交通事故による外傷性てんかんとは?後遺障害等級認定と慰謝料相場

監修者:弁護士 鈴木啓太 弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

交通事故で頭部を負傷した後、けいれんや意識消失などのてんかん発作が起きた場合、それは「外傷性てんかん」という後遺症の可能性があります。

外傷性てんかんが後遺症として残った場合には、後遺障害等級の認定がなされる可能性があります。

発作の頻度や程度によって第5級から第12級に認定され、適切に認定されれば数百万〜数千万円単位の後遺障害慰謝料を受け取れる可能性があります。

しかし、発症時期が遅れることもあるため、事故との因果関係を証明するには専門的な検査(脳波など)が不可欠です。

この記事では、外傷性てんかんの症状や、てんかんで認定される可能性のある後遺障害等級、後遺障害を受けた場合の賠償金などについて解説します。

交通事故の後遺症の「外傷性てんかん」とは?

交通事故によって引き起こされるてんかんの多くは、頭部外傷により脳にダメージを受けたことで発症する「外傷性てんかん」です。

「てんかん」とは、脳内の神経細胞(ニューロン)で発生する過剰な電気的興奮によって、けいれんや意識障害などの発作を引き起こす神経疾患のことです。

 

外傷性てんかんの特徴

外傷性てんかんは、さまざまな検査をしても脳に明らかな病変や異常が見つからない、原因不明の「特発性てんかん」とは異なり、脳に何らかの障害が起きたり、脳の一部が傷ついたことが原因となる「症状性てんかん」です。

頭部外傷により脳にダメージを受けたことによって異常な信号を発し、その結果、脳の神経細胞のバランスが崩れて過剰な興奮状態に陥ることで発症します。

 

 

てんかんの症状や日常生活への影響

交通事故によって引き起こされるてんかんの多くは、頭部外傷により脳にダメージを受けたことによって異常な信号を発し、その結果、脳の神経細胞のバランスが崩れて過剰な興奮状態に陥ることで発症する「症候性てんかん」です。

このような外傷に起因するてんかんを「外傷性てんかん」といいます。

それでは、交通事故で頭部にダメージを受けたことで「外傷性てんかん」になった場合の具体的な症状や、日常生活への影響などについてお伝えします。

てんかんの症状には、脳の損傷・異常によって「部分発作」を起こす部分てんかんと、「全般発作」を起こす全般てんかんに分類することができます。

それでは、部分発作と全般発作の症状について説明いたします。

 

焦点発作(部分発作)

焦点発作(部分発作)とは、脳のある部分から始まる発作です。

発作症状の現れ方は非常に幅が広く、神経細胞の異常興奮が生じる部位や強さによって大きく異なります。

脳のどの部分からおこるのかによって、発作のはじめの症状が決まり、発作中の意識の状態とけいれんへの移行によって次のように分類することができます。

  1. ① 単純部分発作
  2. ② 複雑部分発作
  3. ③ 二次性全般化発作

 

①単純部分発作

単純部分発作とは、意識がはっきりしている状況で起こる発作のことをいいます。

意識が保たれている単純部分発作では、原因部位により症状はさまざまです。

意識がはっきりしているため、発作中にどのような症状があったかを認識して覚えています。

発作の原因部位と症状については以下のとおりです。

  • 前頭葉:顔面・手・足がつっぱる・ねじれる・ガクガクとけいれんするなど
  • 頭頂葉:感覚発作などの異常感覚
  • 側頭葉:な異常の異常感覚や恐怖感、既視感、未視感、異常嗅覚、幻聴、幻視、めまい感など
  • 後頭葉:光や点、線、模様などが見える幻視、視野欠損など

 

②複雑部分発作

複雑部分発作では、意識障害が発生するため、発作中のことを認識・記憶できません

複雑部分発作が起こった場合には、話しかけても反応することができません。

発作の持続時間は1分〜3分程度であると言われています。

また、その場にそぐわない一連の動作・表情・行動が無意識に生じることがあるため、自動症と呼ばれることがあります。

側頭葉に由来する発作の場合には、動作がとまり、呼びかけに反応がないか、あっても「うん」くらいの反応しかできないことが多いと言われていますが、倒れることはありません。

