法定養育費とは?養育費の義務化はいつから?金額はどうなる?
法定養育費とは、離婚の際に養育費の取り決めをしなくても、一定額の養育費を請求できるという制度です。
2024年5月の民法改正により導入された新しい制度で、2026年5月までに施行される予定です。
これまでの制度のもとでは、養育費は、父母間での協議や裁判所の手続きによって金額等を取り決めなければ、請求することはできませんでした。
法定養育費制度の導入後は、このような取り決めがない場合でも、養育費として一定額を請求することができるようになります。
具体的な金額については、現時点(2025年5月現在)では未定ですが、子どもの最低限度の生活を維持できる程度の、比較的低額なものになることが見込まれます。
この記事では、法定養育費について、どのような制度か、いつから始まるのか、金額はどうなるのかなどについて、解説していきます。
法定養育費とは?
法定養育費とは、離婚の際に養育費の取り決めをしなくても、一定額の養育費を請求できるという制度です(改正後民法766条の3第1項)。
養育費とは、子どもの生活のためのお金のことをいいます。
離婚後に子どもと離れて暮らす親は、養育費を支払う義務を負います。
また、子どもと一緒に暮らす親は、養育費の支払いを請求する権利を持ちます。
もっとも、これまでの制度のもとでは、協議や裁判所の手続きによって具体的な金額等を取り決めなければ、養育費を請求することはできませんでした。
それが今回、民法の改正によって、具体的な取り決めをしなくても、一定額の養育費を請求することができる制度が導入されました。
これが法定養育費制度です。
法定養育費の概要
法定養育費の制度の概要について、簡単に解説します。
法定養育費を請求できる場合
法定養育費は、父母が養育費の取り決めをせずに離婚をした場合に請求することができます。
話し合い(協議)によって離婚したか、裁判で離婚したかは問われません(改正後民法771条)。
また、父親が認知した子どもがいる場合も請求することができます(改正後民法788条)。
法定養育費を請求することができる人
法定養育費を請求できるのは、子どもの父母の一方で、離婚時から引き続き子どもの世話を主として行っている人です。
「実際に子どもと一緒に暮らして、子どもの面倒をみている」という事実状態が基準となります。
「親権者」や「監護権者」として指定されているかどうかは関係ありません。
法定養育費の金額
法定養育費の金額は、法務省令で定められる予定です。
2025年5月現在では未だ定められてはいません。
もっとも、法律では「子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額」などを勘案して定めるものとされているため、比較的低額になることが見込まれます。
法定養育費の支払時期
法定養育費は、離婚の日から、次の①②③のいずれか早い日までの間、毎月末に支払うよう請求することができます。
- ① 協議によって養育費の取り決めをした日
- ② 養育費の審判(※)が確定した日
- ③ 子どもが成年(満18歳)に達した日
※審判とは、家庭裁判所が養育費の金額等を定める手続きのことです。
なお、離婚の日が属する月、上記の①②③の属する月に支払う金額については、日割り計算で算出するものとされています(改正後民法766条の3第2項)。
支払い拒否・免除等の余地
法定養育費は、父母が養育費の取り決めをせずに離婚した場合、法律上当然に発生します。
支払う側の支払能力がない場合でも、法律上当然に支払い義務が生じるということです。
しかし、支払う側に支払能力がない場合は支払ってもらうことは不可能ですし、支払う側の生活を困窮させるわけにもいきません。
そこで、支払う側が支払能力がないこと又は支払いをすると生活が著しく困窮することを証明した場合は、法定養育費の全部又は一部の支払いを拒否することができるとされています。
また、未払いの法定養育費(離婚日から裁判所での取り決めをするまでの期間に生じた過去の法定養育費)については、裁判所の判断により、全部又は一部の免除や支払猶予等がされる場合もあります(改正後民法766条の3第3項)。
先取特権の付与
法定養育費には、「先取特権(さきどりとっけん)」が付与されます(改正後民法306条3号、308条の2)。
これにより、相手が法定養育費の支払いを怠った場合、直ちに強制執行(相手の財産を差し押さえてお金を回収する手続き)をすることができます。
先取特権とは、わかりやすく言うと、債務者(支払義務を負う人)のすべての財産から直接、優先的にお金を回収することができる権利のことをいいます。
先取特権が付いていると、債務名義がなくても強制執行をすることができます。
強制執行とは、相手が支払いを怠る場合に、相手の財産(給与口座など)を差し押さえ、強制的にお金を回収する手段のことをいいます。
強制執行をするためには、通常は「債務名義(さいむめいぎ)」という書類が必要です。
債務名義とは、支払義務の内容などを証明するもので、裁判所や公証役場で作成・発行された正式な書類(調停調書、審判書、公正証書など)のことを指します。
したがって、通常は、裁判所や公証役場での手続きを経なければ、強制執行をすることはできません。
一方、先取特権が付いている場合は、債務名義がなくても強制執行をすることができます。
法定養育費には、この先取特権(正確に言うと「一般先取特権」)が付いています。
そのため、相手が法定養育費の支払いを怠った場合は、裁判等をすることなく、直ちに相手の財産を差し押さえることができます。
なお、今回の改正では、法定養育費の他にも、通常の養育費(協議や裁判所で決めた養育費)や婚姻費用などにも一般先取特権が付されました。
請求できる場合 | 父母が養育費の取り決めをせずに離婚した場合 |
請求できる人 | 子どもの父母の一方で、離婚の時から引き続きその子どもの監護を主として行っている人(=実際に子どもの身の回りの世話をしている人) |
金額 | 法務省令で定められる予定(現時点では未定) ※「子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」 |
支払時期 | 【始期】離婚の日 【終期】次の①②③のいずれか
※始期・終期の属する月の金額は日割り計算で算出 |
支払い拒否・免除等の余地 |
|
その他の特徴 | 先取特権の付与(債務名義がなくても差押え可能) |
法定養育費制度はいつから?
