【弁護士解説】相続放棄ができる期間とは|延長や過ぎた場合の対処法



 

相続放棄ができる期間はどのくらい?

相続放棄は、法律上、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」にしなければならないと定められています。

根拠条文
民法915条1項
「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」

引用元:民法|e−GOV法令検索

この3ヶ月の期間のことを「熟慮期間」といいます。

相続放棄を行う場合には、この熟慮期間内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります(民法938条)。

根拠条文
民法938条
「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」

引用元:民法|e−GOV法令検索

次に、この熟慮期間はどこの時点を出発点にするのかを見ていきましょう。

 

 

相続放棄の期間の起算点の考え方

上記のとおり、法律には「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」と記載されています。

すなわち、「自己のために相続の開始があったことを知った時」が3ヶ月の起算点ということになります。

では、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは具体的にはどのような状況をいうのでしょうか。

参考判例 昭和59年4月27日最高裁判決

「自己のために相続の開始があったことを知った時」の意味について、裁判所は、原則として、以下の両方を知った時点と判断しています。

  1. ① 被相続人が死亡したこと
  2. ② 自分がその死亡した人の相続人となった事実を知ったこと

参考判例:最判昭和59年4月27日|最高裁ホームページ

その一方で、例外もあります。

上記の昭和59年判例において、以下の二つの事情がある場合には、熟慮期間の起算点は、「相続財産の全部又は一部を認識したとき」又は「通常認識し得るべきとき」と判示しました。

  1. ③ 上記①②を知って3ヶ月以内に限定承認・相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであること
  2. ④ ③と信じたことに相当の理由があること

さらに、この判例に続く裁判例でも、同じ判断がされています。

したがって、起算点がずれる例外は、上記の限定された場合に限ると考えられます。

(参考判例:高松高裁決定平成13年1月10日、最高裁決定平成13年10月30日)

 

「自己のために相続開始があったことを知った時」の考え方について

「自己のために相続の開始があったことを知った時」というのは、先ほどの昭和59年の判例によると次の2つの要素があります。

  1. ① 被相続人が死亡したということ
  2. ② 自己がその被相続人の相続人であることを知ったこと

例えば、以下のような関係図で相続が開始されたとします。

AさんBさんCさんの場合(配偶者、第1順位の相続人)

AさんBさんCさんの場合は、配偶者、第1順位の相続人なので、被相続人が亡くなった時点や亡くなったことを知った時点が、自己がその被相続人の相続人であることを知った時点ということになります。

DさんEさんの場合(第2順位の相続人)

DさんEさんが相続人となるためには、第1順位の相続人のBさんCさんの2人共が相続放棄をしなければ相続人にはなりません。

ですので、仮にDさんEさんが被相続人の亡くなったことを知っていたとしても、それだけでは熟慮期間は進行しません

BさんCさんの両方が相続放棄をしたということを聞いたり、被相続人の債権者などからの通知のあった時点が、自己がその被相続人の相続人であることを知った時点ということになります。

FさんGさんHさんの場合(第3順位の相続人)

FさんGさんHさんが相続人となるためには、第1順位の相続人のBさんCさんの2人共が相続放棄をし、その後、第2順位のDさんEさんが相続放棄をして初めて相続人になります

ですので、この場合も②と同様に、FさんGさんHさんが、被相続人が亡くなったということを知っていたというだけでは、相続放棄の熟慮期間は進行しません。

第1順位のBさんCさんが相続放棄をしたということ、第2順位のDさんEさんが相続放棄したということを聞いたり、被相続人の債権者などからの通知のあった時点が、自己がその被相続人の相続人であることを知った時点ということになります。

 

被相続人の相続財産の認識は必要か?

昭和59年の判例によると、原則としては、

  1. ① 被相続人が死亡したということ
  2. ② 自己がその被相続人の相続人であることを知ったこと

この時点から3ヶ月以内にしなければならないとしています。

ただし、例外的に、

  1. ③ ①②を知って3ヶ月以内に限定承認・相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであること
  2. ④ ③と信じたことに相当の理由があること

この場合には、相続財産の存在を知らず相続放棄等をしなかったとしても、相続財産(負債など)を知った時点を熟慮期間の起算点とするということになります。

この点について、しばしば家庭裁判所において、相続放棄の申述は、上記例外の場合よりも広く受理されると解説している本もあります。

確かに、それ自体は嘘ではないのですが、誤解を生じやすい点です。

最高裁判所の判断からわかることは、熟慮期間について例外を認めているのは、「相続財産が全く存在しない」と信じた場合に限定しているという点です。

したがって、既に相続財産の一部でも知っているような場合には、この例外には当たらないということになるため注意が必要です。

 

 

相続放棄の期間を延長することはできる?

