交通事故における過失割合の決め方|事例でわかりやすく解説
過失割合とは、交通事故が発生したことについての当事者双方の責任割合のことです。
例えば、相手に7割、自分に3割や7対3などで表されます。
交通事故の被害者に過失割合がある場合、その割合分について過失相殺(減額のこと)された上で賠償金が支払われることになります。
したがって、過失割合は事故の被害者にとってとても重要となります。
ここでは、ケース別の過失割合の決め方や、過失割合に納得がいかない場合の対処法について、弁護士がわかりやすく解説しています。
ぜひ参考になさってください。
目次
過失割合とは?
過失割合とは、交通事故が発生したことについての当事者双方の責任割合のことです。
交通事故にあった場合、よく「10対0」とか「8対2」だとかいう話を聞くと思います。
これが、過失割合のことです。
交通事故は、追突事故のように明らかに加害者側に責任があるケースだけでなく、駐車場での事故や交差点での事故のように、互いに交通事故の原因があるというケースも多くあります。
こうした場合には、事故態様や個別事案の特殊な事情を勘案して、過失割合を交渉しなければなりません。
過失割合によって過失相殺が行われる
被害者にも過失がある場合には、その割合分について損害額から控除されることになります。
こうした控除を過失相殺といいます。
被害者からの損害賠償請求に対して、「こちらが全額を負担するのは、おかしい。そちらにも過失があるので、減額されるべき」という主張が過失相殺の主張です。
過失相殺の根拠は、民法722条2項にあります。
引用元:民法|e-gov
過失相殺は、損害の公平な分担という考え方に基づいています。
つまり、事故発生について被害者にも何らかの原因があった場合に、被害者に生じた損害のすべてを加害者に負わせるのは妥当ではなく、被害者の責任部分については、減額するというのが損害の公平な分担に沿うと考えられているのです。
過失相殺の具体例
交通事故で過失相殺が適用される場合、賠償金額が減少することになります。
このときに減少する項目は、治療費や慰謝料、休業損害といった損害の一部で減額するのではなく、被害者の方に生じた損害額全体から過失部分を控除することになります。
具体的な事例を挙げてご説明します。
被害者が交通事故で治療費100万円、休業損害50万円、慰謝料350万円で合計500万円の損害を負ったケースで、被害者側に2割の過失があるとします。この場合に加害者に対して請求できる賠償金額は、500万円 × (1 - 0.2)= 400万円 となります。
このように、過失相殺がなされると、損害の全体から被害者の過失割合分の金額が差し引かれることになります。
この事例では、100万円が差引かれてしまうことになります。
過失割合はなぜ重要なのか
上記の具体例で分かるとおり、過失割合は賠償額の金額に直結するため、非常に重要な交渉事項です。
仮に、上記の例で、交渉によって、過失割合が10%に小さくすることができた場合には、差引かれる金額は50万円となり、賠償額が50万円増額できることになります。
誤った過失割合で合意してしまうと適正な過失割合で合意した場合に比べて数十万円あるいは数百万円以上、少ない賠償額しか受け取ることができないことになるのです。
したがって、過失割合は、交渉事項の中で最も重要な交渉事項の一つといえます。
保険会社が提示してくる過失割合は正しい?
被害者にも過失割合が生じる事故では、事故後、保険会社から過失割合の提示があります。
相手保険会社は、加害者側の保険会社なので、加害者の言い分を踏まえて、過失割合が提示されます。
被害者側の言い分が反映されていなかったり、加害者側に有利に過失割合が提示されることは多々ありますので、注意しなければなりません。
保険会社から提示された過失割合にすぐに納得して応じるのではなく、一度、弁護士に相談して、適切な過失割合が提示されているか確認してもらうべきです。
保険会社の過失割合の提示は絶対的なものではなく、交渉の余地がある場合もあるので、合意する際には十分注意してください。
過失割合の決め方
過失割合は誰が決める?
