交通事故の加害者が謝罪しない。被害者はどうしたらいい?
交通事故の加害者が示談交渉を保険会社に任せっきりで、誠意を感じられないなどお怒りになる被害者の方の気持ちは理解できます。
交通事故被害者の方からの相談を受けていると加害者への不満のお話をよく伺います。
人身事故となり、人にけがを負わせた場合、謝罪をするのは人として当たり前のことと思います。
保険会社も、加害者へ被害者への謝罪をするように話をする場合もあるかと思いますが、加害者が被害者への謝罪をすることは少ないようです。
目次
加害者と直接示談交渉をしたい!
「人身事故なのに加害者が一度も見舞いに来ない」
「保険会社が損害を認めてくれない」
「保険会社の提示額に納得できない」
このような理由から、加害者と直接交通事故の示談交渉をしたいと望む被害者の方がいます。
被害者が、保険会社ではなく加害者と直接の交渉をしたいという意向を伝えることは可能です。
もっとも、保険会社は加害者から依頼を受けて示談交渉を行っているため、加害者が直接交渉に応じなければ、代理権を認められている保険会社と交渉するか、裁判を選択する他ないのが実情です。
加害者が任意保険に加入していない場合には、もちろん加害者に対して直接請求することになりますが、加害者が任意保険に加入している場合には、実務上、保険会社が交通事故の加害者の代理人として示談をするのが主流になっています。
最近は、交通事故の被害者と加害者が直接会ったりするとトラブルに発展する可能性もあるため、保険会社の方で、加害者が自ら被害者に謝罪に行くことを控えるように伝えるところもあるようです。
実際に、交通事故後に被害者の自宅に謝罪に来るというケースは非常に少ないです。
また、被害者の方に謝罪する場合にも保険会社の担当者と一緒にというケースが多くなっています。
示談代行が使える場合は保険会社との交渉を拒絶することは事実上困難
- 加害者(自動車保険の契約者、被保険者)が対人事故の請求を受けた場合
- 保険会社が損害賠償請求権者(被害者側)から直接請求規約に基づく請求を受けた場合
この場合に、被保険者(加害者)に対する補償限度において、保険会社の費用で被保険者の同意の下、折衝、示談または調停、弁護士の選任を含めた訴訟の手続を行います。
加害者が保険会社に示談交渉を任せている以上、保険会社には交通事故の被害者と示談交渉を行う権限があるといえ、保険会社との交渉を拒絶することは事実上困難です。
保険会社の示談交渉については、弁護士法72条の非弁行為に該当しないかという点が問題視されていましたが、賠償金を支出するのは保険会社であり、いくら支払うのかについては、保険会社自らが利害関係を有しています。
そのため、保険会社による示談交渉については、弁護士法72条には反しないとされています。
対人賠償において示談代行が使えない場合は直接損害賠償の請求を行うことが可能
- 自動車任意保険の免責になるとき
- 加害自動車に自賠責共済がついていない場合
例えば、交通事故当初は任意保険に加入している形だったが、保険料の納付がなされておらず、のちに事故の時点で保険が失効したというケースがあります。
この場合にも、保険会社は、保険の失効により示談代行を行うことができなくなってしまいます。
したがって、自動車保険が免責になったり、そもそも加入していないというケースでは、被害者は加害者に対して、直接損害賠償の請求を行うことが可能となるわけです。
保険会社との示談に臨むとき
加害者に任意保険がないといった上記のケースでは、加害者と直接示談交渉をすることは可能ですが、保険会社による示談代行がなされているときに加害者に直接連絡を取ることは、かえってトラブルを発生させるリスクを増やすことになりかねません。
すなわち、加害者の方と直接話したいという思いを伝えること自体は可能ですが、被害者の方が保険会社との示談交渉を拒絶し続けたり、加害者に直接連絡をしたりした場合、加害者には弁護士が立つ可能性が高いです。
こうした被害者の行動は、相手方に注意して対応しなければならない事案だという判断につながり、弁護士を立てて対応するという方向へと働いてしまいます。
こうなると、結局加害者本人と話すことはできず、弁護士と示談交渉をすることになってしまいますし、弁護士としても、事前の情報から、示談交渉を拒否して、「訴訟してくれ」と突っぱねる態度になるリスクを秘めています。
冷静に賠償の交渉をし、解決を目指す
「加害者から誠意ある謝罪を受けていない」、「加害者と直接話をしたい」、「加害者に代わって謝罪しろ」といった感情を保険会社の担当者にぶつけたくなる被害者の方の気持ちはわかります。
しかし、保険会社の担当者は加害者賠償の代理をする人です。
感情をぶつけて、被害者の方の思いを伝えることも非常に大切ですが、他方で、それだけでは交通事故の問題は解決に向かいません。
したがって、冷静に賠償の交渉をし、解決を目指すことが適切だと思います。
謝罪をしてほしいということであれば、保険会社の担当者に、「担当者と一緒で構わないので一度会いに来てほしい」とまずは誠実に伝えてみるのが穏当な方法です。
そもそも、加害者個人と示談交渉して、合意したとしても、加害者に賠償する資力がないなど、損害賠償の支払いを受けられないことも多くあります。
一方、保険会社は損害賠償を支払う能力が100%ではありませんが、基本的には担保されています。
したがって、加害者と直接交渉するよりも現実的に損害賠償を受けられるという面では安心できるといえます。
加害者に誠意が感じられない。慰謝料の増額請求はできる?
