舟状骨骨折による後遺症のポイント|弁護士が解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


舟状骨(しゅうじょうこつ)は、交通事故や労災事故で地面に手を着いた際に骨折してしまうことが多いです。

また、舟状骨の骨折は見逃されやすいため、手関節捻挫と診断された場合でも痛みが続くようであれば、早期に医師に相談して適切な検査をうすべきでしょう。

舟状骨骨折によって後遺障害に認定されることもあります。

以下では、舟状骨骨折の後遺症や、適切な賠償を受けるためのポイントについて、解説していますので、参考にされてください。

舟状骨骨折とは

舟状骨骨折(しゅうじょうこつこっせつ)とは、舟状骨が折れてしまうことをいいます。

舟状骨は手根骨(しゅこんこつ)のひとつで、橈骨(とうこつ)の上にある骨で、手のひらの親指側にあります。

舟の形に似ている骨です。

手根骨と前腕の親指側の橈骨と小指側の尺骨(しゃっこつ)が手首を形作っています。

 

 

舟状骨骨折の症状や日常生活への影響

舟状骨を骨折することによって、手首が腫れて痛みが生じます

骨がきれいにくっつかないと、手首の関節が変形したり、痛みが生じ、動かしづらくなったり、力が入らなくなってしまうことがあります。

したがって、デスクワークでは、パソコンのキーボードを打つなどの作業効率が低下する可能性があります。

また、握力が低下し重いものが持てず手首を使用する仕事の効率が落ちてしまいます。

包丁を使う場合など手首に力を入れる必要がある家事については作業効率が落ちてしまうでしょう。

 

 

舟状骨骨折の原因

舟状骨骨折は手根骨の中では、最も骨折の多いケガです。

交通事故や労災事故で転倒した際に、地面に手のひらを強くついた場合に、骨折することが多いです。

舟状骨を骨折した場合、手首の親指側が腫れ、痛みが生じます

急性期が過ぎると痛みは一時的に軽快することもありますが、放置しておくと、骨がうまくくっつかずに偽関節(骨折した部分がきれいにくっつがず、関節のように動くような状態)となってしまい痛みが生じます。

なお、舟状骨を骨折したとき、TFCC損傷(小指側にある軟部組織の損傷)が併発していることがあります。

 

 

舟状骨骨折の後遺障害認定の特徴と注意点

舟状骨を骨折した場合には、機能障害、変形障害、神経障害が残ってしまう可能性があります

機能障害とは、関節が動かしづらくなる障害です。

変形障害とは、骨の変形などに着目して認定される障害です。

神経障害とは、痛みなどの神経症状が残ってしまう障害です。

以下、機能障害、変形障害、神経障害について説明します。

機能障害

舟状骨を骨折して、骨がきちんと元に戻らないと、手関節(手首の関節)が動かしづらくなることがあります。

このように関節が動かしづらくなった障害のことを機能障害といい、関節の動かしづらさの程度によって後遺障害等級が変わります

動かしづらさの程度は、健側(ケガをしていない側)と比較してどの程度、可動域(動かすことができる範囲)が制限されているかで決まります。

舟状骨の機能障害の後遺障害等級は以下のとおりです。

等級 後遺障害の内容
8級6号 「1上肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの」
※「用を廃したもの」とは、簡単に言うと、全く肩関節が動かない状態、あるいは、動いたとしても、ケガをしていない方の肩の10%以下しか動かないような場合をいいます。
10級10号 「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
※「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、肩関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の肩関節と比べ1/2以下に制限されているような場合です。
12級6号 「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの」
※「関節の機能に障害を残すもの」とは、肩関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の肩関節と比べ3/4以下に制限されているような場合です。

 

変形障害

舟状骨を骨折して、骨がうまくくっつかないと偽関節(偽関節)になってしまうことがあります。

偽関節とは、骨がくっつかないままで、関節のように動くことをいいます。

舟状骨の骨折は、偽関節になりやすいといわれています。

偽関節となった場合には、以下の等級に認定される可能性があります。

等級 後遺障害の内容
7級9号 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
8級8号 1上肢に偽関節を残すもの

 

神経障害

舟状骨を骨折した場合には、治療終了後も痛みが残ってしまう可能性があります。

こうした神経症状が残ってしまった場合に認定される後遺障害等級は、12級13号と14級9号です。

12級13号の認定方法は?

