公正証書遺言があるのに遺留分を請求できる?弁護士が解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

公正証書遺言があっても、遺留分を請求することはできます

遺留分は法律によって保障されている権利であり、遺言によっても奪うことはできないのです。

この記事では、そもそも遺留分とはどのようなものか、どのような場合に遺留分を請求できるのか、遺留分を請求するためにはどのような手続きが必要となるか、といった点について、相続問題にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。

公正証書遺言とは

公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)とは、遺言者(遺言を残す人のことです。)の意志にしたがって、公証人(文書の存在や内容を証明するという公務を行う人のことです。)が作成し、公証役場で保管される遺言のことです。

公正証書遺言は、他の種類の遺言(例えば、自筆証書遺言や秘密証書遺言などがあります。)に比べて、無効となるリスクや破棄・偽造・紛失等のリスクが小さい遺言です。

公正証書遺言について詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

遺留分とは

遺留分(いりゅうぶん)とは、相続人のうち被相続人(亡くなった方のことです。)の配偶者(妻・夫)、子ども直系尊属(両親・祖父母等)について法律(民法)上保障されている、遺産の最低限の取り分のことです。

なお、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がありません。

遺留分を侵害された相続人は、侵害の原因となる遺産を受け取った人に対して、侵害されている遺留分の金額を支払うように求めることができます(遺留分侵害額請求)。

 

遺留分の割合

それぞれの相続人の具体的な遺留分の割合は、①誰が相続人となるのか(被相続人との続柄)や、②何人で遺産を相続するのかによって異なります。

具体的な遺留分の割合は次の表のとおりです。

遺留分の割合表

※1 直系尊属とは、両親や祖父母、曾祖父母などの親子の関係でつながる上の世代の親族のことです。

※2 被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められないため、配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合には、配偶者のみが1/2の遺留分を取得します。

遺留分について詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

公正証書遺言があるのに遺留分を請求できる?

公正証書遺言であっても、その内容が遺留分を侵害している場合には遺留分を請求することができます

遺留分は法律(民法)によって保障されている権利であり、公正証書遺言によってもこれを奪うことはできません。

例えば、遺言者に妻のほかに2人の子ども(長男・長女)がいるケースで、「遺産のすべてを妻に相続させる」という内容の公正証書遺言を作成する場合、長男と長女はその遺留分(長男・長女はそれぞれ遺産の1/8の遺留分が保障されています。)を侵害されています。

この場合、長男・長女は妻に対して、金銭の支払いを求めることができます。

 

 

遺留分を請求する方法

遺留分の請求は次のようなプロセスで行います。

遺留分請求の流れ

 

遺留分(侵害額)の確認

①どのくらいの遺留分が保障されているのか(遺留分の金額)、②遺留分はどのくらい侵害されているのか(遺留分の侵害額)、を確認します。

遺留分の金額

①遺留分の金額は、次の式によって計算されます。

遺留分の金額 = 遺産の金額※ × 遺留分の割合

※「遺産の金額」は、次の式によって計算される金額です。

遺産の金額 = 被相続人のプラスの遺産の金額 + 被相続人が贈与した遺産の金額 − 被相続人の債務(借金・ローンなど)の金額

例えば、遺言者の夫と父親が相続人になるケースで、遺産の金額が1800万円の場合、夫の遺留分の金額は、1800万円 × 1/3 = 600万円です。

また、父親の遺留分の金額は、1800万円×1/6=300万円です。

遺留分の侵害額

②遺留分の侵害額は、次の式によって計算されます。

遺留分侵害額 = 遺留分の金額 −(遺留分権利者※が受けた遺贈または特別受益の金額)−(遺留分権利者が相続によって得た遺産の金額) + (遺留分権利者が引き継ぐ債務の金額)

※遺留分権利者とは、遺留分を保障されている相続人のことをいいます。

遺留分の割合について詳しくはこちらをご覧ください。

 

遺留分侵害額の請求(遺留分侵害額請求権の行使)をする

遺留分やその侵害額を確認したら、遺留分の侵害の原因となっている相手に対して、「遺留分を侵害されているので、遺留分侵害額の請求をする」という意思を伝えます。

これを「遺留分侵害額の請求(遺留分侵害額請求権の行使)」といいます。

遺留分侵害額の請求には期限が定められており、被相続人が亡くなったことを知ってから1年を過ぎると時効にかかって消滅し、その後はもはや請求することができなくなります。

