交通事故の「慰謝料」と「示談金」はどう違う?弁護士が解説

監修者:弁護士 鈴木啓太 弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

交通事故の「慰謝料」は精神的な苦痛に対する賠償金であるのに対し、「示談金」は慰謝料を含めたすべての損害の賠償金という点で異なります。

交通事故に遭われた方は、加害者に対して何を請求できるのか、よくわからないというご状況です。

ここでは、交通事故の慰謝料と示談金の違いのほか、交通事故の被害者が加害者に対していくら請求できるのか、適正な慰謝料・示談金を受け取るポイントについて、わかりやすく解説しています。

交通事故でお困りの方は、参考になさってください。

交通事故の「慰謝料」と「示談金」の違いとは?

交通事故の慰謝料とは?

交通事故の「慰謝料」とは、交通事故の精神的な苦痛に対する損害賠償金のことをいいます。

損害賠償の対象となるのは、大きく分けて「財産的損害」と「精神的損害」の2つです。

「財産的損害」とは、交通事故によって被害者が被った財産的な不利益のことです。

例えば、破損した自動車にかかった修理費用や、病院に通院したことでかかった治療費など明確に金額が決まっているものが分かりやすいでしょう。

これに対して「精神的損害」とは、交通事故によって被害者が受けた精神的な苦痛のことです。

このような精神的な苦痛については、明確な金額が決まっているものではありませんので、金銭評価はケースバイケースで異なることになります。

したがって、交通事故で適切に慰謝料を受け取るためには、適切に事情や資料を提示していくことが重要になるのです。

慰謝料に関するさらに詳しい説明や、具体的な計算シミュレーションが知りたいという方は以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。

 

交通事故の示談金とは?

交通事故の示談金とは、慰謝料を含めたすべての損害に関して、話し合いにより合意した賠償金の総額をいいます。

なお、「示談」とは、交通事故トラブルについて、裁判を起こさずに、当事者同士の話し合いによって解決することを指します。

ここで、先ほどの損害賠償の対象の説明を思い出してください。

損害賠償の対象には、「財産的損害」と「精神的損害」の2つがあると説明しました。

示談金の中には、精神的損害を補償するために支払われる「慰謝料」が含まれています。

 

交通事故の示談金と賠償金の違いは?

それでは、交通事故の「示談金」と「賠償金」の違いはどこにあるのでしょうか。

前述のとおり、「示談金」とは、交通事故の当事者が話し合いで合意した金額のことです。

そして、「賠償金」とは、交通事故の加害者が被害者に加えた損害を補償するために支払わなければならない金銭のことです。

言い換えれば、「賠償金」は損害の費目ごとに計算して割り出した被害者に生じているトータルの損害額だといえます。

そしてこの賠償金をベースとして当事者間で話し合って決めた金額が「示談金」だと整理することができるでしょう。

それぞれの関係を具体的にはみてみると、

具体例

財産的損害が122万円、精神的損害(慰謝料)が53万円だった場合、賠償金全体としては175万円となります。

被害者と加害者が話し合って150万円での和解が成立した場合、示談金は150万円となります。

賠償金のイメージ

 

 

交通事故では適正な賠償金を受け取ることが重要

交通事故により被害者に生ずる損害には、財産的な損害のみならず精神的な損害もあります。

そのため、自動車の修理費や休業損害のみを受け取ったとしても、十分な被害回復が図れたとはいえません。

精神的な損害である慰謝料についても適切に算定し加害者側に支払ってもらう必要があるのです。

あくまで慰謝料は賠償金のひとつの損害項目に過ぎませんので、交通事故で適正な賠償金を受け取るためには、どのような損害項目について、いくらの損害が発生しているのかを正しく把握して算定する必要があります。

 

 

交通事故の賠償金の適正額とは?スマホで簡単に計算!

ここまでの説明で、加害者と話し合って示談するにしても、まずは適正な賠償金額を計算することが重要である、ということがお分かりいただけたと思います。

それでは、交通事故の賠償金の適正額をどのように計算すればよいのでしょうか。

スマホで簡単に賠償金の概算額を素早く知りたいという方は、以下の自動計算機を利用することをおすすめします。

この自動計算機を利用すれば、過失割合を反映したうえで、慰謝料、休業損害、逸失利益などの損害費目も簡単に計算することができます。

なお、自動計算機は損害のすべてを網羅しているわけではありません。

例えば、治療費や通院交通費、葬儀費などについても請求できるケースがあります。

また、ご自身の事案での例外的な事情や個別事情については計算機では考慮することができません。

したがって、詳細な計算方法や正確な賠償金額を知りたいという場合には、交通事故を専門的に取り扱っている弁護士に相談されることをおすすめします。

 

