多産DVとは?妊娠強要のチェックリストと安全な相談先

多産DV(たさんDV)とは、夫が避妊を拒否し、妻に望まない妊娠・出産を繰り返させるDV(家庭内暴力)のことをいいます。
多産DVは、女性から性的自由や妊娠・出産の決定権を奪い、女性の心身にも深刻なダメージを与えうる重大な暴力です。
しかし、被害者自身が被害を受けている自覚を持てず、気づかないまま支配が強化されてしまうことも多いです。
また、妊娠・出産や育児に追われる生活の中で、「逃げたくても逃げられない」状態に陥ってしまっているケースも少なくありません。
そこで、ここでは多産DVがどのような暴力なのかを解説したうえで、チェックリストやリスク、法的請求の可否、解決のための相談先などを紹介していきます。
妊娠・出産と夫婦の関係に悩みを抱えている方や、疑問をお持ちの方は、ぜひ参考になさってください。
目次
多産DV(たさんDV)とは?身体と心を支配する暴力

多産DV(たさんDV)とは、夫が避妊を拒否し、妻に望まない妊娠・出産を繰り返させるDVのことをいいます。
DVとは、ドメスティック・バイオレンスの略で、家庭内暴力のことをいいます。
DVには、殴る・蹴るといった身体的暴力だけでなく、性的・精神的・経済的な暴力も含まれます。
多産DVは複合的なDV
多産DVは、性的DV・精神的DV・経済的DVが絡む複合的なDVです。
妻の体調や意向を無視して性行為を強要する、避妊を拒否する、妊娠・出産を強要するといった行為は、性的DVに該当します。
その手段として、脅しや暴言・無言の圧力(あからさまに不機嫌になる・無視をするなど)などが用いられることも多いですが、これらの行為は精神的DV(モラハラ)に該当します。
殴る・蹴る、物に当たるなど、身体的なDVが伴う場合もあります。
また、妊娠・出産を繰り返させることで妻の気力や体力を奪い、妻が自分に逆らわないように仕向けるというのも精神的DVの一形態です。
さらに、妻が妊娠・出産や育児負担で働けない状況にあることに乗じて、夫が妻を経済的に支配するケースもありますが、これは経済的DVに当たります。
多産DVの特徴
多産DVには次のような特徴があります。
- 妻の性的自由や妊娠・出産の決定権を奪う
- 妊娠・出産を通じて妻の気力・体力・経済力を奪い、妻を支配する(妻が逃げられない状況を作る)
多産DVに当たるかどうかは、単に「多産 = 子どもがたくさんいる」ということだけでなく、このような支配構造があるかどうかが判断基準となります。
たとえ子どもが多くても、夫婦双方が望んだ結果であり、かつ、夫婦の対等性が維持されているのであれば多産DVではありません。
一方、子どもが1人・2人であっても、夫が妊娠・出産の決定権を握っていたり、妊娠・出産を利用して妻を支配している場合は多産DVに当たります。
私は被害者?多産DVチェックリスト
次のような事情がある場合、多産DVの可能性があります。
チェックリスト
もっとも、上記はあくまでも一般的な傾向です。
個々の事案における判断については、離婚問題に詳しい弁護士に相談ください。
「愛されている」は誤解。多産DVに潜む4つのリスク
夫に避妊の拒否や妊娠の強要をされても「愛されている」と誤解して受け入れてしまうことも多いのが実情です。
しかし、このようにして多産DVの被害を受け続けると、次のような深刻なリスクに直面する恐れがあります。

①自由や決定権を奪われるリスク
多産DVは、女性の性的自由や妊娠・出産の決定権を奪う、重大な人権侵害です。
しかし、「愛しているからいいだろう」「家族が増えるのは良いことじゃないか」などといった言説によって正当化され、事の重大性が覆い隠されてしまうことが非常に多いです。
