目次
遺留分とは
遺留分(いりゅうぶん)とは、亡くなった方(法律では、「被相続人」(ひそうぞうにん)といいます。)の遺した財産(相続財産)のうち、一定の相続人に、最低限確保されている持分割合のことです。
遺留分の制度は、被相続人が自分の財産を死後どのように処分するか決める自由を一部制限するための制度です。
なぜ制限する必要があるのでしょうか?
たとえば、亡くなった被相続人が遺言で、「遺産はすべて不倫相手(又は何人かの子たちのうちの一人だけ)に遺贈する」と書き残していたとします。
原則としては、被相続人が自分の財産をどのように処分するかは、被相続人の自由です。
それは死後についてでも同じことなので、このような遺言を残すことも、原則から言うと自由です。
でも、全面的にその自由を認めると、
- 被相続人の財産(家、預貯金など)で生活していたご遺族が生活に困る
- ご遺族のこれまでの被相続人への貢献が無にされる
- 相続人間で不公平が生じたる
といった不都合が生じます。
こうした不都合の解消のため、遺留分の制度が設けられているのです。
遺留分を請求できる範囲
遺留分を請求できる人のことを、「遺留分権利者」といいます。
遺留分権利者は、遺留分が侵害された(=被相続人の遺言や贈与のせいで、遺留分を満たすだけの財産を相続できない)とき、遺言や贈与で被相続人から財産をもらった人に対し、
「自分には遺留分がある。それなのに、あなたが財産をもらったせいで遺留分相当の財産を相続することができなくなった。足りなくなった分をお金で支払って」
と主張することができます。
だれが遺留分権利者になるかは、法律で決められています。
詳しく見ていきましょう。
遺留分を請求できる人(遺留分権利者)
- 配偶者
- 子・孫など(胎児を含む)
- 直系尊属(父母、祖父母など)
民法は、遺留分権利者について、「兄弟姉妹以外の相続人」は遺留分を有するとしています(民法1042条1項)。
兄弟姉妹以外で相続人となりうるのは、
- 配偶者(妻や夫)
- 子
- 直系尊属(父母。父母がいないときは祖父母など)
です(民法887条、889条、890条)。
これらの人々が相続人となった場合、遺留分権利者となります。
被相続人が死亡する以前に子が亡くなった場合、その亡くなった子の子(被相続人の孫)が相続人になります(代襲相続〔だいしゅうそうぞく〕といいます。)。
代襲相続人となった孫も亡くなった場合は、さら亡くなったその孫の子(被相続人のひ孫)が再代襲相続する、というように続きます。(民法887条2項、3項)。
こうやって代襲相続人や再代襲相続人となった者(孫やひ孫)も、「兄弟姉妹以外の相続人」ですので、遺留分権利者です。
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
引用元:民法|電子政府の窓口
まだ生まれていない子(胎児)に遺留分はある?