12級13号の認定基準は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するかどうかで判断されます。

具体的には、交通事故によって舟状骨を骨折し、その骨折したことが原因で痛みが残っていることを医学的に証明できなければなりません。

「医学的に証明」できなければならないため単に痛いというだけでは認定されません。

痛みの存在を証明するには、痛みの原因となっている証拠を提示する必要があります。

その証拠としては、舟状骨骨折によって、骨がきれいにくっついていないことが明確に分かる画像(レントゲン、CT)が必要となります。

画像によって、骨の異常が確認できて初めて認定されるのです。

レントゲンやCTの画像から、骨の状態に異常があるかどうかの判断は、医師でも判断が分かれることがありますので、必要に応じて補強的な証拠をも提出することがあります。

骨の異常を示すための補強的な証拠としては、他の医師に画像鑑定をしてもらい報告書や意見書を作成してもらったり、主治医の意見をまとめた書面などが考えられます。

14級9号の認定方法は?

14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、舟状骨骨折により痛みが残っていることを医学的に説明できなければなりません。

12級13号では、医学的に「証明」まで求められますが、14級9号では医学的に「説明」することができれば認定されます

もっとも、14級9号においても、単に痛みがあるというだけでは認定されず、諸事情に鑑みて痛みが残ってると認められなければ認定されません。

医学的に「説明」できるかどうかの判断基準として、明確に公表されているものはありません。

ただし、認定されているケースを踏まえると、以下のような事情が主な判断要素とされていると考えられます。

  • レントゲン、CT、MRIなどの画像に異常があるか
  • 神経学的な検査に異常があるか
  • 治療の内容
  • 通院の期間、頻度
  • 症状が一貫しているか、連続しているか
  • 事故の規模、態様

 

 

舟状骨骨折の慰謝料などの賠償金

交通事故で舟状骨骨折した場合の主な損害項目は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益です。

慰謝料の賠償基準には、自賠責保険の基準、任意保険会社の基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。

3つの基準の中で、弁護士基準が最も高水準の基準です。

弁護士基準は、弁護士が示談交渉において使用する基準であり、また、裁判になった場合に裁判所が使用する基準でもあります。

 

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、交通事故によって入院や通院をしたことに対する慰謝料です。

入通院慰謝料の計算方法は、入通院期間や通院日数によって形式的に決まっています。

弁護士基準では、入通院慰謝料を算出するための表があり、その表に沿って算出することになります。

入通院慰謝料の計算方法を詳しく確認したい方は、こちらを御覧ください。

また、下記ページに、通院期間などを入力するだけで慰謝料の金額の概算を計算することができるシミュレーターを掲載していますので、すぐに概算を計算されたい場合には、こちらもご利用ください。

 

後遺障害慰謝料

舟状骨骨折により後遺障害に認定されると、その等級に応じた後遺障害慰謝料を請求することができます。

弁護士基準での具体的な金額は以下のとおりです。

等級 慰謝料額
7級9号 1000万円
8級8号 830万円
10級10号 550万円
12級13号 290万円
14級9号 110万円

 

逸失利益

逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が低下してしまい将来の収入が減ってしまうことに対する補償です。

舟状骨を骨折して、後遺障害に認定された場合には、労働能力が低下していると評価され、逸失利益を請求することができます。

逸失利益は、以下の計算式で算出します。

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入は、給与所得者(サラリーマンなど)であれば事故前年の源泉徴収票の「支払金額」に記載されている年収額となります。

個人事業主の場合には、事故前年の確定申告の所得金額を使用します。

労働能力喪失率は、後遺障害の等級に応じて決まっており、舟状骨骨折による後遺障害の労働喪失率は以下のとおりです。

等級 喪失率
7級9号 56%
8級8号 45%
10級10号 27%
12級13号 14%
14級9号 5%

労働能力喪失期間は、原則として症状固定の年齢から67歳になるまでの年数です。

ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数です。

逸失利益は、計算方法が複雑です。

すぐに概算を計算されたい方は、下記の交通事故賠償金計算シミュレーターをご活用ください。

 

12級13号、14級9号の労働能力喪失期間に注意

12級13号と14級9号は、痛みなどの神経症状が残った場合に認定される後遺障害等級です。

神経症状の場合、時間の経過とともに症状が軽くなっていくと考えられる傾向にあり、逸失利益算定にあたっての労働能力の喪失期間も制限される傾向にあります。

具体的には、12級13号の場合には10年、14級9号のばあいには5年に制限されることが多いです。

 

 

舟状骨骨折で適切な賠償金を得る6つのポイント

舟状骨骨折で適切な賠償金を得る6つのポイント

手首に痛みがあれば早期に検査する

舟状骨は、その骨の位置が原因で、レントゲンの撮影の仕方によっては、骨折しているかどうかが見えにくく、見逃されてしまうことがあります

見逃された場合には、手関節捻挫といった診断名となり骨折がない前提で治療が進められてしまいます。

また、舟状骨骨折と一緒に負傷してしまうことがあるTFCC損傷については、MRIで撮影してみないと損傷を確認することができません

したがって、手首の痛みが強かったり、なかなか治らない場合には、再度、骨折していないか検査してもらうことをお勧めします。

TFCC損傷について詳しく確認されたい場合には、下記ページをご覧ください。

 