そのため、遺留分が侵害されていることを知ったときは、できるだけ早く遺留分侵害額の請求をすることが大切です。

遺留分侵害額の請求は口頭で行うこともできますが、後に相手から「そのような請求は受けていなまい」「権利は時効にかかって消滅している」などと言われてトラブルとなることを防ぐため、内容証明郵便などを利用して、証拠の残る形で請求をすることを強くおすすめします。

 

話し合いによる解決を試みる

遺留分侵害額の請求をしても相手が金銭を支払ってくれない場合、まずは当事者同士の話し合いによる解決を試みます。

請求の相手が話し合いに応じてくれない場合や、当事者だけで話し合ってもらちがあかない場合には、弁護士に依頼して代理で交渉してもらう(当事務所では、これを「代理交渉」と呼んでいます。)のがおすすめです。

当事者だけで話し合いをする場合には、感情的な対立から話し合いがまとまらず、解決までに時間がかかってしまうことが少なくありません。

法の専門家である弁護士が間に入ることで、合理的な話し合いによる解決が期待できます。

調停や訴訟などの裁判所を介した手続きを利用する場合、一般的には解決までに半年〜数年程度の時間がかかり、事案によっては5年以上かかってしまうこともあります。

そのため、当事務所では、裁判所を介した手続きを利用する前に、できるだけ当事者同士の話し合いや代理交渉によって解決することをおすすめしています。

 

遺留分侵害額の請求調停を申し立てる

当事者同士の話し合いや代理交渉を重ねても相手が金銭を支払ってくれない場合には、家庭裁判所に対する「遺留分侵害額の請求調停」の申立てを検討します。

「調停」とは、裁判所が間に入って調整を行い、当事者同士の合意による解決をめざす手続きのことです。

遺留分の侵害については、いきなり訴訟(裁判)をするのではなく、まずは調停を通じた解決をめざし、調停で解決できない場合にはじめて訴訟をするのが原則とされています(これを「調停前置」といいます)。

調停は、1〜2ヶ月に1回のペースで、2〜3回程度行われるのが一般的です。

当事者が合意に至った場合には調停が成立し、裁判所が調停の内容を書面にまとめた「調停調書」を作成します。

当事者が合意に至らない場合、調停は不成立に終わります。

 

遺留分侵害額請求訴訟(裁判)を提起する

調停が不成立となった場合には、さらに地方裁判所(請求金額によっては簡易裁判所)に「遺留分侵害額請求訴訟」を提起することを検討します。

調停とは異なり、訴訟においては当事者が合意できるかどうかにかかわらず、裁判所が「判決」という形で判断を下します。

遺留分侵害額の請求について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

遺留分を請求する方のポイント

遺留分を侵害された相続人の方が遺留分を請求する場合のポイントは、次のとおりです。

時効に注意する

遺留分侵害額の請求には1年の時効が定められているため、遺留分が侵害されていることを知ったら、できるだけすみやかに内容証明郵便等で遺留分侵害額の請求をすることが大切です。

また、遺留分侵害額の請求をすると、これによって具体的な金額の金銭を支払する権利(金銭支払請求権)が発生します。

この金銭支払請求権についても5年の時効があり、遺留分侵害額の請求をしても相手が金銭を支払ってくれない場合、何もせず5年を過ぎると時効にかかって消滅してしまうため注意が必要です。

遺留分の時効について詳しくはこちらをご覧ください。

 

相続にくわしい弁護士に相談する

遺留分の請求については相続に関する専門知識が必要となることから、手続きをスムーズに進めるためには、相続にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。

この記事でも遺留分の金額や遺留分の侵害額を確認するための方法を解説していますが、具体的な状況によっては、ご自身での判断が難しい場合もあるかと思います。

遺留分の請求には1年の時効もあることから、ご自身での判断に迷われる場合や、少しでも不安がある場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談されるのがよいでしょう。

相続については初回の相談を無料としている弁護士も多くいますので、こうした無料相談を活用するのもおすすめです。

相続問題を弁護士に相談すべき理由はこちらをご覧ください。

 

 

公正証書遺言を作成する方のポイント

公正証書遺言を作成する際のポイントは次のとおりです。

公正証書遺言を作成する際のポイントの図

遺留分に配慮した内容の遺言を作成する

ここまで説明してきたように、公正証書遺言であっても、その内容が遺留分を侵害している場合には、遺留分の請求をめぐる相続人同士のトラブルにつながる可能性があります。

こうしたトラブルを防ぐためには、①遺留分を侵害しない遺言を作成する、②やむをえず遺留分を侵害することとなる場合は遺言の書き方を工夫する、などの対策をとることが考えられます。