被相続人が亡くなった時まだ生まれていなかった子(胎児)は、相続に関する場面では既に生まれたものとして扱われ、相続人となります。
遺留分権利者にもなります(民法886条)。
ただ、残念ながら生きて生まれることができなかった場合は、初めから相続人でなかったこととなります(民法886条2項)。
遺留分も認められません。
遺留分を請求できない人
- 兄弟姉妹
- 相続欠格、廃除となった人
- 相続放棄をした人
- 相続放棄をした人の子供
兄弟姉妹は、相続人となっても遺留分が認められません。
そのため、遺留分権利者にはなれません。
兄弟姉妹を代襲相続したおい・めいも、同じく遺留分権利者ではありません。
相続欠格となる事由がある人、廃除された人、相続放棄をした人は、相続人になれず、遺留分権利者にもなれません。
ただし、相続欠格、廃除になった人の子は、代襲相続をして相続人となることができ、遺留分権利者にもなります。
相続放棄をした場合、代襲相続はなく、相続放棄をした人の子は相続人になれません。
したがって、遺留分もありません。
相続欠格や廃除の場合とは異なりますので、注意してください。
遺留分の割合と具体例
遺留分を計算してみよう~全員分の遺留分の合計
相続人の実際の遺留分を算定するときは、まず、相続財産全体の中で遺留分権利者全員に留保されている割合(「総体的遺留分」といいます。)を考えます。
総体的遺留分は、下の表のとおりとなっています(民法1042条1項)。
相続人 | 総体的遺留分 |
---|---|
直系尊属(親や祖父母)のみが相続人である場合 | 1/3 |
それ以外の場合※ | 1/2 |
※それ以外の場合とは、具体的には次の場合です
- 直系卑属のみ(例 被相続人の子供と孫のみ)
- 直系卑属と配偶者(例 被相続人の子供と夫)
- 直系尊属と配偶者(例 被相続人の母と妻)
- 配偶者のみ(例 被相続人の夫)
この総体的遺留分は、いわば「遺留分権利者全員分の遺留分の合計」です。
総体的遺留分がわかったら、次は、これを、1人1人の遺留分権利者に分けていきます。
分けていくことで導き出される「1人1人の遺留分権利者が有する相続財産上の持分的割合」を個別的遺留分といいます。
遺留分を計算してみよう~1人1人の遺留分
遺留分権利者が1人しかいないときは、総体的遺留分の全部がその遺留分権利者の個別的遺留分となります。
しかし、遺留分権利者が何人かいる場合には、1人1人の相続人がもつ遺留分(個別的遺留分)を計算する必要があります。
それでは、個別的遺留分の計算をしていきましょう。
法定相続分を確認しよう
遺留分は、法定相続分の割合で分けられます。
計算式は、
です(民法1042条2項)。
そのため、まずは各自の法定相続分を確認する必要があります。
遺留分権利者の法定相続分は、次のとおりです(民法900条)。
相続人 | 法定相続分 |
---|---|
子と配偶者 | 配偶者:1/2 子:1/2 |
配偶者と直系尊属(親など) | 配偶者:2/3 |
直系尊属:1/3 |
※子、直系尊属が複数いる場合、上の表の子、直系尊属の法定相続分をその人数で割ったものが、1人分の法定相続分となります。
※兄弟姉妹は遺留分権利者とはならないので、記載していません。
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
引用元:民法|電子政府の窓口
1人1人の遺留分(個別的遺留分)~早見表
法定相続分をもとに、一人一人の遺留分(個別的遺留分)を計算します。
計算式は、先ほどご紹介したとおり、(個別的遺留分)=(総体的遺留分)×(法定相続分)です(民法1042条2項)。
計算すると、各相続人の個別的遺留分は、以下の表のとおりとなります。
誰が相続人となるかの組み合わせによって、遺留分が変わることがありますので、注意してください。
相続人 | 個別的遺留分 | ||
---|---|---|---|
配偶者 | 子 | 直系尊属 | |
配偶者のみ | 1/2 | ||
配偶者と子 | 1/4 | 1/4 | |
子のみ | 1/2 | ||
配偶者と直系尊属 | 1/3 | 1/6 | |
直系尊属のみ | 1/3 | ||
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 *兄弟姉妹にはなし |
子、直系尊属が複数いるときは、子、直系尊属の遺留分をその人数で割って1人分の遺留分を求めます。
1人分の遺留分 1/2 ÷ 3 = 1/6