手首に可動域制限があれば後遺障害診断書に記載してもらう

後遺障害の審査は、後遺障害診断書に記載されていることが対象になります。

したがって、舟状骨骨折によって、手首が動かしづらくなった場合には、可動域検査(どのくらい関節が動くかの検査)を実施してもらって後遺障害診断書に記載してもらいましょう

可動域に制限があっても後遺障害診断書に検査の結果が記載されていないと審査の対象になりませんので、注意が必要です。

 

後遺障害を適切に認定してもらう

後遺障害に認定されるか、あるいは、どの等級に認定されるかによって賠償額は大きく変わってきます。

例えば、年収500万円の人が非該当、後遺障害14級9号、12級13号に認定された場合で比較してみます。

等級 後遺障害慰謝料と逸失利益 合計額
12級13号 ◯後遺障害慰謝料 290万円

◯逸失利益 597万1140円
(計算式)
500万円×14%×8.5302=597万1140円

887万1140円
14級9号 ◯後遺障害慰謝料 110万円

◯逸失利益 114万4925円
(計算式)
500万円×5%×4.5797= 114万4925円

224万4925円
非該当 0円

※非該当の場合にも入通院慰謝料は請求できます。

上記のとおり、14級9号か12級13号かで662万6215円の差があります。

また、非該当の場合には、後遺障害慰謝料と逸失利益は請求できないので、14級9号に認定された場合との差額は224万4825円になります。

このように、後遺障害に認定されるどうか、どの等級に認定されるかで賠償額に大きな差が出ることになりますので、適切な後遺障害認定を受けることはとても大切です。

 

適切な賠償金の金額を算定する

上記したように、交通事故の賠償基準には、自賠責保険の基準、任意保険会社の基準、弁護士基準(裁判基準)の3つの基準があります。

保険会社としては、被害者に支払う賠償金の額をできるかぎり低額にしたいのが本音です。

したがって、保険会社が被害者への賠償提示において、弁護士基準で計算して示談の提案をしてくることはまずありません

弁護士基準で適正に賠償金の金額を算定した上で、示談交渉を進めることが大切です。

以下のサイトでは、弁護士基準で計算した概算の賠償額を確認することができます。

是非ご活用ください。

 

保険会社の後遺障害慰謝料、逸失利益の提示に注意

加害者側の任意保険会社は、被害者に賠償金を支払った後、自賠責保険から自賠責保険基準の範囲内で支払った賠償金の一部を回収することができます。

つまり、被害者に支払った賠償金の額が自賠責保険基準で算出された額であれば、任意保険会社は実質的に金銭的な痛みがないのです。

保険会社からの提示書を見ると、14級の場合には後遺障害慰謝料と逸失利益と合わせて75万円、12級の場合には224万円という提示がなされていることがあります。

これらの金額は、それぞれ14級と12級の自賠責保険の支払い限度額です。

上記の金額で被害者と合意できた場合には、相手保険会社は後遺障害部分について金銭的な痛みがなく解決できるということになります(一部の例外的なケースは除きます)。

保険会社からの提示書を受け取った場合に、後遺障害部分の賠償として「75万円」「224万円」といった提示がなされている場合には要注意です。

 

後遺障害に納得いかない場合には弁護士に依頼して異議申立てを検討

後遺障害の結果に納得いかない場合には、異議申立てをして、再度、後遺障害の審査をしてもらうことができます。

異議申立ては、何回でもすることができますが、同じ証拠と主張を繰り返しても認定は覆りません

異議申立てにあたっては、適切な認定を受けることができなかった理由を十分に検討して洗い出し、それをフォローする証拠と主張をしなければなりません

弁護士に依頼した場合には、必要となる証拠を収集して証拠に基づいた主張を記載した書面を作成し、異議申立てを行いますので、被害者個人で行うよりも認定が覆る精度が上がることが期待できます。

 

 

まとめ

舟状骨の骨折は、見逃されやすいです。

見逃されたまま時間が経過してしまうと、事故との関係性も争われてしまう可能性もありますし、最悪の場合、見逃されたまま示談してしまうこともあるかもしれません。

手首の痛みが続く場合には、医師と相談して精密検査を検討されるべきでしょう。

舟状骨を骨折して後遺障害に認定された場合には、賠償額も高額になり計算方法もより複雑になるので、示談交渉に不安があれば専門の弁護士に相談することをお勧めします。

当事務所では、数多くの後遺障害の申請を行っており、舟状骨骨折の案件も取り扱った経験がございます。

相談や事件処理に対応する弁護士は、交通事故に注力している弁護士です。

面談でのご相談に加えて、LINE、ZOOM、FaceTimeなどを使用したオンライン相談や電話相談も行っており、全国対応しておりますので、お気軽にお問合せください。

 

 

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