養育費の先取特権とは?回収の最強手段【法改正対応】

先取特権(さきどりとっけん)とは、相手の財産から優先的にお金を回収できる特別な権利のことです。
法改正(2026年4月1日施行)により、養育費の回収でもこの先取特権が使えるようになりました。
これまでは、養育費の未払いがあった場合、裁判所や公証役場で作った書類(調停調書、公正証書など)がなければ、相手の財産を差し押さえることはできませんでした。
しかし、この法改正により、今後は、それらがなくても、直ちに相手の財産(給料など)を差押え、養育費を回収する手続きを行えるようになりました。
この記事では、このような「回収の最強手段」ともいえる養育費の先取特権について、使える範囲や条件、使う場合のポイントなどについて、わかりやすく解説していきます。
養育費の先取特権について知りたい方、先取特権を使った具体的な回収方法を知りたい方、法改正で何がどう変わったのか気になる方は、ぜひ参考になさってください。
目次
養育費の回収で「先取特権」が使えるようになった
法改正(2026年4月1日施行)によって、養育費の回収で「先取特権」が使えるようになりました。
ここでは、法改正によって養育費の回収について何がどのように変わったのかを解説していきます。
そもそも「先取特権(さきどりとっけん)」とは何か?わかりやすく解説

先取特権とは、債務者(支払義務を負っている人)の財産から優先的にお金を回収できる権利のことをいいます。
先取特権のポイントは、次の2つです。

①他の人に先立ってお金を回収できる「特権」
先取特権を持っている人は、他の債権者(債務者にお金を請求できる立場にある人)に先立って、お金を回収することができます。
例えば、先取特権を持っているAさんと、先取特権を持っていないBさんが、どちらもCさんからお金を回収しようと考え、同時にCさんの財産を差し押さえたとします。
一般的に、お金を回収しようとしている人が複数いる場合、「全員が対等な立場で、請求額に応じて、平等に分け合う」というのが原則的なルールとなります。
しかし、先取特権を持っている人と、持っていない人がいる場合は、「先取特権を持っている人が優先的に回収できる」という特別ルールが発動します。
したがって、上記のケースでは、AさんはBさんに先立ち、Cさんから優先的にお金を回収することができます。
先取特権は、このように、他の人に先立って優先的にお金を回収することができる「特権」です。
②先取特権が付いている権利は法律で決められている
先取特権は、社会政策的に特に保護する必要性が高い権利に、あらかじめ(法律上当然に)付与されています。
どのような権利に先取特権が付与されているかは、法律で明確に定められています(詳しくは次の「先取特権の種類」の表をご覧ください)。
先取特権が付与された権利を持っている人は、自動的に先取特権も持っていることとなり、いざというときには先取特権を使って強制的にお金を回収することができます。
先取特権の種類
先取特権には、次のような種類があります。
| 先取特権の種類 | 引き当てにできる財産 | 先取特権が付与されている権利 |
|---|---|---|
| 一般の先取特権 | 債務者の総財産 (債務者の全ての財産からお金を回収できる) |
次のお金を請求できる権利(民法306条)
①共益の費用(競売の費用など) |
| 動産先取特権 | 家具・荷物などの動産 | 次のお金を請求できる権利(民法311条)
①不動産の賃貸借(家賃など) |
| 不動産先取特権 | 土地・建物などの不動産 | 次のお金を請求できる権利(民法325条)
①不動産の保存(修繕費・管理費など) |
引用:民法|e-Gov法令検索
今回の改正により、養育費には「子の監護の費用」として一般の先取特権が付与されました。
したがって、養育費が約束通りに支払われない場合は、先取特権を使って相手の全ての財産から養育費を回収することができるようになりました。
なお、先取特権が付与された養育費には、父母間での取決めによる養育費の他に、今回の法改正で新しく導入された「法定養育費」も含まれます。
法定養育費とは、養育費の取決めがない場合でも子ども1人につき月額2万円を請求できるという制度です。
養育費の先取特権は子ども1人につき月額8万円まで
先取特権が付与される額は子ども1人につき月額8万円(月額8万円×子どもの数)までとされています(民法308条の2、令和7年法務省令第56号1条)。
参考:民法|e-Gov法令検索
すなわち、子ども1人の場合は月額8万円、子ども2人の場合は月額16万円、3人の場合は月額24万円まで先取特権が付与されるということです。
子ども1人の場合で、養育費として月額6万円を支払うとの取決めがあるケース
→このケースでは、月額6万円全額について先取特権が付与されます。
子ども1人の場合で、養育費として月額10万円を支払うとの取決めがあるケース
→このケースでは、先取特権が付与されるのは月額8万円までであり、残りの月額2万円については付与されません。
養育費の先取特権の要件とは?
