一度婚姻費用を決めたあとでの減額は認められますか?
私は現在妻と離婚協議中です。
婚姻費用については相手が調停を申し立て、調停が成立したため、毎月の支払額はすでに決まっています。
しかし、私は今の職場を離れ、別の職場に行くことになりました。それに伴い、私の収入は減ることになります。
婚姻費用の減額は認められますか?
状況によっては、減額が認められない場合があります。
婚姻費用変更の要件
婚姻費用を変更するにあたり、民法には「協議又は審判があった事情に変更を生じたとき」という定めがあるのみです(民法880条)
もっとも、夫婦間の扶養義務を考えるにあたり、当事者の生活状況にあわせて柔軟に対応すべきとされています。
そのため、変更が認められるかどうかは、①合意の時から事情の変更があること、②変更の必要性、③変更の相当性が認められるかどうかを検討する必要があります。
事情変更とは
事情変更があったといえる場合は、元々取り決められたとおりの内容を維持することが当事者にとって不公平になる場合と考えられます。
この事情変更の判断にあたっては、
-
- 合意の前提となっていた客観的事情に変更が生じたこと
例:上記のケースですと、別の職場に行くことで収入が減ることになること - その事情変更を当事者が予見できなかったこと
- 事情変更が当事者の責任によって生じたものではないこと
- 元々の合意どおりの履行を強制することが著しく公平に反すること
- 合意の前提となっていた客観的事情に変更が生じたこと
といった様々な事情を総合的に考慮して判断することになります。
事情変更の具体例
事情変更があったのではないかとして、しばしばご相談いただくのは、今回のご相談のように収入が減った場合が多いと思われます。
収入の減少の原因は、
- 転職をした
- 会社の業績が悪化した
- 病気のために、仕事をセーブせざるを得なくなった
など様々です。
大阪高裁平成22年3月3日決定
今回のご相談については、大阪高裁平成22年3月3日決定が参考になります。
この審判例では、歯科医である夫が、勤務先の病院を退職して収入が減少したため、すでに成立している婚姻費用の減額を申し立てた事例です。
大阪高裁は、夫の減額を認めませんでした。
この例では、夫の収入は前件調停成立時に比して約3割減少していることが認められています。
しかし、
判例
「退職の理由について、人事の都合でやむを得なかった旨主張するが、実際にやむを得なかったか否かはこれを明らかにする証拠がない上、仮に退職がやむを得なかったとしても、その年齢、資格、経験等からみて、同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができる。
そうすると、相手方(夫)が大学の研究生として勤務しているのは、自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり、その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。」
と結論付けました。
上記の夫の復職先は大学の研究生でした。
もともと歯科医として勤務していたことからすれば、要するに「もっと働く能力はあるでしょ。」ということです。
そのため、変更の必要性も相当性もない、と結論付けたものと考えられます。
証拠が必要
さらに注目すべきは、退職の理由を示す証拠の有無に言及している点です。
先ほど述べたように、扶養義務の判断は生活状況にあわせて柔軟に考えなければなりません。
そのため、やむを得ず退職をしなければならなかったのであれば、婚姻費用は減額されてしかるべきです。
しかし、判断をする裁判所としては、証拠もなく検討することはできません。
先の審判例においても、「人事の都合」とは何なのか、判断のしようがなかったものと推測されます。
そのため、判断材料は、「夫は歯科医として勤務していた」「退職した」「復職先は大学の研究生である」という事実だけですので、減額が認められなかったとしても無理はありません。
一度合意した内容を変更するためには、相手を説得するための材料が必要になります。
勤務先の人事を明らかにする資料を収集するのは難しいものですが、少なくとも、どのような理由で退職するのか、明確な理由を確認しておくことが必要です。
なお、大前提として、しっかり将来のことを予測しながら合意しなければなりません。
安易な合意は避けるべきです。
今回の相談者のケースでも、なぜ退職することになったのか、その証拠はあるのか、調停で合意した際、退職を予測できなかったのか、といった事情を詳細に検討しなければなりません。
当事務所の弁護士にご相談ください
婚姻費用の変更の問題は、個別具体的な事情により、上記の判断要素や裁判例なども参考にしながら、見通しを立てていく問題といえます。
現在の婚姻費用のことでお悩みの方は、こうした問題に精通した弁護士へのご相談をお勧めします。
お気軽にご相談ください。
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