そのため、被害者も気づかないうちに、どんどん自由や決定権が奪われ、完全に相手のコントロール下に置かれてしまう恐れがあります。
②健康を害するリスク
短期間に妊娠・出産・中絶を繰り返すと、体の回復が追い付かず、ダメージが蓄積していきます。
ホルモンバランスの変動、貧血、骨密度の低下、免疫力の低下などが慢性化し、長期的に健康を害する恐れもあります。
③精神的ダメージのリスク
多産DVは、他のDVよりも支配構造が強化されやすく、被害者が受ける精神的ダメージも大きくなりやすいという特徴があります。
妊娠中や出産直後は、女性は自由に動くことが難しく、心身も弱りやすい時期にあります。
また、子どもが生まれれば、子育てに追われ、目の前のことで手一杯になってしまいます。
そのため、女性にとって「夫から逃げる」「夫に抵抗する」というのは、非常にハードルが高いものとなります。
「子どもを抱えては逃げられない」と思ってしまう場合も少なくありません。
そのため、夫の言動に苦しんでいても、「自分が我慢すればいい」と思ってしまうことが多いのです。
また、「母親なんだから大変なのは当然」と思い込み、暴力に気づけない場合もあります。
しかし、そうして被害を受け続けていると、精神的なダメージが蓄積し、自己肯定感の低下、無力感、不安・恐怖の慢性化などが引き起こされます。
うつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの深刻な不調につながる恐れもあります。
④経済的に支配されてしまうリスク
多産DVの被害者は、妊娠・出産や子育ての連続で体力的・時間的な余裕がありません。
そのため、就労が難しく、収入を夫に頼らざるを得ない状況にあることが多いです。
そうすると、夫が経済的に妻を支配する「経済的DV」が併発するリスクが高くなります。
そして、経済的DVが併発すると、支配構造は強化され、現状からの脱却も更に難しくなる恐れがあります。
すなわち、妻は生活費を握っている夫に逆らうことができなくなり、自由が奪われます。
また、「夫がいなくては生活できない」「お金がないから逃げられない」と考え、現状から抜け出すことに非常に大きなハードルを感じるようにもなります。
ワンポイント:多産DVの問題点
筆者の経験上、多産DVの大きな問題として、被害者本人が自覚するのが難しいという点が挙げられます。
世間一般には、妊娠・出産はポジティブな出来事と受け止められるため、それらを通じた暴力を受けてもDV被害に遭っているという自覚を持てないことが多いです。
また、加害者は「愛情」や「家族」を理由に自らの行為(性行為の強要、避妊の拒否など)を正当化することも多いです。
そのため、被害者も避妊を求めることや妊娠・出産を望まないことが「間違っている」と思い込んでしまい、抵抗できなくなっている場合があります。
頻繁な妊娠・出産や子育てに追われ、自分の状況を冷静に考える余裕がなくなり、異常な状態であると気づけないケースも少なくありません。
仮に「DVかもしれない」と気づくことができても、妊娠・出産や子育ての負担や、夫の言動によって気力や体力が奪われ、「逃げられない」と思い込んでしまうことも多いです。
妊娠・出産や子育てで働くことができず、生活費を夫に頼らざるを得ないため、身動きが取れない場合もあります。
周囲に相談するにも、「子どもがたくさんいる = 幸せ」という社会通念から、辛い気持ちや深刻な状況を理解してもらうことができず、一人で悩みを抱え込んでしまうことも多いです。
このように、多産DVには、本人や周囲が気づきにくく、気づいても抜け出すことが難しいという問題点があります。
多産DVを理由に離婚・慰謝料請求はできる?
