遺留分は兄弟に認められない?|遺留分の計算・遺産の取得法を解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

遺留分は兄弟に認められない?

遺留分とは?

相続財産遺留分(いりゅうぶん)とは、亡くなった方(法律では、「被相続人」といいます。)の遺した相続財産のうち、決まった割合を一定の相続人に確保するための制度です。

財産は、原則として、持ち主が自由に処分できるものです。

それは自分の死後についても同じことで、持ち主は、死後の財産の行方について、生前に遺言による遺贈や、生前贈与などによって自由に決めることができます。

でも、すべてを持ち主(被相続人)の自由にゆだねると、

「赤の他人にすべての遺産を遺贈する」
「お気に入りの子にだけすべての遺産を相続させる」

といったこともできてしまいます。

これをそのまま認めると、

  • 残された相続人の生活基盤が危うくなる
  • 財産を作るのに貢献した人の権利がないがしろにされる
  • 相続人間で不公平が生じる

といった不都合が生じます。

そこで、遺留分の制度は、被相続人が財産を処分する自由を制限し、相続人が一定の財産を確保できるようにしているのです。

具体的なケース

次のような場合を考えてみてください。

亡Aさん法定相続人Aさんが亡くなりました。

亡Aさんには妻Bさんと子Cさんがいます。

この場合、民法で定められた相続人(法定相続人といいます。)は妻Bと子Cになります。(民法887条1項、890条)

民法で定められた相続分(法定相続分といいます。)は、妻Bも子Cもともに2分の1です。(民法900条一号)

しかし、この相続分は、亡Aさんが遺言などによって変えることができます。

例えば、

「子Cにすべての遺産を相続させる」

などといった遺言書を作って、妻Bの相続分をゼロにしてしまうような場合です。

このようなことがあると、妻Bと子Cの間に不公平が生じる、妻Bの経済的な生活基盤がおびやかされる、妻Bが亡夫Aの財産を築くのに貢献してきたことが無視されるといった不都合が生じます。

こうした不都合が生じるのを防ぐために「遺留分」の制度があります。

遺留分の制度により、遺留分を侵害された相続人は、遺言などで財産をもらった人に対し、侵害された額に相当する金額を支払うよう請求することができます。

先ほどの例でいうと、亡Aが「子Cにすべての遺産を相続させる」というような遺言書を作ったとしても、配偶者である妻Bには遺留分があります。

妻Bさん遺留分配偶者と子が相続人の場合、配偶者の遺留分は4分の1ですので、妻Bは子Cに対し、遺産(正確には遺留分算定の基礎となる財産額)の4分の1に相当する金額を支払うよう請求することができるのです。

 

 

兄弟が相続人になる場合

兄弟姉妹(以下、この記事では「兄弟」といいます。)が相続人となる場合、遺留分はどうなるのでしょうか。

まずは、兄弟が法定相続人になる場合についてご説明します。

兄弟が法定相続人となる場合

兄弟が法定相続人となれるのは、①子や孫などの直系卑属②親や祖父母などの直系尊属のいずれもが、だれもいないときです。(民法889条1項)

被相続人の配偶者がいる場合は、配偶者とともに相続人となります。(民法890条)

兄弟の法定相続分

兄弟の法定相続分は、次のようになります。(民法900条三号、四号)

被相続人の配偶者がいるとき
相続人 法定相続分
配偶者の相続分 3/4
兄弟の相続分(一人分) 1/4 ÷(兄弟の人数)

(注)父母の一方のみが共通する兄弟(父親か母親が違う)の相続分は、父母が同じである兄弟の2分の1となります。

被相続人の配偶者がいないとき
相続人 法定相続分
兄弟の相続分(一人分) 1 ÷(兄弟の人数)

(注)父母の一方のみが共通する兄弟(父親か母親が違う)の相続分は、父母が同じである兄弟の2分の1となります。

【根拠条文】
民法
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
三 配偶者及び兄弟が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟の相続分の二分の一とする。

引用元:民法|電子政府の窓口

計算方法

具体例

いずれの場合も、遺産は1000万円

配偶者と兄弟(父母の双方が同じ)が相続人の場合
兄弟が1人の場合
配偶者の法定相続分 1000万 × 3/4 = 750万円
兄弟の法定相続分 1000万 × 1/4 = 250万円
兄弟が2人の場合
配偶者の法定相続分 1000万 × 3/4 = 750万円
兄弟の法定相続分 1000万 × 1/4 × 1/2 = 125万円
兄弟のみが相続人の場合
兄弟が1人の場合
兄弟の法定相続分 1000万
兄弟が2人の場合
兄弟の法定相続分(一人分) 1000万 × 1/2 = 500万円

 

 

兄弟に遺留分は認められる?

