交通事故の調停とは?デメリットや手続の流れを完全解説
交通事故の調停とは、交通事故によって生じた損害賠償についての紛争を解決するために行う民事調停のことです。
交通事故の調停は、裁判所で、民事調停委員を間に立てて行われます。
裁判所での手続きとはいっても、調停は、裁判とは違って当事者間で合意することによって問題を解決することを目指すものになります。
交通事故の調停は、当事者自身でも行うことができますが、より適切な主張や資料を提出し、より有利に調停を進めるためには、弁護士に依頼することをお勧めします。
今回の記事では、交通事故の調停の意味、交通事故の調停と示談交渉・裁判・ADRの違い、交通事故の調停の手続き、交通事故の調停のメリット・デメリット、交通事故の調停を申し立てた方が良いケースとそうでないケースなどについて解説していきます。
目次
交通事故の調停とは?
交通事故の調停の意味
交通事故の調停は、交通事故についての損害賠償に関する民事調停です。
交通事故では、慰謝料、治療費、休業損害、車の修理代などについての損害賠償が発生します。
交通事故の損害賠償の内容、金額については、当事者双方で示談交渉をして決めることが多いです。
しかし、中には、示談交渉をしていても双方折り合うことができず、損害賠償に関する紛争が解決できない場合があります。
このような場合には、法的手続きによって解決を図っていくことが必要になります。
その法的手続きの一つが、民事調停です。
民事調停は、裁判所に申し立てて行いますが、あくまで当事者双方で話し合って紛争を解決する手続きになります。
なお、交通事故に関する調停については、法律上「交通調停」という類型がありますが、これは、対象が人身事故に限定されたものとなっています(民事調停法33条の2)。
交通事故の調停と示談交渉との違い
示談交渉は、裁判所外で、当事者間で直接話し合って行います。
一方、交通事故の調停は、裁判所で、民事調停委員を間に立てて行います。
民事調停委員は、弁護士、民事もしくは家事の紛争解決に有用な知識を有する者等の中から選任されています。
損害賠償額の算定基準にも違いがあります。
示談交渉では、多くのケースでは加害者側の保険会社が関与し、自社の内部基準である任意保険基準によって損害賠償額を算定しています。
しかし、この任意保険基準による算定額は、比較的低額になる傾向があります。
一方、調停では、民事調停委員は、被害者に最も有利な弁護士基準(「裁判基準」ともいう)に近い額で損害額を算定してくれることが多いです。
そのため、交通事故の調停を利用すると、示談交渉の際よりは賠償金額が増額できる可能性があります。
示談交渉については、以下のページもご覧ください。
交通事故の調停と裁判との違い
交通事故の調停と裁判では、最終的に裁判官の判断(判決)で紛争を解決することができるかどうか、という点に大きな違いがあります。
裁判の場合、当事者双方で合意ができなくても、最終的には裁判所が判決を出すことによって事件が解決することになります。
一方、交通事故の調停の場合は、当事者双方が合意できなければ、調停不成立となり、紛争の解決になりません。
なお、交通事故の調停の場合でも、当事者間で合意が成立しそうにない場合に、裁判所から調停に代わる決定が出されることがあります(民事調停法17条)。
しかし、調停に代わる決定は、当事者の一方が異議を申し立てるだけで効力を失ってしまい、調停不成立と同じ状態になってしまいます。
ほかにも、
- 調停では証人尋問などの厳格な証拠調べ手続が行われない
- 調停には民事調停委員が関与する
などの違いもあります。
交通事故の裁判については、以下のページもご覧ください。
交通事故の調停とADRとの違い
ADRは、裁判外紛争解決手続きのことです。
ADRの多くは調停型となっており、第三者機関に間に立ってもらって当事者間で話し合い、解決を目指すものとなっています。
他方で、ADRは、文字通り「裁判外」で行われるものとなっており、その点、裁判所で行われる交通事故の調停とは異なります。
交通事故に関するADR機関としては、以下のようなものがあります。
- 紛争処理センター
- 日弁連交通事故相談センター
- そんぽADRセンター
紛争処理センターについては、以下のページもご覧ください。
交通事故の調停の手続き
交通事故の調停の流れ
調停申立て
交通事故の調停を始めるに当たっては、まずは、管轄の簡易裁判所に調停申立書を提出する必要があります(民事調停法4条の2)。