多産DVから根本的に脱却するためには、最終的には離婚を視野に入れる必要があります。
しかし、多産DVで離婚できるのか、慰謝料はもらえるのか、心配されている方も多いと思われます。
そこで、ここでは多産DVを理由に離婚・慰謝料請求できるかどうかについて、簡単に解説していきます。
結論としては、多産DVは、離婚原因にも慰謝料請求の根拠にもなり得ます。
多産DVは離婚原因になり得る
離婚には、大きく分けると次の3種類の方法があります。
| 離婚の方法 | 内容 |
|---|---|
| 協議離婚 | 夫婦間で話し合い合意し、離婚届を提出して離婚する方法 |
| 調停離婚 | 家庭裁判所で話し合い、合意によって離婚を成立させる方法 |
| 裁判離婚 | 裁判所に離婚を認めるとの判決をもらって離婚する方法 |
このうち、協議離婚と調停離婚は、離婚の理由が何であれ、合意ができる限りは離婚を成立させることができます。
したがって、多産DVを理由に離婚することも可能です。
また、DVの態様など、詳しい事情によって離婚の成否が左右されることもありません。
しかし、合意ができない場合、離婚をするためには、最終的には裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。
そして、裁判離婚の場合は、離婚の理由が問われます。
すなわち、裁判で離婚が認められるためには、法律が定める条件に当てはまる必要があります。
この条件は「離婚原因」といい、次の4つが定められています(民法770条1項)。
- ① 相手方に不貞行為があったとき
- ② 相手方から悪意で遺棄されたとき
- ③ 相手方の生死が3年以上明らかでないとき
- ④ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
※以前は「相手方が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という項目もありましたが、法律改正により削除されました(2026年4月1日施行)。
参考:民法|e−Gov法令検索
多産DVは、上記のうち、④「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する可能性があります。
「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」とは、夫婦関係が破綻し、修復不可能な状態になっている場合をいいます。
そして、DVは、夫婦関係を破綻させる典型行為と考えられています。
特に多産DVは、複数のDV行為により妻の自由・人格や心身の安全を害するものであるため、夫婦関係の破綻を基礎づける事情として、重大な影響を及ぼす可能性が高いです。
したがって、多産DVの事実が認められる場合(立証できる場合)は、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当し、裁判離婚が認められる可能性があります。
多産DVは慰謝料請求の根拠にもなり得る
多産DVが原因で離婚に至った場合は、加害者に対して慰謝料請求をすることも可能です。
慰謝料が認められる場合の金額は、DVの内容や被害の大きさ、結婚期間などの諸事情が考慮されたうえで決められます。
DV事案全体の相場としては50万円~300万円程度ですが、多産DVの場合は被害が長期化・深刻化しやすいため、高額化するケースも少なくないと思われます。
法的請求には証拠が必要
以上のとおり、多産DVは離婚原因にも慰謝料請求の根拠にもなり得ます。
しかし、このような法的請求に際しては、多産DVの事実を裏付ける証拠が必要となります。
多産DVの証拠となり得るものには、次のようなものがあります。
| 証拠の種類 | 内容 |
|---|---|
| 録音・録画 | 暴言・暴力の現場、避妊拒否や妊娠強要に関する会話等を記録したもの |
| 医療機関の記録(診断書・カルテ) | DVによるケガ、メンタル不調、中絶手術などに関するもの |
| 相談機関への相談記録 | 行政や民間の相談機関に相談した事実・内容などがわかるもの |
| メール・LINE等 | 加害者から送られてきた暴言、DVについて友人や親族に相談した内容等 |
| 日記・家計簿など | DVの内容や生活状況について都度記録したもの |
各証拠を組み合わせることで、DVの事実をより強く推認させることが可能になることもあります。
そのため、出来るだけ多くの証拠を集めておくことが重要なポイントとなります。
ワンポイント:多産DVの証拠集め
多産DVは、家庭内の密室で行われるため、目撃者がおらず、証拠集めが難しいケースが多いです。
また、「恥ずかしい」「夫を怒らせたくない」という思いから、録音などができない場合もあるでしょう。
そのような場合でも、日記や手帳、友人への相談メールなどが重要な証拠になることがあります。
「こんなものは証拠にならない」と自己判断せず、手元にあるものは全て保存しておきましょう。
決して諦めないで。解決に向けた相談窓口と逃げ方
多産DVの被害者の方は、妊娠中、子どもが多い、お金がないなどの理由から「逃げられない」「現状からの脱却は難しい」と感じやすい状況に置かれていることも多いです。
しかし、解決のための相談窓口や手段はあります。
まずは、これらを知ることが解決のための第一歩となります。
そこで、ここでは相談窓口や逃げ方(避難のポイント)を紹介していきます。
DVの主な相談窓口
DV相談ができる窓口には、次のようなものがあります。
| 相談窓口 | 支援内容等 | 連絡方法 |