法定養育費制度の施行時期
法定養育費制度は、遅くとも2026年5月までに施行される見込みです。
法定養育費は遡及できる?
法定養育費は、改正後の法律の施行後に離婚したケースであれば、離婚した日にさかのぼって請求することができます。
例えば、2027年5月1日に離婚をして、現在が2027年10月1日だとします。
この場合は、2027年5月1日にさかのぼり、法定養育費を2027年5月分から請求をすることができます。
なお、法定養育費が請求できるのは、改正後の法律が施行された後に離婚したケースに限られます。
改正後の法律が施行される前に離婚したケースでは、改正後の法律が施行された後においても法定養育費を請求することはできません。
法定養育費の金額や計算方法
法定養育費の金額について、改正後民法では次のように定められています(改正後民法766条の3第1項)。
具体的な金額や計算方法は2025年5月現在では未定ですが、現時点までの議論のポイントは以下のとおりです。
①生活保護制度の基準が参考にされる見通し
子どもの最低限度の生活維持のための金額としては、生活保護制度の生活扶助基準(最低限度の生活を維持するための衣食住にかかるお金の基準)が参照される見通しです。
この生活扶助基準を基本としつつ、子どもの教育費を考慮するかどうか、社会保障給付(児童手当など)の金額をどのように考慮するかなどについて、議論が進められている模様です。
②個別事情にかかわらず一定の金額となる見通し
法定養育費の金額は、支払う側の収入や、医療費が多くかかるなどの個別事情に関係なく、一律に、特定額が定められる見通しです。
計算式を用いて個別に計算するという方法は、採用されないようです。
③子どもが複数の場合は人数倍となる見通し
子どもが2人以上いる場合の法定養育費の金額は、子ども1人当たりの金額を単純に人数倍した金額となる見通しです。
参考:法務省ホームページ|養育費に関する法務省令の制定に向けた検討会
なぜ法定養育費制度が設けられたのか
法定養育費制度は、養育費の未払い問題を解決し、子どもの生活を守ることを目的に設けられた制度です。
これまでの養育費制度のもとでは、父母間での協議(話し合い)又は家庭裁判所の手続き(調停や審判)で養育費の金額を取り決めなければ、養育費を請求することはできませんでした。
その一方で、養育費の取り決めをしていないケースは多くみられました。
様々な事情から養育費の取り決めをせずに離婚するケースや、調停等の申立てにハードルを感じて請求を断念するケースが多かったのです。
国の調査によると、2021年度における養育費の取り決めをしていない家庭の割合は、母子家庭では51.2%、父子家庭では69.0%だったとのことです。
その結果、養育費を受け取っていない母子家庭・父子家庭も多いという実情がありました。
しかし、養育費は子どもの生活のためのお金です。
養育費を受け取れなければ、子どもの生活の安定や健全な成長に影響が及ぶことになります。
法定養育費制度は、このような問題を背景に、状況を改善するために導入されました。
もっとも、法定養育費制度は、あくまでも養育費の取り決めがされるまでの暫定的・補充的な制度と位置づけられています。
つまり、養育費の未払い問題を軽減するための一つの措置ではあるものの、適正額の長期的な支払いを確保する措置ではありません。
養育費を適正額、長期的に支払ってもらえるようにするためには、これまでと同様に、協議や裁判所の手続きによって養育費の取り決めをすることが必要となります。
法定養育費制度の問題点
法定養育費制度の問題点としては、次のようなものが挙げられます。
金額が低い
法定養育費の金額は、「子どもの最低限度の生活を維持できる程度の金額」として定められる予定です。
そのため、比較的低額になることが予想されます。
状況によっては、協議や裁判所の手続きで取り決める場合よりも、大幅に低額となる可能性があります。
また、法定養育費の金額は、個別事情に関係なく一定の金額となる見通しです。
子どもに高額な教育費や医療費がかかるようなケースでも、そのような事情が考慮されて法定養育費の金額が増えることはありません。
そのため、法定養育費をもらうだけでは、子どもの生活を維持するのに到底足りないケースも生じる可能性があるでしょう。
養育費の金額を家庭裁判所で決める場合は、通常は「養育費算定表」という早見表で算定した金額が目安とされます。