顔を見ると目の焦点が合っていない・一点を見つめていることがあります。

自動症の場合には、口をモグモグさせたり、舌・唇をクチャクチャと無意識に動かす、あるいは、無意識に手をモゾモゾと動かし周囲の者に触れるという症状がみられます。

 

③二次性全般化発作

単純部分発作あるいは複雑部分発作から、電気的興奮が全体に広がって全身のけいれんにつながることをいいます。

二次性全般化発作は、単純部分発作から強直間代発作、複雑部分発作から強直間代発作、単純部分発作から複雑部分発作を経て強直間代発作という3つに分類することができます。

ただし、単純部分発作か複雑部分発作かについては、明確には区別できない場合も少なくありません。

 

全般発作

「全般発作」は、発作のはじめから左右の脳全体が「脳の電気的嵐」に巻き込まれ、発作の最初から意識障害が発生するという特徴があります。

全般発作は症状によって次のように分類することができます。

  1. ① 強直間代発作
  2. ② 欠伸発作
  3. ③ ミオクロニー発作
  4. ④ 脱力発作

 

①強直間代発作

強直間代発作とは、いわゆる全身けいれん発作(大発作)のことで、強直後、四肢が硬くなりつっぱるけいれんを起こすなど、持続的な筋肉の収縮ではじまります

その後、全身の筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、身体がガクガクとけいれんします。

強直間代発作は通常1分~2分程度で終了すると言われています。

しかし、5分間けいれんが続くと、てんかん重積状態となり発作がとまらなくなるため、救急車を呼ぶ必要があります。

 

②欠伸発作

欠伸発作が起こると、5秒〜10秒ほど意識が遠のき、目はうつろになって動作が停止します

発作の最中に倒れることはほとんどありません。

発作が終わると何事もなかったかのように、それまでの動作を再開するという特徴があります。

欠伸発作は、主に小児期に発症し、成人期に発症することはまれです。

 

③ミオクロニー発作

ミオクロニー発作が起こると、両手や片手が一瞬びくっと動くため、持っている物を落とすことがあります。

単発で発生することも、連続して発生することもあります。

意識を失うことはなく、寝起きによく起こる傾向があります。

病院で問診を受ける場合、「寝起きに朝ご飯を食べているときに、箸・茶碗を落としたことがあるか」、「朝起きて歯磨きの時に、歯ブラシやコップを落としたことがあるか」と尋ねられることがあるのは、このミオクロニー発作の有無を確認するためです。

 

④脱力発作

脱力発作が起こると、突然、全身の力が入らなくなり、崩れ落ちるように倒れこんでしまいます

筋緊張の突然の減弱によって発生し、部分的で頭部が前に垂れ、下あごが緩んだり、手・足がだらりとしたりする場合もあります。

脱力発作がきわめて短い時間の場合には、転倒発作と呼ばれることもあります。

意識を失ったとしても、その時間は比較的短時間であると言われています。

脱力発作の持続時間は1〜2秒ほどのごく短い時間ですが、突然転倒するためけがをしやすいため、頭部を保護しておく必要があります。

 

 

てんかんの後遺障害認定基準と注意点

てんかんで認定される可能性がある後遺障害等級

交通事故で外傷性てんかんを発症した場合には、治療を継続しても治癒せずに、後遺症として発作が続く可能性があります。

このような後遺症については、後遺障害等級の認定申請を行うことで、「後遺障害」と認められる可能性があります

「後遺障害」とは、交通事故と因果関係のあるものと医学的に証明され、さらに労働能力が低下した、あるいは喪失したものと認められ、さらに、その程度が自賠責保険の後遺障害等級に該当するものを指します。