 

交通事故の損害項目と計算方法

交通事故の賠償金を構成する費目にはさまざまな種類があります。

交通事故の賠償金を構成する費目

交通事故のこれらの損害項目について、以下でわかりやすく解説していきます。

精神的損害(慰謝料)

前述のとおり、慰謝料とは、交通事故によって被害者が受けた精神的な苦痛を補償するために支払われる賠償金です。

慰謝料については交通事故の内容に応じて、「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」、「後遺傷害慰謝料」、「死亡慰謝料」の3種類に分けることができます。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)

「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」とは、交通事故による怪我が原因で入院通院せざるを得なくなったことで生じた精神的な苦痛を補償するために支払われる慰謝料のことをいいます。

入院慰謝料(傷害慰謝料)の具体的な金額については、症状固定までの通院・入院期間・通院日数をもとに算定されることになります。

 

後遺障害慰謝料

「後遺障害慰謝料」とは、後遺障害が残ったことによって被害者に生じる精神的な苦痛を補償するために支払われる慰謝料のことをいいます。

後遺障害慰謝料は、等級に応じて慰謝料金額の目安が決まっています。

 

死亡慰謝料

「死亡慰謝料」とは、交通事故の被害者が死亡したことによって被害者に生じる精神的な苦痛に対して支払われる慰謝料です。

死亡慰謝料については、被害者が死亡すると同時に遺族に相続されることになるため、被害者の遺族に対して支払われることになります。

これら慰謝料の計算式や算定基準については、以下の記事でより詳しく解説されていますので、参考にしてください。

 

積極損害

財産的損害のうちの「積極損害」とは、交通事故によって被害者が実際にお金を支払うことによって減少した財産のことです。

積極財産に含まれるものは、交通事故との間に因果関係がある出費に限定されています。具体的には以下のような支出については積極損害と認められる可能性があります。

項目 内容
治療関係費 入通院による治療費、接骨院での施術・鍼灸、マッサージ治療及び治療器具費などが含まれます。
付添費用 交通事故による入院・通院によって付添いが必要になった場合の入院・通院付添費
将来介護費用 交通事故により重い障害が残り、将来にわたって必要となる介護費用
通院交通費・宿泊費 公共交通機関での通院交通費や治療・看護のための宿泊費
学生・生徒の学習費用 交通事故の影響で進級・卒業が伸びてしまったことで余分にかかった学習費用
家屋・自動車改造費 交通事故で障害が残り、日常生活を送るために自宅や自家用車をバリアフリー化するのにかかった費用
葬祭関係費 被害者が死亡した場合に必要となった葬祭費用、墓碑建設費、仏壇購入費用など
弁護士費用 訴訟提起した場合にかかった弁護士費用
遅延損害金 事故発生から賠償金の支払いが完了するまでの間、支払いを遅延したことによる損害金

 

 

消極損害

財産的損害のうちの「消極損害」とは、交通事故の被害者が本来であれば得られたはずなのに、交通事故があったせいで得られなかった財産的な損害のことをいいます。

消極損害には、「休業損害」、「後遺症逸失利益」、「死亡逸失利益」があります。

休業損害

「休業損害」とは、交通事故が原因で働けなかったことで、本来であれば得られたはずの給与や収入を損害とするものです。

休業損害については、以下の計算式で計算されます。

計算式 休業損害 = 1日あたりの賃金 × 休業日数(仕事を休んだ日数)

会社員の場合には、交通事故の直近3カ月の給料の総額を、交通事故直近の3カ月の稼働日数で割ることで1日当たりの賃金を算出することができます。

 

後遺症逸失利益

「後遺症逸失利益」とは、交通事故に遭ったことで後遺症が残った結果、労働能力が喪失・減退したことで将来にわたり得られるはずであった収入を損害とするものです。

後遺症逸失利益については、以下のような計算式で算出されることになります。

計算式 ①基礎収入 × ②労働能力喪失率 × ③労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

「①基礎収入」については、年収額のことを指します。会社員であれば源泉徴収票の「支払金額」(税金控除前の金額)で確認することができます。

「②労働能力喪失率」は、後遺障害等級に応じて決まっています。

被害者は逸失利益を一括で加害者に請求することになりますが、本来受け取れるはずの収入に該当する金額が前倒しで支払われているため、本来の収入発生までの期間における利息分が加算されています。

