

そこで、インターネットの情報を見る場合は、その発信源(交通事故の損害賠償請求であれば弁護士が執筆した記事か否か)を確認し、かつ、参考程度にとどめた方がよいでしょう。

インターネットの記事は、あくまで不特定多数の方が見ることを前提に作成されており、個別具体的な状況を前提とはしていません。

そのため、問題解決に最適な情報ではない可能性もあります。

 

 

まとめ

以上、交通事故慰謝料の内容や正しい計算方法、請求のポイント等について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

交通事故の慰謝料には、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つがあり、被害者の方は、裁判基準によって算出した額を受け取る法的な権利があります。

そのためには、保険会社の提示を鵜呑みにせず、慰謝料を含めた賠償金の適切な額を知ることが重要です。

また、ネット情報は参考程度にとどめて、できるだけ交通事故の専門家に相談することをお勧めいたします。

この記事が交通事故に遭われた方にとって、お役に立てば幸いです。

 

 

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