ご家族がお亡くなりになると、ご遺族の方は深い悲しみに覆われ、途方に暮れていることと思います。
しかし、相続が発生すると、役場での手続き、遺産分割、相続税務など、やるべきことがとてもたくさんあります。
ここでは、ご遺族の方のご負担できるだけ軽くするために、相続にともなう各種手続きの流れについて、弁護士・税理士・MBAの資格を持つ執筆者がわかりやすく解説いたします。
この記事でわかること
- ご遺族がしなければならいこと
- 各種手続きの期限や内容
- 遺産分割の手続
- 相続手続きをしない場合のデメリット
目次
遺産相続とは
相続とは、亡くなられた方(被相続人)が所有していた財産上の地位を、相続人に引き継ぐことです。
現在の法律では、相続においては遺言がなければ、法定相続どおり、配偶者や血族がお亡くなりになられた方の遺産を引き継ぐことになります。
相続手続き一覧
下表は、相続にともなう各種手続きの一覧となります。
時系列にそって、必要な手続き、実施場所、必要書類、専門家への依頼の要否をまとめています。
漏れがないか、チェックリストとしてご活用ください。
期限がある手続きのスケジュール
7日以内
手続き | 場所 | 必要書類 | |
---|---|---|---|
死亡診断書の取得 | 病院 | ||
死体火葬・埋葬許可証の取得 | 市町村役場 | 死亡診断書 | |
死亡届の提出 | 市町村役場 | 死亡診断書 | |
期限 | 7日以内 | ||
専門家 | 不要 |
14日以内
手続き | 場所 | 必要書類 | |
---|---|---|---|
年金受給停止手続・受給権者死亡届 厚生年金は10日以内 |
社会保険事務所 | 年金証書 死亡診断書 戸籍謄本等 |
|
国民健康保険証の返却 (加入している場合のみ) |
市区町村役場へ返却 | 保険証 | |
介護保険の資格喪失届 (加入している場合のみ) |
市町村役場 | 保険証 | |
世帯主の変更届 (故人が世帯主の場合のみ) |
市町村役場 | 身分証明書 | |
期限 | 14日以内 | ||
専門家 | 不要 |
3か月以内
手続き | 相続放棄・限定承認 (借金があった場合などに検討:詳細はこちら) |
---|---|
場所 | 家庭裁判所 |
必要書類 | 住民票除票等 |
期限 | 3か月以内 |
専門家 | 弁護士への相談をお勧め |
4か月以内
手続き | 準確定申告 (個人事業主など該当する場合のみ) |
---|---|
場所 | 税務署 |
必要書類 | 申告書等 |
期限 | 4か月以内 |
専門家 | 税理士への相談をお勧め |
10か月以内
手続き | 相続税の申告 (該当する場合に実施:詳細はこちら) |
---|---|
場所 | 税務署 |
必要書類 | 申告書等 |
期限 | 10か月以内 |
専門家 | 税理士への相談をお勧め |
1年以内
手続き | 遺留分侵害額請求 (遺言の内容に納得がいかない場合などに検討:詳細はこちら) |
---|---|
場所 | 遺贈や贈与を受けた相手に請求 |
必要書類 | 具体的案状況で判断 |
期限 | 1年以内 |
専門家 | 弁護士への相談をお勧め |
※必要が高いものを例示しています。具体的な状況で対応が異なるため、詳しくは相続専門の弁護士にご相談されてください。
速やかに検討すべきもの
手続き | 場所 | 必要書類 | 専門家 |
---|---|---|---|
遺産分割 相続人が2名以上いる場合 |
具体的案状況で判断 | 具体的案状況で判断 | 弁護士への相談をお勧め |
相続人調査 | 法律事務所等 | 戸籍書類 | 弁護士への相談をおすすめ |
遺産調査 | 具体的案状況で判断 | 具体的案状況で判断 | 弁護士への相談をおすすめ |
遺言書の検認 | 家庭裁判所 | 戸籍書類 | 弁護士への相談をおすすめ |
銀行口座等の凍結 | 銀行 | 死亡の証明書類 | 不要 |
※必要が高いものを例示しています。具体的な状況で対応が異なるため、詳しくは相続専門の弁護士にご相談されてください。
遺産分割について
①遺産分割協議とは?
遺産分割協議は、相続人調査や相続財産調査を踏まえて、どの相続人がどの財産を取得するのかを決める作業であり、相続人同士の話し合いになります。
遺産分割協議は、亡くなった方が遺言を残していなかった場合で相続人が複数の場合に必要となってきます。
裏を返せば、相続人が1人しかいないような場合や、遺言を残しているような場合以外には基本的には遺産分割協議が必要となってくるのです。
また、遺言があっても、その遺言通りではなく、これと異なる分割協議も可能です。
②協議の方法とは?
遺産分割協議というのは、あくまで協議なので、方法が決まっているものではありません。
電話でやりとりしてもいいですし、相続人で集まって話し合っても構いません。
争いが生じた場合には、弁護士が代理人として協議に参加することもあります。
また、争いが生じていない場合にも、「弁護士から説明をもらって、納得して適正な遺産分割をしたい」「相続の手続を任せたい」といった場合もあるため、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。
③協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議がまとまった場合には、「遺産分割協議書」というものを作成する必要があります。
この遺産分割協議書は、特に方式が法律で決まっているものではありませんが、登記をする場合や預貯金等の解約の際には、遺産分割協議書が相続人の意思で作成されたことを確認するため、相続人全員の実印での押印があることが必要であり、また、手続を行う人以外の方の印鑑証明書も必要になってきます。
加えて、遺産分割協議書に不動産を記載する場合には、不動産をしっかり特定しないと、登記ができないということになりかねませんので、気をつける必要があります。
また、遺産分割協議書には、後に亡くなった方の遺産が見つかった場合や、借金が見つかった場合についてなども記載しておくほうが後々の紛争を防ぐ意味で望ましいです。
さらに、遺産分割協議では、どのように分けるかによって課税関係が変わってくることもあります。
以上のとおり、遺産分割協議をし、遺産分割協議書を作成する際には、法的な問題、登記の問題、税金の問題などあらゆる問題を考えながら行う必要がありますので、遺産分割の際には、弁護士に相談するのがよいでしょう。
なお、当事務所では、遺産分割協議書の書き方・書式をホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
④遺産分割調停について
遺産分割調停とは、家庭裁判所を用いた手続であり、相続人の協議ではまとまらない場合に、調停委員等が間に入って、話し合いをする手続です。
遺産分割調停を行う場合、家庭裁判所に申し立てをする必要があります。
申立場所 | 他の相続人の住所地を管轄する家庭裁判所又は相続人で合意した家庭裁判所 |
---|---|
申立費用 | 亡くなった方一人につき、1200円の収入印紙・その他切手等 |
必要書類 | 遺産分割調停申立書 ◎ 被相続人や相続人戸籍 ア)被相続人の出生から死亡までの戸籍全て イ)相続人全員の戸籍謄本 ウ)相続人全員の住民票又は戸籍の附票 ※ 相続人が親や兄弟姉妹の場合には、これ以外の戸籍も必要になります。 |
相続人調査について
相続の手続は、遺言書がない場合には相続人全員で行う必要がありますので、相続人が誰かを調べることは必須です。
相続人が誰かは、戸籍謄本を取得していくことで判明します。
不動産や金融機関の手続にも必要となりますが、たくさんの相続人がいる場合や、相続人が兄弟の場合には全ての戸籍を取得するのに2〜3ヶ月かかることも少なくありませんので、早めに取得したほうが良いでしょう。
遺産の調査について
相続人の調査と並行して、相続財産の調査も必要となってきます。
特に、死亡者と相続人が疎遠になっていたりした場合は、相続財産が何かを確定するのは困難でしょう。
しかし、これを怠ると思いがけない借金などが後々に判明して相続放棄できるか悩むことになりますので、必ず必要となる手続きです。
まずは、死亡者の自宅の遺品を整理して財産関係の書類や通知がないかを確認する必要があるでしょう。
その後、それぞれの財産につき下記の手続きをします。

