物損の交通事故で慰謝料はもらえる?相場や請求できる条件を解説

物損事故では、原則として精神的苦痛に対する「慰謝料」はもらえません。
しかし、諦めるのはまだ早いです。
家族同然のペットが死亡した場合など、例外的に慰謝料が認められるケースがあるほか、「人身事故」への切り替えや「評価損」の請求を行うことで、適切な補償を受け取れる可能性があります。
この記事では、物損事故でも慰謝料が認められたケースや、損をしないためにチェックすべき正しい請求方法を、交通事故問題に注力する弁護士が詳しく解説します。
目次
物損の交通事故でも慰謝料はもらえる?
物損事故では原則慰謝料は認められない
結論から申し上げますと、物損事故では原則として慰謝料は発生しません。
慰謝料とは、あくまで「精神的な苦痛」に対して支払われる賠償金です。 法律(民法710条)には「財産以外の損害( = 精神的苦痛)も賠償しなければならない」と書かれていますが、「物が壊れた場合の精神的苦痛」については、裁判所が厳しい判断基準を設けているためです。
根拠となる条文と裁判例
少し専門的な話になりますが、裁判実務では以下のように考えられています。
条文上は「財産権侵害(物損)」でも慰謝料が認められる余地があります。
しかし、過去の裁判例では以下のように判断されました。
「…財産上の損害が賠償されるときは、それによって同時に被害者の精神上の苦痛も慰藉されるのが普通である」
つまり、裁判所の考え方は以下の通りです。
- 物は、お金(修理費など)で元通りにできる。
- 物が元通りになれば、所有者の精神的なショックも癒やされたとみなす。
- したがって、修理費とは別に慰謝料を払う必要はない。
この「財産的損害の補填により精神的苦痛も消滅する」という考え方が原則となっているため、どんなに愛車が傷ついてショックを受けたとしても、基本的には修理費等の実費以外は請求できないのです。
物損事故でも慰謝料が認められる可能性がある4つのケース