なお、法定相続分は、「子と配偶者」、「配偶者と直系尊属」など属性の異なる相続人間での相続財産の配分割合を定めたものです。
そのため、相続人が「子のみ」「配偶者のみ」「直系尊属のみ」の場合、法定相続分のことは考えません。
この場合、個別的遺留分の計算式は、
となります。
また、相続人が「配偶者と被相続人の兄弟姉妹」の場合は、兄弟姉妹には遺留分がないため、(総体的遺留分) = (配偶者の個別的遺留分)と考えます。
よくある代表的なケースについて、具体例とともに見ていきましょう。
相続人が配偶者と子2人(子A、子B)
この場合、先の表のとおり、総体的遺留分は2分の1となります。
計算すると、個別的遺留分は、
子A 1/2(総体的遺留分) × 1/2(法定相続分) ÷ 2(子の人数) = 1/8
子B 子Aと同じ1/8
となります。
相続人が直系尊属(父と母)のみ
この場合、先の表のとおり、総体的遺留分は3分の1となります。
父と母の2名が相続人となる場合、個別的遺留分は次のようになります。
母 父と同じ1/6
相続人が直系尊属(父と母)と配偶者
この場合、先の表のとおり、総体的遺留分は2分の1となります。
配偶者の法定相続分は2/3。
父母の法定相続分は2人合わせて1/3ですので、個別的遺留分は以下のようになります。
父 1/2(総体的遺留分) × 1/3(法定相続分) ÷ 2(直系尊属の人数) = 1/12
母 父と同じ1/12
相続人が配偶者と被相続人の兄弟姉妹
この場合、兄弟姉妹には遺留分がないので、総体的遺留分(1/2)は全て、配偶者の個別的遺留分となります。
すなわち、配偶者の個別的遺留分は
となります。
遺留分の計算
遺留分の計算方法につきましては、こちらのページをご覧ください。
遺留分侵害額請求について
遺留分侵害額請求につきましては、こちらのページをご覧ください。
遺留分侵害額の計算方法
遺留分侵害額の算定方法につきましては、こちらのページをご覧ください。
遺留分はいつまで請求できる?~遺留分侵害額請求権の時効~
遺留分の侵害額請求は、いつまでもできるわけではないので注意が必要です。
すなわち、法律では、遺留分侵害額の請求権は、
遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。
相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
と定めています(民法1048条)。
このように、遺留分の請求には、短期(1年)と長期(10年)の期間制限があります。


1年という短い期間が設けられているのは、相続関係に基づく権利変動については、可能な限り早く決着をつけることで、法律関係の確定や取引の保護を図ろうとしたものです。
ここで、「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、具体的にどのような場合かが問題となります。
この問題について、裁判例は、単に被相続人の財産の贈与や遺贈があったことを知るだけでは足りず、「贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時と解すべき」と判示しています(最二小昭57.11.12)。
*なお、2018年の民法改正で遺留分侵害額請求制度が設けられる前は、前身として「遺留分減殺請求」という制度がありました。上記の「減殺」は、この遺留分減殺請求のことです。


短期(1年)については、「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から」という要件が必要ですが、長期(10年)は、この要件がありません。
すなわち、もし、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知らなかったとしても、相続開始から10年経てば、遺留分を請求できなくなってしまうのです。
また、短期(1年)は、消滅時効を定めたものであるのに対し、長期(10年)は除斥期間を定めたものと考えられています。
消滅時効と除斥期間は両者とも期間制限であることは同じですが、時効の完成猶予や更新があるか等で異なります。
消滅時効と除斥期間の違いについては下表をごらんください。
消滅時効 | 除斥期間 | |
---|---|---|
更新 | 可能 | 不可 |
完成猶予 | 可能 | 不可 |
援用の要否 | 必要 | 不要 |
期間算定の起算点 | 権利行使が可能となった時点 | それぞれの規定が起点とする時 |