法定相続人になっても、遺留分は、兄弟には認められません

他の法定相続人である配偶者、子や孫などの直系卑属、親などの直系尊属には認められているのですが、兄弟にだけは認められていないのです。

つまり、兄弟として法定相続人になっても、亡くなった方の遺言などによって相続財産をもらうことができなくなれば、何の権利も主張できないのです。

兄弟として法定相続人になったのに、「遺産は全部他人に遺贈する」、「配偶者に全部相続させる」、「ほかにも兄弟がいるが一番上の兄にだけ相続させる」などといった遺言があって遺産がもらえない場合には、遺留分がないので何も請求できないということです。

【根拠条文】
民法
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

引用元:民法|電子政府の窓口

 

 

相続人が兄弟のみの場合も遺留分は認められないのか

兄弟だけが相続人となる場合でも、遺留分は認められていません。

なお、兄弟のみが相続人となるのは、

  • 亡くなった方が独身(配偶者が先に亡くなった場合も含みます。)
  • 子どもや孫などの直系の子孫(直系卑属)がいない
  • 親や祖父母、曾祖父母など(直系尊属)もいない

という場合です。

 

 

兄弟に遺留分が認められない理由とは?

さきほど、遺留分が認められている理由について、

  • 残された相続人の生活基盤が危うくなる
  • 財産を作るのに貢献した人の権利がないがしろにされる
  • 相続人間で不公平が生じる

といった不都合を正すためと述べました。

しかし、兄弟については、

  • 他の兄弟の財産で生活しているケースは少ない
  • 他の兄弟が財産を築くのに協力している場合も少ない

と思われます。

私見にはなりますが、こうした実情から、民法は、兄弟については遺留分を認めて保護する必要は低い、として、遺留分を認めなかったのではないでしょうか。

 

 

各相続人の遺留分

各相続人の遺留分は、下の表のとおりです。

法定相続人 個々の遺留分
配偶者のみ 2分の1
配偶者と子
  • 配偶者:4分の1
  • 子:4分の1 ÷(子の人数)
子のみ 2分の1 ÷(子の人数)
配偶者と親
  • 配偶者:3分の1
  • 親:6分の1÷(親の人数)
親のみ 3分の1÷(親の人数)
配偶者と兄弟
  • 配偶者:2分の1
  • 兄弟:なし
兄弟 なし

 

 

遺留分が認められなくても兄弟が遺産をもらえる可能性はある!~兄弟が主張できること

相続の場で兄弟が主張できることには、以下のようなものがあります。

遺言の無効を主張する

遺言書「亡くなった人の遺言が見つかった。そこには他の人に遺産を遺贈すると書いてあった。兄弟である私は法定相続人なのに何ももらえない・・・」そんな方にも、まだ遺産を受け継ぐ方法が残されているかもしれません。

それは遺言の無効を主張することです。

遺言は、場合によっては無効になることがあります。

どのような場合に無効になるかの例をご紹介します。

方式の誤り

遺言は、法に定められた形式によって作成しなければなりません。

間違った方式で作成すると、場合によっては、遺言は無効とされます。

特に、被相続人が自筆で作成する自筆証書遺言の場合は、よく注意する必要があります。

日付が必要である、自筆でなければならない(パソコンで作成したものではいけない。)、サインと押印が必要、内容も明確でなければならないなど、様々な決まりごとがあります。

加除・変更の仕方、目録の添付の仕方などにも決まりがあるのです。

不備を発見できれば、遺言の無効を主張できます。

本人が作成したものではない

遺言書が、他人によって作成されたものである可能性もあります。

遺言書が作成された当時本人が健康だったか(認知症などで判断能力に問題はなかったか、遺言を作れるような状況だったか)、筆跡は本人のものか、遺言の内容は不自然でないか(仲の悪い兄弟に全財産を遺すなど不自然な内容になっていないか。)などを検討することになり、他人によって作成されたものだとなれば、無効な遺言となります。

