交通事故の通院日数が少ない場合の影響とは?対処法も解説

執筆者:弁護士 大村直仁 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)

交通事故の通院日数が少ない場合、慰謝料の減額、一括対応の打ち切りなどのデメリットがあります。

一方で、通院日数が多すぎる過剰診療を行った場合、治療費が支払われなくなったり、一括対応の打ち切りが早くなったりすることがあります。

そのため、交通事故の通院は、適切な頻度で通院することが重要です。

この記事では、通院日数が少ない場合のデメリットや、通院日数について抑えておくべきポイントについて解説していきます。

この記事を読むことで、適切な通院日数や通院時のポイントについて知ることができます。

交通事故の通院日数と慰謝料との関係

交通事故の通院日数が少ない場合には、慰謝料金額が減ってしまうことがあります。

以下で説明する入通院慰謝料の自賠責基準の場合、通院日数が少ないと慰謝料金額は減りますし、弁護士基準でも事案によっては慰謝料額は減ります。

以下、具体的に説明します。

入通院慰謝料とは

入通院慰謝料とは、交通事故で怪我をした人が、入院や通院をした場合に請求できる慰謝料のことをいいます。

慰謝料とは、本来痛みの強さや、感じ方によって決められるものですが、それでは基準が曖昧となってしまいます。

そこで、入院・通院の期間を基準として、計算される相場があります。

この相場が、入通院慰謝料の計算における弁護士基準、任意保険基準、自賠責基準といった各基準になります。

また、入通院慰謝料は、入院・通院を前提とする慰謝料のため、入院・通院がない場合には、基本的には請求ができません。

また、交通事故の慰謝料には入通院慰謝料の他に、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があります。

 

入通院慰謝料の計算方法

弁護士基準

弁護士基準は、裁判基準とも言われ、裁判をした場合の入通院慰謝料の相場です。

弁護士が介入した状況では、この基準を使用して交渉に臨みます。

弁護士基準で計算する場合、赤い本と呼ばれる「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」の下記の2種類の表を参考にして計算されます。

別表Ⅰ

民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 別表Ⅰ

別表Ⅱ

民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 別表II

別表Ⅰは、怪我の症状が骨折や脱臼など重症の場合に適用される基準です。

別表Ⅱは、軽度の打撲やむちうち(頚椎捻挫、頚部症候群、腰椎捻挫などの診断名が多いです)など、軽傷の場合に適用される基準です。

例えば、むちうちで通院期間が6ヶ月の場合は89万円が慰謝料となります。

一方で、むちうちで通院期間が140日など、端数が生じた場合は下記のように計算します。

具体例 むちうちで通院期間が140日など、端数が生じた場合

別表Ⅱの4ヶ月間(120日)の通院慰謝料は67万円です。

140日の場合、20日の端数が生じているので、端数の計算が必要になります。

端数については、5ヶ月間の慰謝料と4ヶ月の慰謝料の差を日割り計算することになります。

まず、5ヶ月間の慰謝料と4ヶ月間の慰謝料の差額は、79万 – 67万=12万円となります。

次に、端数の日割り計算を行い、(12万 ÷ 30日) × 20日=8万円となります。

最後に、4ヶ月間の慰謝料と合計し、67万 + 8万 = 75万円となります。

ただし、上記表(別表Ⅱ)については、通院期間が長期間にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ、実通院日数の3倍程度を通院期間として算定する場合もあるため、注意が必要です。

例えば、通院が1年以上にわたり、通院頻度が1ヶ月に2〜3回程度の割合にも達しない状況で、治療内容も経過観察しかしていないような場合などは、上記のような修正がなされる可能性が高いです。

 

任意保険基準

任意保険基準とは、保険会社独自の算定基準のことをいいます。

任意保険基準の場合、被害者に対して、書面で賠償の提示が出されたときに、「弊社基準」などの記載がされることがありますが、それが任意保険会社の基準ということになります。

ただ、その内容をみると自賠責保険とほとんど変わらない基準で計算されているような場合もあります。

すなわち、保険会社から最初に提示される慰謝料は、適正な金額ではない可能性が高いため、注意が必要です。

また、任意保険基準については、公開されていないため内容は不明ですが、一般的には自賠責基準に少し上乗せする程度の金額になることが多く、弁護士基準(裁判基準)より低くなります。

 

自賠責基準

自賠責基準とは、自賠責保険が賠償金を計算する際に用いる最低限の基準です。

自賠責基準における、入通院慰謝料は1日4300円です。

この4300円の対象となる日数は、実通院日数の2倍の日数と通院期間の日数の少ない方の日数となります。

例えば、通院期間が90日、実通院日数が30日の場合は下記のように計算します。

30日 × 2=60日となり、通院期間の90日より小さいため、60日を用います(60日<90日)。

したがって、60日 × 4300円 = 25万8000円が慰謝料となります。

 