除斥期間を経過した場合
原則として、相続開始時から10年が経過すれば、たとえ、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知らなかったとしても、遺留分を請求することはできません。
しかし、ケースによっては、遺留分の請求が期待できないような状況も考えられます。
このような特別な事情がある場合、その事情が解消された時から6ヶ月以内であれば、遺留分の請求が認められる場合もあります(下記の参考判例参照)。
*なお、下記の判例は、2018年の民法改正で遺留分侵害額請求制度が設けられる前の「遺留分減殺請求」という制度があったころのものですが、現在でも参考にされると思われます。
判例 除斥期間経過後に遺留分減殺請求をした裁判例
この事案は、被相続人から不動産の遺贈を受けた受遺者がおり、これに対して、相続人らが遺留分減殺請求をしたケースです。
受遺者は遺留分減殺請求権は被相続人の死後 10年を過ぎて行使されたから除斥期間の経過により消滅したなどとして争っていました。
裁判所は、本件遺言は無効であるとの見解が具体的理由付けを含めて専門家の見解として紹介され、相続人全員が無効を前提に遺産分割協議を継続していたなどの事情があったことから、「遺留分減殺請求権の行使を期待できない特段の事情があったといえる」と判示しました。
【仙台高判平27.9.16】
もっとも、被相続人の子が本件遺言につき従前の見解を改め専門家の見解を紹介して有効である旨主張し以後の遺産分割協議の継続を行わない意向を示した時点で、特段の事情も解消されたとして、遺留分減殺請求権行使は同解消時から6か月以上経過後のことであるから同請求権は消滅したとしています。
遺留分の請求方法とメリット・デメリット
遺留分侵害額に当たる金額の支払を請求する場合、その相手となるのは遺贈や贈与を受けた人となります。
遺留分侵害額相当の支払を請求する方法としては、以下のようなものが考えられます。
- ① 遺留分の示談交渉
- ② 遺留分の調停
- ③ 遺留分の裁判
以下、それぞれについて特徴やメリット・デメリットを解説します。
①遺留分の示談交渉
これは、裁判所を利用せずに当事者同士で話し合って解決する方法です。
-
メリット
裁判所を利用すると、通常は解決までに長期間を要する傾向にあります。
また、裁判所までわざわざ出向かなければならないので労力もかかります。
示談交渉は、うまくいけば、短期間で解決します。
また、裁判所まで行く必要もないので労力もそれほどかかりません。
-
デメリット
裁判所が関与しないため、専門知識や経験がないと適切に解決できない可能性があります。
また、相手方が話し合いに応じない場合や交渉が決裂した場合は解決できません。


示談交渉の場合、相続に詳しい弁護士に相談し、適切なサポートを受けることが重要です。
具体的な状況に応じて、妥当な解決方法を提案してくれたり、弁護士が代理人となって相手と交渉することが可能となります。
また、遺留分侵害額相当の支払を求める権利は遺留分侵害額の請求権を行使して初めて発生すると考えられています。
しかも、上記のとおり、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、遺留分侵害額請求権は時効によって消滅してしまいます。
そのため、まずは弁護士から相手方に対して、遺留分侵害額を請求する旨、内容証明郵便を差し出してもらうことがポイントとなります。
内容証明郵便に配達証明をつけると、その書面がいつ相手に届いたかを証明することもできます。
口頭や普通郵便で相手に遺留分を請求すると、後日、相手から「遺留分侵害額の請求を受けていない」などと主張され、消滅時効を援用される可能性があります。
この場合、遺留分侵害額の請求をしたことを証拠立てることができず、「言った・言わない」の争いとなり、遺留分の請求が認められなくなるおそれがあります。
このようなトラブルを回避するために、相続問題にくわしい弁護士に内容証明郵便を差し出してもらうことを強くお勧めします。
②遺留分の調停
これは、裁判所(調停委員会)を通じて、話し合いによって解決する方法です。
遺留分の問題について、裁判所を利用して解決しようとする場合、いきなり裁判ではなく、通常は家裁の調停を経なければなりません(家事手続法257条)。
これを調停前置主義といいます。
-
メリット当事者同士でどうしても解決できない場合は事態を打開できる可能性があります。
-