調停申立書については、交通事故の調停の申立書で詳しく解説します。
期日の指定
調停の申立てを受けた裁判所は、申立人と日程を調整し、調停期日を指定します。
調停期日の日程が決まると、裁判所は、相手方に対し、調停期日への出頭を求める呼出状を送ります。
なお、相手方が指定された期日に連絡なく出頭しないと、調停不成立又は調停に代わる決定となる可能性があります。
調停期日
調停期日では、当事者双方(又はその代理人)が裁判所に出頭し、話し合います。
話し合いは、裁判所の民事調停委員を間に立てて行われます。
双方の当事者を同席させるケースもありますが、多くの場合は、一方の当事者が民事調停委員と話している間、他方の当事者は別室で待機することになります。
当事者は、この調停期日で、お互いの言い分を出し合います。
そのうえで、民事調停委員の意見も聞き、どのような内容なら合意できるかなどについて話し合っていきます。
1回目の調停で合意に至ったり、あるいは、全く話し合いにならない場合には、1回で調停は終了しますが、話し合いの余地がある場合には、何度か調停を重ねることになります。
1〜1ヶ月半程度おきに調停期日は行われ、調停の回数に上限はありません。
調停成立・不成立・調停に代わる決定
当事者双方が納得のいく解決方法が見つかった場合には、それを調停条項案にまとめます。
この調停条項案に双方が同意すると、調停成立となります。
調停が成立すると、裁判上の和解と同一の効力が生じます。
当事者双方が合意できる調停条項案ができない場合は、調停不成立となるか、又は、調停に代わる決定が行われます。
調停不成立の場合、調停手続きはそこで終了となります。
この場合、紛争に関しては何らの結論も出ていない状態になりますので、改めて訴訟を提起するなどして解決を図っていくことになります。
一方で、中には、裁判所から調停に代わる決定が出されるケースもあります(民事調停法17条)。
調停に代わる決定では、裁判所が、民事調停委員の意見を聞き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、事件の解決のために必要な決定をします。
この決定に対しては、当事者又は利害関係人から異議の申立てをすることができます(民事調停法18条1項)。
異議の申立てがあった場合は、調停に代わる決定は効力を失います(同条4項)。
異議の申立てがない場合は、調停に代わる決定は裁判上の和解と同一の効力をもつことになり、紛争は解決となります(同条5項)。
交通事故の調停の必要書類
交通事故の調停の申立書
調停申立書には、以下の事項などを記載します。
- 申立人と相手方の住所・氏名
- 申立ての趣旨(例:「相手方は、申立人に対して、金○○円を支払うこととの調停を求める。」など)
- 紛争の要点(交通事故の内容(発生日時、場所、加害者の車種、被害の程度など)、損害額など)
人身事故に関する調停(交通調停)についての調停申立書の書式は、各裁判所の窓口及び以下の裁判所のHPから入手することができます。
参考:交通調停 | 裁判所
事故状況を示す資料
交通事故の調停の場合、事故の状況について調停委員に理解しておいてもらうことが大切です。
そのため、事故状況等を示す資料として、
- 交通事故証明書
- 事故車両や事故現場の写真
- ドライブレコーダなどの映像
- 事故時の状況について記載した報告書
- 実況見分調書の写し
などを提出することが考えられます。
事故状況に関する証拠については、以下のページもご覧ください。
損害の状況を示す資料
交通事故によって生じた損害の資料も、必要に応じて提出しましょう。
損害に関する資料としては、たとえば以下のようなものが考えられます。
- 診断書
- 後遺障害診断書(後遺障害がある場合)
- 後遺障害等級の認定結果及び理由が書かれている書面(後遺障害がある場合)
- 診療報酬明細書
- 薬品代・装具代の領収書
- 通院交通費の明細書
- 休業損害証明書
- 事故前年の源泉徴収票、確定申告控え など
自分の主張を裏付ける資料
調停の前の示談交渉で、相手方とどの点で争いになっているかが分かっている場合は、その点についての自分の言い分を裏付ける資料を準備しておくと良いです。
たとえば、次のようなことが考えられます。
⇒ケガの影響で家事ができなかったことについて説明した陳述書を準備する。家事代行などを利用した場合は、その領収証も提出する。
⇒事故の時の状況について説明した陳述書を準備する(同乗者がいれば、同乗者の陳述書も準備することも考えられる)
