肉体関係なしでも慰謝料請求をできる?不貞行為とはどこから?
肉体関係がなくても慰謝料請求ができる場合はあります。
ただし、肉体関係がある場合に比べると、慰謝料請求が認められるハードルは高くなります。
肉体関係がある場合は、「不貞行為」を根拠に慰謝料請求をすることができます。
一方、肉体関係がない場合は、不貞行為が認められないため、一般的には慰謝料請求は難しくなります。
しかし、肉体関係がない場合でも、状況次第では慰謝料請求が認められる可能性はあります。
肉体関係がなくても、交際の内容や程度によっては、肉体関係がある場合と同様に被害者の権利や利益が侵害される可能性はあるからです。
そこで、ここでは肉体関係がない場合の慰謝料請求について、請求できるケース、慰謝料の相場、請求のポイント、対処法などを解説していきます。
目次
肉体関係なしだと慰謝料請求はできない?
肉体関係がない場合でも、慰謝料請求が認められる可能性はあります。
ただし、肉体関係がある場合に比べると、慰謝料請求が認められるためのハードルは高くなります。
慰謝料請求できる場合とは?
不貞行為とは?
慰謝料請求ができるのは、典型的には「不貞行為」がある場合です。
不貞行為とは、一般的には、配偶者以外の人と自由な意思のもと肉体関係をもつことを指すと考えられています(※)。
肉体関係とは、具体的には性交渉又は性交類似行為を持つことをいいます。
いわゆる「不倫」や「浮気」とほとんど同じ意味です。
しかし、「不倫」や「浮気」は日常用語であり、それが何を指すかは人によって考え方が異なる場合もあります。
それに対し、「不貞行為」は法律用語であり、肉体関係を伴う行為に限定されます。
「不貞行為」の定義は法律上明確ではなく、必ずしも統一されてはいません。
学説の中には、肉体関係を伴うものに限定しないと考えるものもあります。
しかし、実務では、上記のように肉体関係を伴うものに限定するという考え方が有力とされています。
この記事でも、この考え方を前提とすることにします。
慰謝料を請求できる根拠
不貞行為がある場合は、基本的には慰謝料を請求することができます。
なぜならば、不貞行為は「不法行為」に当たると考えられているからです。
「不法行為」とは、故意又は過失によって、他人の権利や法律上保護される利益を侵害することをいいます(民法709条)。
「故意又は過失」とは、簡単に言うと「わざと又はついうっかり」という意味です。
不貞行為は、通常はわざと(故意に)、被害者(不貞行為をされた側)の「平穏な結婚生活を送る権利や法律上保護される利益」を侵害する行為です。
そのため、不貞行為は不法行為に当たります。
そして、不法行為によって精神的な苦痛を受けた場合は、加害者(不法行為をした人)に対し、これを賠償させるためのお金として「慰謝料」を請求することができるとされています(民法710条)。
不貞行為をされた場合は、通常は精神的な苦痛を受けます。
したがって、不貞行為をされた場合は、加害者(不貞行為をした配偶者と不貞行為の相手)に対し、慰謝料を請求することができます。
肉体関係なしでも慰謝料請求できる場合とは?
配偶者が他の異性と交際関係にあったとしても、肉体関係がない場合は、不貞行為は認められません。
しかし、肉体関係がなくても、交際の内容や程度によっては、他方配偶者の「平穏な結婚生活を送る権利や法律上保護される利益」が侵害される場合はあります。
このような場合は、肉体関係がなくても、その交際自体が「不法行為」に当たると判断される可能性があります。
そして、不法行為に当たると判断されれば、肉体関係がなくても、法的に慰謝料を請求することが可能です。
ただし、肉体関係なしの場合に慰謝料が認められるのは、相当親密な交際関係にあり、かつ、その交際によって夫婦関係が破壊されたといえる場合に限られる傾向にあります。
例えば、頻繁に深夜に密会する、高額のプレゼントを贈る等の事情があり、交際の内容や程度が度を超えていると評価される場合であれば、慰謝料が認められる可能性があります。
一方、日中にデートをしたり、LINE等で日常会話をするだけの関係の場合は、慰謝料請求は難しいと考えられます。
肉体関係とはどこから?法的な判断
肉体関係があったと法的に判断される場合
肉体関係があったと法的に判断される場合は、次のような事実が認められる場合です。
性交渉又は性交類似行為は、肉体関係を持つこととイコールです。
一方、ラブホテルで過ごすなどの行為は、それ自体は肉体関係を持つ行為ではありません。
しかし、このような行為があれば、性交渉又は性交類似行為もあるのが普通と考えることができます。
そのため、ラブホテルで過ごすなどの行為が認められる場合は、肉体関係もあったと判断されることがほとんどです。
LINEなどのSNSでのやりとりだけでも不貞行為になる?
