財産分与と税金の関係とは?【弁護士が解説】
離婚するとき、離婚条件のひとつに財産分与があります。
財産分与は、資産の移転を伴うため、課税リスクについても押えてくべき必要があります。
ここでは、財産分与と税金に関するポイントについて解説します。
夫から財産をもらったら贈与税がかかる?
例えば、妻が夫から2000万円の贈与を受けたとします。このような場合、たとえ夫婦であっても、妻には贈与税という税金がかかってくるのです。
贈与税の場合、1年間(1月1日から12月31日まで)の間にもらった財産を合計し、その額から110万円の基礎控除を差し引きます。その残りの金額に税率を乗じて税額が算出されます。
税率は最低10パーセントから最高50パーセントです。2000万円の贈与を受けた場合は、720万円を税金として支払わなければなりません。

基礎控除後の課税金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | なし |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1000万円超え | 50% | 225万円 |
贈与税の算定方法
上記早見表に基礎控除の110万円を差し引いた後の金額をあてはめて計算してください。
具体例 贈与財産の価額の合計が2000万円の場合
基礎控除顔の課税価格 2000万円 − 110万円 = 1890万円
贈与税額の計算 1890万円 × 50% − 225万円 = 720万円
贈与税がかからない場合
このように、夫婦であっても贈与を受けると税金がかかってきますが、例外もあります。
夫婦の場合は、生活費や教育費に充てるために贈与を受けた財産で、かつ、通常必要と認められるものについては、贈与税がかかってきません。
したがって、食費や学費、教材費などについては贈与税はかかりません。
ただし、生活費や教育費名目で贈与を受けていても、それを預金したり、不動産等の買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。
また、結婚期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するため に金銭を贈与した場合は、基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで控除できます。
したがって、上記の事例で、2000万円の贈与が居住用不動産を 取得するための贈与であれば、贈与税はかかってこないことになります。
財産分与に税金?
夫婦の間であっても、基本的には贈与税がかかるということをご説明しました。
それでは、これから離婚しようとしている夫婦の場合はどうでしょうか。
夫が妻にたいして、財産分与として、2000万円を分与する場合も上記と同じように贈与税がかかってくるのでしょうか。
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が形成してきた実質的共有財産を分ける制度です。すなわち、財産分与は、相手の財産から贈与を受けるものではなく、夫婦の財産関係の精算のために、給付を受けるものと考えられています。
したがって、通常は贈与税の心配はいりません。
ただし、財産分与であっても、次のいずれかに当てはまる場合には贈与税がかかります。
分与された財産の額が夫婦の協力によって得た財産の額やその他のすべての事情を考慮してもなお多すぎる場合
この場合、その多すぎる部分に贈与税がかかることになります。
例えば、先ほどの事例で、夫婦の実質的共有財産が2000万円しかなかったとします。
財産分与の2分の1ルールによれば、通常の場合、それぞれの取得分は 1000万円ずつとなります。
ところが、夫が妻に全部の2000万円を分与したような場合で、特に合理的な事情がなければ、妻の取得は多すぎると評価さ れ、1000万円の部分については、贈与税がかかってくることとなるでしょう。
離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
この場合は、離婚によってもらったすべての財産に贈与税がかかってきます。
例えば、夫婦の間にまったく離婚する意思がないのに、相続税の適用を免れるために離婚届を出して財産を分与するような場合があげられます。
自宅を分与する場合は税金に注意
自宅などの不動産を分与するときは譲渡所得の課税対象となる場合があるため、注意が必要です。
例えば、夫が妻に対して、10年前に5000万円で購入した自宅を財産分与として分与したとします。
このとき、財産分与の時点で自宅の時価が不動産の取得費に譲渡費用を加えた金額を上回っていれば、夫はその差額(譲渡益)について、譲渡所得税を支払わなければならない可能性があります。
したがって、自宅等の不動産を分与する場合、まず、譲渡益が発生しているかどうかを判断すべきです。
譲渡益の計算方法
自宅等の不動産の財産分与の場合、譲渡益(課税譲渡所得金額)が発生しているかどうかは、次の計算式で判断します。
譲渡益(課税譲渡所得金額)= 不動産の時価 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除
以下、この算出方法について詳しく解説します。
取得費とは
次の①または②の大きい金額を使います。
① 概算法
譲渡価額(財産分与時の時価)の5パーセント
② 実額法
土地や建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などの取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費などの額を加えた合計額なお、建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算。
取得費の詳細については、国税庁のホームページを御覧ください。