このような増加分(中間利息)を逸失利益から控除するために用いられるのが「③ライプニッツ係数」です。

 

死亡逸失利益

「死亡逸失利益」とは、交通事故によって被害者が死亡したことで将来にあたって得られなくなった収入を損害とするものです。

被害者が亡くなってしまったことで、その後の一切の収入を得られる労働能力が喪失させられているため、その分を加害者に請求していくことになります。

死亡逸失利益については、以下の計算式で算出されます。

計算式 ①基礎収入額 ×(1ー②生活費控除率) × ③就労可能年数に対応するライプニッツ係数

①基礎収入額と③ライプニッツ係数については、前述のとおりです。

他方、被害者の方が亡くなった場合には、生存していれば生じたであろう生活費が発生しなくなります。

そのため、逸失利益の算定にあたって、この生活費を控除するために利用されるのが②生活費控除率です。

 

 

交通事故で適正な慰謝料・示談金を受け取るポイント

交通事故で適正な慰謝料・示談金を受け取るポイント

①「弁護士基準」で慰謝料を算定する

交通事故で増額できる可能性が高い費目は慰謝料です。

治療費や自動車修理費用などの実費については実際に支出した以上の金銭を請求することはできません。

しかし、慰謝料についてはどのような算定の基準が採用されるかで大きく金額が変わる可能性があるのです。

交通事故の慰謝料の算定基準については、以下の3つの基準があります。

慰謝料の基準 概要
①自賠責保険基準 自賠保険で算定する基準
②任意保険基準 任意保険会社が内部で設定している基準
③弁護士基準 過去の裁判例を基に弁護士会が公表している基準

「①自賠責保険」とは、交通事故の被害者に対する必要最低限の給付ができるようにしている保険です。

そのため自賠責保険基準は、上記3つの慰謝料算定基準の中のもっとも低額な基準となっています。

したがって、自賠責保険基準で算出された慰謝料金額は、法的に被害者に認められている請求権と比べるとかなり低額に抑えられています。

次に「②任保険基準」とは、任意保険会社が慰謝料を算出するために会社独自に設定している基準のことです。

被害者がご自身で対応する場合には、この保険会社の基準に従って和解交渉することが一般的です。

ただし、任意保険基準は自賠責保険基準より少し高く設定されているものの、以下の弁護士基準と比較するとまだまだ低額な基準にとどまります。

最後の「③弁護士基準」とは、弁護士会が過去の裁判例を参考に公表している基準です。

弁護士基準は弁護士に和解交渉を依頼したり、損害賠償請求訴訟を提起したりした際に適用される基準で、上記3つの基準の中でもっとも相場が高い基準になります。

なぜなら弁護士基準は、訴訟にまで発展した交通事故事件について、被害者と加害者が互いに主張・立証を尽くしたうえで裁判所が正当な慰謝料を認定した過去の裁判例を参考にして作成されているからです。

したがって、上記3つの基準のうちもっとも被害者の損害について厳格に判断されたものであるということができます。

 

②交通事故に強い弁護士に相談する

ここまでで、弁護士基準により算定することが被害者にとって、もっともメリットが大きくなる可能性があることがわかりました。

しかし、被害者個人が保険会社に弁護士基準の賠償額を請求したとしても保険会社は通常応じてはくれません。

保険会社は被害者に支払う保険料を低額に抑えるほど自社の利益となります。

そのため基本的には保険会社は弁護士基準を下回る金額での和解案を提案してきます。

被害者個人が手続きをしている限り、提案額を弁護士基準にまで上げることはできないでしょう。

そこで、交通事故に強い弁護士に相談して、対応を依頼するようにしてください。

依頼を受けた弁護士は、弁護士基準を用いて交渉しますので、裁判手続きを経ない交渉であっても獲得できる慰謝料の金額が増額する可能性があります。

保険会社も、被害者個人と交渉していた段階では、ただ増額を拒否しておけばよかったのですが、弁護士が就任すると交渉態度が軟化するケースも多々あります。

なぜなら交渉を拒否し続けていると弁護士基準で訴訟が提起されるリスクがあるからです。

交通事故に強い弁護士に依頼すべきメリットについては、次の記事で詳しく解説していますので、もっと知りたいという方は参考にしてみてください。

 

