仙骨骨折による後遺症のポイント|弁護士が解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

仙骨(せんこつ)は上半身を支える重要な骨であるため、仙骨を骨折することによって歩行障害や内蔵損傷などの様々な症状がでてきます

仙骨を骨折したことで後遺障害が残った場合、認定される後遺障害等級によって損害賠償額が大きく異なってくるため、適正な後遺障害等級を獲得することが重要になります。

ここでは、仙骨骨折の後遺障害認定の特徴や仙骨骨折で適切な賠償を得るためのポイントなどについて、弁護士が解説します。

この記事をご覧いただければ、仙骨骨折について押さえておくべき重要なポイントについて知ることができます。

仙骨骨折とは

仙骨骨折(せんこつこっせつ)とは、交通事故や労災事故などによって、大きな外圧が骨盤に加わることにより、骨盤の中央に位置する仙骨が骨折することをいいます。

仙骨は、骨盤の中央に位置しており、背骨の一番下に位置する骨になります。

仙骨に用いられている「仙」という文字は、「神仙」や「仙人」という言葉で用いられているように、聖なる意味や特別な意味で使用されることが多いです。

仙骨には、上半身の土台としての役割、 体の負荷を両足に分散する役割、歩行時や体をジャンプした際の足からの衝撃も分散する役割があります。

仙骨は、人体にある複数の骨の中でも特に重要な骨であり、人間の生命活動において、非常に重要な役割を果たしております。

 

骨盤骨折との違い

そもそも、骨盤は左右の腰帯を構成する腸骨、恥骨、坐骨(ざこつ)と脊椎を構成する仙骨から構成されています。

そのため、骨盤骨折とは、骨盤を構成する骨のいずれかが骨折した場合を意味し、仙骨骨折は骨盤を構成する骨の一部である仙骨が骨折することを意味します。

 

 

仙骨骨折の症状や日常生活への影響

仙骨骨折の症状としては、腰やお尻の痛みが中心ですが、痛みが足まで広がる場合もあります。

痛みの程度については、個人差はあるものの、動けない程の痛みであるとも言われており、通常は激痛を伴うことが多いです。

また、仙骨骨折においては神経損傷を合併することもあり、下肢の知覚低下・筋力低下、膀胱直腸障害(膀胱や直腸に機能障害が生じること)を発症する可能性があります。

仙骨骨折については、骨がもとに戻らなかったり、痛みが残存する等、後遺障害の可能性があるため、適切な治療を継続的に受けることが重要になります。

 

 

仙骨骨折の原因

仙骨骨折の原因としては、外部からの強い外圧が、腰やお尻付近に加わることによって生じます

例えば、自動車の衝突事故やバイクの横転事故、高所からの転落事故によって、骨盤付近に強い衝撃が加わることにより仙骨骨折に至ります。

衝突事故や転落事故などによって、腰やお尻周りに違和感を感じた場合、仙骨骨折等の重大な怪我の可能性があるため、整形外科等の専門の病院へ行くことをおススメします。

 

 

仙骨骨折の後遺障害認定の特徴と注意点

仙骨骨折として認定される可能性のある後遺障害の種類と後遺障害等級については下表のようになります。

後遺障害の種類 後遺障害等級
神経症状が残る場合 12級13号、14級9号
下肢の短縮障害 8級5号、8級相当、10級8号、10級相当、13級8号、13級相当
変形障害 12級5号

後遺障害等級については、数字が低いほど後遺障害が重篤であることを示し、慰謝料や逸失利益等が増額します。

 

神経症状が残る場合

骨折後に痛みが残存している場合は、後遺障害等級12級13号もしくは14級9号に該当する可能性があります。

 

後遺障害等級14級9号について

骨盤の周辺には複数の神経が存在するため、骨折により神経が圧迫されることによって、神経症状が残ることがあります。

神経症状の内容としては、痛み、痺れ、めまい、頭痛などの症状があります。

後遺障害等級14級9号の認定には、痛みや痺れを医学的に説明できる必要があり、当該事故に関する事情を総合的にみて医学的に説明できるか判断します。

 

後遺障害等級12級13号について

後遺障害等級12級13号の認定には、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として、①画像所見と②神経学的検査の結果が必要となります。

後遺障害等級12級13号は、神経症状の残存について「医学的に証明」する必要があり、「医学的に証明」するためには、CTやレントゲン、MRIなどの画像所見で明確に異常が指摘できる必要があります。

 

下肢の短縮障害

仙骨骨折により、骨盤骨が正常に戻らなくなることによって、下肢の長さが変化する場合があります。

下肢の長さが変わった場合の後遺障害等級については、足の長さの変化の幅によって、下表の後遺障害等級が考えられます。

8級5号 1下肢を5センチ以上短縮たもの
8級相当 1下肢が5センチ以上長くなったもの
10級8号 1下肢が3センチ以上短縮したもの
10級相当 1下肢が3センチ以上長くなったもの
13級8号 1下肢が1センチ以上短縮したもの
13級相当 1下肢が1センチ以上長くなったもの

計測方法としては、上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょくれつり)から下腿内果(かたいないか)の下端の間の長さについて、健側と比較して算出する方法があります。

