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遺産分割協議書とは
遺産分割とは、被相続人(亡くなった方)の遺産について、個々の遺産の権利者を確定させるための手続をいい、遺産分割協議書は、その合意内容が記された書面のことをいいます。
法律上、法定相続分というものがありますが、遺産について、誰が、何を承継するかは決まっていません。
そこで、遺産について、誰が何を取得するかを確定させる必要があります。
もっとも、遺産には、現金や預貯金のほか、不動産、貴金属等の動産、株式、ゴルフ会員権など様々なものがあります。
これらについて、遺産分割協議書にどのように記載すればいいか、相続専門の弁護士でないと難しいと思われます。
また、適切な内容の遺産分割協議書を作成しておかないと、後々トラブルとなる可能性もあります。
そこで、遺産分割協議書のひな形・テンプレートを示して、具体的な書き方や注意点について、詳しく解説いたします。
遺産分割協議書はひな形があれば自分で作れる?
遺産分割協議書を作成するに際して、ひな形があれば具体的なイメージがわきやすいと思います。
したがって、これから遺産分割を行う方は、ひな形をご覧になることをお勧めいたします。
しかし、遺産分割協議書は、被相続人の遺産をめぐる権利関係を確定されるために作成するものであり、法的な書面となります。
もし、内容に不備があると、遺産分割が無効となったり、無効とまではならなくても、後々トラブルになる可能性があります。
そのため、後記のひな形は、あくまで参考程度にとどめてください。
実際に遺産分割協議書を作成する場合は、相続問題に詳しい弁護士へ相談されることを強くお勧めいたします。
遺産分割協議書のひな形はどこかでもらえる?
遺産分割協議書のひな形は、行政機関のホームページからもダウンロードが可能です。
しかし、前述のとおり、あくまで参考程度にすべきです。
また、行政機関のひな形はそれぞれ特殊な状況を前提としているため、参考にならない可能性もあります。
国税庁のひな形
国税庁のホームページから遺産分割協議書をダウンロードすることが可能です。
しかし、国税庁のホームページの解説は、相続税の申告のためのものであり、遺産分割協議書の解説は十分ではありません。
また、書式も縦書きでわかりにくいです。
国税庁の遺産分割協議書のひな形はこちら(36ページ目)
法務局のひな形
法務局のホームページから遺産分割協議書をダウンロードすることが可能です。
しかし、法務局のホームページの解説は、遺産である不動産の登記申請のためのものであり、遺産分割協議の対象となっているのは不動産のみです。
そのため、遺産が不動産だけの場合にしか参考とならないでしょう。
法務局の遺産分割協議書のひな形はこちら
遺産分割協議書のひな形・テンプレート
まずはそのまま使える書式(ひな形、テンプレート)をご紹介しますので、確認してみてください。
▼画像、クリックで拡大します。
【遺産分割協議書】のひな形をダウンロード
遺産分割協議書の具体的な書き方【基本パターン】
共通部分の書き方
被相続人の表示
まずは「遺産分割協議書」というタイトルを書き、「被相続人(死亡した人)」の情報を記載しましょう。
被相続人については「氏名」「本籍地」「最後の住所地」「生年月日、死亡年月日」を記載して特定します。
日付を入れる
遺産分割協議書には、必ず「日付」を入れなければなりません。
相続人全員が署名押印した日付を記載するとよいでしょう。
郵送によって相続人が順番に署名押印する場合、最後の相続人が署名押印した日付を記載しましょう。
相続人全員が署名押印
遺産分割協議書を完成させるには、相続人全員が署名押印しなければなりません。
1人でも署名押印が抜けていると遺産分割協議書が完成しないので注意してください。
押印に用いる印鑑は「実印」にするようお勧めします。
確かに法律上は「実印でなければならない」というルールはありません。
しかし、相続登記や預貯金の払い戻しなどの手続きの際、実印でないと受け付けてもらえない可能性が高くなります。
特に相続登記の際には相続人全員の印鑑登録証明書も提出しなければなりません。
遺産分割協議書へ実印で署名押印する際に、全員分の印鑑登録証明書を取得して添付するとよいでしょう。
契印
遺産分割協議書が複数ページに及ぶ場合には「契印」しなければなりません。
契印とは、ページとページの間にまたがる押印です。
複数ページになる場合、簡単に差し替えができてしまい、内容を変更されてしまうリスクが発生します。
契印しておけば紙面の入れ替えができなくなり、文書の信用性が維持されるため、契印しておく必要があるのです。
契印の際には、ページとページの間にまたがるようにして押印しましょう。
相続人全員が契印する必要があり、利用する印鑑は「署名押印」に使用したものと同じでなければなりません。
署名押印と同様、契印にも実印を使いましょう。
なお遺産分割協議書のページ数が多くなる場合、契印の箇所が多くなりすぎて手間がかかる上、見にくくなってしまいます。
そういった場合には「製本」しましょう。
製本テープなどを使って製本すると、契印箇所は1箇所で済みます。
預貯金を分ける場合の書き方
預貯金を相続するときには、以下の内容を記載して特定します。