デメリット調停手続は一般に長期間を要する傾向にあります。また、平日の昼間に行われるので会社勤めの方は休んで裁判所に行く必要があります。
1回あたりの調停に係る時間も数時間程度に及ぶので相当な労力を要します。
弁護士に依頼することで、精神的な負担や労力を減らすことができますが、示談交渉を依頼するよりも弁護士費用が高額化する可能性があります。


調停の前に、まずは弁護士に頼んで、遺留分侵害額請求をする通知を内容証明郵便で差し出してもらうことをお勧めします。調停の申立書に遺留分侵害額請求権行使の意思表示が記載されたものを見受けますが、調停は裁判と異なり、書類の受け渡しは簡易な「送付」という手続で済まされ、より厳格な「送達」の手続までは必要とされていません。
また、書類を受け取った旨の受領書の提出も義務付けられていません。
そのため、意思表示が相手に到達しないまま(または到達したとの証拠書類が作成されないまま)手続が進行することが考えられ、消滅時効が完成してしまう(または完成したと主張されても案論できる証拠がない事態となる)おそれがあります。
家裁の管轄は、相手の住所地を管轄する家裁又は当事者が合意で定める家裁となります。
申立てに必要な書類
- 戸籍謄本
- 被相続人の遺産の額、贈与した財産の価格、債務の額を明らかにする必要があるため、その資料
- 遺産目録、遺贈又は贈与目録、債務目録
- 遺留分侵害額請求権行使の意思表示が相手に到達したことを疎明する資料(前述した内容証明郵便と配達証明等)があればその資料
③遺留分の裁判
当事者同士の協議や調停でも解決しない場合、裁判所に訴えを起こす必要があります。
裁判は、調停のような話し合いの解決を目指すことを主たる目的とするものではありません。
裁判となると、最終的には判決という形で裁判所の判断が示されます。
管轄裁判所は、相続開始時における被相続人の普通裁判籍所在地の地方裁判所又は簡易裁判所となります(民事訴訟法5条14号)。
-
メリットプロの裁判官の判断が示されるという特徴があります。
-
デメリット裁判は、調停と同様に一般に長期間を要する傾向にあります。
裁判手続は、複雑であり、専門的知識や技術が必要となるため、通常、弁護士に依頼して行います。
本人訴訟も法律的には可能ですが、調停手続以上に素人の方が自分自身で進めていくのは難しいと思われます。
裁判は、弁護士の労力も相当程度必要となるので、弁護士の手数料は示談交渉よりも高額化する可能性があります。


裁判は高度な専門知識と豊富な経験が結果を変えることがあります。
そのため、相続に精通した弁護士に依頼することがポイントとなります。
費用については、依頼前に見積もりなどをしてもらい、納得した上で依頼されるとよいでしょう。
以上の遺留分の請求方法について、簡単にまとめると、下表のとおりとなります。
見出し | 示談交渉 | 調停 | 裁判 |
---|---|---|---|
特徴 | 当事者同士の話し合い | 裁判所を利用した話し合い | 裁判所の判決を出してもらう手続 |
メリット | 時間・労力を要しない | 当事者同士で解決しない場合に試す価値がある | プロの裁判官の判断が示される |
デメリット | 相手が応じない場合、交渉が決裂すると解決しない | 時間・労力を要する 調停が不調に終わると解決しない 弁護士費用の高額化 |
時間を要する 弁護士費用の高額化 |
ポイント | 内容証明郵便を差し出す | 内容証明郵便を差し出す | 専門家に任せる |
※一般的な傾向であってケースによって異なります。
遺留分の請求の順番とは
遺留分を侵害する行為は一つとは限りません。
遺留分を侵害する遺贈や贈与が複数存在するときは、侵害額請求を行う順番が問題となります。
この順番について、法律は次のように規定しています(民法1047条1項)。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
上記の規定をまとめると、下表のとおりとなります。
状況 | 請求の順番 | 備考 | |
---|---|---|---|
第1順序 | 遺贈と贈与がある場合 | 遺贈から請求 | |
第2順序 | 遺贈が複数ある場合 | 遺贈の価額の割合に応じて請求 | ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う |
第3順序 | 受遺者に請求したが、それでも遺留分が保全されない場合 | 贈与が請求の対象 | |