①遺留分を侵害しない遺言を作成する

それぞれの相続人の遺留分の割合を確認し、遺留分を侵害しない内容の遺言を作成することで、遺留分をめぐるトラブルを回避することができます。

相続人ごとの遺留分の割合については、この記事の前半で示した表でご確認いただけます。

また、当事務所では遺留分の概算を計算できるシミュレーターを提供していますので、このシミュレーターをご活用いただくこともできます。

②遺言の書き方を工夫する

相続人間のトラブルを防止するためには、遺留分を侵害しない内容の遺言を作成するのが確実な方法ですが、やむをえず他の相続人の遺留分を侵害することとなる場合もあるかもしれません。

例えば、遺言者が、お金がなく働くこともできない状態にある相続人に遺産のほとんどを与えたいと考える場合、他の相続人(十分に資産があり働くことができる相続人)にはほとんど遺産を与えることができなくなる(他の相続人の遺留分を侵害することとなる)可能性があります。

このような場合には、公正証書遺言によって、遺言者が一部の相続人に多くの遺産を残したいと考える具体的な理由とともに、他の相続人に対し「遺留分侵害額請求をしないでほしい」という遺言者の希望を伝えることが考えられます。

これらの内容は「付言事項(ふげんじこう)」といって、法的な効力は認められないものです。

そのため、他の相続人が遺言の内容を無視して遺留分侵害額の請求をする場合に、これを止める効果はありません。

しかし、相続人が付言事項の記載によって遺言者の意思を汲み取り、請求をあきらめてくれる場合も少なくないことから、こうした工夫を試してみる価値はあります。

 

相続にくわしい弁護士に相談する

公正証書遺言の作成にあたっては、相続にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。

この記事で説明してきた内容をふまえて、ご自身で遺言の内容が遺留分を侵害していないかどうかを確認することは可能ですが、一般の方が自力で計算するのはなかなか難しいといえます。

遺留分の侵害額の計算には「遺産の金額」が必要となりますが、特に、遺産に不動産や株式などが含まれる場合、その金額の評価は専門家であっても難しいといわれています。

また、相続人同士の仲が悪い場合などトラブルにつながる可能性が高い場合には、遺言に記載する内容を慎重に検討することが大切です。

相続に詳しい弁護士であれば、公正証書遺言の作成についても豊富な経験と知識をもっていることから、適切なアドバイスをもらえることが期待できます。

なお、「公証人に相談すればよいのでは」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、公証人の職務は、遺言者の意思にしたがって外形的・形式的な要件を満たす遺言書を作成することにあり、遺言の内容についてのアドバイスは公証人の職務の範囲外です。

相続問題を弁護士に相談すべき理由はこちらをご覧ください。

 

公正証書遺言の手続きを弁護士に依頼する

さらに、公正証書の作成にかかる手続きを弁護士に依頼することもできます。

公正証書遺言の遺言を作成するためには、相続人の調査や戸籍謄本の取得、公証人との事前打ち合わせなどさまざまな準備が必要となります。

公正証書遺言の作成の手続きを弁護士に依頼する場合には、こうした面倒な手続きを弁護士がすべて代行してくれます。

公正証書遺言を急いで作成する必要がある場合や、ご自身の時間と労力を節約したい場合、公正証書遺言をめぐるトラブルを確実に防止したい場合には、作成の手続き自体を弁護士に依頼するのがおすすめです。

 

 

まとめ

・公正証書遺言がある場合でも、遺留分を請求することはできます。

・遺留分は相続人のうち配偶者(妻・夫)、子ども、直系尊属(両親・祖父母など)に対して法律上認められている遺産の最低限の取り分のことで、公正証書遺言によってもこれを奪うことはできません。

・遺留分の請求は、①遺留分侵害額の請求→②当事者同士の話し合い(弁護士による代理交渉を含みます。)→③遺留分侵害額の請求調停→④遺留分侵害額請求訴訟、といった形で段階をふんで行います。

・公正証書遺言の作成や遺留分の請求にあたっては、相続に関する専門知識が必要となることから、少しでも不安がある場合には、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。

・当事務所では、相続問題に注力する弁護士で構成する「相続対策専門チーム」を設置しています。

遺言の作成や遺留分の請求を含む相続全般のご相談について、この相続対策専門チームが対応させていただきます。

遠方の方についてはLINEやZoomによるオンラインのご相談も承っておりますので、ぜひお気軽にご利用ください。

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