先取特権を使って養育費を回収するためには、養育費の「取決めを裏付ける文書」が必要です。
「取決めを裏付ける文書」とは、具体的には次のような書類を指します。
| 取決めの方法 | 取決めを裏付ける文書 |
|---|---|
| 裁判所の手続きで取り決めた場合 | ① 調停調書 ② 審判書 ③ 判決書、和解調書 |
| 父母間の話し合いで取り決めた場合 | ④ 公正証書 ⑤ 離婚協議書、養育費の合意書など |
上記の①~④は、裁判所や公証役場で発行・作成される公的な書類です。
そのため、①~④は基本的に単体で「取決めを裏付ける文書」として認められます。
一方、⑤は、裁判所等の関与なく、当事者間だけで作成するものです。
そのため、内容(養育費の金額など)が明確に記載されているか、当事者の意思に基づいて作成されたかなど、細かい点が裁判所によってチェックされることになります。
万一、形式や内容に不備がある場合は、それ単体では「取決めを裏付ける文書」とは扱ってもらえず、情報を補充するための追加資料の提出を求められることがあります。
ワンポイント:リーガルチェックのすすめ
インターネット上にあるテンプレートを安易に利用して⑤の合意書を作成すると、法的に無効な条項が含まれていたり、必要な記載が漏れていたりするリスクがあります。
作成にあたっては、弁護士に内容をチェックしてもらうことをお勧めします。
参考:取決めがない場合~先取特権で法定養育費を回収する場合~
養育費の取決めをしていない場合でも、法定養育費(子ども一人当たり月額2万円)については先取特権を行使して回収することができます。
その場合は、次のような書類を準備すれば手続きをすることができます。
| 必要書類 | なぜ必要? |
|---|---|
| 戸籍謄本(全部事項証明書) | 離婚したこと、子どもがいること、子どもの人数などを証明するため |
| 世帯全員が記載された住民票の写しなど | 離婚時から自分が引き続き子どもを監護(同居して世話をしている)ことを証明するため |
養育費の先取特権はいつから?施行前の離婚のケースはどうなる?
養育費の先取特権について定めた改正後の法律は、2026年4月1日に施行されました。
施行前(2026年3月31日以前)に離婚した方であっても、先取特権を使うことは可能です。
ただし、使える範囲は、2026年4月1日以降に生じた養育費に限られます。
2026年3月31日以前に生じた養育費については、先取特権を使って回収することはできません。
具体例 Aさんは、2025年の4月1日に離婚しました。
離婚時、元夫Bと「養育費として、2025年4月1日から、月5万円を、毎月20日にA名義の預金口座に振り込んで支払う」という内容の取決めをしました。
しかし、元夫Bは、離婚後、一度も養育費を支払ってくれていません。
現在は2026年5月末日だとします。
このケースで、Aさんが先取特権を使って回収できるのは、2026年4月分と5月分(2026年の4月20日と5月20日に支払われるはずだった養育費)に限られます。
2025年4月分~2026年3月分までの未払分( = 2026年3月31日以前に生じた養育費)については、先取特権を使って回収することはできません。
なお、法定養育費を請求できるのは、2026年4月1日以降に離婚した人に限られます。
そのため、法定養育費の先取特権を使えるのは、2026年4月1日以降に離婚した人だけです。
法改正で何が変わった?