慰謝料の増額請求は、難しいと思われます。
そもそも慰謝料とは、生命・身体・自由・名誉・貞操などが不法に侵害され、精神的苦痛を受けた場合に請求することができる損害賠償金のことです。
したがって、交通事故の被害に遭い、命を落とした場合、ケガを負わされた場合には、当然慰謝料を請求することができます。
慰謝料は、有形、無形に損害の賠償であり、私的な制裁ではありません。
そのため、示談交渉の場に加害者が立ち会わないという理由では、慰謝料の増額請求が認められることは難しいと思われます。
慰謝料の算定は、被害者側の事情、加害者側の事情を考慮して決定すると多くの裁判例で示されています。
考慮される被害者側の事情として、以下の6点などがあげられます。
- 負傷した部位及びその程度、入通院期間
- 後遺症残存の有無
- 年齢・性別・職業・既婚未婚の別・社会的地位
- 資産・収入・生活程度
- 家庭内における地位・扶養関係
- その他
- ① 被害者の親族が精神疾患にり患した無念の思い
- ② 治療期間中倒産した無念の思い
- ③ 人工中絶を余儀なくされた
- ④ 長期の入院等により離婚をした など
一方、加害者側の考慮される事情として、以下の2点などがあげられます。
- 加害者の過失、事故態様として考慮されるもの
- ① 飲酒、酒気帯び運転
- ② ひき逃げ、当て逃げ
- ③ 速度超過
- ④ 信号無視
- ⑤ 居眠り運転
- ⑥ わき見運転
- ⑦ 無免許運転
- 加害者の著しく不誠実な態度がある場合として考慮されるもの
- ① 事故の証拠隠滅をはかる
- ② 謝罪、弔意、看護などをしない
- ③ 死亡事故の場合、通夜・葬儀へ参列しない
- ④ 事故の責任を否定する、虚偽供述をする
- ⑤ 事故現場で被害者を罵倒した
- ⑥ 被害者に脅迫まがい言動をした
- ⑦ 不当に示談をこじらせ、裁判を余儀なくさせる
- ⑧ 社会通念を超える不当な仕打ちをする
- ・ 勤務先まで電話をかけ、被害者が弁護士を選任したことを非難する
- ・ 調査会社に依頼し、撮影禁止場所や自室内の被害者を写真やビデオ撮影する
特に加害者の過失、事故態様は、慰謝料の増額が認められやすい傾向にあります。
ただ、慰謝料の増額理由となる事情の判断や交渉は、専門家でも難しいものです。
慰謝料の増額請求を考えられている方は、弁護士にご相談されてはいかがでしょうか。
加害者が死亡した場合、賠償はどうなる?
加害者が任意保険に加入していない場合
加害者が自動車に任意保険をつけていなかった場合、被害者の賠償は、
①自賠責保険への請求、②相続人に対する請求
により求めていくことになります。
①自賠責保険への請求
加害者が任意保険に加入していない場合でも、自動車には強制保険である自賠責保険がついているのが通常です(例外的に自賠責保険の期限切れということがあります。)。
そのため、加害者が死亡してしまった場合でも、被害者としては加害者の自賠責保険へ損害の賠償を求めることが可能です。
ただし、この場合にはあくまで自賠責保険の基準の支払いになりますので、けがの限度額は120万円まで、後遺障害の限度額も75万円から4000万円までというように上限が決まっています。
②相続人に対する請求
そこで、自賠責保険の基準を超える部分の損害については、加害者に対して請求することになります。
しかしながら、加害者がすでに死亡してしまっている場合には請求する相手がいないことになります。
この点、加害者に家族がいる場合、被害者は加害者の相続人に対して損害賠償請求をすることが可能です。
相続というと、預貯金や不動産などプラスの財産を受け取るというイメージがありますが、損害賠償義務というマイナスの財産も対象になっています。
そのため、加害者が死亡した場合、加害者の配偶者、子、両親、兄弟に対して事故の賠償を求めるということになります。
請求をするためには条件があります。
それは、加害者の家族が相続放棄をしていないということです。
相続放棄をしている場合には、損害賠償債務を引き継がないということが裁判所に認められているため、被害者が相続人とされる家族に対して賠償を求めることはできなくなってしまいます。
③人身傷害保険の活用
このように加害者が任意保険に加入していない場合、相続人がいない場合や家族が相続放棄をしてしまっている場合には、被害者は自賠責保険の部分しか賠償を受けることができなくなってしまいます。
そこで、被害者が自らの自動車保険についている人身傷害保険を活用することで少しでも損害を補填するという方法を検討する必要があります。
加害者が任意保険に加入している場合
加害者が任意保険に加入している場合には、被害者としては任意保険会社に対して賠償を求めたいと考えるのが通常です。
このとき、保険会社は契約者である加害者が死亡していることを理由として賠償義務を拒むことはできないことになっています。
したがって、加害者が任意保険に加入している場合には、通常の交通事故のケースと同じく、任意保険会社が治療費や休業損害、慰謝料などを支払ってくれます。
もっとも、今回の福岡の事故では、加害者だけでなく、同乗していた妻も死亡してしまっています。
そのため、保険会社に交通事故の報告をする人がいないという可能性があります。
保険会社としても事故の報告を受けなければ、原則として被害者対応を開始することができません。
したがって、今回のケースでは、被害者の方への連絡や対応にどうしても時間を要するという可能性があります。
その場合には、取り急ぎ、先ほど紹介した人身傷害保険を使用して、当面の治療費の負担を被害者の保険会社にお願いするといったことも検討しなければなりません。
なお、加害者の保険会社との間で、慰謝料の金額などで折り合いがつかず、示談が成立しない場合でも、直接保険会社を相手方(被告)として裁判を提起することもできます。
そのため、被害者の方は専門家である弁護士のアドバイスを受けて、どのように賠償を求めていく必要があるのかを確認しておかなければなりません。