養育費を払えない、どうすればいい?弁護士がわかりやすく解説

  
弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

養育費を支払えない場合、最終的には強制執行などの手続きが取られる可能性があります。

ここでは、養育費を支払えない場合の影響や、支払義務がなくなるケースに触れながら、養育費を支払えない場合の対処法について解説していきます。

 

養育費とは

養育費とは、子どもが社会人として独立自活ができるまでに必要とされる費用です。

養育費の内容としては、子どもの衣食住のための費用・健康保持のための医療費・教育費が含まれます。

 

 

養育費を支払うことができないとどうなる?

養育費の支払義務は法律上の義務とされています(民法766条1項、877条1項)。

引用元:民法|e-GOV法令検索

しかし、裁判実務では、養育費の支払義務が具体的に生じるのは、養育費をもらう側が支払う側に対して請求をしたときと考えられています。

そのため、請求をされる前の段階で養育費を支払わないことについては、義務違反とは言い切れず、支払わないことによる影響は基本的にはないといえます。

他方、養育費の請求をされ、養育費の金額や支払期限などについて具体的に取り決められた場合は、取り決めの形式(当事者間での合意か、裁判所で取り決めたかなど)にかかわらず、決められた通りの養育費を支払わないことは基本的には義務違反となります。

そのため、養育費の取り決めをした後、養育費を支払うことができないと、次のような影響が生じることになります。

 

強制執行〜給与・その他の財産の差し押さえ〜

裁判所の手続や公正証書によって取り決めた場合

裁判所の手続や、公正証書(公証役場で公証人が作成する文書)によって養育費の取り決めをした場合は、決められた通りの養育費を支払うことができなくなると、「強制執行」をされる可能性があります。

「強制執行(きょうせいしっこう)」とは、養育費の支払義務者の財産(多くの場合は給与)を差し押さえ、その中から強制的に養育費を回収する手段です。

養育費の取り立てについては特に保護されており、給与(手取り)の2分の1まで差し押さえることができます(養育費以外の場合は給与の4分の1までしか差し押さえができないことになっています)。

また、これまでの未払い分だけでなく、将来支払われる養育費の分についても差し押さえをすることが可能です。

したがって、非常に強力な手段によって強制的に回収されることになるといえます。

また、給与が差し押さえられることにより、勤務先に養育費の支払いが滞っていることを知られて信用が低下するなどといった事実上の不利益が生じる恐れもあります。

給与の差し押さえのワンポイント

差し押さえられると、具体的には、会社が直接、権利者(養育費をもらう側)に対し、最大給与の2分の1を毎月支払っていくこととなります。

例えば、給与手取りが月額30万円であれば最大15万円が支払われることとなります。

 

当事者間の合意しかない場合

強制執行をするためには、「債務名義」という文書が必要になります。

「債務名義」とは、強制執行ができることを公的に証明する文書のことであり、次のようなものがあります。

  • 裁判所の手続で取り決めた場合に作成される書類(調停調書、審判書、判決書、和解調書)
  • 強制執行認諾文言(きょうせいしっこうにんだくもんごん)のある公正証書

※「強制執行認諾文言」とは、義務者(養育費を支払う側)が公正証書に書かれている通りに支払いをしない場合は強制執行を受けてもやむを得ないと言った、という内容の文言です。

すなわち、裁判所の手続きや、強制執行認諾文言付きの公正証書によって養育費の取り決めをした場合は、取り決め通りの支払いができなくなると、すぐに強制執行される可能性があるといえます。

他方、このような文書がない場合、すなわち、当事者間における、口頭や協議書等による合意しかない場合は、すぐに強制執行されることはありません。

しかし、養育費をもらう側が裁判所の手続き(調停や審判)を申し立てれば、当事者間における合意と同内容の調停調書や審判書といった債務名義が作成されることになります。

当事者間で有効に合意が成立している場合は、事情の変更等がない限り、裁判所の手続きで異なる結論になることは基本的にはないといえます。

(ただし、口頭や不適切な文書による合意の場合は、合意の存在自体が否定される場合もあります。)

そのため、当事者間における合意しかない場合であっても、最終的には強制執行されるリスクがあるといえます。

 