本人に遺言能力がない

認知症イメージ遺言能力とは、遺言の内容を理解して、遺言で自分の財産を処分できる判断能力のことです。

民法は、15歳に達した者は、遺言をすることができる(民法961条)と定めていますので、15歳以上であれば、原則として遺言能力があると認められます。

しかし、病気や加齢により判断能力が衰え、遺言能力がなくなる場合があります。

代表的な例は、認知症です。

一口に認知症と言っても、重症度は様々であり、軽度の場合には遺言能力が認められる場合もあります。

そのため、ご本人の状況を、年齢、カルテや診断書、要介護認定の状況などから確認することと、遺言の内容の面からも本人の意思に基づくものといえるか(ご本人の病状からみて内容が複雑すぎないか、動機などから見てもご本人の意思によるものと考えて不自然でないかなど)確認することなどが必要となります。

専門家へ相談を

弁護士遺言が無効かどうかを判断するには、専門的な知識が必要となります。

弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。

 

遺言書に残してもらう

まだご本人がご存命であれば、兄弟である自分に財産を遺す遺言を書いてもらえれば心強いです。

例えば、次のような文例があります。

なお、以下の文例は、兄弟のみが遺産を引き継ぐ場合を前提としています。

遺言書文例

全部の財産を一人に相続させる場合
遺言者は、遺言者の有する一切の財産を遺言者の姉〇〇(   年  月  日生)に相続させる。
不動産の場合

遺言者は、遺言者の妹  ( 年 月 日生)に下記の不動産を相続させる

1 土  地

所在

地番

地目

地積

2 建  物

所  在

家屋番号 ______  種 類

構  造 ______  床面積

預金の場合

遺言者は、遺言者名義の下記の預金債権を遺言者の兄〇〇( 年 月 日生)に相続させる。

1 ◯◯銀行◯◯支店 普通預金 口座番号◯◯◯◯

ただし、遺言は、後に被相続人により新しいものに変えられたり、撤回されたりする可能性があるので、注意が必要です。

 

寄与分の請求を行う

介護イメージ共同相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした人がいるときは、寄与分を請求することができます。(民法904条の2)

例えば、被相続人の事業で労務を提供した、被相続人の事業のために自分の財産を提供していた、被相続人の療養看護をしていたなどといった場合があげられます。

もし、共同相続人となった兄弟で、このような特別の寄与をしていた人がいれば、寄与分を請求できます。

しかし、注意しなければならないのは、寄与分よりも遺贈が優先してしまう点です。

そのため、被相続人が遺言書よって相続財産を誰かに遺贈してしまうと、残りの財産の範囲内でしか寄与分を主張できません。

そのため、相続財産が全部遺贈されていれば、寄与分を請求する余地はありません。

それに、寄与分が認められるには、「特別の」寄与が必要であり、簡単には認められません。

なお、2020年には、遺産分割事件のうち認容・調停成立で寄与分の定めのあった事件数は132件で、このうち半数以上の74件では寄与分の遺産の価額に占める割合は20パーセント以下となっています。

寄与分の遺産の価格に占める割合

参考:司法統計|裁判所

 

特別寄与料を請求する

法定相続人にならなかった場合でも、特別寄与料を請求できる場合があります。(民法1050条)

被相続人に対する療養看護その他の労務の提供によって、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をしていた場合、相続人に対して特別寄与料を請求することができます(寄与分の場合と違い、財産を提供した場合は含まれません。)。

ただし、この寄与は無償で行われたものでなければならず、被相続人から対価を得ていたときは、特別寄与料の請求はできません。

特別寄与料を認めるか、いくらにするかなどについては、まずは特別寄与者と相続人の間で協議して決めるのですが、決まらなかった場合、家庭裁判所に対して「協議に代わる処分」を請求します。

この家庭裁判所への請求は、特別寄与者が相続の開始(被相続人が亡くなったこと)を知った時から6か月を経過したとき、または相続開始の時から1年を経過したときは、できなくなります。

特別寄与料の場合も、寄与分と同じく、遺贈が優先してしまいます。

そのため、被相続人が遺言書よって相続財産を誰かに遺贈してしまうと、残りの財産の範囲内でしか特別委寄与料を請求できません。

そのため、相続財産が全部遺贈されていれば、特別寄与料を請求する余地はありません。

 

 

まとめ

以上、兄弟には遺留分がないこと、兄弟で相続人になったときに関することなどについて述べました。

兄弟には遺留分がないため、被相続人が遺言などにより財産を他の人に遺してしまうと権利を主張することができません。

そうならないよう、お互いに生前から十分なコミュニケーションを図っておくことが大切でしょう。

また、遺言を残す場合は、後から無効とされることがないよう注意しなければなりません。

なるべくなら、ご自身が健康なうちに、弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。

そしてまた、この場合も、できれば、あらかじめ相続人となりうるご兄弟と意思の疎通を図っておいた方がよいと思われます

 


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