第4順序 | 贈与が複数ある場合 | 相続開始時に近い贈与から請求し、順次前の贈与に遡る | 贈与が同時の場合は、第2順序に準じて請求 |
死因贈与がある場合
死因贈与は、贈与する人が死亡した時点で、事前に指定した財産を贈与するという贈与契約です。
形式は贈与ですが、実質は遺贈に近いことから、遺留分の請求順序をどうするかが問題となります。
この点について、裁判例は、以下のように判断しています。
判例 遺留分の請求順序についての裁判例
「死因贈与も、生前贈与と同じく契約締結によって成立するものであるという点では、贈与としての性質を有していることは否定すべくもないのであるから、死因贈与は、遺贈と同様に取り扱うよりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり、ただ民法1033条及び1035条の趣旨にかんがみ、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である」
【東京高判平12.3.8】
まず、遺贈から請求し、それでも遺留分が保全されない場合に生前贈与よりも先に対象とすべきと判断しています。
*なお、平成30年の民法改正で遺留分侵害額請求制度が設けられる前は、前身として「遺留分減殺請求」という制度がありました。上記の「減殺」は、この遺留分減殺請求のことです。
遺言がある場合
上記の裁判例で、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言については、遺贈と同様に解するのが相当であると判断されています(東京高判平12.3.8)。
以上をまとめると、次の順番となります。
①遺贈・相続させる遺言 ⇒ ②死因贈与 ⇒ ③生前贈与
遺留分は放棄できるか
遺留分は、相続開始前(被相続人がまだ生きている時)であっても、家裁の許可を得ることを条件として、放棄することが可能です(民法1049条)。
遺留分の放棄は、死後の遺産紛争を回避したり、円滑な事業承継のために利用される傾向です。
例えば、次のような事案の場合に遺留分の放棄が考えられます。
- 生前、婚外子に財産を贈与する代わりに、遺留分を放棄してもらう場合
- 高齢の被相続人と同居し、献身的に看護してくれている子供に高額な財産を贈与し、その他の相続人に遺留分を放棄して貰う場合
上記のような事案においては、事前に遺留分を放棄してもらうことで、死後の紛争を回避できる可能性があります。
もっとも、無制限に放棄を認めてしまうと、被相続人の威圧的な言動によって遺留分権利者に放棄を強要するなどの弊害が懸念されます。
そこで、法律上、家裁の許可が必要とされています。
なお、相続開始後であれば、遺留分は家裁の許可なしに自由に放棄できます。
この場合、放棄の意思表示は遺留分侵害額請求の相手方に対して行います。
遺留分放棄の流れ


遺留分の放棄は、遺留分侵害請求権の行使を不可能とするものであって、相続権まで失わせるものではありません。
したがって、遺留分を放棄しても、相続開始後は相続人となります。
遺産分割協議書の場で法定相続人を主張して、遺産分割により遺産を取得することも可能です。
そのため、相続人に遺留分放棄をしてもらった場合、被相続人側では遺言書を作成しておくことが必要です。
代襲相続の場合、被代襲者が遺留分の放棄をしていれば、代襲相続人も遺留分はありません。
また、遺留分権利者が複数いる場合、ある遺留分権利者が遺留分を放棄しても、他の遺留分権利者の遺留分は増加しません(民法1049条2項)。


例えば、死後の紛争を防止するために、生前、婚外子であるAさんに対して、財産を贈与する代わりに遺留分を放棄してもらったとします。
この贈与は特別受益に該当し、かつ、相続開始前の10年間にされたものとします。
この場合、仮に、他の相続人が遺留分を侵害されていると、その相続人らから遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分の放棄は、放棄した者について遺留分侵害額請求ができなくなるという効果を生じさせるものであって、他の相続人らの遺留分侵害額請求権には影響を及ぼさないからです。
したがって、この場合、Aさんは、代償としての贈与を確保できなくなる可能性があります。
このような事態を防ぐために、代償としての贈与によって、他の相続人らの遺留分を侵害する可能性がないか等、よく検討しておく必要があります。
遺留分が問題となるケース
当事務所の相続対策チームには遺留分に関する多くのご相談が寄せられています。
