恥骨骨折とは?日常生活への影響について解説

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


恥骨骨折(ちこつこっせつ)とは、骨盤(こつばん)の一部である恥骨(ちこつ)という骨が、外部からの強い力などによって折れてしまうことをいいます。

恥骨骨折は、交通事故や労災事故で起こりうるもので、いわゆる後遺症(後遺障害)もあり得るケガの名前です。

本記事では、交通事故などの人のケガに関わる案件を日常的に扱っている弁護士が、恥骨骨折の内容や後遺症について解説しております。

恥骨骨折でお困りの方はぜひご覧ください。

恥骨骨折とは

恥骨骨折(ちこつこっせつ)とは、骨盤の一部である恥骨という骨が、外部からの強い力などによって折れてしまうことをいいます。

骨盤付近にはいくつか骨があり、主に仙骨(せんこつ)、尾骨(びこつ)、寛骨(かんこつ)という3つの骨から構成されています。

その中の寛骨も3つの骨から構成されていて、その3つとは、腸骨(ちょうこつ)、坐骨(ざこつ)、そして恥骨(ちこつ)です。

恥骨は、骨盤の前の方に位置しています。

恥骨の場所については、下記のイラストをご参照ください。

骨盤の骨の種類

恥骨骨折は、レントゲンでははっきりと骨折していることがわからないこともあり、MRIやCT(特にCTが有用)で判明することも多いです。

 

 

恥骨が折れるとどうなる?

恥骨骨折の症状とは?

恥骨骨折のケガをしてしまうと、恥骨付近に痛みが生じます

骨折の仕方によっては、骨が変形してしまうことがあります。

また、骨折がひどい場合は、膀胱(ぼうこう)にも影響を与え、排尿がうまくできないなどの症状もあり得ます。

 

恥骨骨折で安静にしないといけない期間

安静にしないといけない期間は、骨折具合等にもよりますが、2週間前後が一つの目安になるかと思います。

ケースバイケースなところではあるので、詳しくは主治医に確認されるのがベストです。

 

恥骨骨折の禁忌

恥骨骨折の禁忌(きんき=やってはいけないこと)は、骨盤付近を無理に動かしたり刺激しないことです。

特に安静期間には、仕事等で骨盤付近に負担をかけるようなことは避けるようにしましょう。

 

恥骨骨折と自宅療養

恥骨骨折は、手術をせず保存治療が選択されることもあります。

保存治療が主体の場合、基本的には入院はせず、自宅で療養していくことになります。

 

恥骨骨折すると歩ける?

恥骨骨折をしても、症状が軽い場合は基本的に歩くことができます

 

恥骨骨折のリハビリの期間

リハビリ期間については、骨折具合等にもよりますが、1〜2ヶ月が一つの目安になるかと思います。

 

恥骨骨折はどれくらいで治る?

恥骨骨折がどれくらいで治るかは、骨折具合や個人差で変わりますが、概ね2〜6ヶ月程と考えられます。

 

 

恥骨骨折の原因

恥骨骨折の原因としては、以下のような状況が考えられます。

恥骨骨折の原因の例
  • バイクから転倒し地面に骨盤を強打した(交通事故)
  • 歩行中に正面から車が衝突してきて、骨盤と車体が強く接触した(交通事故)
  • 高いところから落ちて地面に骨盤を強打した(労災事故)
  • 作業中に機械が骨盤に強く当たった(労災事故)

交通事故や労災事故で骨盤を強打し、痛みが続く場合は、恥骨骨折等を疑った方が良いでしょう。

 

 

恥骨骨折の場合に可能性のある後遺障害等級と注意点

骨が変形してしまった場合〜変形障害〜

恥骨骨折により、骨盤の骨が変形してしまった場合、以下のような後遺障害等級があり得ます。

等級 後遺障害の基準
12級5号 骨盤骨に著しい変形を残すもの

骨盤骨に著しい変形を残すものとは、裸になった状態で明らかに変形がわかる状態のことをいいます。

注意点

裸になった状態で明らかに変形がわかる状態が12級5号の要件なので、レントゲン等でなければ変形がわからないような事案では、認定は難しいでしょう。

なお、裸になった状態で明らかに変形がわかる状態を立証するためには、負傷部位の裸体写真を撮影して自賠責保険に提出することが有効です。

 

痛みが残ってしまった場合〜神経症状〜

骨盤付近に痛みが残ってしまった場合、以下のような後遺障害等級があり得ます。

等級 後遺障害の基準
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

 

12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの

「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは、痛みやしびれが残っていることが医学的に「証明」可能と言える場合のことを指します。

医学的に証明可能とは、具体的には、痛みやしびれの存在が画像所見(レントゲン、MRI、CT)により裏付けられている場合をいいます。

 

