DNA鑑定で父親じゃなかった場合の対処法|養育費や慰謝料

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

近年、DNA鑑定の精度が非常に高まり、99.9%以上の確率で親子関係を判断できるとされています。

この鑑定結果により、DNA鑑定で父親じゃなかったことが判明した場合、通常は妻側に不貞行為があったことを意味します。

このような事実は、精神的にも法律的にも、あなたの人生に大きな影響を与える可能性があります。

夫としては、離婚や慰謝料(精神的苦痛に対する損害賠償)の請求を検討することになるでしょう。

また、生物学上の親子関係がないことが明らかであれば、法的手続きをとった上で、養育費の支払いを拒否するという選択肢もあります。

ただし、DNA鑑定で父子関係がないと明らかになったケースでも、法律上の親子関係が否定されたなかった裁判例もあるため注意が必要です。

このページでは、DNA鑑定で「父親じゃなかった」と判明した場に起こり得る離婚、慰謝料、養育費などの問題について、弁護士が詳しく解説します。

ぜひ参考になさってください。

DNA鑑定で父親じゃなかった場合の対処法

DNA鑑定の結果、お子さんがご自身の生物学上の子どもではないと判明した時、まず考えるべきは「法律上の親子関係をどうするか」という点です。

日本の法律では、夫婦の間に生まれた子どもは、原則として夫の子どもと推定されます。

これを「嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)」と呼びます。

もし、DNA鑑定の結果をもとに、法律上の親子関係を否定したいと考えるなら、主に次の2つの手続きがあります。

 

法的な父子関係をなくすための法的対処法

「嫡出否認の訴え」

父親としては、法律上の親子関係を覆すため、「嫡出否認の訴え」という手続きを利用することが考えられます。

しかし、「子の出生を知った時から3年以内に提起しなければならない」ため(民法777条)、現実には難しい場合が多いと思われます。

参考:民法|e-Gov法令検索

 

「親子関係不存在確認の訴え」

嫡出否認の訴えが提起できない場合は、「親子関係不存在確認の訴え」という手続きを行うことになります。

これは期間制限もないため、嫡出否認の訴えに比べると利用しやすい類型になります。

もっとも、過去の判例では、DNA鑑定で生物学上の父子関係が認められなかったにもかかわらず、法律上の親子関係の不存在を認めなかった例もあります(最高裁平成26年7月17日)。

参考:最高裁判所ウェブサイト|裁判例検索

したがって、生物学上の父子関係が認められない場合でも、養育費は支払わなければならない場合がありえるため、十分注意しておく必要があります。

 

 

DNA鑑定の結果で離婚できる?

DNA鑑定によって「父親じゃなかった」と判明した場合、あなたは離婚を検討することになるでしょう。

長年自分の子どもだと信じて育ててきたお子さんが、実は他人の子どもだったと知った時の精神的な衝撃は計り知れません。

妻への信頼が失われ、離婚を望む気持ちになるのは当然でしょう。

離婚について、民法は、次の5つの場合に限り、離婚を認めると規定しています(民法770条1項)。

参考:民法|e-Gov法令検索

この5つは「離婚原因」と呼ばれています。

離婚原因
  1. ① 相手方に不貞行為があったとき
  2. ② 相手方から悪意で遺棄されたとき
  3. ③ 相手方の生死が3年以上明らかでないとき
  4. ④ 相手方が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  5. ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な理由があるとき

では、DNA鑑定で父親じゃなかった場合は上記のどれかに該当するのでしょうか。

妻が他の男性と肉体関係を持ったということは間違いありません。

この場合、妻がいつ他の男性と肉体関係を持ったかが重要となります。

 

結婚前に肉体関係を持った場合

妻が夫と結婚する前に他の男性と肉体関係を持った場合、①の「不貞行為」には該当しないと考えられます。

しかし、妻が他の男性の子どもであることをひた隠しにし、夫の子であるかのような虚偽の説明をしていた場合は、それ自体が⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、離婚が認められる可能性があります。

他方、双方ともに夫婦の子であると信じていた場合など、妻に非があるとまではいえない場合は、離婚が認められない可能性もあるので注意が必要です。

 

結婚後に肉体関係を持った場合

妻が夫と結婚した後に、異性と肉体関係を持った場合は①の不貞行為をしたと言えるでしょう。

この場合、基本的には離婚請求が認められます。

ただし、例外的に肉体関係を持った当時、夫婦関係が破綻していたなどの事情があれば、離婚請求が認められない可能性もあります。

離婚が成立する条件については以下をご覧ください。

 

離婚する場合の法的な手続き

妻と離婚する場合の手続きとしては、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚のいずれかを行うことが想定されます。

基本的には、①協議離婚をお勧めしますが、相手が協議に応じない場合や話し合いにならない場合は弁護士に間に入ってもらうとよいでしょう。

下表はそれぞれの特徴をまとめたものです。

離婚の手続きの種類 特徴
離婚協議
  • 当事者(又はその弁護士)が離婚やその条件について話し合いで離婚をする
  • 裁判所を利用しない
離婚調停
  • 裁判所において話し合いによって離婚する
  • 調停委員会が間に入る
  • 時間がかかる
離婚裁判
  • 話し合いではなく最終的には裁判官が判断する
  • 途中で和解が成立することもある
  • 時間がかかる
  • 基本的に裁判の前に調停が必要(調停前置)

※特徴については一般的な傾向を示しています。

 

 

DNA鑑定の結果で慰謝料を請求できる?