一番大きな変更点は、「債務名義」がなくても直ちに養育費の回収手続きをすることができるようになったことです。
「債務名義(さいむめいぎ)」とは、支払義務の内容などを証明するもので、裁判所や公証役場で作成・発行された正式な書類(調停調書、審判書、公正証書など)のことを指します。
これまでは、このような「債務名義」がなければ、直ちに養育費の回収手続きをすることはできませんでした。
当事者間で作成した書類(離婚協議書、養育費の合意書など)しかない場合、まずは債務名義をもらうために裁判を行わなければならず、すぐに回収手続きに入ることはできなかったのです。
それが、今回の法改正で養育費に先取特権が付与されたことにより、債務名義がなくても、子ども1人につき月額8万円までは、すぐに(裁判をすることなく)回収手続きができるようになりました。
先取特権に基づく回収手続きは、債務名義がなくても行うことができるからです。
なお、養育費の取決め額が子ども1人につき月額8万円を超えるケースはそれほど多くはありません。
そのため、法改正によって、多くのケースで素早く回収手続きを行うことが可能になったといえるでしょう。
参考:養育費の回収ルートのまとめ
法改正後に養育費の不払いがあった場合の回収ルートを整理すると、次の図のようになります。

これまでは債務名義に基づくルートしかありませんでしたが、法改正により、先取特権に基づくルートも新設されました。
今後は、養育費の取決めの有無や、債務名義の有無といった具体的な状況に応じ、自分に適した回収ルートを選択することになります。
なお、専門用語では、債務名義に基づく回収手続きを「強制執行」、先取特権に基づく回収の手続きを「担保権の実行」といいます。
養育費の先取特権で公正証書や調停は不要?
先取特権を使って養育費を回収する場合には、公正証書などの「債務名義」は必要ありません。
そのため、「今後は債務名義は必要ない?」「公正証書を作成する必要はなくなる?」といった疑問をお持ちの方も少なくないと思われます。
しかし、債務名義が必要となる場面は、今後も引き続き想定されます。
そこで、ここでは債務名義(公正証書や調停調書など)の法改正後における役割や作成メリットについて解説していきます。
公正証書・調停調書とは?
まずは公正証書や調停調書とは何か、確認しておきましょう。
公正証書
公正証書とは、法律の専門家である公証人が、公証役場という所で、本人たちの合意内容を確認して作成する文書です。
公正証書は、公文書(公務員が権限に基づいて作成する文書)であり、信用性の高い証拠として扱われます。
また、公正証書の条項に「強制執行受諾文言」を入れておけば、「債務名義」となります。
「強制執行受諾文言」とは、「支払う側が”この公正証書に書かれた合意を守れなかった場合には、直ちに強制執行をされても文句を言いません”と述べた」という内容の記載事項のことをいいます。
「債務名義」とは、支払義務の内容などを証明する正式な書類のことで、強制執行(相手の財産を差し押さえて強制的にお金を回収する手続き)をする際の必須書類となります。
調停調書
調停調書とは、調停(裁判所で話し合いをする手続き)で養育費を取り決めた場合に、裁判所によって作成される書類です。
調停調書は裁判所が作った正式な書類であり、債務名義となります。
なお、養育費を取り決める手続きには、調停以外にも次のようなものがあります。
各手続きで作成される書類は、いずれも債務名義となります。
| 手続き | 内容 | 作成される書類 |
|---|---|---|
| 審判 | 裁判所が養育費の金額等を定める手続き。 調停で話し合いがまとまらなかった場合は、自動的に審判に移行する。 |
|
| 裁判(離婚訴訟) | 離婚を争う裁判(訴訟)の中で、養育費についても判断してもらう(判決をもらう)。 裁判の手続きの途中で、譲り合いによる解決(和解)をすることもできる。 |
|
「債務名義」が必要となる場面
法改正後も公正証書などの「債務名義」が必要となる場合はあります。
それは、取決め額が子ども1人につき月額8万円を超えるケースで、月額8万円を超える部分も強制的に回収したい場合です。
今回の法改正で養育費に先取特権が付与されましたが、その範囲は子ども1人につき月額8万円までとなっています。
そのため、取決め額が子ども1人につき月額8万円を超える場合は、先取特権だけでは全額回収することはできません。
月額8万円を超える部分も回収するためには、債務名義に基づく手続き(強制執行)が必要となります。
そのため、手元に債務名義がない場合(当事者間で作成した合意書しかない場合)は、月額8万円を超える部分は直ちに回収することはできません。
この超過部分を回収するためには、改めて裁判を起こし、債務名義を得る必要があります。
一方、養育費の取決めについて公正証書を作成している場合は、債務名義が手元にあるわけですから、月額8万円を超える部分についても直ちに回収手続き(強制執行)をすることができます。
なお、養育費の取決めを裁判所の手続き(調停など)で行った場合も、裁判所により発行される書類(調停調書など)に基づき、直ちに全額についての回収手続き(強制執行)をすることができます。
取決め額が子ども1人当たり月額8万円を超える場合の回収方法のまとめ
| 取決め方法 | 書類 | 全額回収(強制執行)の可否 |
|---|---|---|
| 父母間の話し合い | 公正証書(強制執行受諾文言付)を作成した場合 | 可 |
| 父母間の話し合い | 当事者間で作成した離婚協議書や合意書のみの場合 | 不可(改めて裁判を起こす必要あり) |
| 裁判所の手続きで取決め | 調停調書、審判書、判決書・和解調書(裁判所が発行) | 可 |
公正証書で養育費を取り決めるメリットとは?