 

変形障害

変形障害とは、裸の状態で明らかに変化していることが分かる程度に必要であり、外見上に変化がみられない場合は、後遺障害としては認められません

変形障害が認定された場合は、後遺障害等級12級5号に該当します。

 

仙骨骨折と素因減額

骨密度と骨質の低下した状態で仙骨骨折をした場合、脆弱性骨盤骨骨折(ぜいじゃくせいこつばんこつこっせつ)についても発症する可能性があります。

脆弱性骨盤骨骨折とは、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が原因となり骨密度が低下したことにより、弱い外圧であっても骨盤が骨折する場合をいいます。

骨粗鬆症を伴っている場合、身体的な疾患があるとして、素因減額(被害者の体質的・身体的素因が原因となって損害が拡大していると考え、損害額を減額すること)される可能性があります

もっとも、骨粗鬆症は、高齢者を中心に多くの、骨粗鬆症を発症していることのみをもって直ちに身体的な疾患として素因減額されるわけではありません。

骨粗鬆症が認定されたとしても、骨粗鬆症の程度や損害拡大への寄与度が立証できなかった場合は、骨粗鬆症による素因減額はなされない、もしくは減額の幅が小さくなる可能性があります。

 

 

仙骨骨折の慰謝料などの賠償金

仙骨骨折と後遺障害慰謝料

交通事故によってケガをされた場合、治療はしたものの、ケガが完治せず、ケガをした箇所について痛みなどの症状が残り続ける場合があります。

このような後遺症について、交通事故では後遺障害という等級制度を設けており、後遺障害が残ったことに対する慰謝料や逸失利益は、かかる等級を参考にして決められます。

また、後遺障害等級は、自賠責基準から算出される賠償額と弁護士基準から算出される賠償額があります。

例えば、仙骨骨折によって後遺障害が残った場合について、以下の後遺障害等級、及び慰謝料が考えられます。

等級 自賠責基準 弁護士基準
8級 331万円 830万円
10級 190万円 550万円
12級 94万円 290万円
13級 57万円 180万円
14級 32万円 110万円

仙骨骨折と後遺障害の特徴として、仙骨自体に与える影響や仙骨の周辺の臓器への影響、神経障害から運動障害まで様々な後遺障害が想定されます。

 

仙骨骨折と逸失利益

後遺症が残り、後遺障害が認定された場合、逸失利益の計算方法としては以下の計算式を用います。

①基礎収入 × ②労働能力喪失率 × ③喪失期間に対応するライプニッツ係数

 

①基礎収入

交通事故にあった時点で会社員だった場合は、原則として交通事故にあう前の年の年収を基礎収入として考え、源泉徴収票や所得証明書を用いて年収を証明します。

自営業者の方については、交通事故にあった年の前年の確定申告に記載された申告所得額を基礎収入として考えます。

専業主婦の方についても基礎収入が認められており、基礎収入の算出方法として、女性の学歴計、年齢計の年収額を根拠として算出します。

逸失利益と基礎収入について知りたい方は、こちらをご覧ください。

 

労働能力喪失率

労働能力喪失率については、交通事故の場合に用いられる後遺障害等級表で考えた場合、仙骨骨折に関係する後遺障害については下表のようになります。

等級 労働能力喪失率
8級 45%
10級 27%
12級 14%
13級 9%
14級 5%

12級5号の変形障害については、骨の変形では労働能力に影響しないとして、労働能力喪失率が問題となる場合があります。

変形障害については、変形障害によって痛みが残存していることや、歩行に対する制限があるとして、労働能力に対する具体的影響を主張していくことになります。

 

労働能力喪失期間

労働能力喪失期間とは、後遺障害が残ったことによって労働能力の低下が影響する期間のことです。

労働能力喪失期間について、一般的には症状固定日を始期として、就労可能年数の67歳までの期間を労働能力喪失期間として考えて計算します。

例えば、40歳で症状固定になった場合は、27年間(67 – 40= 27)が労働能力喪失期間となり、25歳で症状固定になった場合、42年間(67 – 25 = 42)を労働能力喪失期間として考えます。

被害者の年齢が事故当時67歳を超えていた場合には、平均余命の2分の1を労働能力喪失期間として考えて計算します。

労働能力喪失期間について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

喪失期間に対応するライプニッツ係数

例えば、労働能力喪失期間を5年間とした場合、そのまま5をかけるわけではなく、逸失利益については、原則として示談した段階で一括で受け取ることから、5年先の賠償について、中間利息を控除する必要があります