①ペットが死傷した場合
残念なことではありますが、交通事故の実務ではペットは「物」として扱われています。
したがって、ペットが死傷した場合、原則としては慰謝料は発生しません。
もっとも、現代では、ペットは家族として考えている方も大勢います。
家族の一員として可愛がっているケースでは、裁判でも慰謝料を認めている事例があります。
この事例では、被害者が死んでしまった犬を非常に可愛がっていたことや、加害者が責任逃れの主張をしたことなどを考慮し、慰謝料2万円を認めました。
この事例では、一般的にペットは家族の一員に近い存在であること、そしてそのようなかけがえのない存在が、事故により重い傷害を負い、死亡したに近い精神的苦痛を受けたことを考慮し、飼い主夫婦に対して合計40万円の慰謝料を認めました。
②家屋に衝突された場合
自宅に車が突っ込んで破壊された場合にも、慰謝料が認められるケースがあります。
神戸地方裁判所平成13年6月22日の裁判例では、車が家に突っ込んできたことで破壊されて、6ヵ月間、別のアパートに住むことを強いられた事例です。
この事例では、60万円の慰謝料が認められています。
もっとも、この事例では、自宅の破壊自体に慰謝料が発生したというよりも、自宅が破壊されたことで、住み慣れないアパートで不便が大きかったことが特に評価されたものと考えられます。
他には、以下のような裁判例もあります。
大型トレーラーが民家に突っ込み、母屋の屋根、納屋及び庭等が破損した場合で、当該トレーラーを保有する会社が一応の補修をしたもののそれらが不十分な状態であるにもかかわらず、十分な損害を回復したと主張した事案について、精神的苦痛として慰謝料50万円の請求を認めました。
③墓石・芸術品などが損壊した場合
慰謝料は、精神的苦痛を補償するものです。
したがって、物であっても精神的価値が高い物を破損された場合には、慰謝料が発生することもあります。
精神的価値が高い物について、例えば、墓跡や、芸術品などです。
慰謝料を認めたものとして、以下の裁判例があります。
先祖、個人が眠る場所として強い敬愛追慕の念の対象となるという特殊性から慰謝料10万円を認めました。
壊れた作品は、陶芸家として認められた作品で被害者にとっての特別な主観的・精神的価値があることや、作品の具体的な金額を認定できないことを考慮して慰謝料100万円の請求を認めました。
④加害者の行為が悪質な場合
単に加害者の態度が悪い、といった事情のみでは、慰謝料は発生しません。
飲酒運転で物損事故を起こし、しかも現場を逃走した事案で、慰謝料10万円を認めた事例はあります(京都地裁平成15年2月28日判決)。
この事例では慰謝料が認められていますが、通常の物損事故では慰謝料は原則として認められないため、レアケースと考えた方がよいでしょう。
「お詫び代」や「迷惑料」なら請求できる?
慰謝料の請求は、精神的苦痛に対する補償であり法的に請求が認められた権利です。
他方で、一般に「お詫び代」や「迷惑料」は、法的に請求が認められているわけではなく、加害者側が任意に支払うものです。
つまり、支払いを強制することはできず、加害者が「お詫び代」や「迷惑料」を支払わないと決めてしまうと支払いを受けることはできません。
物損の場合には、保険会社を通じて修理費用を補償すれば良いと考える人が多いため、なかなか「お詫び代」や「迷惑料」の支払いを受けることは難しいです。
物損事故で慰謝料を獲得するための方法
これまで解説しているとおり、原則として物損事故に慰謝料は発生せず、例外的なケースで認められるに過ぎません。
したがって、十分な証拠と証拠に基づく主張をしなければ慰謝料は認められません。
慰謝料は、精神的苦痛に対する補償なので、破損した物がいかに精神的価値が高いものかを示す必要があります。
例えば、ペットが死傷した場合には、ペットとの関わり方、思い出などを具体的に主張し、それを裏付ける証拠(日記、写真、動画など)を示して、精神的価値の存在を説明する必要があります。
その他の物の場合も、その物がいかに大切であるか、精神的価値があるのかを具体的なエピソードとそれを裏付ける証拠を示さなければ慰謝料は認められません。
慰謝料以外で損をしないために!請求すべき物損の項目
物損事故で慰謝料を請求することは難しいですが、以下の損害は請求することができます。

車の価値が下がったことへの補償「評価損」
評価損とは、修理歴・事故歴によって、修理したとしても、自動車の価値自体が下落してしまうことへの補償です。
評価損には、以下の2つがあります。
- 技術上の評価損:機能や外観に欠陥や不備が残る場合
- 取引上の評価損:事故歴や修復歴で車の価値が落ちる場合
技術上の評価損は認められる傾向にありますが、取引上の評価損は問題になることが多いです。
取引上の評価損は、車種、走行距離、登録年数、損傷の部位・程度、修理の程度、当時の車両時価額などから判断されます。
評価損について、詳しくは以下のページをご覧ください。
修理期間中のレンタカー代「代車費用」
車の修理中は、代車を請求することができます。
代車費用で問題になるのは、修理期間が長くなるようなケースです。
こうした場合は修理業者に修理が長くなる理由を確認して保険会社に伝えておくことが重要です。
相手保険会社がどうしても代車を認めない場合には、自分の保険に代車特約がついているか確認しましょう。
代車特約があれば、30日間までは自分の保険特約で代車を利用することができます。
営業車が使えなかったことによる減収「休車損」
事故により営業車が使用できず、損害が生じた場合には、休車損を請求することができます。
以下の条件を満たせば休車損を請求することができます。
- 事故日以降も事故車を使用する業務があること
- 保有車両の中に遊休車や予備車として代替に適した車両が存在しなかったこと
- 他保有車両の運行スケジュールを調整しても事故車の業務の穴埋めをできなかったこと
- 事故車両が営業車両であること
最も問題となるのは、遊休車の有無です。
遊休車とは、車検や故障のため保有車両を使用できないとき、予備として使用する車両です。
保有している車両の一覧や稼働状況などを証拠として提出して証明する必要があります。
休車損について詳しくは、こちらをご覧ください。
車両修理費・レッカー代など(実費)
事故で自走できなくなった場合にはレッカー費用を請求できます。
破損した部分の修理費用を請求することができます。
もっとも、修理費用が車の時価額を上回る場合には、車の時価額までしか補償されません(経済的全損)。
修理費用について、詳しくは以下のページをご覧ください。
物損事故で慰謝料等を請求する手続
物損事故で慰謝料等を取得する流れ