14級9号 局部に神経症状を残すもの

「局部に神経症状を残すもの」とは、痛みやしびれが残っていることが医学的に「説明」可能と言える場合のことを指します。

医学的に説明が可能とは、画像所見はないものの、痛みやしびれなどが残り、それが治療経過、症状の一貫性・連続性などから医学的に一応説明できる場合のことをいいます。

注意点

恥骨骨折は、レントゲンだけでは発見しにくいものになっていますので、病院ではMRIやCT画像(どちらかというとCTが有用)を撮ってもらうようにしてください。

また、骨がしっかりくっついて治った場合は、12級13号の認定は厳しく、14級9号が認定されるかどうかの問題となってきます。

 

股関節(こかんせつ)が動かしにくくなってしまった場合〜機能障害(股関節の可動域制限)〜

恥骨骨折によって、股関節が事故前よりも動かしにくくなることがあります。

このように、以前よりも動かせる幅が狭くなってしまう障害を股関節の機能障害(股関節の可動域制限)といいます。

股関節の可動域制限があった場合、以下のような後遺障害等級があり得ます。

等級 後遺障害の基準
8級7号 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
10級11号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級7号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

※3大関節とは、股関節、ひざ関節、足関節のことをいいます。

 

8級7号 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

「関節の用を廃したもの」とは、次の①〜③のいずれかに該当するものをいいます。

  1. ① 関節が強直したもの
  2. ② 関節の完全弛緩性麻痺(かんぜんしかんせいまひ)またはこれに近い状態にあるもの
  3. ③ 人工関節、人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

 

10級11号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、次の①〜②のいずれかに該当するものをいいます。

  1. ① 関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
  2. ② 人工関節・人工骨頭をそう置換した関節のうち、8級7号以外のもの

 

12級7号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

「関節の機能に障害を残すもの」とは、関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの

注意点

可動域制限は、患側(かんそく=異常のある側)と健側(けんそく=問題のない側)との比較で判断されます。

そのため、後遺障害診断書では、必ず患側だけでなく健側の可動域も記載してもらうようにしましょう。

 

足が短くなる〜下肢の短縮障害〜

恥骨骨折等によって、最終的に骨盤がゆがんで足が短くなってしまうことがあります。

短くなっているかどうかは、左右の足の長さを比較して(患側と健側を比較して)、以下の違いがあれば後遺障害等級が認定されます。

等級 後遺障害の基準
8級5号 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
10級8号 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
13級8号 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
注意点

下肢が短縮しているかどうかは、上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)と下腿内果下端(かたいないかかたん)の間の長さを左右で比較して判断します。

上前腸骨棘は、腰付近のでっぱりの骨です。

下腿内果下端は、くるぶし付近のことです。

上前腸骨棘と下腿内果下端

計測方法を間違えていないか心配な方は、専門家(弁護士)に確認してもらったほうが良いです。

 

正常分娩困難

恥骨骨折等が原因で、女性の産道が狭くなり、正常な分娩が困難になった場合は以下の後遺障害等級があり得ます。

等級 後遺障害の基準
11級10号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
注意点
産道が狭くなっているかどうかは、整形外科だけでなく産婦人科でもチェックしてもらった方が判明しやすいです。

 

 

恥骨骨折の慰謝料などの賠償金

恥骨骨折のケガをすると、様々な損害が生じる可能性があります。

以下は、代表的な損害(賠償金)の例です。

治療費関係

恥骨骨折を治すためにかかってしまう治療費関係は、原則的に加害者側に請求できます

補償される治療費関係の例としては、手術代、入院費用、リハビリ代、レントゲンやCT等の画像撮影代、薬代などです。

治療費関係は、基本的に症状固定時までが加害者側負担となります。

症状固定について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

通院交通費

病院への通院のための交通費も加害者側に請求できます。

通院交通費は、車通院の場合、1キロメートルあたり15円で計算されます。

公共交通機関を利用した場合は、実際に負担した額を請求できます。

タクシー代は症状次第で認められますが、裁判所では厳しく判断される可能性があるため、タクシーを利用するかどうかは慎重に判断すべきでしょう。

 

休業損害

恥骨骨折のケガをして仕事を休んだ場合、休業損害を請求できる可能性があります。

休業損害は、基本的に減収があった場合にのみ請求できます。

したがって、会社員の場合で仕事を休んでも会社の温情などで給料が下げられなかった場合、休業損害は請求できません(ただし、有給休暇を使用した場合は例外的に休業損害を請求できます)。

なお、主婦の場合でも、事故によって家事に影響を与えた場合は、女性の平均賃金を基礎収入として休業損害を請求できる可能性があります

休業損害について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

入通院慰謝料

恥骨骨折で入院や通院をした場合、入通院慰謝料(傷害慰謝料ともいいます)を請求できます。

入通院慰謝料とは、入院や通院を要したことで被害者に生じた精神的苦痛に対する金銭的な補償のことです。

入通院慰謝料は、最も金額が高くなる裁判基準の場合、入院や通院の期間に応じて目安が決められています

入通院慰謝料の裁判基準は、軽傷用の基準と重傷用の基準に分かれています。

恥骨骨折の場合は、以下の重傷用の基準を用いて計算をします。

入通院慰謝料について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまった場合に発生する慰謝料のことです。