そして、この中間利息を控除するためにライプニッツ係数と呼ばれるものが用いられます。

今の100万円と5年後に受け取る100万円とでは、利息を考慮すると全く同じ価値とはいえず、この点を考慮するために用いるのがライプニッツ係数という数値です。

例えば、労働能力喪失期間を5年間と考えた場合のライプニッツ係数については4.5797となっています。

逸失利益の計算方法について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

仙骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

仙骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

適切な治療を受ける

通院慰謝料は、基本的にはこれ以上治療を行っても症状が良くも悪くもならないであろう時点、すなわち症状固定日までの通院期間・通院頻度によって算出されます。

そのため、通院慰謝料について適切な賠償金を受けるためには、適切な治療を継続的に受けることが重要となります。

医師の判断を待たずに治療を中断させてしまうと、通院慰謝料の金額に大きく影響するだけでなく、症状が悪化することにもつながりかねません。

交通事故や労災事故によって腰やお尻周辺の痛みが続く場合は、早めに整形外科等の専門の医師に相談しましょう。

通院回数と慰謝料について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

適切な後遺障害等級を獲得する

仙骨骨折が原因となり後遺障害認定を受けた場合、後遺障害等級については14級9号から8級7号まであり、認定等級に大きな差があります。

例えば、後遺障害等級14級9号と12級13号のどちらが認定されるかだけでも、弁護士基準で150万円以上の差額があり、適切な後遺障害等級が認定されることがいかに重要かが分かります

後遺障害の認定について少しでも不安や疑問を感じたら、交通事故に強い弁護士に相談されることをおススメします。

後遺障害の認定と賠償額の関係について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

適切な賠償金の金額を算定する

後遺障害等級が認定された場合でも、加害者側の保険会社が提示する金額は、弁護士基準を大きく下回る額であることが多いです。

例えば、後遺障害等級14級9号が認定された場合について、加害者側の保険会社が提示する後遺障害慰謝料及び逸失利益の合計額は、自賠責基準の75万円、または保険会社の独自の基準として、75万円を少し上回る程度の金額を提示する場合が多いです。

一方で、後遺障害等級14級9号を弁護士基準で考えた場合については、後遺障害慰謝料だけでも110万円となり、さらに逸失利益も請求できるため、加害者側の保険会社の提示する金額から大幅に増額する可能性があります。

そのため、加害者側の保険会社等から後遺障害認定後に賠償金を提示された場合、ご自身が受け取れる適切な賠償金の金額を知るためにも、交通事故に強い弁護士に相談されることをおすすめします

慰謝料等の計算方法について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらいましょう

加害者側が作成した示談内容は、判例上認められる賠償額を大きく下回っている可能性があります。

一度サインして示談してしまうと、示談をやり直すことは非常に困難であるため、しっかりと内容を確認してからサインすることが重要となります。

加害者側の示談内容については、交通事故に強い弁護士に相談されることをおススメします。

交通事故の示談をスムーズに行う方法について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

後遺障害の認定について詳しい弁護士に相談しましょう

適切な後遺障害認定が期待できます

弁護士が被害者請求として後遺障害の申請を行う場合、後遺障害を申請するために必要となる書類を集めるだけでなく、後遺障害が認定されるために有利となる証拠等も添付して申請を行います。

また、早い段階で弁護士に依頼することで、治療や通院に関する相談を弁護士にすることができるというメリットがあります。

早い段階で交通事故に強い弁護士に依頼することで、後遺障害等級認定のための適切な証拠が収集でき、最終的に適切な後遺障害認定が期待できます

交通事故を弁護士に依頼するメリットや弁護士選びのポイントについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

賠償額の増額が期待できます

仮に後遺障害等級が認定されたとしても、加害者側の保険会社は、自賠責基準もしくはそれに少し上乗せした程度の慰謝料を提示する場合が多いです。

弁護士が受任することで、最も高い基準である弁護士基準で交渉することになるため、賠償金のアップが期待できます

 

弁護士費用特約の活用

弁護士費用特約とは、交通事故にあった場合に相手方との交渉や裁判等を弁護士に依頼する際の費用、法律相談費用等を保険会社が支払うという保険です。

弁護士費用特約の効果として、基本的には自己負担なしで交通事故の対応を弁護士に依頼できます(なお、弁護士費用について 300万円の上限金が定められている場合が多いです。)。

弁護士費用特約の適用範囲について、多くの場合、自動車保険に加入している契約者(被保険者)に加え、契約者の家族や同乗者も使用することができます。

弁護士費用特約について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

まとめ

  • 仙骨骨折とは、交通事故や労災事故などによって、大きな外圧が骨盤に加わることにより、骨盤の中央に位置する仙骨が骨折することをいう。
  • 仙骨骨折においては神経損傷を合併することもあり、下肢の知覚低下・筋力低下、膀胱直腸障害(膀胱や直腸に機能障害が生じること)を発症することがある。
  • 仙骨骨折の原因としては、外部からの強い外圧が、腰やお尻付近に加わることによって生じる。
  • 骨密度と骨質の低下した状態で仙骨骨折をした場合、骨粗鬆症を原因として脆弱性骨盤骨骨折に至ることもある。
  • 仙骨骨折においては神経損傷を合併することもあり、下肢の知覚低下・筋力低下、膀胱直腸障害(膀胱や直腸に機能障害が生じること)を発症することがある。

当事務所には交通事故や労災等の事故案件に注力する弁護士で構成された人身障害部があり、お怪我で苦しむ方々を強力にサポートしています。

LINEやZoomを用いた相談などで全国対応もしておりますので、仙骨骨折による後遺症でお困りの方はお気軽にご相談ください。

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