LINEなどのSNSでやりとりすること自体は、不貞行為には当たりません。
「愛してる」「大好き」など、親密な関係を示す表現が含まれている場合であっても、それだけでは不貞行為にはなりません。
もっとも、SNSでのやりとりの内容から、肉体関係を持ったことが伺われる場合は、不貞行為が認められる可能性があります。
例えば、性交渉の感想を述べ合うメッセージのやり取りがあるような場合は、文面自体から性交渉があったことを推認することができます。
このような場合は、SNSでのやりとりだけでも不貞行為が認められる可能性があります。
キスやハグ、密会だけでも不貞行為になる?
キスやハグ、密会だけでは不貞行為にはなりません。
キスやハグは身体的な接触を伴うものではありますが、肉体関係は伴わないため、不貞行為には当たりません。
しかし、これらが行われた状況次第では、その前後に肉体関係を持ったであろうことが伺われる場合もあります。
例えば、裸や下着姿でキスやハグをしていた場合(その現場の写真等がある場合)は、その前後で性交渉等が行われたことを推認することができます。
このような場合は、キスやハグの事実だけでも不貞行為が認められる可能性があります。
実際のところ、多くのケースでは、SNSでのやりとりやキス等だけでは不貞行為は認められません。
SNSでのやりとりやキス等だけで不貞行為が認められるのは、上記のような事情がある場合に限られる傾向にあります。
もっとも、不貞行為が認められない場合でも、SNSでのやりとりの内容、キス等の態様・頻度、夫婦関係に及ぼした影響等によっては、それらの行為自体が「不法行為」に当たると判断される可能性はあります。
不貞行為に当たると判断された場合は、不貞行為が認められなくても慰謝料請求をすることができます。
肉体関係がなくても慰謝料請求できるケース
肉体関係がなくても慰謝料請求できた裁判例
肉体関係がなくても、不法行為が成立するとして慰謝料請求が認められた実際の裁判例はいくつかあります。
ここでは、肉体関係がなくても慰謝料請求が認められた裁判例の一部を紹介します。
大阪地裁平成26年3月~プラトニック不倫判決~
平成26年3月、大阪地方裁判所で、妻が、夫の交際女性に対し、不貞慰謝料請求を行った事案において、交際女性と夫との間に肉体関係があったとまでは認められないとしつつも、慰謝料44万円の支払を命じる判決が出されました。
この判決は、肉体関係なしでも慰謝料が認められたケースとして、プラトニック不倫判決とニュースでも大きく取り上げられました。
この事案では、夫が同僚の女性に何度も肉体関係を迫りながらも、女性は巧みにかわして一線を越えませんでした。
例えば、夫がキスをしようとしたり、肉体関係を迫ると、その女性は「奥さんがいる人とはそういう対象として見れない」と言って抵抗していたことから、肉体関係の可能性を否定しました。
しかし、その女性は夫のアプローチをはっきりとは拒絶せずに、逢瀬を重ねて2人の時間を過ごしたことから、裁判所は慰謝料の請求を一部認めました。
東京地裁平成24年11月28日判決
過激な内容のメールのやり取りについて、肉体関係の可能性は否定されたものの、結婚生活の平穏を害するとして慰謝料30万円が認められました。
東京地裁平成28年9月16日判決
1年半近くにわたる交際継続と、キス、ハグ、服の上から身体を触るなどの行為について、肉体関係は否定されたものの、交際の態様が「社会通念上許容されている限度を逸脱してい」るとして、慰謝料50万円が認められました。
肉体関係なしでの不貞慰謝料の相場
肉体関係がない場合の慰謝料の相場は、10万円~100万円程度と考えられます。
慰謝料の金額は、夫婦関係に及ぼした影響(離婚に至ったか等)や交際の内容(態様・期間等)などの様々な事情が考慮されたうえで決められます。
肉体関係がない場合は、肉体関係がある場合に比べると、夫婦関係に及ぼす影響が比較的小さく、交際の内容も比較的軽微なものと評価されることが多いです。
そのため、肉体関係がない場合の慰謝料は、肉体関係がある場合(相場感としては50万円~300万円)よりも低額になる傾向にあります。
肉体関係がない場合は証拠集めがポイント
慰謝料請求にあたっては、まずは不貞行為(肉体関係)の証拠を押さえることがポイントとなります。
しかし、実際に肉体関係がない場合や、(肉体関係が疑われるものの)肉体関係を裏付ける証拠を押さえることができない場合もあります。
このような場合は、交際の内容・態様や、夫婦関係に与えた影響等を示す証拠を集めることがポイントとなります。