|---|---|---|
| 配偶者暴力相談支援センター |
|
配偶者暴力相談支援センターの機能を果たす施設一覧|内閣府※DV相談ナビ「#8008」に電話をかけると、最寄りの支援センターに自動転送され、案内を受けることができます。 |
| DV相談プラス |
|
【24時間受付】電話、プラス相談箱(オンライン相談フォーム) 【12:00〜22:00受付】チャット相談 電話:0120-279-889 相談箱:https://form.soudanplus.jp/box チャット:https://form.soudanplus.jp/ja |
| 福祉事務所 |
|
福祉事務所|厚生労働省 |
| 女性センター |
|
内閣府|都道府県・市区町村の男女共同参画・女性のための総合的な施設 |
| 警察 |
|
|
| 民間の相談窓口 |
|
インターネット検索や自治体の広報などから情報入手できます |
| 弁護士 |
|
|
安全に避難するためのポイント
安全に避難するために押さえておきたいポイントは、次の3つです。
①相談すること
DVから安全に逃げるためには、緊急性や危険度、安全な避難先・避難方法、必要な準備、避難後の対策などを慎重に検討しなければなりません。
DV被害を受ける中で、これらを一人で冷静に見極めることは非常に困難です。
そのため、まずは相談窓口に相談し、支援を受けることが重要です。
②準備をすること(ただし、緊急の場合はすぐに逃げる)
安全を確保するためには、事前の準備も必要です。
準備をせずに家を出ると、加害者に見つかって連れ戻されてしまったり、避難後の生活が成り立たず、「加害者の元に戻らざるを得ない」状況に陥ってしまう恐れもあります。
そのため、避難先の確保、当日の段取り(相手がいない間に出るなど)、持ち出す荷物の選定、子どもの保育園や学校との連携など、必要な準備を整えるようにしましょう。
ただし、身に危険が迫っている場合は、準備を整えるよりも逃げることを優先してください。
準備を完璧に整えるよりも、身を守ることの方が大切です。
③避難後に加害者から追跡を受けないようにすること
避難後は、相手からの追跡を受けないように注意することが大切です。
そのための手段としては、次のようなものがあります。
- 弁護士に依頼し、相手との連絡窓口になってもらう
- 保護命令(裁判所に接近禁止などの命令を出してもらう手続き)を申し立てる
- 警察に行方不明届の不受理を要請する
- 住民票の閲覧制限を要請する(又は住民票を異動しない)
まずは離婚問題に詳しい弁護士に相談
「自分が受けている扱いが多産DVに当たるのか、わからない」
「逃げたいけれど、何から手を付けたらいいかわからない」
このような場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで、ご自身が置かれた状況を客観的に整理することができるようになります。
そのうえで、安全な避難方法や、離婚手続きの進め方などについて助言を受けるとよいでしょう。
離婚する場合の子どもの親権や養育費、財産分与、慰謝料などに関する見通しを知ることもできるため、離婚に対する漠然とした不安を解消することもできます。
また、弁護士に依頼した場合は、別居のサポート、保護命令の申立て、別居後の生活費(婚姻費用)の請求、離婚手続き(交渉・裁判や慰謝料請求)まで、幅広く対応してもらえるので安心です。
弁護士を窓口とすることで、加害者と直接接触する必要がなくなるため、精神的な負担も大幅に軽減することもできるでしょう。
多産DVについてのQ&A
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何人からが多産DVですか?
子どもの人数が多くても、夫婦双方が望んだ結果であれば多産DVではありません。
一方、子どもが1人や2人の場合であっても、夫が妊娠・出産、あるいは中絶を利用して妻を身体的・精神的・経済的に支配している場合は多産DVに該当し得ます。
具体的には、夫が妻の意向を無視して避妊に協力しない、妊娠・出産の決定権を握っている、妊娠・出産を理由に妻の就労・外出を妨げるといった事情がある場合です。
このような場合は、子どもの人数にかかわりなく、多産DVに該当し得ます。
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多産DVの夫の心理とは?
妻に妊娠・出産を繰り返させることで、自分のもとから容易に逃れられない状態を作り出し、身体的・精神的・経済的に支配しようとしているということです。
まとめ
以上、多産DVについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
多産DVは、女性の自由を奪い、心身の健康にも影響を与えうる重大な暴力です。
ご自身の状況に少しでも疑問を感じる場合は、一人で抱え込まず、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。
当事務所には、DV問題に注力する弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、DV事案を強力にサポートしています。
LINEなどによるオンライン相談にも対応しています。
DV問題にお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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