事故が発生した場合には、まずは落ち着いて、安全な場所まで車両を移動させましょう。
警察への通報は法律上の義務ですので、軽微な事故や当事者間で話がまとまったとしても、必ず警察に通報しましょう。
事故の相手に対して修理費等を請求する場合、まずは修理見積を取得する必要がありますので、修理工場に依頼しましょう。
なお、修理を実際にしていなくても、修理が妥当な場合には、修理費を請求することができますので、焦って修理をする必要はない点に注意が必要です。
相手に対する請求額が判明したら、相手に対して通知書を送付するなどして示談交渉を開始します。
なお、相手方が任意保険に加入している場合には、相手の保険会社から連絡が来る場合があります。
事故の責任割合や賠償すべき金額が合意できれば示談成立となり、賠償金を受け取ることができます。
一方、合意ができない場合、満足のいく賠償をしてもらうには、最終的に訴訟や調停などを起こして請求し、判断してもらう必要があります。
示談交渉が決裂した場合には、裁判をする必要があります。
裁判は、少なくとも半年以上の時間をようすることが多いです。
物損事故で慰謝料等を取得するための書類
物損事故で、慰謝料等を請求するにあたっては、まずは事故が起こった事実やどのような事故が起こったのかを相手に示す必要があります。
| 書類 | 取得方法 | 備考 |
|---|---|---|
| 交通事故証明書 | 自動車安全運転センターへ申請(窓口、郵便振替、インターネット可) | 保険に加入している場合、請求すれば写しを取得することができます。 |
| 実況見分調書/ 物件事故報告書 |
警察への照会や、検察庁に閲覧謄写の申請 | 事故の状況に争いがある場合などに取得を検討します。 |
| ドライブレコーダー映像 | レコーダーからのダウンロード |
※ 実況見分調書は人身事故の場合に限る。
<注意点>
交通事故証明書には、事故の概要以外に物損事故と人身事故の区別が記載されます。
事故直後は痛みがなく、警察に物損事故と届けていた場合であっても、後に痛みが出るようであれば、速やかに警察に連絡して、人身事故へ切り替えるようにしましょう。
この際には、医師の診断書を用意しておくことが重要です。
実況見分には、必ず立ち会うようにしましょう。
立ち会わない場合、加害者側の話のみが記載され、不利な証拠となってしまう可能性があります。
ドライブレコーダーは事故の状況を客観的に証明できるため、交渉や裁判において強力な力を発揮します。
相手方から事故状況について疑問が出された場合には、積極的に提出するようにしましょう。
物損事故で慰謝料等を取得するための費用
事故の相手方(又はその任意保険会社)から、慰謝料等を取得するためにかかる費用には、実費と弁護士費用があります。
また、弁護士費用特約も交通事故において重要な役割を果たしています。
以下ではこれらについて、説明します。
実費
交通事故証明書など各種証明書の発行料、郵送費などの実費が発生します。
これらの実費のほとんどは、相手方に請求することができますので、実費を負担した場合には領収書を保管し、裏面にその用途をメモしておくなどしておくことが重要です。
弁護士費用
弁護士に事件の処理を依頼した場合、以下のように着手金や実費などの費用が掛かります。
ただし、相談料については初回相談無料という事務所に相談することで無料とすることができます。
また、弁護士費用については、弁護士費用特約(※)を利用することにより、実負担なく弁護士に依頼することも可能です。
デイライト法律事務所での報酬基準は以下の記事をご参照ください。
- 相談料:
30分当たり5000円(旧弁護士報酬基準による) - 着手金:
事件処理を依頼して、取り掛かってもらう際に支払うものです。10万円から20万円ぐらいのことが多いです。 - 成功報酬:
賠償金(保険金)を回収した場合に支払うものです。回収した金額にもよりますが、回収金額 × 11% + 22万円ほどとされることが多いです。 - その他:
弁護士の交通費や手続に必要な実費が必要となります。
※ 弁護士費用特約について
弁護士費用特約とは、交通事故について弁護士に依頼する場合に、一定額まで(300万円までが多い。)であれば、弁護士費用を保険会社が負担してくれる制度です。
これを利用することで、多くの場合、弁護士費用を支払うことなく交通事故の処理を依頼することができます。
また、弁護士費用特約のみを利用した場合であれば、基本的に保険の等級は上がらないため、翌年度以降の保険料が増額されることはありません。
なお、よくある勘違いとして、事故に遭ったご自身の保険に弁護士費用特約が付いていないため、利用をあきらめてしまうケースがあります。
しかし、ご家族の誰かが弁護士費用特約を付けていれば、利用できることがありますので、よく確認してみましょう。
物損の交通事故の慰謝料に関するよくあるQ&A