肉体関係を立証することができなくても、交際の内容・態様や夫婦関係に与えた影響を立証することができれば、状況次第では「不法行為」が成立し、慰謝料が認められる可能性があります。
不貞行為の証拠となるもの
まずは、不貞行為の証拠を押さえることが重要です。
不貞行為の証拠となるものには、次のようなものがあります。
証拠 | 内容 |
---|---|
写真、動画、録音データなど | 性交等の現場や前後の状況(2人でラブホテルに出入りする場面等)を押さえたもの |
メール、LINE等のSNSのやりとり | 肉体関係をうかがわせる表現(「昨日のホテルまた行きたい」「気持ちよかった」など) |
レシート、領収書、クレジットカードの利用明細など | 利用したホテル、駐車場などの利用状況を示すもの |
不貞行為を認める録音データ・念書など | 配偶者が交際相手と肉体関係を持ったことなどを自供したことがわかるもの |
調査会社(興信所)の調査報告書など | 2人でラブホテル等に出入りする場面の写真等が含まれているもの |
必要な証拠や収集方法は事案により異なりますので、詳しくは離婚問題に強い弁護士にご相談ください。
肉体関係の証拠なしでも慰謝料請求できる?
肉体関係の証拠がない場合でも、相当親密な交際関係にあったことや、交際によって夫婦関係が破壊されたことを証明することができれば、慰謝料請求できる可能性があります。
そのため、交際の内容・態様や、夫婦関係に与えた影響を示す証拠を集めることがポイントとなります。
証拠の一例としては、次のようなものが考えられます。
証拠 | 内容 |
---|---|
LINE等のSNSのやりとり | 特に、「愛してる」「大好き」等の愛情表現や、デートの打ち合わせ等が含まれた部分 |
写真・動画・録音データなど | キス、ハグ、密会等の現場を押さえたもの |
レシート、領収書、クレジットカードの利用明細など | 飲食店等の利用状況やプレゼントの購入状況等を示すもの |
上記のような証拠は、一つだけではなく、いくつも積み重ねることによって初めて交際の内容等を明らかにすることができる場合が多いです。
そのため、できる限り多くの証拠を集めるようにしましょう。
具体的な収集方法などについて、詳しくは離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。
肉体関係なしでの慰謝料請求で困った場合の対処法
話し合いでの解決を目指す
肉体関係がない(立証できない)場合、裁判で慰謝料を認めてもらうためのハードルは高くなります。
そのため、できる限り裁判は避け、話し合いでの解決を目指すとよいでしょう。
もっとも、話し合いで解決をするためには、請求額や交渉方法などを慎重に検討する必要があります。
そのため、自己判断で進めるのは避け、離婚問題に詳しい弁護士に相談し、具体的な状況を踏まえたアドバイスを受けながら進めることをおすすめします。
離婚問題に強い弁護士に相談する
慰謝料請求でお困りの場合は、離婚問題に強い弁護士にご相談ください。
離婚問題に詳しい弁護士であれば、手元の証拠の状況から、裁判で慰謝料が認められるかどうか見通しを立てることができます。
それを踏まえ、適切な解決方法や妥当な請求額を提案してくれます。
また、弁護士は、あなたの代理人として相手と直接交渉を行ってくれます。
裁判では慰謝料の獲得が難しい見通しであっても、弁護士が相手と交渉し、説得することで、慰謝料が獲得できる場合もあります。
まとめ
以上、肉体関係がない場合の慰謝料請求について、請求できるケース、慰謝料の相場、請求のポイント、対処法などを解説しましたが、いかがだったでしょうか。
肉体関係がない事案であっても、状況によっては慰謝料が認められる可能性があります。
どのような場合に慰謝料が発生するか、またその額については専門的な判断が必要となります。
また、どのような証拠があれば、不貞行為と認められるかについても、慎重に判断すべきです。
そのため、まずは離婚問題に強い弁護士に相談し、具体的なアドバイスを受けることをおすすめいたします。
当事務所では、離婚問題に注力した弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、離婚に関する様々な情報やノウハウを共有しており、離婚問題に苦しむ方々を強力にサポートしています。
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