交通事故による後遺障害については、部位や程度によって「1級〜14級」までの等級と140種類、35系列の後遺障害に細かく別れています。

てんかんの後遺障害は、神経系統の障害に分類されており、症状や発作の程度によって次のような認定基準となっています。

後遺障害等級 認定基準
5級2号 1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が意識障害の有無を問わず転倒する発作又は意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作であるもの
7級4号 転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの
9級10号 数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの
12級13号 発作はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの

 

後遺障害認定の注意点

後遺障害の申請をしてから結果が出るまでの期間については、多くの場合1〜3ヶ月程度かかります。

これはあくまで目安なので、事案によっては6ヶ月以上かかるということもあり得ます。

また、損害保険料率算出機構が公表しているデータによれば、2021年度に自賠責保険が賠償金を支払った件数は、全部で837,390件です(「自動車保険の概況」より)。

そのうち、何らかの後遺障害に対して賠償金が支払われた件数は、38,837件です。

したがって、事故全体の支払い件数に対する後遺障害の支払い率、すなわち認定率については約4.6%となります。

よって、後遺障害の認定については、申請すれば必ず認められるというものではないという点には注意する必要があります。

 

後遺障害認定のためには治療の継続が必要

てんかんの薬物治療は、抗てんかん薬を毎日規則的に服用して、発作を抑制していくという方法が一般的です。

医学的な治療としてはもちろんですが、損害賠償請求の観点からも、医師の指示通りに服薬を続けることは非常に重要です。

なぜなら、後遺障害等級(9級)は、薬でてんかん発作をコントロールできているかを基準に判断されるからです。

自己判断で通院や服薬を中断してしまうと、本来もらえるはずの賠償金が受け取れなくなるリスクがあるため注意が必要です。

 

 

てんかんの慰謝料相場とその他の賠償金

後遺障害慰謝料

交通事故で受けた外傷性てんかんについて、後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。

後遺障害の慰謝料とは、交通事故によるけがで残ってしまった後遺障害に対して、被害者の身体的・精神的な苦痛を補償するお金です。

被害者の方は、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料を請求することができます。

てんかんの症状で認定される可能性があるのは、5級〜12級の後遺障害です。

5級〜12級の後遺障害慰謝料の弁護士基準での相場は以下のとおりです。

後遺障害等級 弁護士基準による慰謝料相場
5級 1400万円
6級 1180万円
7級 1000万円
8級 830万円
9級 690万円
10級 550万円
11級 420万円
12級 290万円

なお、後遺障害慰謝料については、以下のページで詳しく解説しております。

 

後遺障害逸失利益

てんかんが後遺障害に認定された場合には、後遺障害逸失利益を請求することもできます。

後遺障害が残ると、労働能力が低下し、将来の収入の減少が予想されます。

逸失利益は、このような減収に対する補償のことをいいます。

なお、後遺障害逸失利益については、以下の記事で詳しく解説しております。

 

その他の賠償金

交通事故で負傷した場合には、以下のような賠償金を受け取ることができます。

  • 入通院慰謝料
  • 積極損害
  • 休業損害

慰謝料には、後遺障害慰謝料のほかに、入通院慰謝料があります。

入通院慰謝料とは、入院や通院したことによる精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。

また、積極損害とは、交通事故にあったことによって、被害者が必要となってしまった費用を損害とするものです。

例えば、治療費や入院費、通院のための交通費や、装具や器具(義足や車椅子、コルセットなど)の購入費などが挙げられます。

休業損害とは、交通事故にあったことで会社を休まざるを得なくなったり、家事ができなくなってしまったことを損害とするものです。

休業損害が認められるのは、会社員をはじめとする有職者や、他人のために生活のサポートをする主婦(主夫)が基本です。

ただし、無職の方であっても、交通事故にあった時点で、具体的に就職予定が決まっていたり、労働能力や意欲があり、就労の蓋然性が高い場合には、休業損害が認められることがあります。

なお、慰謝料を含む交通事故の賠償金については、以下の記事を参考にされてください。

 

 

