慰謝料は自己破産によって免責される?
自己破産をすると、原則として慰謝料の支払義務は免責されます。
負債の支払い義務が免除されることを「免責」といいます。
また、未履行の財産分与の支払義務も免責されます。
ただし、養育費の支払い義務は自己破産後も消滅しません。
このページでは、自己破産した場合の免責について、慰謝料請求をする場合の留意点も含めて弁護士が詳しく解説します。
離婚と自己破産
破産とは、借金の支払義務を免除してもらう手続のことです。
破産手続は、多額の借金を抱えた人の自宅をはじめとする全財産を、債権者に公平に分配し、破産者の借金をゼロにすることで、人生のやり直しの機会を与えるという、国が法律で認めた救済方法です。
破産の詳しい内容については、以下のページをご覧下さい。
破産のポイントとしては、①自宅をはじめとする財産が、原則として換価・処分されてしまうという点と、②破産者の借金がゼロになるという点です。
離婚と破産の双方を考えている場合には、以上の点に気をつけて、手続を進めていく必要があります。
自己破産によって免責されない債務とは?
上述のとおり、破産をすると、原則として、借金がゼロになります。
もっとも、破産法上、破産をした場合にも免責されない例外的な債務が列挙されています。(非免責債務 破産法253条1項)
① 租税等の請求権
② 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
③ 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
④ 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
⑤~⑦ 省略
上記債務に該当しない場合には、破産によって免責されてしまいます。
そして、養育費の支払義務は、上記④ハに該当するため、免責されません。
しかし、慰謝料請求や財産分与請求権は、原則として、上記のいずれにも該当しないため、破産によって免責されることになります。
もっとも、慰謝料請求権についても、配偶者に精神的苦痛を与える目的で不貞行為に及び、配偶者を害する積極的な意欲(害意)があると認められるようなケースでは、上記②に該当し、免責されない場合もあります。
自己破産と慰謝料請求の具体的な留意点
具体的な留意点については、離婚前に破産する場合と離婚後に破産する場合に分けてご説明します。
離婚前の破産(破産⇒離婚)の場合
上述したとおり、破産によって、慰謝料支払義務などが免責されるのであれば、破産と離婚を考えているような場合には、破産⇒離婚という順番にすることで、慰謝料請求が免責されないようにしたいと考えられる方もいます。
しかしながら、仮に、破産後に離婚する場合であっても、慰謝料請求権が免責されてしまう可能性はあります。
すでに慰謝料請求権の発生原因が生じている場合(すでに不貞行為が判明している場合)、慰謝料請求権はすでに生じていると考えられるため、破産手続においても、観念的には、「破産債権」として扱われます。
つまり、この場合、原則として、破産手続後に別途、慰謝料を請求できないと考えられます。
また、財産分与請求権についても、注意が必要です。
財産分与とは、離婚する際に、夫婦が結婚生活の中で協力して築き上げた財産(夫婦共有財産)を公平に分配することをいいますが、厳密には夫婦共有財産であったとしても、破産によって処分されてしまう可能性があります。
破産手続においては、原則として、破産者名義の財産は全て換価・処分されてしまいます。
そのため、厳密には夫婦共有財産であっても、破産者名義の財産であれば、原則として換価・処分され、失ってしまう可能性があるのです。
例えば、破産者名義の預貯金や、破産者名義の不動産などが典型例として挙げられます。
離婚後の破産(離婚⇒破産)の場合
次に、離婚した後に破産する場合について、解説します。
まず、冒頭でも述べたとおり、慰謝料請求権や財産分与請求権は破産手続によって免責されてしまいます。
もっとも、免責の対象となるのは、あくまで「破産債権」ですので、慰謝料や財産分与として、すでに金銭の支払いをしている場合には、原則として、免責などは問題にはならないのです。
なお、破産する前に支払を受けていれば、全く問題がないということではありません。
財産分与について、判例は、財産分与が過大であれば過大な部分は詐害行為取消の対象になるとしています。
つまり、財産分与が破産手続等との関係で不当(詐害行為)であるとされれば、財産分与が取り消されてしまう可能性があるということです。
慰謝料請求についても同様な問題があります。
すなわち、慰謝料の支払義務者が近々破産することを知りつつ、慰謝料の支払を受けた場合には、偏頗行為とみなされ、支払った金銭を返還しなければならないという可能性があります。
したがって、離婚⇒破産をする場合であっても、今後の破産手続を踏まえ、合意等をする必要があるということになります。
離婚問題と破産問題が絡むような事案は、双方の問題を適切に解決するためには、事前の準備や十分な知識が必要です。
そのため、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?