裁判せずに全額について強制執行できる
公正証書で養育費を取り決めておけば、養育費が取決め通りに支払われない場合、直ちに「全額について回収手続き(強制執行)をすることができます。
改めて裁判をする必要はありません。
そのため、特に取決め額が子ども1人につき月額8万円を超えるケース(先取特権だけでは全額回収できないケース)では、公正証書で養育費を取り決めるメリットが大きいです。
相手方に心理的なプレッシャーがかかる
公正証書を作成する際は、相手も公証役場に出向き、公証人の面前で、合意内容を一つ一つチェックすることになります。
また、強制執行受諾文言を入れる際には、公証人から相手に対し、「合意内容が守られない場合は、直ちに強制執行されることになりますよ」との説明もきちんとしてもらうことができます。
そのため、公正証書を作成することで、相手に「合意内容を守らなければ大変なことになる」との心理的なプレッシャーがかかりやすくなります。
それにより、任意の支払いが促され、養育費が支払われなくなることを未然に防ぐ効果も期待することができます。
弁護士がいない場合プロ(公証人)に条項をチェックしてもらえる
公正証書にする場合は、法律の専門家である公証人が当事者の意思を確認して条項を作成してくれます。
そのため、弁護士が関与しない場合でも、合意内容を反映した、きちんとした書類を作成することができます。
先取特権を使って回収する場合も、公正証書を作成しておけば、書類(取決めを裏付ける文書)の不備で問題になる心配はまずなく、スムーズに手続きを進めることができます。
もっとも、公証人は合意の内容面についてアドバイスをすることはできません。
例えば、「養育費の金額をいくらにするのが適切か」といった中身に踏み込んだアドバイスはできません。
そのため、内容面についてもアドバイスを受けたいという場合は、公正証書を作成する前に、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。
公正証書で養育費を取り決めるデメリットとは?
公正証書の作成費用がかかる
公正証書を作成する際には、公証役場に手数料を納める必要があります。
手数料の金額は、公正証書で定める支払金額によって異なります。
具体的には、次のように定められています。
| 支払金額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3000円 |
| 50万円を超え100万円以下 | 5000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 13000円 |
| 500万円を超え1000万円以下 | 20000円 |
| 1000万円を超え3000万円以下 | 26000円 |
(以下省略)
支払金額は、養育費の場合は5年分の総額が上限とされています。
すなわち、養育費の支払いが終了するのが20年後の場合は5年分、3年後に終了する場合は3年分がカウントされるということです。
例えば、今後20年間、養育費を毎月5万円支払うとの内容の場合、支払金額は次のように計算されます。
「月額5万円 × 12か月 × 5年分 = 300万円」
このケースで、養育費の合意のみを公正証書にする場合であれば、手数料は13000円となります(200万円を超え500万円以下の枠)。
なお、離婚に伴う財産分与や慰謝料など、他の離婚条件も盛り込んだ公正証書を作成する場合は、各条件別に手数料を算定し、その合計額が公正証書作成の手数料となります。
ワンポイント:補助金を支給している自治体も
養育費の取決めに関する公正証書作成の手数料について、補助金を支給している自治体も多数あります。
内容や条件は自治体により異なりますが、支給額の相場としては1万円~5万円程度となっています。
そのため、公正証書の作成に当たっては、事前にお住まいの市区町村のホームページや窓口で補助金の有無や受給条件などを確認してみることをお勧めします。
改正後でも公正証書を作成した方が良いケース
養育費の相場が1人8万円を超えるケース
養育費の相場が子ども1人につき月額8万円を超える場合は、公正証書を作成した方が良いでしょう。
公正証書を作成しておけば、月8万円を超える部分も含む全額について、直ちに回収手続き(強制執行)をすることができます。
養育費が子ども1人につき月額8万円を超える年収の目安
それでは、養育費の相場が子ども1人につき月額8万円を超える場合とは、相手(支払う側)の年収がどのくらいの場合なのでしょうか。
ここでは、参考までに目安を紹介します。
なお、便宜上、もらう側の年収は200万円(給与所得者)と仮定します。
| 子どもの人数 | 子どもの年齢 | 支払う側の年収目安 |
|---|---|---|