交通事故で物損扱いをしていても治療費は請求できますか?
物損扱いをしていても治療費を請求することができます。
ただし、物損扱いの場合、交通事故証明書には「物損」との記載がされるため、後に、治療費が事故とは関係ないとして請求が認められないおそれがあります。
そのため、事故直後、できる限り早く病院で診断を受け、診断書を基に警察へ訂正の連絡をするようにしましょう。

物損事故で10対0のとき、いくらもらえる?
交通事故においては、過失割合(どちらにどれくらいの割合で責任があったのか)がよく争いになります。なぜなら、自身の過失割合に応じて、相手に請求できる金額が減額されてしまうためです。
それでは10対0、つまり①自分に責任がある場合(相手に責任がない場合)と②相手に責任がある場合(自分に責任がある場合)とで、どのような賠償が受けられるのかご説明します。
まず、①物損事故で自分の責任が10割の場合、相手から賠償金をもらうことはできません。
相手から賠償金をもらうには、相手に交通事故について「故意又は過失」がなければなりませんが、10対0の場合、相手にこれが認められないからです。
したがって、10対0の交通事故によって生じた自身の車の修理費等は、自身の保険を利用するか自費で負担しなければなりません。
次に、反対に、②相手の責任が10割の場合、相手に対して満額の賠償金を請求することができます。

人身事故と物損事故では慰謝料はどちらが請求できますか?
人身事故では、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料を請求できます。一方、物損事故では、原則として慰謝料を請求することはできませんが、例外的に、物だけではなく、それとは別個の権利・利益が侵害されたと評価しうるような場合には、慰謝料が認められることがあります。
このように、人身事故の方が慰謝料は認められやすく、また高額になりやすいと言えます。
まとめ
本稿では、物損事故で慰謝料が認められるのかどうか、認められる場合はどのような事例でその場合の慰謝料の額はどれくらいになるかなどについて、ご紹介しました。
重大な交通事故に遭ったことや大切なペットを失うことによる精神的な苦痛は非常に大きいものです。
しかし、原則として物損事故については慰謝料が認められていないことについては、あらかじめ知っておく必要があります。
その上で、慰謝料が認められる事例なのかそしてどのような資料に基づいて慰謝料を認めさせるのかを検討する必要があります。
そのため、交通事故に精通した専門家のサポートを受けながら、慎重に交渉することをお勧めいたします。
当事務所では、交通事故案件を日常的に取り扱う弁護士がご相談対応しております。
また、来所でのご相談、電話相談、オンライン相談(Zoom、LINE、Meet、フェイスタイム)も対応しており、全国対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
この記事が交通事故でお困りの方にとってお役に立てれば幸いです。



