交通事故で賠償金が減額される?素因減額とは?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

事故当時、被害者に身体的・体質的あるいは精神的に疾患が有り、その疾患が原因で損害が拡大したような場合、その拡大部分については、賠償金額が減額されることがあります。

これを法的な言葉でいうと素因減額といいます。

被害者としては納得できない減額かと思いますが、事故だけが原因ではなく、もともと被害者がもっていた病気等が原因で損害が拡大しているような場合には、その損害の全てを加害者に負わせることは公平ではないと裁判所は考えています。

この記事では、よく素因減額の問題となる疾患の具体例を挙げながら解説していますので、ご参考にされて下さい。

この記事でわかること

  • 素因減額の内容
  • どのような場合に素因減額が行われるか
  • どの程度の割合で素因減額されるか
  • 素因減額の立証責任

 

どんな場合に素因減額される?

素因減額とは、事故当時、すでに被害者が、損害が発生・拡大する要因(既往症や身体的特徴、心因的な要素)を持っており、実際にそれが原因で損害が発生・拡大したときに、一定の割合について賠償額を減額することです。

素因減額されるケースとしては、大きく以下の2つに分類できます。

  1. 身体的な疾患、既往症がある場合(身体的素因)
  2. 性格や精神疾患などがある場合(心因的素因)

以下ではそれぞれについて説明していきます。

 

 

身体的素因による素因減額

判例では、以下のように判示されています。

判例 身体的素因による素因減額についての裁判例

「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。」

【最判平成8年10月29日】

判例においては、損害の発生・拡大に寄与した要因が被害者の「疾患」に原因がある場合には、素因減額がされると述べられています。

もっとも、疾患であれば、全てが素因減額されるわけではありません。

疾患の態様、程度などから、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときに一定の割合の素因減額がされることになります。

 

身体的な特徴で素因減額される?

 

疾患には至らないものの、特徴的な身体的な特徴が原因で事故が発生・拡大した場合には、素因減額されるでしょうか。

上記の判例においては、疾患ではなく身体的特徴にとどまる場合には、原則として素因減額することはできないとされています。

判例(最判平成8年10月29日)では、首が一般人の平均よりも長く、頸椎不安定症がある被害者については、素因減額を否定しています。

もっとも、極端な肥満など通常人の平均から著しくかけ離れた特徴があり、日常生活においても通常人と比べて、慎重な行動を求められるような場合には、素因減額される可能性があります。

 

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の場合、素因減額される?

骨粗鬆症について、素因減額がされるかどうかはよく問題となります。

骨粗鬆症とは、加齢などによって、骨の密度が小さくなり、骨の強度が落ちて骨折しやすくなる疾患です。

骨粗鬆症は、加齢によって生じることが多く、高齢者の相当数の方が骨粗鬆症といえます。

こうした場合に、全て素因減額を認めると高齢者が骨折した場合には、多くのケースで素因減額されることになり不合理です。

したがって、単に加齢によって進行した骨粗鬆症に関しては素因減額されません。

もっとも、通常の加齢による骨密度の低下を超えて、病的に骨粗鬆症が進んでいる場合には、素因減額の対象となる可能性もあります。

裁判例(大阪地判H15.2.20)では、事故当時62歳の女性について、同年代の女性相応の骨密度が低下していることが認められましたが、年相応の骨粗鬆症にとどまることから、素因減額を否定しています。

他方で、過去の受診歴や骨折歴、衝撃の程度が小さいにもかかわらず骨折していることなどから、加齢による骨密度の低下を超えた骨粗鬆症があるとして、10%の素因減額を認めた裁判例もあります(名古屋地裁H31.3.27)。

 

椎間板ヘルニアで素因減額される?

椎間板ヘルニアとは、背骨と背骨の間にある椎間板という部分の一部が飛び出して神経に接触し、手足の痛みやしびれなどが出る病気です。

椎間板ヘルニアは、交通事故だけでなく、日常生活で重いものを持ち上げたり、無理に体をひねるなどの動作が引き金になって発症することがあります。

したがって、事故前から椎間板ヘルニアがあり、治療歴がある場合には、素因減額される可能性があります。

もっとも、その減額の割合はそれぞれの事案によって異なります。

減額の割合を少しでも小さくするには、椎間板ヘルニアではなく、事故が主たる原因としてしびれが出ていることを具体的に主張立証していくことが必要になります。

以下、裁判例を紹介します。

判例① 素因減額30%を認めた裁判例

この事例では、事故態様、衝撃の程度、被害者の年齢、初期症状などを踏まえて、事故前にすでに存在した頚椎椎間板ヘルニアに、事故による外力が加わって後遺障害が発生したと認定し、30%の素因減額を認めています。