減額の合意等がない限りは従前の合意は有効

養育費について取り決めをした当時は支払うことができたけれども、その後に収入が減少したなどの理由で支払うことができなくなった場合は、養育費の減額等を請求することができます。

ただし、減額等について、養育費をもらう側の同意や裁判所の判断(例えば、養育費の減額を認める審判など)がないうちは、従前の取り決めは有効なままとなります。

そのため、同意等がないにもかかわらず、勝手に減額をしてしまうと、取り決め通りの支払いがないとして、強制執行される可能性もあるので、注意が必要です。

減額が必要な場合は、養育費をもらう側と交渉したり、裁判所の手続を申し立てるなどして、同意や判断を得るように行動する必要があります。

 

養育費の不払いで逮捕されることがある?

養育費の不払いは犯罪ではないので、それ自体によって逮捕されることはありません。

ただし、次のように、間接的・部分的にはペナルティが設けられています。

過料

裁判所の手続きで養育費の取り決めをした場合に、決められた通りに養育費の支払いをしないと、「履行命令」というものが発せられることがあります。

「履行命令(りこうめいれい)」とは、裁判所による、決められた通りの養育費を支払えとの内容の命令です。

正当な理由がないのに履行命令を無視して養育費を支払わなかった場合は、裁判所により10万円以下の「過料」に処されるとされています。

なお、「過料(かりょう)」は行政上の罰であり、履行命令に違反することは犯罪ではありませんので、それによって逮捕されることはありません。

刑罰

先ほど解説した強制執行においては、「財産開示手続」という手続きが利用されることがあります。

「財産開示手続」とは、強制執行で差し押さえる財産を特定しやすくするために、裁判所が養育費の支払義務者本人に自分の財産を開示させる手続のことです。

この手続の実施決定がされた場合、養育費の支払義務者は、財産目録を提出するなど、裁判所の求めに従い財産を開示する義務を負います(民事執行法199条1号、7号)。

この財産開示における義務に正当な理由なく違反した場合は、刑罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)に処されるとされています(民事執行法203条1項5号、6号)。

すなわち、財産開示手続における義務違反については犯罪が成立し、逮捕される可能性もゼロではないといえます。

引用元:民事執行法|e-GOV法令検索

 

父親は子供と会えなくなる?

子どもと離れて暮らす親が子どもに会うことを「面会交流」といいます。

面会交流と養育費の問題は区別して考えるべきですので、本来的には養育費を支払えないことを理由に子どもと会えなくなることはありません。

ただ、望ましいことではありませんが、事実上は、養育費の支払いと面会交流が交換条件にされてしまう場合もあります。

仮に、養育費をもらう側から、「養育費が支払われない限り子どもに会わせない」などと言われてしまった場合は、協議や面会交流の調停などにより、子の福祉(健全な成長)という観点から、養育費とは別問題として解決していく必要があるでしょう。

他方で、養育費も子どもの生活に直結する重要なものですので、支払えない理由、減額する理由がある場合は、協議や養育費の減額調停などにより、面会交流とは別にきちんと解決していく必要があります。

 

 

理由しだいでは支払義務がなくなる可能性も

次のような事情がある場合は、養育費の支払義務がなくなる(養育費の金額がゼロ円になる)ことがあります。

ただし、養育費の取り決めがある場合に、次のような事情が生じたからといって自動的に支払義務がなくなるというわけではないので、一方的に不払いや減額をすることはできません。

減額等をするためには、養育費をもらう側と交渉するか、裁判所の手続き(調停又は審判)を利用して減額等を認めてもらう必要があるので注意しましょう。

母親が再婚して養子縁組した場合

母親が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組をした場合、子どもに対して第一次的な扶養義務を負うのは養親(再婚相手)となります。

そのため、養親の収入で子どもを育てるのに必要なお金を賄えている限りは、実の父親の扶養義務は後退し、支払うべき養育費はゼロ円となります。

ただし、養子縁組によって実の父親の子どもに対する扶養義務がなくなるわけではありません。

そのため、養親に収入や資産がなく、子どもを扶養する力がない場合は、実の父親が養育費を負担する必要があります。

 

父親の支払い能力がない場合

養育費は父母の収入に応じて分担されるものであるため、父親の収入が全くないときや、極めて低いとき(父親自身の生活を維持する程度もない場合)は、養育費の金額がゼロ円になる場合があります。