| 1人(月額8万円~) | 0~14歳 | 800万円~ |
| 1人(月額8万円~) | 15歳~ | 675万円~ |
| 2人(月額16万円~) | 第1子・第2子ともに0~14歳 | 1050万円~ |
| 2人(月額16万円~) | 第1子15歳~、第2子0~14歳 | 1000万円~ |
| 2人(月額16万円~) | 第1子・第2子ともに15歳~ | 950万円~ |
| 子どもの人数 | 子どもの年齢 | 支払う側の年収目安 |
|---|---|---|
| 1人(月額8万円~) | 0~14歳 | 601万円~ |
| 1人(月額8万円~) | 15歳~ | 512万円~ |
| 2人(月額16万円~) | 第1子・第2子ともに0~14歳 | 802万円~ |
| 2人(月額16万円~) | 第1子15歳~、第2子0~14歳 | 763万円~ |
| 2人(月額16万円~) | 第1子・第2子ともに15歳~ | 721万円~ |
※給与所得者とは、いわゆるサラリーマンのことです。 役員報酬をもらっている会社経営者も含まれます。
※自営業者とは、個人事業主のことです。 法人(株式会社など)の会社経営者は、自営業者ではなく給与所得者となります。
義務者に養育費を支払う自覚が乏しいケース
相手に「養育費を支払わなければならない」という自覚が乏しく、支払いが滞る可能性が高いケースもあります。
このようなケースでは、取決め額が子ども1人につき月額8万円を下回る場合であっても、公正証書の作成を検討されることをお勧めします。
公正証書は、公証人が作成する公文書ですから、当事者間だけで作成した合意文書よりも重みを感じやすいものです。
公正証書を作成する際には、相手も公証役場に出向き、公証人に合意内容を確認されることになりますから、支払義務の自覚も持ってもらいやすくなります。
「支払いを怠ると大変なことになる」というプレッシャーを与えることもできるため、不払いを未然に防ぐ効果も期待することができます。
養育費などの条項に不安があるとき
合意書の条項の書き方などに不安がある場合は、公正証書の作成を検討された方が良いでしょう。
先取特権で養育費を回収するためには、「取決めを裏付ける文書」が必要となります。
「取決めを裏付ける文書」は、公正証書である必要はないものの、内容や体裁はしっかりしたものでなければなりません。
形式や内容に不備がある場合は、「取決めを裏付ける文書」として扱ってもらえない可能性があります。
そうすると、最悪の場合、先取特権を使うことができず、1円も回収することができない恐れもあります。
一方、公正証書を作成しておけば、このような書類の不備によるトラブルを防ぐことができます。
そのため、特に、弁護士に依頼せず、自分たちだけで養育費の取決めをした場合は、公正証書の作成を検討された方が良いでしょう。
先取特権で養育費を回収する手順
基本的な流れ
先取特権で養育費を回収する場合の基本的な流れは、次のとおりです。

①差押えの申立て
まずは、裁判所に申立書(差押命令申立書)と必要書類(「取決めを裏付ける文書」など)を提出し、差押えの申立てを行います。
申立先の裁判所は、相手(支払う側)の住所地を管轄する地方裁判所です。
申立書の書式は、裁判所の窓口やホームページから入手することができます。
参考:裁判所ホームページ|債権執行手続(養育費等に基づく差押え)で使う書式(一括)
②差押命令~債務者と第三債務者に送達
申立てが受け付けられると、裁判所による書類審査が行われます。
審査が済んだら、裁判所によって「差押命令」が発令され、債務者(相手方)や第三債務者(相手方の勤務先等)に送達(裁判所から正式に通知すること)されます。
③差押え
差押命令が送達されると、差押えの効力が生じます。
これにより、債務者(相手方)や第三債務者(相手の勤務先等)は、差し押さえられた財産を勝手に処分すること(使ったり、他人にあげたり、給料として支払ったりすること)ができなくなります。
④回収(取立て)
差押命令が相手方に送達された日から1週間が経過したら、実際にお金を回収をすることができるようになります。
回収は、第三債務者(相手方の勤務先等)に直接お金を請求して支払ってもらうという形で行うことができます(これを専門用語で「取立て」といいます。)。
例えば、相手の給料を差し押さえた場合は、第三債務者である勤務先(給料を支払う会社)から、給料の差押え分を直接自分に送金してもらうことができます。
財産調査の手続きをする場合の手順
先取特権で養育費を回収する手続きの申立書には、差し押さえる財産(どの財産から回収するか)を特定して記載する必要があります。
しかし、相手の勤務先(給料の情報)などがわからず、差し押さえる財産を特定して記載することができない場合もあります。