交通事故の過失割合は、保険会社との交渉によって決まります。
相手方保険会社との交渉は、①被害者自身、②被害者の保険会社担当者、③被害者の依頼した弁護士のいずれかが行うことになります。
相手保険会社の担当者は、交通事故賠償実務の一定の知識と交渉の経験があります。
したがって、被害者自身で交渉する場合には、言いくるめられないように保険会社側の主張が適正な主張であるか慎重に見極めて交渉する必要があります。
一旦、合意してしまうと過失割合を変更できない可能性もありますので、十分に注意されてください。
交渉が決裂して裁判になった場合には、裁判所に決定してもらうことになります。
裁判になる場合には、被害者自身で進めていいくことは難しいので、弁護士に依頼することをお勧めします。
過失割合が決まるまでの流れ
過失割合は、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」を参考に決定します。
この書籍は、過去の裁判例などを集積して事故類型に応じた過失割合が記載されています。
裁判になった場合には、裁判所も参考にする書籍です。
過失割合を決定するにあたっては、まず、どのような事故態様であったかを確定する必要があります。
例えば、追突事故なのか、右直事故なのか、どういった経過で事故が発生したかを保険会社と交渉して確定させます。
事故態様を確定させた上で、その事故態様が「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」のいずれの事故類型に該当するかを確定します。
該当する事故類型が確定すると基本過失割合が確定します。
事故類型が同じでも、それぞれの事故によって個別事情は異なります。
例えば、一時停止をしていたかどうか、速度違反の有無、ウィンカーの有無などです。
こうした個別事情を踏まえて、基本過失割合を修正していきます。
事故態様、事故類型、修正要素の有無を保険会社と交渉で確定することができれば過失割合が決定することになります。
裁判になった場合にも上記のような流れで過失割合を検討することになります。
過失割合でもめないための5つのポイント
ドライブレコーダーのデータを保存する
ドライブレコーダーの映像は、事故状況を正に映し出したものとなり、重要な証拠となりえます。
したがって、車にドライブレコーダーが付いている場合には、事故映像が写ったデータを確実に保存しましょう。
保存せずにそのままにしておくとデータが上書きされて事故映像が消えてしまう可能性がありますので、注意して下さい。
事故直後の車の状態を写真でとっておく
車の破損状況などから、事故態様を推認することができる場合もあります。
したがって、事故直後の車の破損状況を携帯電話などのカメラで写真を撮影し保存しておくことをお勧めします。
撮影し忘れた場合には、保険会社が持っている写真を送ってもらいましょう。
目撃者がいる場合には、連絡先を聞いておく
事故が発生する瞬間を見ていた目撃者がいる場合には、可能であれば連絡先を聞いておきましょう。
第三者的な立場から事故状況の説明をしてもらうことで保険会社との交渉を有利にすすめることができる場合があります。
周囲に防犯カメラが設置されていないかを確認する
事故状況を映した防犯カメラがあれば、ドライブレコーダーと同様に重要な証拠となりえます。
事故現場の周囲に防犯カメラがある場合には、設置者に開示してもらうようお願いすることも検討すべきでしょう。
もっとも、警察でないと開示してもらえないことが多いので、防犯カメラがある場合には、警察にその防犯カメラを確認するよう依頼しましょう。
専門家である弁護士に相談する
先ほど解説したとおり、交通事故に関する過失相殺は、事故類型に応じて目安となる過失割合が決まっています。
そのため、その類型に沿った事情を主張しなければ、当事者の主張は説得的に過失割合に影響を与えることにならず、解決が困難になってしまいます。
そこで、過失相殺が問題となった場合には、証拠収集をした上で、あるいは同時並行で交通事故を専門とする弁護士にご相談されることお勧めします。
弁護士に依頼することで、保険会社との示談交渉を弁護士が被害者に代わって行うことができ、適切な修正を受けることができる可能性が高まります。
過失割合で個別事情が考慮される場合もある
過失割合の修正要素
事故態様によって適用の有無は異なりますが、過失割合の修正例としては以下のようなものがあります。
- 著しい過失
脇見運転、著しいハンドル・ブレーキの不適切捜査、携帯電話を使用しながら運転、時速15km以上30km未満の速度違反、酒気帯び運転など - 重過失
居眠り運転、無免許運転、酒酔い運転、時速30km以上の速度違反など - 幼児(6歳未満)、児童(6歳〜13歳未満)、高齢者(65歳以上)