もっとも、働こうと思えば十分働けるのに(これを「潜在的稼働能力」ということもあります。)、あえて働かずに無収入や低収入に甘んじている場合などは、父親の年齢・学歴等に見合った平均的な収入があるものとみなして養育費を算出するべきと考えられています。

そのため、働こうと思えば働ける場合は、現実には収入がなくても相当額の養育費の支払義務を負うことになります。

一方、病気などにより働こうと思っても働けない場合などは、現実の収入を基準に養育費を算出することになるため、養育費はゼロ円又はそれに近い金額となります。

このように、父親に支払い能力がない場合は、潜在的稼働能力の有無・程度により養育費の支払義務の有無が異なります。

なお、収入がゼロ円又は極めて低いとまではいかなくとも、養育費を取り決めたときよりも収入が減少した場合は、取り決め当時予見できなかった事情変更があるとして、養育費の減額を請求することができます。

ただし、養育費を抑えるためにわざと収入を減らした場合や、合理的理由がないのに転職して収入が大きく減った場合などは、従前の収入を得ているものとみなされるため、事情の変更はないとして、減額は認められないと考えられます。

 

支払わなくてよいと言われた場合

母親から養育費を支払わなくてよいと言われ、父親がそれに承諾した場合は、父母間において養育費は請求しないとの合意が成立したことになるため、父親が養育費を負担する必要はなくなります。

養育費の支払義務は法律上の義務ではありますが、上記のような合意は、子どもの扶養に関する父母間の合意として、有効に成立するものと考えられています。

このような合意が成立した場合は、その旨を書面に残しておくべきです。

口約束や不適切な書面での約束しかない場合は、後日母親から請求された場合に、請求しない約束だったではないかと主張することが困難となるからです。

なお、請求しないとの合意が成立し、書面も作成した場合であっても、合意後に事情が変わり、合意を維持することが相当でなくなった場合は、合意を変更することが可能です。

その結果、父親が改めて養育費の支払義務を負うことになる可能性はあります。

例えば、合意の当時は母親に経済力があり、父親が養育費の分担をしなくても十分に子どもを扶養することができていたものの、その後、母親が病気などで収入を失い、母親だけの収入では子どもを扶養することができなくなったような場合です。

このような場合、話し合いや裁判所の手続きによって、「養育費を請求しない」という従来の合意は、「父親が相当額の養育費を支払う」という合意に変更されることになる可能性があると考えられます。

子ども自身は扶養料を請求できる

養育費を支払わなくてよいというのは、あくまでも母親の意向といえます。

母親は、子どもを育てる親として父親に養育費を請求することができますが、これとは別に、子ども自身も、父親に対して扶養義務を果たすようにと「扶養料」を請求することができます。

子ども自身の父親に対する扶養料を請求する権利は、母親が勝手に放棄することはできません。

そして、父母間における養育費を請求しない合意は、子どもを拘束するものではありません。

そのため、父母間で養育費を請求しない合意が成立していたとしても、子ども自身から扶養料を請求される可能性は残ります。

ワンポイント:子どもからの請求

子どもの年齢などの状況にもよりますが、母親が養育費を請求せずに子ども本人が請求するというケースはほとんどありません。

あくまで理屈上は請求される可能性があるという理解で良いかと思われます。

 

未払いの養育費について時効が成立した場合

支払期限が過ぎている未払いの養育費については、その支払期限から5年又は10年が経つと時効が成立し、支払義務がなくなります。

時効の期間は、養育費をどのように取り決めたかにより、次のように異なります。

取り決め方 時効の期間
合意(口頭又は合意書等によって合意した場合) 5年
公正証書(取り決め内容について公正証書を作成した場合) 5年
裁判所の手続き(調停、審判、判決、裁判上の和解) 10年

なお、時効の成立による支払義務の消滅という効果を享受するためには、時効の「援用」(えんよう)が必要です。

「援用」とは、時効が完成していると主張することです。

時効の援用をしない限りは養育費の支払義務から確定的に免れることはできません。

また、時効の期間が経過した後に養育費を請求された場合、時効の援用をすることなく養育費の支払義務を認めると、それ以降は時効を援用することができなくなります。

このように、支払義務を負う側にとっては援用が重要なポイントとなりますので、時効が問題となるケースでは、専門家に相談の上慎重に対応されることをおすすめいたします。

 

 

養育費を払えないときのQ&A

養育費を払えないことを理由に自己破産できる?