【大阪地判H27.7.28】

判例② 素因減額20%の裁判例

この事例では、症状は出ていないものの、被害者に事故前から加齢による椎間板ヘルニアがあったこと、椎間板ヘルニアの原因が被害者のラクビー歴であることなどから、素因減額を認めています。もっとも、椎間板ヘルニアの突出の程度は重度ではないと判断され、減額の割合は20%とされています。

【横浜地判H31.4.26】

判例③ 素因減額されなかった裁判例

この事例では、被害者に加齢による頚椎椎間板ヘルニアがあることを認めました。しかし、ヘルニアの存在が、治療の長期化や後遺障害の程度に寄与したとは明白には認められないこと、被害者が交通事故により多発的に強度の衝撃を受けたことなどを考慮して、素因減額を認めませんでした。

【高松高判H24.7.5】

 

 

後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう)で素因減額?

後縦字靭帯骨化症は、椎体骨の後縁を上下に連結し、背骨の中を立てに走る後縦靭帯という靭帯が骨になってしまい、感覚障害や運動障害、神経症状を引き起こす病気です。

事故前から、後縦靭帯骨化症があり、それが原因で損害が発生拡大したとみられるような場合には、素因減額される傾向にあります。

後縦靭帯骨化症という被害者自身が罹患していた疾患が原因で、損害が拡大したような場合には、その損害を全て加害者に負わせることは公平ではないと裁判所は考えているようです。

裁判例の中には、後縦靭帯骨化症により頸髄症を発症した事案で40%の素因減額を認めた裁判例もあります(東京高判平成3年2月27日)。

したがって、後縦靭帯骨化症に罹患していたことにより、治療が長期化したり、後遺障害の程度に大きく影響したような場合には、裁判では賠償金が一定程度減額される可能性が高いです。

もっとも、その減額の割合はそれぞれの事案によって異なります。

減額の割合を少しでも小さくするには、後縦靭帯骨化症ではなく事故が主たる原因として損害が発生していることを具体的に主張立証していくこと必要となります。

 

 

心因的素因による素因減額

心因的要因とは、被害者の精神傾向のことを指します。

心因的要因を理由とする場合についても、心因的要因が損害の拡大に寄与していれば、素因減額されることもあります。

もっとも、人の性格は多種多様であるため、人と少し違う性格を持っているにとどまっている場合には、減額はされません。

労働災害の事案ですが、「ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する個性の多様さとして通常想定される範囲を外れ」なければ、心因的要因による減額は認められないとされている判例(最判平成12年3月24日)があります。

以下、裁判例をご紹介します。

判例① 素因減額10%が認められた裁判例

この事例では、被害者が事故の5年ほど前にうつ病と診断され頻繁に治療を継続していたこと、受傷状況や受傷内容に整合しないものが含まれていること、受傷の程度は重篤ではなかったこと、事故前から椎間板膨隆、骨棘形成などの変性が生じていたことなどから、10%の素因減額を認めました。

【神戸地判H26.8.20】

判例② 損害額50%が認められた裁判例

この事例は、PTSDで14級相当の後遺障害が認定された事例です。素因減額に関しては、被害者に睡眠障害を伴う不安、うつ状態等があること、被害者が精神的に脆弱であることによりPTSDを発症したと認定し、50%の素因減額を認めました。

 

 

素因減額の立証責任は?

素因減額の立証責任は、素因減額を主張する側にあります。

つまり、加害者側が立証責任を負っています。

被害者としては、被害者の疾患が原因で損害が拡大しているといった加害者の主張に対して、そもそも、疾患には当たらないことや、その疾患が損害の発生や拡大に影響していないことなどを証拠とともに反論していくこととなります。

 

 

素因減額と過失相殺の順序は?

被害者の賠償額が減額される加害者側の主張としては、他に過失相殺があります。

過失相殺とは、交通事故の発生につき、被害者側に落ち度がある場合、一定割合を損害から差引く制度です。

基本的には、素因減額をした後に、過失相殺をするという方法が一般的です。

 

 

まとめ

素因減額については、過失割合のように判例で類型化されているものではありません。

各事案により素因減額の可否や減額されるとしてもその割合の程度によっては異なってきます。

素因減額がなされると、得られる賠償金が大幅に減ってしまう可能性があるため、保険会社から素因減額の主張がされている場合には、専門の弁護士に相談されたほうがいいでしょう。

 

 

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