③適切な後遺障害等級の認定を受ける

後遺障害慰謝料の金額については、後遺障害等級に応じて決定します。

後遺障害等級とは、後遺症の部位や程度によって、1級から14級までの等級と、140種類・35系列の後遺障害に細かく分けられています。

1級がもっとも重く、14級がもっとも軽い後遺障害となります。

交通事故による後遺症の内容や程度は被害者によって異なりますが、後遺障害等級を定めるにあたって1人ずつ個別に算出していくことは困難です。

そこで労災保険の障害認定の基準を適用して、あらかじめ設定されている基準に照らし合わせて被害者がどの等級にあたるのかを審査・決定するという方法がとられています。

例えばむちうちのケースで、後遺障害等級は12級または14級と認定される可能性がありますが、弁護士基準での後遺障害慰謝料は「12級で290万円」、「14級で110万円」と大きなく異なることが分かります。

慰謝料や逸失利益については認定された後遺障害等級に応じて算定されることになりますので、適切な等級認定がなされることは被害者の被害回復にとって非常に重要であるといえます。

 

④「被害者請求」によって後遺障害申請をする

後遺障害の認定申請には、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。

「事前認定」とは、後遺障害の認定申請を加害者が加入している任意保険会社を通じて行う方法です。

これに対して「被害者請求」とは、被害者自らが後遺障害認定の申請手続きを行うことです。

適切な後遺障害等級認定を受けたい場合には、「被害者請求」を利用すべきでしょう。

この場合、提出書類を全て被害者側で準備することになるため、手続きを確認しながら必要に応じて追加書類を添付するなど柔軟に対応することが可能になります。

 

 

⑤適切な過失割合で計算する

過失割合とは、交通事故の当事者双方にどれくらい責任(不注意)があるかを数値で表した割合です。

交通事故によって生じた損害は、双方が自身の過失割合に応じて分担すべきであると考えられているため、被害者側の過失割合が大きくなると受け取れる賠償額が減っていしまう可能性があります。

そこで、適切な過失割合を主張することで、被害者側の過失割合を減らすことができれば、賠償額・示談金が増額する可能性があるのです。

具体的に過失割合については、参考にする事故の類型や、過失割合に反映させる修正要素を正確に把握する必要があります。

加害者に有利な事故類型が参考とされていたり、加害者にとって都合の悪い修正要素(速度違反、信号無視など)が反映されていないおそれがあります。

 

 

交通事故の慰謝料・示談金のQ&A

示談金は誰が決めるのですか?

示談金は当事者の話し合いで決定することになります。
被害者が納得せず合意しなければ、示談金は決定しません。

当事者が自由に決められるイメージのある示談金ですが、実際に加害者側の保険会社や弁護士はそれぞれ一定の基準に基づいて交渉しています。

適切な金額で示談したいと思う場合には、交通事故に強い弁護士に依頼するのがおすすめです。

 

10対0事故でむちうちになったらいくらもらえる?

1カ月通院した場合の示談金の相場は弁護士基準で19万円。
6カ月通院した場合の示談金の相場は弁護士基準で89万円となります。

10対0事故でむちうち【通院期間1カ月のケース】

示談金の相場は以下のようになります。

慰謝料算定基準 示談金の金額
自賠責保険基準 6万8800円
弁護士基準 19万円

※自賠責保険基準の金額は、週2回程度、合計8回通院したことを前提にしてます。

 

10対0事故でむちうち【通院期間6カ月のケース】

示談金の相場は以下のようになります。

慰謝料算定基準 示談金の金額
自賠責保険基準 41万2800円
弁護士基準 89万円

※自賠責保険の金額は、週2回程度、合計48回通院したことを前提としています。

同じ事案でも、弁護士基準により算定した慰謝料の金額が大きくなることがお分かりいただけると思います。

休業損害や通院交通費に加え、後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益が加算されて受け取れることになります。

以下の記事では、10対0事故でむちうちになったケースの示談金の相場について、より詳しく解説していますので、参考にしてください。

 

まとめ

以上、交通事故の慰謝料と示談金について詳しく解説してきました。

慰謝料の総額は、被害者が最終的に受け取れる示談金全体に大きな影響を与えることになりますので、適切に算定し請求していく必要があります。

弁護士基準での算定や、後遺障害の申請手続きなどは普段から交通事故を専門的に取り扱っている弁護士でなければ、スムーズな対応が難しい場合もあります。

ご自身で保険会社と交渉するのが不安な方や、適切な示談金を受け取れないのではないかと心配されている方は、一度交通事故トラブルの解決実績が豊富な弁護士にご相談されることをおすすめします。

当事務所には、交通事故に注力する弁護士のみで構成される交通事故チームがあり、被害者の方々を強力にサポートしています。

LINEなどによるオンライン相談を行っており、全国対応していますので、お気軽にご相談ください。

 

 

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