口座名義人については通常「被相続人」なので、あえて書く必要はありませんが、書いておくと丁寧です。
預金残高についても特に書く必要はありません。
ゆうちょ銀行の場合
ゆうちょ銀行の場合、支店名や口座番号ではなく「記号と番号」によって特定してもかまいません。
その場合「ゆうちょ銀行 通常貯金 記号番号 ○○○○○―○○○○○○○」などと表記しましょう。
不動産を分ける場合の書き方
不動産を相続する場合には、相続される不動産を特定しなければなりません。
見本のように、1筆ずつ「不動産全部事項証明書」の「表題部」を引き写して記載しましょう。
不動産全部事項証明書の「地番」表示は「住居表示」とは異なります。
間違えて住所を書かないよう注意しましょう。
また土地つきの戸建ての場合、「土地」と「建物」について別々に記載する必要があります。
「実家の土地建物」「久留米市の物件」などという表示では不動産の名義変更を受け付けてもらえません。
必ず不動産全部事項証明書を見ながら、一言一句間違えないように引き写してください。
一戸建ての場合
マンションの場合
共有持分を相続する場合
共有持分を相続する場合には、「持分割合」を記載する必要があります。
たとえば土地の共有持分については以下のように表記しましょう。
自動車を分ける場合の書き方
自動車については、上記のように車検証に記載されている、自動車登録番号と車台番号を記入しましょう。
株式や投資信託、債券を分ける場合の書き方
株式を表示する場合には、基本的に「株式発行会社」と「株式数」によって特定します。
投資信託や債券、MRFなどの財産の場合、以下のように表記するとよいでしょう。
有価証券を分ける場合の書き方
有価証券については、当該有価証券の内容(証券の種類・銘柄・数量)のほかに、証券会社名、支店名、口座番号、口座名義を記載しましょう。
これらの情報は、証券会社から届く書類に記載されているため、確認されてください。
遺産分割協議書の具体的な書き方【特殊パターン文例】
配偶者居住権を取得する場合の書き方
相続法が改正され、配偶者が相続人になるケースでは「配偶者居住権」を設定できるようになりました。
配偶者居住権とは、配偶者が一定期間「家に住み続ける権利」です。
所有権と配偶者居住権を分けることにより配偶者の相続できる遺産を増やして遺された配偶者の生活を守れるメリットなどがあります。
配偶者居住権を相続する場合には以下のように記載しましょう。
代償分割する場合の書式
不動産を特定の相続人が取得する際、他の相続人へ「代償金」を払って清算するケースがあります。
このような遺産分割方法を「代償分割」といいます。
代償分割する場合の遺産分割協議書の書き方は以下の通りです。
換価分割する場合の書式
不動産を相続する場合、売却して売却金を相続人同士で分け合うケースも少なくありません。
こういった遺産分割方法を「換価分割」といいます。
換価分割する場合の遺産分割協議書の書き方は以下の通りです。
将来発見された遺産の分け方について
遺産分割協議が成立した後に別の遺産が発見された場合に備えて、新たに発見された遺産の分け方も決めておくとよいでしょう。
上記の書式においては「新たに発見された遺産は配偶者が取得する」内容としています。
もしも発見されたときに相続人全員であらためて協議する内容にしたい場合には以下のように表記しましょう。
「本遺産分割協議の成立後、上記に記載した以外の遺産が新たに発見された場合には、相続人全員が協議し、取得者を決定する。」
新たに発見された遺産について「法定相続分に従って分配する」とする方法もあります。
どういった分け方が最適かはケースによっても異なるので、よく話し合って全員が納得できる方法を定めましょう。
相続人全員分の部数を作成して各自が1通ずつ所持
遺産分割協議書ができたら、「相続人全員分」の部数を作成しましょう。
完成した遺産分割協議書は、それぞれの相続人が各1通ずつ所持します。
なお遺産分割協議書は基本的に「再発行」できない書類ですから、なくさないように大切に保管してください。
文房具や書式、パソコン利用の可否について
遺産分割協議書には特別な書式や用紙の指定はありません。
どのような紙、ペンを使って手書きしてもかまいませんし、パソコンも利用できます。
ただし鉛筆で書くと消えてしまうおそれがあるので、手書きするなら必ず油性ペンを使いましょう。
ボールペンや万年筆も使用できます。パソコンを使える方は、パソコンを使って作成すると便利でしょう。
まとめ
以上、遺産分割協議書について、ひな形をもとに具体的な記載要領を詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
遺産分割協議書は、対象となる遺産の種類や内容によって記載内容が異なります。
また、利害関係者(相続人等)の状況によって、記載内容を検討しなければならない場合もあります。
さらに、遺産分割協議書の記載内容に問題があると、遺産分割協議が無効になったり、将来トラブルに発展する可能性もあります。
このように遺言書作成は、専門家ではなければ判断が難しいため、ひな形は参考程度にとどめて、相続専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
この記事が遺産分割協議書作成を検討されている方にとってお役に立てれば幸いです。