上記離婚の可否と同様に、妻が夫と結婚した後に、他の男性と肉体関係を持った場合、通常は不貞行為に該当します。

この場合、妻に対して慰謝料を請求できます。

反対に、妻の他の男性との肉体関係を持った時期が結婚する前だった場合、不貞行為とは言えないため、慰謝料を請求できない可能性があります。

もっとも、結婚前だったとしても、結婚が決まっていた状況下で肉体関係を持った場合、不貞行為とは言えなくても慰謝料が認められる可能性があるでしょう。

また、妻が托卵(妻が夫以外の男性との間にできた子どもを夫の子どもとして出産し、夫に夫自身の子どもと信じ込ませて養育させること)させていたような場合も、同様に慰謝料が認められる可能性があります。

 

誰に、どんな理由で請求できる?

不貞行為が発覚した場合の慰謝料請求は①妻②不貞行為の相手の2人が対象となります。

妻に対してのみ、または、相手に対してのみ請求することも可能です。

筆者の経験上、妻との離婚を考えている場合、2人に請求する方が多いです。

これに対し、妻と離婚しない場合、相手に対しのみ請求する方が多い傾向です。

 

慰謝料の相場

不倫の慰謝料の相場は、50万円〜300万円程度です。

もっとも、不倫の慰謝料には明確な算定基準などは無く、様々な事情が考慮された上で金額が決められます。

例えば、不倫による被害の大小、悪質性の有無や程度、加害者の収入や資産の大小によって、不倫慰謝料は高額化したり、低額化します。

DNA鑑定で父親じゃなかったことが判明した場合、父親の精神的ショックは計り知れません。

また、本当の父親ではないことを長年月にわたって隠し続けてきた妻の行為は悪質と言えるでしょう。

そのため、妻に対する慰謝料の額は上記相場よりも高額化すると考えます。

 

慰謝料請求の手続きの特徴

慰謝料請求の手続きとしては、通常は①協議による解決(示談)、または②訴訟提起のいずれかとなる傾向です。

筆者の経験上、離婚のように、調停を選択することはほとんどありません。

協議で解決できないのであれば、訴訟提起をすればよく、裁判所で長期間調停を継続するメリットがないためです。

 

 

実の父親じゃない場合養育費の支払い義務はどうなる?

DNA鑑定で父親の子供じゃなかったことが明らかになったとしても、妻が婚姻期間中に懐胎した子は夫の子と推定されるため(民法772条1項)、法律上は夫の子として扱われます。

参考:民法|e-Gov法令検索

そのため、この法律上の親子関係を解消しない限りは、養育費の支払義務が発生します。

 

 

DNA鑑定で父親じゃなかったことが判明した場合の問題点

DNA鑑定で自分の子でないとわかった場合の問題点

当事務所には、結婚後、DNA鑑定で実の子ではなかったことがわかったと言って、ご相談に訪れる方がたくさんいらっしゃいます。

数多くの相談実績を誇る離婚弁護士が「自分の子でないとわかった」について、解説いたします。

 

離婚訴訟は長期化する

DNA鑑定で自分の子でないとわかった場合、妻側に不貞行為があるのが明らかですので、妻は有責性となります。

したがって、離婚訴訟を提起すれば、ほぼ勝訴は確実です。

しかし、離婚訴訟は解決まで長年月を要します。

また、離婚訴訟前に、調停前置といって、離婚調停を申立てなければなりません。

相手方が離婚に応じれば問題ありませんが、仮に離婚に応じない場合、解決まで長期化する傾向にあります

 

当事者同士の話し合いは困難

相手方が離婚に応じてくれれば、日本では、裁判所を通さない「協議離婚」が法律上認められています。

しかし、現実には、相手方に対する不信感、怒り、恐怖、などのマイナスの感情が強く、当事者同士では冷静な話し合いは難しいかと思われます。

話がまとまらない以上、第3者に間に入ってもらうなどの手を考えたほうがよいでしょう。

 

婚姻費用の支払い義務がある

相手方と離婚するまでの間、通常、夫側は妻に対して婚姻費用を支払わなければなりません。

婚姻費用は、通常、養育費よりも高額になります。

そのため、相手方が離婚に応じてくれず争ってくれば、夫側の負担は重くなります

 

 

父親じゃなかったと判明した時、押さえるべき重要ポイント

DNA鑑定で自分の子でないとわかった場合のポイント

実の子でない事案の場合、共通した傾向が見られます。

上記で解説した問題点を踏まえて、うまく進めていくためのコツについて、解説するのでご参考にされてください。

 