熟慮期間の伸長とは|伸長の手続きについて

民法では、熟慮期間は、利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所において伸長することができるとしています(民法915条1項ただし書)。

引用元:民法|e−GOV法令検索

熟慮期間の伸長の手続きも、相続放棄の手続きと同様に、家庭裁判所に申立てをして、期間の伸長をしてもらいます。

熟慮期間の伸長の手続きそれ自体も、熟慮期間の経過前(自己のために相続の開始のあったことを知った時から3ヶ月以内)に行う必要がありますのでご注意ください。

参考:最高裁判所H P|相続の承認又は放棄の期間の伸長について

 

遺産の調査に時間がかかりそうな場合

相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができるとしています(民法915条2項)。

遺産の調査等に時間がかかり、熟慮期間を経過する可能性が高い場合にも、調査等の時間を確保するために、熟慮期間の伸長の手続きをすることがいいでしょう。

 

 

相続放棄の期間を過ぎてしまった場合の対処法

相続の開始を「知っていた」場合

相続の開始を「知っていた」場合で相続放棄の期間を過ぎてしまった場合、すなわち、

  1. ① 被相続人が死亡したということ
  2. ② 自己がその被相続人の相続人であることを知ったこと

を知って、3ヶ月を経過しているという場合がこれにあたります。

先ほどの例で説明をすると、例えば、以下のケースがこれにあたります。

ケース1

AさんBさんCさんが被相続人が死亡したのを知って3ヶ月を経過したところ、被相続人の債権者から通知文書が届いた場合

 

ケース2

被相続人の死亡を知らないFさんGさんHさんの元に、被相続人の債権者から支払いの通知文書が届き、そこから3ヶ月を経過してしまった場合

 

上記の場合には、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月を経過してしまっていますので、原則としては、相続放棄が認められないという結果になります。

ただし、

  1. ③ ①②を知って3ヶ月以内に限定承認・相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであること
  2. ④ ③と信じたことに相当の理由があること

ということが認められる場合には、例外的に3ヶ月を経過していたとしていても、財産の一部を知ってから3ヶ月以内の申立てにより、相続放棄が受理される可能性があるということになります。

上記ケース1の場合、被相続人の死亡を知って3ヶ月が過ぎてしまっているため、例外に該当するかが問題となります。

すなわち、相続放棄を認められるためには、相続放棄等を行わなかったのが、被相続人に相続財産が全くないと信じたこと、そう信じたことに相当の理由のあることを裁判所に説明する必要があります。

 

ポイント

裁判所に説明する際には、被相続人の生活歴、被相続人と相続人の交際状況など様々な状況から、相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があるなど説明するとよいでしょう。

ケース2の場合も、債権者からの通知によりF さんGさん Hさんが相続人となっていることを知り、そこから3ヶ月を経過しているので、例外に該当するかが問題となります。

この場合、債権者の通知により相続財産の一部が既に判明していることになるため、「相続財産が全く存在しない」と信じたということにはならないと考えられます。

そして通知から3ヶ月を経過しているため、熟慮期間を経過していると判断され、相続放棄が認められない可能性が高いと思われます。

 

相続の開始を「知らなかった」場合

相続の開始を「知らなかった」場合、すなわち、

  1. 被相続人が死亡したということを知らなかった場合や
  2. 自己がその被相続人の相続人であることを知らなかった場合

がこれにあたります。

具体的には、上記のケースでいえば、Cさんが、被相続人とは疎遠で死亡を知らなかった場合や、FさんGさんHさんが、先順位の相続人の相続放棄を知らなかった場合などがこれにあたります。

この場合には、「自己がその被相続人の相続人であることを知った時」から熟慮期間が進みますので、その時点から3ヶ月以内に相続放棄の手続きを行えばいいということになります。

その場合でも、死亡時点から3ヶ月を経過している場合には、相続放棄の申立てを行う際には、

② 自己がその被相続人の相続人であることを知った

時点がいつの時点であるかということや、知った経緯等について裁判所に説明をし、その時点から3ヶ月を経過していないこと(熟慮期間内であること)を説明する必要があります。

 

 

まとめ

相続放棄の手続きは、相続人の地位ではなくなるという強力な効果がある反面、それを行うためには厳格な手続きと期限を定めています。

知らないうちに期限が過ぎてしまったという場合にも、裁判所で相続放棄が認められる可能性ももちろんありますが、裁判所の裁量によるところも大きいため、3ヶ月という期限には注意していただき、相続放棄の手続きを行うことをおすすめします。

 

 

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