交通事故の調停はどこに申し立てる?管轄について
調停の管轄裁判所は、原則として、相手方の住所、居所、営業所又は事務所の所在地を管轄する簡易裁判所になります(民事調停法3条1項)。
当事者間で合意すれば、他の地方裁判所又は簡易裁判所を管轄裁判所とすることもできます(同項)。
加えて、交通事故の調停のうち人身事故における損害賠償の紛争に関する調停(交通調停)については、損害賠償を請求する者の住所又は居所の所在地を管轄する簡易裁判所も管轄裁判所となります(民事調停法33条の2)。
交通事故の調停の解決までの期間
令和5年の全簡易裁判所における交通調停の調停既済事件の審理期間は、以下のようになっています。
参考:令和5年司法統計年報 1民事・行政編 「第79表 調停既済事件数―事件の種類及び審理期間別―全簡易裁判所」|最高裁判所総務局
このように、交通調停の半数以上は6か月以内に終了し、約9割は1年以内に終わっています。
交通事故の調停の費用
調停を申し立てる際には、申立手数料を納める必要があります。
調停の申立手数料の額は、支払いを求める金額によって変わります。
支払いを求める金額が180万円の場合⇨ 7000円
支払いを求める金額が500万円の場合⇨
1万5000円
支払いを求める金額が1000万円の場合⇨ 2万5000円
なお、この調停費用は、調停が不成立となるなどして裁判を提起する場合、訴え提起の費用に充当されますので、その分裁判の提起にかかる費用が安くなります(民事訴訟費用等に関する法律第5条1項)。
交通事故の調停のメリットとデメリット
交通事故の調停のメリット
交通事故の調停のメリットとしては、次のようなものがあります。
調停委員会が間に立ってくれる
調停では、示談交渉とは違って民事調停委員が間に立ってくれます。
第三者である民事調停委員が間に立つと、当事者間では話が進まなくなっていた場合でも、示談交渉が前進することがあります。
被害者に最も有利な弁護士基準に近い額で合意できることが多い
加害者側の保険会社が窓口となっている示談交渉では、被害者側が弁護士に依頼しない限り、弁護士基準よりも算定額が低くなる任意保険基準に沿った賠償金額で話が進められます。
一方、調停の際に裁判所で交通事故の損害賠償額を算定する場合、被害者に最も有利な弁護士基準がベースとなります。
そのため、調停を利用すれば、弁護士に依頼しなくても、弁護士基準で算定した賠償金額に近い額を得られるチャンスが出てきます。
損害賠償の算定基準ごとの算定額の違いについては、以下のページもご覧ください。
裁判よりも費用がかからない
調停の申立費用は、訴えの提起に係る費用の半額程度となっています。
そのため、調停を利用すれば、手続きにかかる費用を抑えることができます。
手続きが簡単で時間もかからない
調停の手続は裁判のように厳格なものではないので、裁判と比べて簡単に行うことができます。
それに、証人尋問なども行われず、裁判官が判決文を作成する必要もないので、当事者間で合意ができさえすれば、裁判の場合ほど時間をかけずに解決することができます。
非公開で行われる
調停は裁判と違い非公開で行われるので、プライバシーを守ることができます。
交通事故の調停のデメリット
交通事故の調停のデメリットとしては、以下のようなものがあります。
厳格な事実認定が行われない
調停では、裁判の場合ほどに厳格な証拠調べや事実認定が行われるわけではありません。
そもそも、調停は、事実を確定させる場ではなく、当事者間で話し合い、合意によって紛争を解決することを目指す場なので、事実がどうであったかについては、裁判の場合ほど重視されません。
そのため、当事者間で事故態様などの事実関係について争っており、事実を確定させた上で話し合いを進めたい場合は、調停での解決には適さない可能性があります。
合意ができないと解決できない
調停の場合、当事者間で合意ができなければ、問題を解決することができません。
この点が、当事者間で合意できなくても裁判所の判決によって問題を解決できる裁判との大きな違いです。
そのため、双方の主張の隔たりが大きく、話し合っても合意ができそうにないケースでは、調停を申し立てても、時間の無駄になってしまう可能性が高いです。
こうしたケースでは、最初から裁判を起こした方が、早期に問題を解決できる可能性が高いです。
交通事故の調停を申し立てた方が良いケース
交通事故の調停を申し立てた方が良いケースには、次のようなものがあります。