てんかんの後遺障害認定に必要な検査と立証方法

てんかんで後遺障害認定を受けるためには、てんかんが交通事故によって発症していることを証明する必要があります。

後遺障害認定に必要な証明にあたっては、画像検査、脳波検査、てんかんの頻度の記録などが必要となります。

 

画像検査、脳波検査

画像検査、脳波検査で、てんかんが脳の損傷によって発症していることを証明します。

画像検査は、MRIにて脳の形態的な異常がないかを調べ、CT、PET、SPECTなども、必要に応じて行われます。

脳波検査(EEG)では、発作に関連する脳内の電気的興奮を特定し、発作のタイプ(焦点性か全般性かなど)を特定します。

また、発作時の脳波を確認するために、入院して脳波とビデオを同時に長時間記録するビデオ脳波モニタリングを実施することも検討します。

 

てんかんの頻度の記録

後遺障害の認定にあたっては、てんかんの発作の頻度も証明する必要があります。

この頻度は、入院しており頻度が確認できる場合には、カルテなどの医療記録により証明することが考えられます。

また、発作が起こるごとに日時やその状態(発作の持続時間、意識の有無、けいれんの部位など)について記録をつけておくことが考えられます。

 

 

外傷性てんかんと合併しやすい高次脳機能障害の可能性

外傷性てんかんを発症している場合には、高次脳機能障害も併発している可能性があります。

高次脳機能障害とは、頭部に外傷を負ったことで、認知障害、行動障害、人格変化などが起きる障害です。

高次脳機能障害は、外観上、その障害が分からないため、他人から誤解されて本人や家族が辛い思いをされることがあります。

高次脳機能障害の後遺障害等級は以下のとおりです。

等級 認定基準
1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

高次脳機能障害について詳しくは以下をご覧ください。

 

 

てんかんで適切な賠償金を得る3つのポイント

転換で適切な慰謝料を得る3つのポイント

症状固定までしっかり治療する

まずは、症状固定までしっかり治療し、それでも治らなかった時に後遺障害の申請を検討していくことになります。

症状固定とは、これ以上治療を行っても症状の改善を期待することができないであろうという時点のことをいいます。

症状固定まで治療を継続しないと、後遺障害申請をすることはできませんので、症状固定まで医師の指示に従ってしっかり治療しましょう。

 

適切な後遺障害診断書を作成してもらう

後遺障害申請の必要書類の一つに、「後遺障害診断書」というものがあります。

この後遺障害診断書は、提出する証拠資料の中でも特に重要なものの一つです。

なぜなら、後遺障害診断書は、被害者に残存する後遺障害の内容が説明されているものだからです。

後遺障害診断書は、主治医が基本的に作成するものであり、被害者に残存する後遺障害の内容について、医学的な見解が書かれています。

 

後遺障害に強い弁護士に相談する

後遺障害認定の鍵は、基本的に証拠資料になります。

どのような証拠資料を提出するかを判断するにあたっては、専門的な知識を必要とします。

そのため、交通事故に精通している弁護士に後遺障害申請も含めて依頼され、少しでも後遺障害認定がされる確率を上げた方が良いと考えています。

交通事故で弁護士に依頼するメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

まとめ

この記事では、てんかんの症状やその治療法、てんかんで認定される可能性のある後遺障害等級などについて解説しました。

事故にあって、てんかんの後遺症が残ってしまうということは、被害者の方にとって、その後の生活にもとても大きな影響を与えることになります。

少しでも不安を取り除き、安心して生活をするためにも、適切な後遺障害の等級を受けること、適切な賠償金を受けることは非常に重要です。

そのためには、交通事故を専門的に取り扱う弁護士に相談、依頼することが重要です。

当事務所には、交通事故案件を日常的に処理する弁護士が所属する人身障害部があります。

交通事故のご相談やご依頼後の事件処理は、すべて人身障害部の弁護士が対応いたしますので、安心してご相談ください。

電話相談、オンライン相談(LINE、Meet、FaceTime、Zoom)にて、全国対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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