- 身体障害者(車椅子を使用、視覚障害、聴覚障害など)
- 住宅街・商店街での事故
- 幹線道路での事故
- 合図が遅れた、あるいは、合図なし
- 車両の直前、直後の横断、急な飛び出し、後退、ふらふら歩き
交通事故の過失割合の修正要素について詳しくはこちらをご覧ください。
上記のような過失割合の修正事情について、以下のケースに当てはめて説明します。
過失割合9対1の事例で解説
① 車同士で一方が優先道路である場合
こうした事故態様の場合には、A車の基本過失割合は10%、B者の過失割合が90%となります。
この過失割合を基本として、以下の修正要素の有無を検討することになります。
事情 | A車に不利に考慮 |
---|---|
B車が明らかに先に交差点に進入 | +10% |
A車に著しい過失 | +15% |
A車に重過失 | +25% |
事情 | A車に有利に考慮 |
---|---|
B車に著しい過失 | -10% |
B車に重過失 | -15% |
例えば、「B車が明らかに先に交差点に進入」の事実が認められる場合には、A車に10%の過失割合を加算します。
したがって、A車とB車の過失割合は、【A車】2対8【B車】ということになります。
② 車同士で、一方が右折して道路外に出る際の事故
この場合も、A車の過失割合は10%、B者の過失割合が90%となります。
この過失割合を基本として、以下の修正要素の有無を検討することになります。
事情 | A車に不利に考慮 |
---|---|
B車が既に右折している | +10% |
A車がゼブラゾーンを進行 | +10%〜20% |
A車が時速15km以上の速度違反 | +10% |
A車が時速30km以上の速度違反 | +20% |
A車に著しい過失 | +10% |
A車に重過失 | +20% |
事情 | A車に有利に考慮 |
---|---|
幹線道路での事故 | -5% |
B車が徐行なし | -10% |
B車が合図なし | -10% |
B車に著しい過失 | -10% |
B車に重過失 | -20% |
③ 自転車と車の巻き込み事故
この場合も、A車の過失割合は10%、B者の過失割合が90%となります。
この過失割合を基本として、以下の修正要素の有無を検討することになります。
事情 | A車に不利に考慮 |
---|---|
A車の著しい過失・重過失 | +5〜10% |
事情 | A車に有利に考慮 |
---|---|
A車の運転手が児童等・高齢者 | -5% |
B車の大回り左折・進入路鋭角 | -10% |
合図遅れ | -5% |
合図なし | -10% |
A車が自転車横断帯通行 | -5% |
B車に著しい過失・重過失 | -5〜10% |
このケースでは、運転手が児童あるいは高齢者であることや、自転車横断帯通行の事故である点などは、立証は容易でしょう。
他方で、合図遅れ、合図なし、B車の大回り左折・進入路鋭角などについては、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像など、客観的に事故状況が分かる証拠がないと立証は難しい可能性があります(加害者が認めている場合には立証の必要はありません)。
事故状況別の過失割合
歩行者と車の事故の過失割合
歩行者は、道路上で最も弱い存在であり、最も保護されるべき存在です。
他方で、自動車は、人に衝突することで死亡させてしまう危険性もはらんでいることから、その運転にあたってはより高度な注意義務が求められています。
例えば、車同士の事故で、他方が信号無視をして赤信号で交差点に進入していたとします。
そうした場合、基本過失割合は、信号無視をした車が100%となります。
しかし、歩行者が信号を無視して赤信号で横断し、車は青信号で直進した場合の基本過失割合は、歩行者70%、車30%となります。
このケースでは、歩行者は、信号無視をしており、車は青信号で進行しているにもかかわらず、車にも30%の過失割合が認められるのです。
歩行者と自転車の事故の過失割合
自転車についても、車やバイクほどではありませんが、走行させることで、他人の生命身体を害する可能性をはらんでいます。
したがって、歩行者との関係では、より高い注意義務が課されることになります。
例えば、自転車が歩道を走行して歩行者と衝突した事故の場合、基本過失割合は、自転車の100%となります。
歩行者が急に飛び出すなどの事情があれば、5%の修正要素が適用されますが、それ以外の修正要素は設定されていません(個別事案に応じて修正の可能性はあります)。
車同士の事故の過失割合
車同士の事故について、1つ事故類型を紹介します。