①まずは話し合いで解決を試みる

上記のとおり、裁判所で離婚を進めるとなると、長年月を要する可能性があります。

もちろん、裁判所の手続きにもメリットはありますが、解決までの期間を考えると、まずは当事者同士での話し合いによる解決を目指してみてはいかがでしょうか。

DNA鑑定で実の子ではないと判明した場合、相手方に帰責事由があることが明らかな事案です。

相手方に帰責事由があるケースでは、相手方も裁判は避けたいと考えるのが一般的であり、協議による解決の可能性は十分あると思われます。

ただし、相手方から養育費や財産分与などの金銭請求がされた場合、その妥当性については専門家に相談しつつ、進めていかれた方がよいでしょう。

 

②適切な第3者に入ってもらう

当事者同士での解決が難しい場合、第3者に仲介に入ってもらうことを検討します。

この場合、双方共通の知人などが候補者として考えられます。

共通の知人であれば、相手方も心を開いて話しやすいからです。

自分の両親などの親族の場合、親族も感情的になってしまうおそれがあるため適任か否かを慎重に判断された方がよいでしょう。

また、士業の専門家であれば、離婚に詳しい弁護士の方がよいでしょう。

弁護士以外にも行政書士、司法書士などの専門家もいますが、弁護士と異なり、相手方と交渉する代理権がないため仲介役となることが法的にできませんので注意されてください。

 

③婚姻費用には妥協しない

離婚までの間、相手方から生活費を請求される可能性があります。

この生活費は婚姻費用といって、収入が多い方(通常は夫側)が少ない方(通常は妻側)に支払う義務があります。

注意しなければならないのは、あくまで適正額についてのみ支払うということです。

適正額は双方の年収や子供の数・年齢によって決まります。

婚姻費用の適正額については以下をごらんください。

例えば、適正額が月額10万円だったとします。

相手方から婚姻費用15万円を請求されて、適正額を調べずに安易に合意してしまうと、離婚協議が長引いたときに負担が大きくなってしまいます。

また、一度合意してしまうと、後から減額したくても、減額はできない可能性があります。

相手方に不貞行為があったと考えられる事案では、婚姻費用について、算定表上の適正額よりも減額される可能性もあります。

相手方が不貞行為を行った場合の婚姻費用については以下をご覧ください

婚姻費用については専門知識が必要な場合があるため、できれば専門家にご相談の上、進めていくのがよいでしょう。

 

 

DNA鑑定で父親じゃなかった場合に弁護士に相談するメリット

DNA鑑定で父親じゃなかったと判明した場合に、弁護士に相談するメリットとしては大きく3つがあげられます。

DNA鑑定で父親じゃなかった場合に弁護士に相談するメリット

 

①見通しを知ることができる

相手と離婚できるのかどうか、慰謝料を請求するかどうか、慰謝料の相場やいくらなのか、養育費の支払い義務はどうなるのか、などについては、法的な判断が必要となります。

離婚問題に強い弁護士であればこれらの問題について、具体的な状況をヒアリングして適切に見通しを伝えてくれるはずです。

 

②相手と交渉してくれる

不貞行為が問題となるケースでは、相手が交渉に応じない、交渉に応じたとしたとしても適切な条件で解決できない、などの状況が想定されます。

弁護士に依頼すれば、あなたに代わって弁護士が相手と交渉してくれるので、負担がグッと減るでしょう。

 

③不当な結果やトラブルを防止できる

弁護士に相談や依頼をせずに済ませると、自分にとって不利な条件で(そのことに気づかずに)合意してしまうというリスクがあります。

また、合意が成立した後、トラブルに発展することも懸念されます。

離婚問題に強い弁護士であれば、適切な条件で、かつ、トラブルを防止できる離婚協議書等を作成することが可能です。

 

DNA鑑定に関するQ&A

日本で自分の子じゃない確率は?4分の1は夫の子じゃない?

日本において、自分の子ではない確率は不明です。

政府など、信頼できる機関の統計資料が発表されていないためです。

なお、他のウェブサイトにおいて、約20%(5人に1)は自分の子ではなかったと掲載している例があります。

しかし、根拠となる資料が添付されていないため、信用性には疑いがあります。

また、仮に事実だったとしても、このデータはDNA鑑定をした方の結果であって、対象者が限定的であり、日本全体の状況とはかけ離れているはずです。

すなわち、DNA鑑定をする方は、自分の子ではないと疑うような事情(妻の浮気や子どもが自分と似ていないなど)があったため、鑑定したのです。

DNA鑑定をしない人たちと比較して、自分の子ではない確率が上がるのは当然と言えます。

 

 

まとめ

以上、DNA鑑定で父親じゃなかった場合の対処法について解説しましたが、いかがだったでしょうか。

このような状況では、相手への離婚請求、慰謝料の請求が考えられます。

また、法的な父子関係を否定して、養育費の支払い義務をなくすという手続きも検討しましょう。

これらの法的手段を駆使して適切に解決をするためには、専門知識と具体的な事案に即した判断が不可欠となります。

そのため、まずは離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめいたします。

当事務所では、離婚問題を専門に扱うチームがあり、慰謝料や養育費について強力にサポートしています。

LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。

離婚問題については、当事務所の離婚事件チームまで、お気軽にご相談ください。

この記事が、離婚問題にお悩みの方にとってお役に立てれば幸いです。

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