そのような場合は、差押えの手続きの前に、相手の財産情報を調べるための手続きを申し立てることができます。
具体的には、次の2つの手続きを行うことができます。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| ①財産開示手続 | 裁判所が相手本人を裁判所に呼び出し、財産目録を提出させる手続き (相手本人に自分の持っている財産を自ら開示させる手続き) |
| ②第三者からの情報取得手続 | 市区町村や日本年金機構、銀行などの「第三者」から、裁判所を通じて相手の勤務先や預貯金口座の情報提供を受ける手続き |
※勤務先を調べる場合は①→②の順で行います。預貯金口座を調べる場合は②から始めることもできます。
この2つの手続きを利用する場合の流れは、次のようになります。
財産調査する場合の手続きの流れ

なお、上記①~③は、別個の手続きであるため、これまで(法改正前)は、その都度申立てをする必要がありました。
しかし、今回の法改正により、勤務先を調査して給料を差し押さえるケースに限り、1回の申立てのみで①~③の一連の手続きを進めることもできるようになりました(反対の意思を示せば、別々に行うこともできます)。
これをワンストップ執行手続といいます。
ワンストップ執行手続を利用することで、裁判所への申立ての手間や費用が軽減され、よりスピーディーに相手の給与を差し押さえることが可能になりました。
しかし、書類作成は複雑であるため、手続きが不安な場合は弁護士のサポートを受けると安心です。
先取特権で養育費を回収するメリットとデメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
|
メリット
先取特権で養育費を回収する最大のメリットは、「債務名義がなくても差押えができる」ことです。
公正証書や調停調書といった正式な書類がなくても、養育費の「取決めを裏付ける文書」があれば、裁判なしですぐに回収手続きを行うことができます。
また、先取特権は優先的に回収できる特権です。
そのため、万一、他の債権者(相手に対してお金を請求できる立場にある人)と差押えが競合したような場合でも、優先的に回収ができるというメリットもあります。
デメリット
一方、デメリットは、回収できる金額が「月額8万円 × 子どもの人数」までに限定されているということです。
そのため、取決め額が子ども1人につき月額8万円を超える場合は、先取特権だけでは全額を回収することができません。
また、先取特権を使って回収できるのは、2026年4月1日以降に生じた未払い分に限られます。
2026年3月31日以前に生じた未払い分については、先取特権を使って回収することはできません。
先取特権で養育費を回収するポイント
先取特権を行使できる合意文書を作成する
先取特権で養育費を回収するためには、「取決めを裏付ける文書」が必要です。
そのため、養育費の取決めをした際には、必ず取決め内容について書面を作成するようにしましょう。
先取特権を使う際、「取決めを裏付ける文書」と扱ってもらえる文書とするためには、最低限、次のような事項は記載しておくようにしましょう。
- 支払う人・もらう人・対象となる子どもの氏名
- 子どもごとの養育費の金額・支払期間(いつからいつまで払うか)・支払時期・支払方法
- 合意書の作成日
- 当事者(父母)の署名・押印
その他、子どもの進学など状況変化が生じた際に再協議することを約束する条項や、既払いの法定養育費の清算に関する条項を入れるべきケースもあります。
以下のページでは、養育費の合意書のサンプルを紹介していますので、参考になさってください。
弁護士に合意書を作成してもらう
合意文書を作成しても、形式や内容面に不備があると、「取決めを裏付ける文書」として扱ってもらうことができず、最悪の場合は先取特権を使えない恐れもあります。
このような事態を防ぐためには、弁護士に合意書を作成してもらうことを検討されるとよいでしょう。
離婚問題に詳しい弁護士に依頼すれば、形式面だけでなく、合意の内容面(金額が適正かなど)についても助言をもらうことができます。
適切な合意内容とするために、弁護士に代理人として相手と直接交渉をしてもらうことも可能です。
そのため、弁護士に依頼することで、形式面はもちろん、内容面も適切な文書を作成することができ、後で「もっと請求できたのに」などと後悔する事態も防ぐことができます。
先取特権に頼らず養育費を回収する方法
養育費の先取特権は、相手の財産を差押え、強制的に回収するという強力な手段です。
そのため、安易に使うと、相手が感情を害し、仕事を辞めたり、行方をくらましたりして、安定的な回収がむしろ難しくなってしまうリスクもあります。
また、手続きも決して簡単なものではありません。