通院日数が少ない場合のデメリット

一括対応を早期に打ち切られる可能性

通院日数が少ない場合、一括対応(相手方の保険会社が、治療費の支払い等を病院へ一括して支払う対応)を早期に打ち切られる可能性があります。

なぜなら、通院日数が少なければ、受傷箇所が軽傷と考えられたり、事故との因果関係を疑われるためです。

例えば、通院頻度として1ヶ月以上空いてしまった場合は、治療の経過と因果関係を否定され、一括対応を早めに打ち切られてしまう可能性があります。

もっとも、骨折等している場合で医師から経過観察とされているような場合には、保険会社も医師の意見を尊重して早期に治療を打ち切られる可能性は低いです。

 

慰謝料が低くなる可能性

通院日数が少ない場合のデメリットとして、慰謝料が少なくなることがあげられます。

例えば、自賠責基準では、実通院日数の2倍をした数が用いられるため、実通院が少なければ、その分慰謝料も低くなってきます。

また、弁護士基準(裁判基準)であっても、通院期間が短ければ短いほど、慰謝料が低くなっていきます。

 

適切な後遺障害等級が認定されない可能性

後遺障害等級の認定は、症状固定(これ以上治療しても良くも悪くもならない時点)になったときの症状により判断されます。

もっとも、むちうちなどの他覚所見がない症状については、症状固定時の症状だけでなく、症状固定になるまでの通院回数も重要な考慮要素です。

通院回数が少なすぎると、後遺症が残ったにもかかわらず、後遺障害等級が認定されないことがあるため、注意が必要です。

 

 

デメリットへの対処法

事故後、速やかに病院へ行き適切な検査を受ける

まずは、事故後、速やかに病院へ行き適切な検査を受けることが重要になります。

適切な検査を受けることによって、正確な診断名が判明し、適切な通院頻度を把握することができます。

また、病院に受診するのが遅れると、事故とケガの関係性を保険会社から争われてしまう可能性があるため、遅くとも数日以内には行くようにしましょう。

 

最低限の通院頻度を守る

通院の適切な期間や頻度は、負傷の程度や治療の経過によって様々なので、主治医の指示に従って、通院することが大切です。

また交通事故の賠償実務の観点からみた場合、弁護士基準であれば、週に2、3日通院していれば、慰謝料は最大化されます。

一方で、医師の指示がない場合に通院間隔が1ヶ月以上空いてしまった場合、治療の経過と因果関係を否定され、一括対応を早めに打ち切られてしまう可能性が高いです。

したがって、医師の指示がない場合には、少なくとも1ヶ月を空けずに通院することが必要です。

 

交通事故に強い弁護士に相談する

治療の方針については、原則として医師の指示に従って治療を行っていくことになります。

もっとも、医師は、体を治すことを目的として治療や検査を行っているため、適切な補償を受けるという観点から、必要な検査が抜け落ちていることがあります。

一方で、弁護士に相談することで、将来的に後遺障害を申請する可能性を見据えて、交通事故後、速やかにレントゲンやMRIの撮影を行い、頸椎の損傷を確認することなど、検査に関するアドバイスを受けることができます。

また、治療の終了時期の判断についてもアドバイスを受けることができます。

治療の終了時期については、基本的には医師が判断することになりますが、医師によっては、保険会社や患者の判断に任せる医師もいます。

こうした場合には、被害者の回復状況や症状の程度等を考慮して、相手方保険会社と交渉して治療の終了時期を協議していくことになります。

このように、弁護士に依頼することによって、治療や通院に関するアドバイスを受けることができます。

 

 

通院日数と慰謝料についてのQ&A

通院期間が15日の慰謝料はいくらですか?

通院期間が15日の慰謝料について、弁護士基準(裁判基準)で計算した場合、むちうちや軽い打撲の場合は9万5000円(赤い本別表Ⅱ)、骨折や脱臼など重症の場合は14万円(赤い本別表Ⅰ)となります。

 

一方で、自賠責基準の場合は、実通院日数の2倍と総通院期間を比較し、短い方に1日4300円をかけたものが慰謝料になります。

例えば、通院期間が15日で、実通院日数が3日の場合、下記の計算となります。

3日(実通院日数)× 2 = 6回

実通院日数の2倍(6回)と総通院期間(15日)よりも短いため、6回として計算します。

4300円 × 6回 = 2万58000円が自賠責基準での慰謝料となります。

 

軽いむちうちの通院日数は?

むちうちの通院日数は、軽症の場合には数週間で、軽症以外のケースでも約2か月前後であるとされていて、長くても3か月以内に治癒することが7割程度とされています。

 

しかし、中には、症状が慢性化してしまい、6か月以上の長期間にわたって治療を続ける方も存在します。

むちうちでは、6か月ほど通院して治療を受けても症状が改善しない場合には、症状固定と診断されることが多いです。

症状固定とは、これ以上治療を行っても、症状が改善すると見込めなくなった状態のことを意味します。

したがって、症状固定と診断されれば、そのときに改善されていない症状が後遺症として残ってしまうということになります。

そのため、症状固定と診断されたときには、後遺障害診断書を医師に作成してもらって、後遺障害等級の認定を申請しなければなりません。

後遺障害等級の認定を受けることができれば、加害者側に対して、治療費やむちうちになったことに対する慰謝料に加えて、後遺障害が残ったことに対する慰謝料も請求することができるようになります。

交通事故で通院日数20日の慰謝料の相場は?