遺留分に関して、特に多い相談内容は夫が愛人に財産を贈与するというケースです。
贈与には、生前贈与と遺贈※の2パターンがあります。※遺贈とは、遺言によって財産を無償で他人に与えることを言います。
問題①夫が愛人に財産を贈与する
このケースは、夫婦仲がうまくいっていない場合に見られる傾向にあります。
夫婦仲がうまくいっていない場合、離婚という選択肢もありますが、妻側が離婚に応じてくれず、法律上離婚が成立しておらず、妻側に相続権があるため、夫が愛人に生前贈与や遺贈という方法で財産を分与します。
いくら夫婦仲がうまくいっていないとはいえ、長年連れ添った妻からすれば、愛人に多くの遺産が行き渡るのは納得できません。
また、子供がいる場合、子供からすると赤の他人に遺産がいってしまうので、当然、納得できないでしょう。
そこで、妻や子供が夫の愛人に対して、遺留分を請求するという問題が生じます。
なお、この事案における妻や子供たちの遺留分割合は次のとおりとなります。


くわしくは上述の早見表をごらんください。


問題②
父親が特定の子供にのみ遺産の大部分を残す
次に、ご相談が多いのは、父親が特定の子供にのみ遺産の大部分を残すという事案です。
【介護従事】体が不自由な父親の介護を長年に渡って献身的に行っていた場合
【同居者】 父親と長年同居しており、父親との距離が近い場合
上記のような事案では、他に兄弟がいる場合、その兄弟が不公平感を抱き、トラブルに発展することが多々あります。
本来、子供同士の法定相続分は平等です。例えば、相続人が子供二人の場合、それぞれ2分の1ずつの相続権があります。
にもかかわらず、他の兄弟のみ高額な遺産を受け取り、他の一方の手元にはほとんど残らないとなると、自分だけが不当に扱われていると感じることがあります。
このようにして、優遇された兄弟に対して遺留分侵害額を請求するという問題が生じます。
なお、この事案における子供の遺留分割合は次のとおりとなります。


問題③再婚後の子供に高額な財産を残す
のケースは、子供がいる父親が離婚し、その後、再婚して、再婚相手との間に子供を作った場合に多いご相談です。
離婚しても、子供との関係では父親であることに変わりはありません。
しかし、その子供と疎遠となると、再婚後の子供の方を重視することがあります。
このような事案では、再婚後の子供に多額の遺産を分与し、再婚前の子供に対しては遺産をほとんど残さないという傾向があります。
再婚前の子供として、このような不公平な扱いを受け入れることができず、再婚後の子供に対して遺留分を請求することがあります。
なお、この事案における子供の遺留分割合は次のとおりとなります。


問題④親に遺産をまったく残さない
このケースは、子供がいない世帯で、夫が妻に遺産のすべてを相続させる場合に多いご相談です。
子供がいない場合、法定相続人は、配偶者と親になります。法定相続分は配偶者が3分の2、親が3分の1です。
法定相続分についてはこちらのページをご覧ください。
このような場合に、夫が親にまったく遺産を残さないのは以下のような理由が考えられます。
- ① 親と仲違いしている
- ② 親が裕福である
- ③ 妻が病気などの理由で老後の資金が必要である
- ④ 妻に対する愛情が深い
上記のうち、②については、親自身が遺留分を請求する必要性が乏しいので、トラブルに発展する可能性は低いと言えます。
しかし、その他については、親として、一定程度の遺産を要求したいと考えることがあります。
なお、この事案における親の遺留分割合は次のとおりとなります。


親の個別的遺留分割合 ⇒ 6分の1
くわしくは上述の早見表をごらんください。
まとめ
以上、遺留分の基礎的な知識について、詳細に、かつ、できるだけわかりやすく解説しました。
遺留分については、侵害額の計算方法が複雑であり、相続に関する専門知識がないと算定が難しい場合があります。
請求方法についても、具体的な状況において、相手に通知すべき内容は異なってきます。
さらに、実際に遺留分を侵害されたかもしれないとなると、遺贈や贈与された物を探し出して特定し、その価額について評価をしなければなりません。
しかし、一般の方では、探し出すための調査も価額の評価も難しい・・・という問題があります。
そのため、そもそも遺留分が侵害されているのかがわからない・・・ということが、現実には多くあります。
遺留分についての問題の解決は、専門家の適切なサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。