道路外から道路に侵入する際の事故を紹介します。
上記の事故の場合の基本過失割合は、下表のとおりです。
路外車 | 直進車 |
80% | 20% |
この基本過失割合をもとに、下表の修正要素があります。
修正要素 | 直進車 |
路外車が頭を出して待機 | +10% |
直進車の15㎞以上の速度違反 | +10% |
直進車の30㎞以上の速度違反 | +20% |
直進車にその他の著しい過失がある場合 | +10% |
現場が幹線道路 | +20% |
路外車が徐行なし | +20% |
路外車にその他著し過失がある場合 | +20% |
路外車に重過失がある場合 | +20% |
車とバイクの事故の過失割合
バイクは、車との関係では、より保護される立場にあり、車の方により高い注意義務が求められることになります。
例えば、車同士のいわゆる右直事故(下図)の場合、基本過失割合は、直進車20%、右折車80%です。
他方で、下図のような車(右折)とバイク(直進)の場合の右直事故の場合には、車85%、バイク15%に設定されており、バイクがより保護されていることが分かります。
自転車と車の事故の過失割合
これまで説明してきたとおり、車は、その内在する危険性から最も重い注意義務が課されており、自転車は車との関係ではより保護される立場にあります。
例えば、下図のような車(右折)、自転車(直進)の右直事故の場合、基本過失割合は、車90%、自転車10%となります。
こうした例からも、自転車は、車、バイクよりも、より厚く保護されていることが分かります。
交通事故の過失割合が納得いかない場合の対処法
弁護士に相談する
被害害者側の事実関係や事実に対する評価の部分で保険会社と主張が食い違い、納得できない過失割合を提示されることもあります。
そうした場合には、被害者側が主張している事実関係や評価を支える証拠を提示して交渉することが有効です。
ドライブレコーダー、防犯カメラの映像、事故車両の写真、刑事記録、目撃者の証言などといった証拠に基づき保険会社と交渉していきます。
もっとも、被害者個人で、証拠の収集や証拠に基づいて論理的に主張を組み立てることは容易なことではありません。
したがって、専門の弁護士のアドバイスを受ける、あるいは、交渉を依頼するなどして交渉することをお勧めします。
ADR・調停・裁判の検討
示談交渉で納得のいく過失割合で合意できない場合には、ADR、調停、裁判をすることが考えられます。
ADR
ADRとは、裁判外紛争解決手続のことで、裁判によらずに、民事上の紛争の解決するために第三者が関与して解決を図る手続きのことです。
交通事故のADRとしては、交通事故紛争処理センター、日弁連交通事故相談センターなどがあります。
これらのADRは、無料で利用することができます。
ただし、交通事故に関する資料の収集は自分でする必要があり、収集にかかる費用は自己負担となります。
弁護士に依頼していない場合には、被害者自らADRの事務所に行って話し合いをする必要があるため、それなりの労力はかかります。
また、話し合いに関与するADRの相談員や弁護士は、あくまで中立的な立場で話し合いを進めることになります。完全に被害者の味方というわけではありません。
調停
調停は、裁判所の手続きになります。
交通事故の場合は、加害者を相手方として民事調停を裁判所に申し立てることになります。
調停では、裁判官1名と調停委員2名の3名が手続きに関与して、話し合いでの解決を模索することになります。
調停期日は、1〜2ヶ月に1回程度開かれ、基本的にはそれぞれ個別に事情や主張を聞き取られます。
話し合いでお互い合意できれば、調停は成立して解決となります。
しかし、話し合いでの解決の見通しがつかない場合には、調停は不調となり終了することとなります。
調停は、あくまで話し合いでの解決を図るものなので、加害者側が全く話し合いで解決する気がない場合には、調停で解決することはできないでしょう。
裁判
裁判は、訴状を作成して裁判所に提出することで始まります。
その後は、裁判期日が1〜2ヶ月に1回程度で開催され、双方、証拠に基づいて法的な主張を記載した書面をやり取りすることで進められます。
裁判では、法律や過去の裁判例等の知見がなければ適切に進めることは困難です。
裁判をする場合には、弁護士に依頼されることをお勧めします。
まとめ
過失割合は、賠償額全体に関わってくる重要な交渉事項になります。
保険会社との交渉で納得のいかないことや不審な点がある場合には、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。
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