取得費となるもの
譲渡費用とは
譲渡費用とは、土地や建物を売るために支出した費用で、直接要したものをいい、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代などです。
また、譲渡価額を増加させるために譲渡に際して支出した費用も含まれます。
ただし、維持管理費用(修繕費や固定資産税等)は譲渡費用に含まれません。
譲渡費用の詳細については、国税庁のホームページを御覧ください。
譲渡費用となるもの
特別控除とは
特別控除には、例えば、以下のものがあります。
- 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例(措置法35)
- 収用交換等の場合の5,000万円控除の特例(措置法33の4)
- 特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の2,000万円控除の特例(措置法34)
特別控除について、詳しくは国税庁のページをご覧ください。
譲渡所得の特別控除の種類
財産分与の場面では、「居住用財産を譲渡した場合の特例」に該当する可能性があります。
譲渡益が発生している場合
不動産を売却した場合の譲渡所得税は、次のとおり所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得の二つに区分し、税金の計算も別々に行います。
譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものをいう。
譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のものをいう
※所有期間とは土地や建物の取得の日から引き続き所有していた期間をいう。
この場合、相続や贈与により取得したものは、原則として、被相続人や贈与者の取得した日から計算する。
また、譲渡の年の1月1日において所有期間が10年を超える自己の居住用財産(居住用家屋やその敷地)を譲渡した場合には、その居住用財産の譲渡に係る課税譲渡所得が6000万円以下の部分に対して軽減税率が適用されます。
ただし、この軽減税率は、夫婦などの特別な関係がある者への譲渡は対象となりません。
また、その他一定の要件※を満たす必要があります。※適用要件については国税庁のホームページ参照
マイホームを売ったときの軽減税率の特例
所有期間に応じた、譲渡所得の税率をまとめると下表のとおりとなります。
所有期間 | |||
長短 | 短期 | 長期 | |
期間 | 5年以下 | 5年超 | 10年超所有軽減税率の特例 |
居住用 | 39.63%
(所得税30.63%+住民税9%) |
20.315%
(所得税15.315%+住民税5%) |
・6000万円以下の部分14.21%(所得税10.21%+住民税4%)
・6000万円超の部分 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
非居住用 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
※上表の所得税の税率:令和19年までは復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%が上乗せされている。
以下、所有期間が長期の場合と短期の場合とで、具体例を用いて税額を算出します。
長期譲渡所得の場合の税金の計算
譲渡益(課税長期譲渡所得金額)の計算
不動産の時価 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
税額の計算(10年未満の場合)
所得税=譲渡益×15.315%
住民税=譲渡益×5%
具体例 8年前に購入した不動産(土地、建物)を相手に分与した場合
時価:6000万円
土地建物の取得費(建物は減価償却費相当額を控除した後):5000万円
譲渡費用(登記費用など):100万円
課税長期譲渡所得金額の計算
6000万円 -(5000万円 + 100万円)= 900万円
税額の計算
所得税 900万円 × 15.315% = 137万8350円
住民税 900万円 × 5% = 45万円
合計 137万8350円 + 45万円 = 182万8350円
短期譲渡所得の場合の税金の計算
譲渡益(課税短期譲渡所得金額)の計算
不動産の時価 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
税額の計算
所得税 = 譲渡益 × 30.63%
住民税 = 譲渡益 × 9%
具体例 3年前に購入した不動産(土地、建物)を相手に分与した場合
時価:6000万円
土地・建物の取得費(建物は減価償却費相当額を控除した後):5000万円
譲渡費用(登記費用など):100万円
課税長期譲渡所得金額の計算
6000万円 -(5000万円 + 100万円)= 900万円
税額の計算
所得税 900万円 × 30.63% = 275万6700円
住民税 900万円 × 9% = 81万円
合 計 275万6700円 + 81万円 = 356万6700円
譲渡所得税の計算について、詳しく説明しましたが、譲渡益が発生しても、譲渡所得税を抑える方法があります。
それは、次の控除の制度をうまく活用することです。
自宅を譲渡した場合の特例
譲渡所得金額の算出において、居住用財産を譲渡し、かつ、一定の要件に当てはまるときは、所有期間の長さに関係なく、時価から最高3000万円を控除できます(3000万円の特別控除の特例)。
この特例をうまく活用することで、譲渡所得の税額を通常の場合よりも抑えることが可能となる。
ただし、この制度は配偶者など特別の関係がある者への譲渡には適用されない。
すなわち、この特別控除を活用する場合、居住用財産の譲渡を「離婚後」のタイミングで行なうことが必要となります。