全部事項証明書、名寄帳、固定資産評価証明書の取得

残高証明書の取得

登録事項証明書の取得

取引履歴の取得、残債の確認
遺言書の検認について
遺言書の検認は、遺言書が公正証書遺言「以外」の場合に必要になります。
遺言書の検認をしないと、遺言書があっても不動産の名義変更や銀行の手続きができませんので、必ず必要になってくる手続きです。
必要書類としては、遺言書の検認申立書のほかに、遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍、相続人全員の戸籍、遺言者の子供が死亡している場合にはその子どもの出生から死亡までのすべての戸籍(相続人が親兄弟姉妹の場合はこれ以外にも戸籍が必要となります。)
銀行口座等の凍結
銀行口座等の凍結は、早めにしておきましょう。
相続では、死亡後に銀行等から金銭を引き出すと相続人同士でもめる原因となり、不当利得となる可能性もあります。
そのため、誰も使用できないように死亡の事実を知った場合にはなるべく早く金融機関に知らせて、凍結の手続きをとるべきでしょう。
ただし、凍結の手続をすると、その後は遺産分割協議が終了するまで口座からの引き出しができなくなってしまうので、葬儀費用等が必要な場合には要注意です。
相続手続きをしなかったら
上記の相続手続きは面倒で、労力をともなう作業となります。
しかし、相続手続きを行わず、放置すると適切な遺産の引き継ぎができなくなるだけでなく、トラブルになる可能性があります。
借金がある場合
例えば、マイナスの遺産(借金)が多い場合、相続放棄を検討することとなりますが、これをしないと放棄できず、借金を引き継ぐこととなり、債権者から請求されることになります。
そのため、遺産の内容の調査が先行的に必要となります。
不動産がある場合
また、不動産がある場合に、これを放置して遺産分割を行わないと、数次相続という複雑な状況が生じます。
すなわち、ご自身の問題だけでなく、子供や孫、曾孫まで不動産の共有持分を取得することとなり、権利義務関係が複雑化します。
上記は一例であり、様々なトラブルが予想されます。
そのため、相続手続きは専門家のサポートのもと、進めていかれることをお勧めいたします。
遺産相続手続きの費用
上記の手続きのうち、専門家のサポートが不要な手続きについては、役場等に支払う実費のみとなります。
弁護士や税理士にサポートをご依頼される場合は、その内容に応じて、報酬等が必要となります。
具体的な報酬額は、サポートの内容によって異なります。
また、各専門家の報酬基準も異なるため、ご依頼の前に、お見積りを出してもらうとよいでしょう。
明朗会計を重視する弁護士であれば、相談後、ご依頼の前に見積書を出してくれると思われます。
また、法律相談だけであれば、無料相談の事務所もあるため、予算が気になる方は、まずは無料相談を受けて見られると良いでしょう。
まとめ
以上、相続の流れについて、各種手続きの内容、注意点等を解説しましたがいかがだったでしょうか。
相続発生後は、多忙な状況で、実施しなければならない手続きがたくさんあります。
また、適切な相続を実現し、トラブルを予防するためには遺産調査とその評価、遺産分割、遺言書の検認、相続放棄などを検討しなければなりません。
これらは、単純な役場での手続きとは異なるため、遺産相続に対する専門的知識が必要となります。
そのため、相続については、相続専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
この記事が相続人の方にとってお役に立てれば幸いです。