後遺障害慰謝料は、認定される後遺障害等級によって相場が決まっています

恥骨骨折の場合の認定される可能性のある後遺障害等級ごとの後遺障害慰謝料(裁判基準)は、以下のとおりです。

変形障害の後遺障害等級
後遺障害等級 裁判基準の相場
12級5号 290万円

 

神経症状の後遺障害等級
後遺障害等級 裁判基準の相場
12級13号 290万円
14級9号 110万円

 

機能障害の後遺障害等級
後遺障害等級 裁判基準の相場
8級7号 830万円
10級11号 550万円
12級7号 290万円

 

下肢の短縮障害の後遺障害等級
後遺障害等級 裁判基準の相場
8級5号 830万円
10級8号 550万円
13級8号 180万円

 

正常分娩困難の後遺障害等級
後遺障害等級 裁判基準の相場
11級10号 420万円

後遺障害慰謝料について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残った場合の将来の収入減少に対する補償のことをいいます。

後遺障害逸失利益の計算方式は、以下のとおりです。

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

後遺障害逸失利益について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

自動計算機のご紹介

上記でご紹介した損害等について、手っ取り早く計算できるツールがあります。

各項目を少し入力するだけで、概算の損害を自動で計算してくれます。

どのくらいの賠償金になりそうかすぐに知りたい方は、ぜひご活用ください。

 

 

恥骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

恥骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

適切な治療を受ける

まずは、なんと言っても適切な治療を受けて、恥骨骨折を治すことを目指しましょう。

骨折の場合、整骨院等ではなく、病院に通うべきです

そして、病院の先生の指示に従って必要なリハビリ等を行っていくことが肝心です。

なお、保険会社は、一方的に治療費の打ち切りを言ってくることがあります。

もっとも、病院の医師がまだ治療が必要と言っている段階では、治療の打ち切りは行われるべきではありません

治療の必要性が肯定できる段階では、保険会社と治療の打ち切り交渉をしていくべきです。

治療の打ち切り交渉は、基本的に専門家の弁護士の力を借りた方が良い結果になることも多いです。

治療の打ち切りについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

後遺障害診断書を作成してもらう

恥骨骨折のケガをしてから、十分な治療を行ったにもかかわらず、何らかの後遺障害が残った場合は、加害者側の自賠責保険に対して、後遺障害の申請をすべきです。

後遺障害の申請に必須な書類として、「後遺障害診断書」というものがあります。

後遺障害診断書は、主治医に書いてもらうものになります。

後遺障害診断書は、後遺障害申請書類の中でも非常に重要性の高いものですから、被害者の訴えている自覚症状が書いていない場合や、誤記がある場合は、主治医に書き直してもらう方が無難です

後遺障害診断書について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

後遺障害申請はなるべく被害者請求で

後遺障害申請方法には、被害者側で申請する被害者請求と、保険会社が申請する事前認定の2種類があります。

被害者請求は、被害者が自分自身で提出書類を決めることができるため(事前認定の場合は保険会社が提出書類を決める)、後遺障害認定の確率を少しでも上げようと思ったら、後遺障害の申請方法は被害者請求を選択すべきです。

被害者請求は、弁護士が被害者の代理で行うことができるため、専門家である弁護士に任せた方がなお良いでしょう。

被害者請求について、詳しくはこちらをご覧ください。

事前認定について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

賠償金を裁判基準で算定する

賠償金の基準は、大きく分けて3つあります。

その3つとは、自賠責基準、任意保険会社基準、裁判基準です。

3つの基準の中で、最も金額が大きくなるのは裁判基準です。

そのため、賠償金は、全ての項目において基本的に裁判基準で計算すべきです。

なお、保険会社は、交渉段階において、弁護士が介入していないと裁判基準では認めてくれない傾向にあります

慰謝料の裁判基準等について、詳しくはこちらをご覧ください。

慰謝料の自賠責基準について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

交通事故や労災に詳しい弁護士に相談する

交通事故や労災に詳しい弁護士に相談して、今後の対応について適切なアドバイスを受けましょう。

弁護士に依頼すれば、交渉などの面倒なことを任せることができます。

特に、後遺障害については難解な知識が要求されますので、一度は弁護士にご相談されることをお勧めします

交通事故で弁護士に依頼するメリットなどについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

まとめ

上記で解説したとおり、恥骨骨折は複数の後遺障害が考えられ、認定される後遺障害等級によって賠償金が大きく異なります。

適切な賠償金を得るためには、後遺障害申請を慎重に行うべきであり、そのために専門家の知識が必要となってきます。

デイライト法律事務所には交通事故や労災等の事故関係の案件に注力する弁護士のみで構成される人身障害部があり、日々事故の被害者の方の味方となって活動しております。

法律相談についてはLINE等のオンライン相談に対応し、地域を問わずサポートさせていただいております。

恥骨骨折のケガをされた方は、まずはデイライト法律事務所にお気軽にご相談ください。

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