交通事故で通院日数20日の慰謝料の相場は下記のようになります。

 

自賠責基準
相場 8600円~8万6000円
通院期間 20日間
計算式 2日※ × 4300円 = 8600円 〜 20日 × 4300円 = 8万6000円
※実通院日数が1日の場合でも最低2日で計算

 

弁護士基準
相場 12万6667円
通院期間 20日間
計算式 19万円 × 20日 ÷ 30 = 12万6667円
計算根拠 赤い本 別表Ⅱ「30日の通院で19万円」から日割りで算出

 

事故の通院で2週間も空いたらどうなる?

事故の通院で2週間も空いた場合、保険会社は怪我の症状が軽いと考えたり、適切な通院が行われていないとして、一括対応を早期に打ち切る可能性があります。

 

また、むちうちの場合、他覚所見がないことがないことが多いことから、後遺障害認定においては通院回数が重視されます。

通院回数が少なすぎる場合、一括対応を早期に打ち切られるだけでなく、後遺障害認定においても不利に評価される可能性もあるため、適切な頻度で通院することが重要です。

一方で、毎日通院するなど、症状に比して通院回数が多い場合は、過剰診療として一括対応を早期に打ち切られる可能性があるため、注意しましょう。

 

事故後、通院で稼ぐことができる?

結論として、事故後、通院することで、慰謝料を稼ぐことはできません。

 

通院の回数をむやみに増やすことによって、最終的に受領できる慰謝料などの賠償金が減額する危険性すらあります。

そもそも、通院は、けがを治すために行うものですので、賠償金目的でむやみに通院をすることは止めましょう。

また、過剰診療を行うことによって、慰謝料が支払われなくなったり、詐欺罪に該当する可能性があります。

 

交通事故の慰謝料は1日いくらなのか?

自賠責基準の場合、1日4300円が慰謝料になります。

 

一方で、弁護士基準(裁判基準)の場合、1日あたりの入通院慰謝料は下記のようになります。

むちうちなどの軽傷の場合 骨折などの重症の場合
通院1日あたり6000円程度 通院1日あたり8000円程度
入院1日あたり1万円程度 入院1日あたり1万6000円程度

上記金額は、通院もしくは入院1ヶ月あたりの慰謝料を30日で除した金額を参照にしていますが、弁護士基準(裁判基準)での慰謝料は、通院期間が長くなればなるほど、増額の幅が小さくなる傾向にあります。

 

事故でむちうちの嘘はバレるのか?

事故でむちうちの嘘はバレます。

むちうちの嘘がバレた場合、保険会社から保険金の返還を求められるだけでなく、詐欺罪として刑事告訴される可能性もあります。

一方で、むちうちはレントゲンやMRIの画像では分からないことが多いため、本当にむちうちであっても、事故規模や事故状況によっては、むちうちであるか疑われる場合があるため注意が必要です。

 

通院は整骨院でも大丈夫か?

整骨院の場合は、実際に人体に触れて施術を行ったり、待ち時間が短いこともあるため、整骨院に行きたいと考える場合があるでしょう。

しかし、整骨院については、必ずしも保険会社が施術費の支払いに対応するわけではないため、注意が必要です。

施術費の支払いが認められる場合

保険会社が整骨院の通院を認めている場合は、整骨院の通院費については保険会社が支払ってくれる場合が多いです。

そのため、整骨院での施術を希望する場合は、事故当初から整骨院での施術を受けたいことを保険会社に伝えておくことが重要です。

事故日からしばらく経過してから通院したいことを保険会社に伝えても、認めてくれない場合が多いため、事故後、できるだけ早く、整骨院への通院を伝えることが重要になります。

 

裁判所の基準

裁判所では、以下の点を考慮して、整骨院の施術費の支払いの請求が認められるか判断します。

整骨院の施術費の支払いの請求が認められるかの判断基準

医師の指示に基づき整骨院で施術している場合には、上記の①と②の考慮要素が認められる傾向にあります。

そのため、整骨院への治療について不安がある場合は、主治医の先生と相談されることをオススメします。

 

まとめ

  • 入通院慰謝料とは、交通事故で怪我をした人が、入院や通院をした場合に請求できる慰謝料のことをいう
  • 通院日数が少ない場合、一括対応を早期に打ち切られるリスクがある
  • 通院日数が少ない場合、慰謝料が少なくなる可能性がある
  • むちうちなどの他覚所見がない症状については、症状固定時の症状だけでなく、症状固定になるまでの通院回数も重要な考慮要素となる
  • 通院の適切な期間や頻度は、負傷の程度や治療の経過によって様々なので、主治医の指示に従って、通院することが大切である

当法律事務所の人身障害部は、交通事故に精通した弁護士のみで構成されており、後遺障害に悩む被害者を強力にサポートしています。 弁護士費用特約にご加入されている場合は、特殊な場合を除き弁護士費用は実質0円でご依頼いただけます。

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