養育費算定表とは、子どもが別居親と同居していると仮定した場合にどの程度の生活費が振り分けられるかという観点に基づいた算定方法による計算結果を表にしたものです。
そのため、算定表で算出した金額は、「子どもが別居親と同程度の生活水準を維持できる程度の金額」となります。
この金額は、父母の収入額にもよりますが、多くのケースでは「子どもの最低限度の生活を維持できる程度の金額」(=法定養育費の予定額)よりも高額になります。
なお、父母間の協議で決める場合も、この算定表で算出した金額を目安にすることがほとんどです。
もらえる期間は限られている
養育費は、本来は子どもが独り立ちできるようになるまで支払われるべきものです。
そして、協議や裁判所で養育費を取り決める場合は、基本的には子どもが20歳になるまでとするケースが多いです。
また、子どもが大学に進学する場合や、病気等の理由で自立が難しい場合は、子どもが20歳に達した後も支払いが続くことがあります。
一方、法定養育費の終期は、協議や裁判所で養育費を取り決めるまで、あるいは、子どもが満18歳になるまでと画一的に定められています。
この終期については、個別事情が考慮されて延長されることもありません。
例えば、子どもが大学に進学し、22歳まで養育費が必要なケースでも、法定養育費は子どもが18歳になるまでしか受け取ることができないのです。
このように、法定養育費制度では、18歳に達した日以降の子どもの生活費をフォローすることはできません。
養育費の取り決めをするインセンティブが削がれる可能性
法定養育費制度により、養育費の取り決めをするインセンティブが削がれるとの懸念も指摘されています。
法定養育費は、あくまでも養育費の取り決めをするまでの暫定的・補充的な措置であり、それゆえ金額や期間も限定されています。
適正額の支払いを確保するためには、従来どおり、協議や裁判所の手続きで養育費の取り決めをする必要があります。
ところが、法定養育費制度の導入により、「養育費の取り決めをしなくても問題ない」「一定額を請求できるのであれば、わざわざ養育費の取り決めをする必要はない」との誤解が生じる可能性があります。
このような誤解によって養育費の取り決めが妨げられてしまうと、適正額の支払いを確保することは難しくなってしまいます。
法定養育費についてのQ&A
法定養育費を払わなくていいケースはある?

支払義務を負う側が支払能力がないこと等を証明した場合は、法定養育費の全部又は一部の支払いを拒否することができます。
また、未払いの法定養育費について、裁判所の判断により全部又は一部が免除等される場合もあるとされています。
法定養育費の先取特権とは何ですか?

この権利があることにより、相手が法定養育費の支払いを怠った場合、債務名義(調停調書、審判書、公正証書など)がなくても、相手の財産を差し押さえて回収することができます。
まとめ
以上、法定養育費について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
法定養育費制度の施行後は、養育費の取り決めがない場合でも、一定額の養育費を請求することができるようになります。
ただ、法定養育制度の施行後も、養育費の取り決めが重要であることには変わりありません。
法定養育費は、あくまでも養育費の取り決めをするまでの暫定的・補充的な措置であり、それゆえ金額や期間も限定されています。
適正額を長期的・継続的に支払ってもらうようにするためには、これまでと同様、協議や裁判所の手続きによる取り決めが必要です。
もっとも、養育費の適正額や終期の判断は、具体的な事情に基づく必要があり、専門家でなければ難しいと思われます。
そのため、養育費の問題でお困りの場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
弁護士のサポートを受ければ、手続きをスムーズに進めることもできます。
相手方との交渉等も任せることができるため、精神的な負担も軽減することができます。
養育費の取り決めについて、「相手と関わりたくない」「手続きが大変そう」と感じている方も、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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