「支払不能」であれば自己破産はできますが、自己破産をしても養育費の支払義務がなくなるわけではないため、養育費を払えないことを理由に自己破産をしてもあまり意味はありません。

自己破産とは、裁判所を介して債務(借金など、支払い等をしなくてはならない義務のこと)を免除をしてもらう手続きをいいます。

自己破産ができる法律上の条件は「支払不能」というものであり、これは、収入や財産などに鑑みても債務の返済を継続していくことができない状態のことをいいます。

取り決めどおりに養育費を支払うことができずに滞納してしまっている場合、理屈上は「支払不能」といえますので、それを理由に自己破産を申し立てること自体はできると考えられます。

しかし、養育費の支払義務は、自己破産の手続きによっても免除してもらえません。

自己破産の手続きでは、全ての債務が免除されるわけではなく、養育費などの扶養義務に基づくものなど、一部の債務は免除の対象外とされています。

そのため、自己破産しても未払い分・将来分の養育費については、引き続き支払義務を負うことになります。

したがって、養育費を支払えないことを理由に自己破産しても、あまり意味はありません。

ただし、養育費以外の債務(消費者金融からの借金など)の返済が苦しいために養育費が支払えないという場合は、自己破産することで経済的に余裕が生じ、養育費の支払いができるようになるという可能性はあります。

このような場合は、自己破産をする意味はあるといえるでしょう。

 

自己破産したら養育費の支払義務はなくなる?

自己破産をしても養育費の支払義務はなくなりません。

 

上記に解説したとおり、養育費の支払義務は、自己破産によっても免除されることはありません。

そのため、養育費の支払義務をなくすために自己破産をする意味はないといえます。

ただし、その他の借金があるために経済的な余裕がなく、養育費を支払えないという場合は、自己破産によって借金を整理することで、養育費を支払えるようになる可能性はあるでしょう。

その他の借金はないものの、経済的な余裕がなく、養育費を取り決め通りに支払えないという場合は、養育費の金額が収入に見合わない過大なものになっている可能性があります。

養育費を取り決めた当時とは事情が変わった場合、例えば、収入が減少した場合、再婚して扶養家族が増えた場合などは、養育費の減額を請求することができます。

そのため、養育費をもらう側と交渉したり、家庭裁判所に「減額調停」を申し立てるなどして対処していく必要があります。

他方、取り決め当時から事情の変更はないものの、当初から過大な金額で取り決めをしてしまった場合、養育費をもらう側が同意しない限り、基本的には取り決め内容を変更するのは難しいといえるでしょう。

もっとも、養育費をもらう側としても、減額してでも養育費を安定的に、継続的に支払ってもらうことにはメリットがありますので、事情の変更がなくても、交渉次第では減額に応じてくれる場合もあります。

養育費の減額や免除についての交渉や手続きに関しては、専門知識と技術が必要になりますので、専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。

 

養育費を払えないときも弁護士に相談したほうがいい?

借金問題が深刻であるために養育費が支払えない場合は、債務整理を検討する必要があるため、破産再生専門の弁護士へ相談されることをおすすめいたします。

 

借金問題が深刻ではなくても、養育費を支払えない場合は、養育費の減額や免除を検討し対処していく必要があるため、離婚専門の弁護士へ相談されることをおすすめします。

あわせて読みたい
債務整理について

 

 

まとめ

以上、養育費を払えない場合の対処法について解説しましたが、いかがだったでしょうか。

養育費が支払えない場合は、給与や財産が差し押さえられるなど、大きな影響を受けることになる可能性があります。

そのため、支払えない状態を放置せずに、減額や免除について交渉したり、裁判所の手続きを申し立てたりしていくことが重要です。

支払えない理由や状況により、対処法は異なりますので、詳しくは専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。

当事務所では、離婚問題を専門に扱うチームがあり、養育費の問題について強力にサポートしています。

LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。

養育費の問題については、当事務所の離婚事件チームまで、お気軽にご相談ください。

この記事が、養育費の問題にお悩みの方にとってお役に立てれば幸いです。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 

なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?   

続きを読む