差し押さえる財産の特定や取立てが上手く行かず、負担が大きくなるケースもあります。
そのため、先取特権は「最終手段」と考えるべきです。
先取特権に頼らずに回収できるのであれば、それに越したことはありません。
そこで、ここでは、先取特権に頼らずに養育費を回収する方法について解説していきます。
相手に連絡してみる
相手と連絡が取れる場合は、まずは相手に連絡し、支払うように伝えるべきでしょう。
相手に悪気はなく、単に支払いを忘れているだけという場合もあります。
また、相手が経済的に苦しく、支払いたくても支払えない状況にある場合もあります。
このような場合は、先取特権を使って回収しようとしても、差し押さえられる財産がなく、空振りに終わってしまうことがあります。
そのため、強制的な手段に出る前に、話し合いにより、支払いを猶予してあげることなどを検討するべきでしょう。
その方が、長い目で見れば回収率が上がることが多いです。
弁護士から養育費を請求してもらう
相手に直接連絡しにくい場合や、相手が「支払えるのに支払わない」様子である場合には、弁護士に依頼し、弁護士から相手に対して請求をしてもらうことをお勧めします。
弁護士に請求してもらうことで、相手に「支払わないと法的な手段をとられてしまう」とのプレッシャーを与えることができるため、任意の支払いを促せるケースは多いです。
履行勧告や履行命令について
調停など、裁判所の手続きで養育費の取決めをした場合は、「履行勧告」や「履行命令」の制度を使うこともできます。
「履行勧告」とは、裁判所から、支払義務者に対し、「取決め通りに支払いをしてください」と勧告する制度です。
しかし、あくまでも任意に支払うことを促すにとどまり、強制力や罰則はありません。
そのため、効果的でない場合も多く、実務ではあまり多くは利用されていません。
「履行命令」とは、裁判所から、支払義務者に対し、相当な期間を定めて支払いを命令する制度です。
裁判所による「命令」ですから、履行勧告よりも強力で、違反した場合には10万円以下の過料に処せられます。
しかし、制裁が軽微であるため、実務では履行勧告と同様、利用されることは多くはありません。
養育費の先取特権についてのQ&A
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養育費の先取特権はいつから適用されますか?
施行日以前に離婚した人も、先取特権を使うことはできます。
ただし、先取特権を使って回収できるのは、支払日が2026年4月1日以降に到来する養育費に限られます。
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相手が無職の場合、先取特権や差押えはどうなりますか?
相手が無職の場合、給料の差押えはできませんが、預貯金や不動産などの給料以外の財産がある場合は、先取特権に基づきこれらを差し押さえることができます。
しかし、給料以外の財産もほとんどない場合は、差し押さえられる財産がないため、先取特権を使っても回収することは難しくなります。
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過去の未払い分も優先的に回収できますか?
ただし、先取特権を使って回収できるのは、支払日が2026年4月1日以降に到来する養育費に限られます。
支払日がそれ以前の過去の未払い分については、先取特権を使って優先的に回収することはできません。
まとめ
以上、養育費の先取特権について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
法改正により、公正証書などの債務名義がない場合でも、先取特権で直ちに養育費の回収手続きを行うことができるようになりました。
ただ、先取特権を使って回収するには、「取決めを裏付ける文書」が必要となります。
そのため、養育費の取決めの際には、適切な合意文書を作成することが重要なポイントとなります。
また、実際に先取特権を使って回収をしていく際には、差押えの申立てなど、手続きが難しいと感じる場面もあるかと思います。
先取特権に頼らずに回収する方法を検討すべき場合もあります。
そのため、養育費の回収をお考えの場合は、まずは離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めいたします。
当事務所には、離婚問題に精通した弁護士のみで構成された専門チームがあり、養育費の問題に悩む方々を強力にサポートしています。
LINEや電話での相談も実施しており、全国対応が可能です。
養育費の問題でお困りの方はお気軽にご相談ください。

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