時効の成立が迫っている場合
調停の申立てには、時効の完成猶予の効果があります(民法147条1項三号)。
そのため、示談交渉をしているうちに時効成立の時期が迫ってきた場合には、交通事故の調停を申し立てることで、時効の完成を阻止することができます。
「時効成立が迫っているけれども、もう少し話し合えば解決できそうだ。」
「時効成立が間近に迫っていて、訴訟を提起するための資料や書類の準備が間に合わない」
などという場合には、まずは調停を申し立て、時効を完成させないようにしましょう。
その後は、調停が成立すれば、その時からまた改めて、ゼロから時効が進行します。
一方、調停で合意ができず調停不成立となった場合は、その時から6か月以内に訴訟を提起しないと、いったん完成が猶予された時効が、再度その続きから進行し始めますので、注意が必要です。
時効については、以下のページもご覧ください。
加害者が任意保険に加入しておらず、示談交渉が難航している場合
加害者が任意保険に入っていないと、保険会社が交渉窓口となってくれません。
そうすると、交通事故の損害賠償についての知識・経験が乏しい加害者本人を相手に交渉しなければならず、示談交渉が難航することがあります。
そのような場合には、交通事故の調停を申し立てれば、民事調停委員が間に入ってくれるので、話がスムーズに進むようになる可能性があります。
相手方の要求が過大な場合
相手方が明らかに過大な要求をしている場合にも、交通事故の調停を利用することで、順調に話を進められるようになる可能性があります。
これは、相手方が過大な要求をしている場合だと、民事調停委員から説得してもらうことで、相手方が自分の言い分が通らないことを認識してくれる可能性があるためです。
相手方が過大な要求を取り下げてくれれば、順調に話し合いが進むようになり、調停によって問題を解決できる可能性があります。
交通事故の調停以外の方法を検討すべきケース
事実関係について争いがある場合
交通事故の調停はあくまで話し合いのためのものであり、事実認定をするための手続ではありません。
そのため、証拠調べについて厳格な手続きが行われることはありません。
それに、調停は双方の当事者が同席しない形で進むことが多いので、相手方がどのような事実主張をしているのかを正確に把握することが難しく、的確な反論をすることができない可能性があります。
事故態様などの事実関係について争いがある場合には、交通事故の調停ではなく裁判を起こすことを検討した方が良いでしょう。
お互いの主張が大きく異なっている場合
当事者双方が主張する内容(過失割合、損害額など)が大きく異なっている場合は、交通事故の調停で話し合いをしても、合意ができない可能性が高いです。
このような場合には、最初から裁判を起こすことを検討した方が良いでしょう。
交通事故の調停のよくあるQ&A
交通事故の調停は自分でできますか?

申立書も、裁判所のHPや裁判所窓口にある書式を利用すれば、一般の方でも簡単に作成できます。
調停期日にも、当事者自身で参加し、話を進めることができます。
手続きについて分からないことや不安な点がある場合は、簡易裁判所の窓口で案内してくれます。
交通事故の調停は弁護士に頼んだほうがいい?

弁護士に調停を依頼すれば、
- 事実関係や過失割合、損害額などについての資料や主張を十分に揃えて提出してくれる
- 弁護士基準に沿って賠償金額を算定し、主張してくれる
- ご本人に代わって調停委員と話をしてくれる
といったメリットがあります。
交通事故について弁護士に相談・依頼することのメリットについては、以下のページをご覧ください。
まとめ
今回の記事では、交通事故の調停について解説しました。
交通事故の調停は、裁判と比べて時間や費用もかからないので、上手く活用できれば、有力な紛争解決方法となります。
ただ、調停に適さない事案で交通事故の調停を行ってしまうと、結局調停では紛争を解決できずに裁判を起こすことが必要になり、調停のために費やした時間や労力が無駄になってしまうおそれがあります。
調停を起こすことをお考えの場合は、一度交通事故に強い弁護士に相談してみることをお勧めします。
当事務所では、交通事故問題を集中的に取り扱う交通事故チームを設け、交通事故の調停をお考えの方や調停手続きを弁護士に依頼す
ることをご検討中の方からのご相談に対応しております。
電話やオンラインでのご相談もお受けしております。
お困りの方はぜひ一度、当事務所までお気軽にご相談ください。