保険金や損害賠償金にも時効はある?

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)

損害賠償請求についての質問です。

加害者側の保険会社が気に入らないので話し合いを放置していました。

保険金や損害賠償金が請求できなくなることはありますか?

 

弁護士の回答

保険金請求権や損害賠償請求権にも時効があります。

したがって、示談交渉を放置したまま時効期間を経過してしまうと、保険会社や加害者から時効を主張され、保険金や賠償金を請求できなくなる場合があります。

時効を主張されないためには、時効完成を阻止する措置を講じておく必要があります。

 

自賠責保険金・共済金請求権の時効

時効期間

自賠責保険金・共済金の請求権は、3年間で消滅します。

なお、平成22年3月31日以前に発生した交通事故の自賠責保険金・共済金請求権の消滅時効は2年間とされていました。

注意点として、民法改正により人的損害に対する損害賠償請求権の時効期間が5年間に延長されていますが、自賠責保険金・共済金請求権の時効期間は3年間のままとなっています。

 

時効の起算点

自賠責保険金・共済金請求権の時効期間は、以下の表のとおり、損害項目によって起算点が異なります。

損害の区分 時効の起算日 時効完成
傷害 事故発生日 3年
後遺障害 症状固定日 3年
死亡 死亡日 3年

 

損害賠償請求権の時効

時効期間

交通事故によって被害者が負った損害に対する賠償金は、不法行為による損害賠償請求権として、損害及び加害者を知ったときから3年間の消滅時効にかかるのが原則です。(民法724条1号)。

ただし、民法改正により、「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」の消滅時効は5年間に延長されたため(民法724条の2)、交通事故の人的損害については消滅時効が5年間となります(令和2年4月1日までに時効が完成していた場合を除く)。

物的損害のみの場合は、従来通り3年間の消滅時効となります。

なお、自動車損害賠償責任法(以下、「自賠法」)の運行供用者責任(自賠法3条)についても、民法の規定を準用しているため、時効期間は民法と同じになります(自賠法4条)。

 

時効の起算点

交通事故3年間の時効の起算点は「損害及び加害者を知った時から」とされており(民法724条1号)、交通事故の場合は事故日が起算点とされるのが通常です。

ただし、ひき逃げや当て逃げの場合など、当初は加害者がわからず、後に警察の捜査などで加害者が判明したような場合は、加害者が判明した時点から3年間となることもあります。

また、後遺障害部分に対する賠償金については、症状固定時が起算点となるとされています。

 

 

任意自動車保険金請求権の時効

時効期間

加害者の任意自動車保険金や、被害者の人身障害保険金など、保険会社に対する保険金請求権は、3年間の時効にかかります(保険法95条1項)。

 

時効の起算点

これらの保険金請求権は、「権利を行使することができる時から」3年間の時効期間を算定します(保険法95条1項)。

請求する保険金の性質によって起算点が異なることになります。

 

 

時効の完成を阻止する方法

時効が完成してしまいそうな場合は、時効期間を経過する前に、以下のような方法をとっておく必要があります(改正民法では「時効の完成猶予及び更新」の事由、改正前民法では「時効の中断及び停止」事由といわれています。)。

 

①裁判上の請求

加害者や保険会社に対して訴訟を提起する方法です。

②支払督促

支払督促とは、裁判所を通じて債務者(加害者)に支払いを督促する手続きで、裁判所に支払督促の申立てをして行います。

訴訟よりは簡易な方法ですが、債務者(加害者)が請求額に異議を述べると訴訟に移行しなければならなくなります。

③調停の申立て

加害者や保険会社に対して民事調停を申し立てる方法です。

④催告

口頭や書面で支払いを求める方法で、一般的には内容証明郵便を加害者や保険会社に送付して行います。

催告は一番簡単な時効の完成猶予事由ですが、その分、催告によって認められる完成猶予の期間は6か月と短くなっています(民法150条1項)。

そのため、催告から6か月以内に催告以外の事由により、時効完成を阻止しなければなりません。

⑤債務の承認

加害者や保険会社が損害賠償請求権の存在を認めたり、一部を支払ったりすることです。

債務の承認があると時効が更新され、債務の承認があった時点から再度時効期間が進行することになります。

保険会社が賠償額の提示をしてきた場合や、内払いを行った場合も、債務の承認に当たると考えられます。

⑥協議を行う旨の合意書面の作成

改正民法により、協議を行う旨の合意を書面で作成することによって、時効の完成を猶予する制度が認められました。

加害者や保険会社との間で、協議を行う旨を書面で作成することで、次のいずれかの時の一番早い時までの間、時効の完成が猶予されます。

  • 合意があった時から1年
  • 合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
  • 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時

この制度は、訴訟などを提起しなくとも、当事者間の書面による合意のみで時効の完成を猶予できるため、便利な面はありますが、どのような条項とするかや猶予期間がいつまでになるかが複雑であるため、弁護士等の専門家のアドバイスの下で利用すべきです。

⑦時効中断申請書の提出(自賠責保険金・共済金の場合)

自賠責保険金・共済金については、時効中断申請書という独自の書式が定められており、これを自賠責保険・共済に提出することで時効の完成を阻止できます。

異議申し立てについての時効は、こちらをご覧ください。

 

 

まとめ

交通事故の場合、治療期間が長期にわたることもあり、示談交渉している中で1年や2年を経過することも珍しくありません。

その後、折り合いがつかないまま示談交渉を放置していると、最悪の場合、時効により賠償金を請求できなくなってしまいます。

そのため、ご自身で示談交渉をすることが負担と感じられる方は、早めに専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

賠償金


 
賠償金の計算方法

なぜ交通事故は弁護士選びが重要なのか

続きを読む