☑要件1:自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を譲渡すること。※以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに譲渡することが必要です。
☑要件2:譲渡した年の前年及び前々年に以下の特例の適用を受けていないこと。
- この特例(3000万円の特別控除)
- マイホームの買換えやマイホームの交換の特例
- マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例
☑要件3:譲渡した家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
☑要件4:災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。
☑要件5:住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の2つの要件すべてに当てはまること。
①その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
②家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
適用除外
以下の場合は、この特例は利用できません。
☑この特例を受けるためだけに入居したような家屋
☑居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋など、一時的な目的で入居したような家屋
☑別荘などのように趣味、娯楽、保養のために所有している家屋
なお、3000万円の特別控除の特例は、上述した10年超所有軽減税率の特例と重ねて受けることが可能です。
10年超所有軽減税率の特例も配偶者が相手の場合は適用されないため、適用を受けるためには「離婚後」のタイミングで譲渡することが必要となります。
財産分与で自宅を取得する場合は注意
不動産取得税
不動産を受け取ると、「受け取った側」に次の計算による税金が課せられます。
取得したときの不動産の価格 × 4%※
令和6年3月31日までは、以下の税率となります。
土地 | 家屋(住宅) | 家屋(住宅以外) |
---|---|---|
3% | 3% | 4% |
また、宅地及び宅地に準じて評価された土地(宅地比準土地)を令和6年3月31日までに取得した場合は、課税標準となるべき価格が2分の1に軽減されます。
不動産取得税、非課税となる要件、軽減措置等については、お住まいの県のホームページ等で最新情報を御覧ください。
福岡県の不動産取得税はこちらのページをご覧ください。
不動産取得税
財産分与に不動産取得税?
では、財産分与として不動産をもらった場合はこの不動産取得税を支払わなければならないのでしょうか。
この場合、財産分与の中身によって変わってきます。
すなわち、財産分与の法的性質は、次の3つが考えられています。
- ① 清算的財産分与(婚姻中の共有財産の分与)
- ② 扶養的財産分与(離婚の後に一方の生活を補うための分与)
- ③ 慰謝料的財産分与(精神的な損害に対しての分与)
不動産取得税は、上記の①の清算的財産分与については課税されません。
これは、①については、夫婦の実質的共有財産を精算し、妻(または夫)の取得分を確認したにすぎず、実体としては財産の移転ではないと考えられるからです。
しかし、②扶養的財産分与と③慰謝料的財産分与については、夫婦財産の清算にあたらないため課税されます。
このように、財産分与の中身で課税されるか否かが変わってくるので、離婚協議書を作成する際、財産分与の内容を証明できるようにするのが望ましいでしょう。
登録免許税
せっかく不動産を財産分与でもらっても、登記をしなければ安心できません。そこで、財産分与後は、相手名義の不動産を自分名義に変更します。
その名義変更の際、登記を受ける者に対して課税されるのが登録免許税という税金です。
財産分与の場合の登録免許税の税率は、固定資産税評価額の2パーセントです。
具体例 夫が妻に対して、土地1筆(評価額2000万円)、建物1棟(評価額1000万円)の財産分与を行った場合
登録免許税 3000万円 × 2% = 60万円上記のように、3000万円の自宅を財産分与でもらった場合、登録免許税は60万円にも上りますので、注意が必要です。
また、名義変更手続きを司法書士に頼んだ場合、手数料が必要となります。
もっとも、この登録免許税やそのた登記費用の手数料等については、離婚協議書の中で「分与した側が支払う」と取り決めておけば、相手に負担させることも可能です。
まとめ
以上、離婚財産分与における税務問題について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
離婚する場合、通常、財産分与、養育費、慰謝料等の金銭面には大きな関心がありますが、税務問題については軽視されがちです。
しかし、課税リスクを把握しておかないと、離婚が成立した後、高額な税金を支払う必要が生じた場合、思わぬ負担となります。
そのため、財産分与が複雑な事案などでは、離婚問題に精通しているだけでなく、税務問題に精通した弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
デイライト法律事務所の離婚事件チームには、離婚問題に注力する弁護士のほか、税理士資格を有する弁護士が所属しており、離婚や税務問題を強力にサポートしています。
離婚問題や税務問題について、お気軽にご相談ください。
ご相談の流れはこちらからどうぞ。
養育費と税金の問題については、こちらのページをご覧ください。
慰謝料と税金の問題については、こちらのページをご覧ください。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?