肘骨折とは

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

肘骨折(ひじこっせつ)とは、肘の部分にある上腕骨(じょうわんこつ)、橈骨(とうこつ)、尺骨(しゃくこつ)を骨折することです。

肘を骨折すると治療のために、手術やギプスの固定によって日常生活に大きな影響が出ます。

また、肘頭骨折をした場合には、痛みや痺れなどの神経症状の後遺障害や、肘の関節が動かしづらくなる機能障害が残ることがあります。

このページでは、肘骨折の特徴や、後遺障害、適切な賠償額などについて解説していますので、ご参考にされてください。

肘骨折とは

肘骨折(ひじこっせつ)とは、肘の部分にある上腕骨(じょうわんこつ)、橈骨(とうこつ)、尺骨(しゃくこつ)が骨折することをいいます。

上腕骨、橈骨、尺骨

 

肘骨折の種類と特徴

肘の骨折には、以下のような骨折があります。

骨折の種類 骨折の特徴
上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ) 子どもに多い骨折で、滑り台などから落ちた際に手をつくことで骨折することが多い。
上腕外側上顆骨折(じょうわんこつがいそくじょうかこっせつ) 骨折した部分がズレやすくなり、関節の中に至ることもあるため、手術が必要となることが多い。
上腕内側上顆骨折(じょうわんこつないそくじょうかこっせつ) 小学校中学年から中学生にみられる成長軟骨の先にある部分が剥離骨折(はくりこっせつ)するもの。
橈骨頭骨折(とうこっとうこっせつ) 肘の内側に強い力が加わることで発生しやすい骨折で比較的後遺症が残りにくい。
肘頭骨折(ちゅうとうこっせつ) 直接、肘を打ち付けるなどして骨折することが多く、関節が固まって可動域に制限が出るなどの後遺症が起こりやすい。

 

肘関節とは?肘骨折との関係

肘関節(ひじかんせつ)とは、上腕骨、橈骨、尺骨で構成されている関節です。

肘を骨折してしまうことで、肘関節が動かしづらくなることがあります。

その場合には、肘関節の可動域制限(動かしづらくなる)の後遺障害に認定されることがあります。

 

肘骨折と肘頭骨折との違い

肘頭骨折は、肘骨折の種類の中のひとつです。

肘頭骨折は、関節が固まって肘の関節が動かしづらくなる後遺症を残してしまう可能性があるため、しっかりとリハビリをして関節が固まってしまわないように注意が必要です。

 

 

肘骨折の症状

肘骨折した場合の症状は、肘の痛み、腫れ、肘関節が動かしづらくなるなどの症状が生じます。

治療としては、骨をくっつけるために数週間ギプス固定した後、肘を動かす等のリハビリを行います。

骨折の程度によっては手術が必要になる場合もあります。

肘骨折による腫れ

肘を骨折すると、徐々に腫れが強くなっていきます。

骨折した部分が腫れるのは、骨折した部分が出血していたり、炎症を起こしていることが原因です。

骨折による腫れが引くのに数週間かかることもあります。

 

 

肘骨折の日常生活への影響

肘骨折によるギプスの期間

肘を骨折した場合には、その骨折した部分や程度にもよりますが、3〜6週間程度ギプスを付けていなければならない期間があります。

 

腕の曲げ伸ばしができない

ギプス固定期間中は、骨折した方の腕の関節が固定されてしまっており、腕の曲げ伸ばしができないので、力仕事は困難ですし、デスクワークにしてもパソコンを打つのに苦労することになるでしょう。

ほぼ片腕しか使えないので、家事の効率も格段に落ちてしまうでしょう。

 

肘骨折後のリハビリ

肘をギプスで固定して骨がくっついた頃にリハビリを開始します。

ギプスを取った直後は、肘はとても曲げづらく伸びづらいです。

医師や理学療法士・作業療法士の指示に従って、無理なくリハビリを継続していくことが大切です。

 

肘骨折の完治の期間

肘を骨折した場合には、ギプス固定してリハビリをすることになりますので、完治するまでには少なくとも数ヶ月程度は要します。

手術が必要となる場合には、さらに治療期間は長くなりますし、骨折した部分や程度によっては、完治せず後遺症が残ってしまう可能性もあります。

交通事故により肘を骨折して痛みや動かしづらさが残っているような場合には、6ヶ月以上は治療を継続して後遺障害の申請を検討すべきでしょう。

 

仕事に復帰できるのはいつ?

職種にもよりますが、ギプス固定している期間に仕事をすることは難しいでしょう。

現場作業など力仕事の場合には、ギプス固定がとれてもすぐに職場復帰することは難しく、職場復帰に数ヶ月を要する場合もあるでしょう。

 

 

肘骨折の原因

後遺症が残りやすい肘頭骨折(ちゅうとうこっせつ)は、直接、肘に大きな力が加わることで骨折します。

歩行中に自動車に衝突された場合や、バイクで走行中に車と接触して肘から転倒したようなケースで肘を骨折することがあります。

また、現場作業中に肘から転落するような労災事故でも肘を骨折することがあります。

 

 

肘骨折の後遺障害認定の特徴と注意点

肘骨折した場合の後遺障害としては、以下の障害があります。

  • 機能障害
    肘の関節が動かしづらくなる障害
  • 神経障害
    痛みや痺れなどの神経症状が残る障害

 

肘骨折の機能障害

肘を骨折して、肘の骨がきれいにくっつかないような場合に肘の関節が動かしづらくなることがあります。

こうした場合には、動かしづらくなった程度に応じて後遺障害に認定される可能性があります。

肘を骨折した場合の 機能障害の後遺障害等級は以下のとおりです。

等級 後遺障害の内容
8級6号 「1上肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの」
10級10号 「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
12級6号 「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの」

上肢の3大関節とは、手関節、肘関節、肩関節の3つです。

 

8級6号の「用を廃したもの」とは?

「用を廃したもの」とは、簡単に言うと、全く肘関節が動かない状態、あるいは、動いたとしても、ケガをしていない方の肘の10%以下しか動かない場合です。

 

10級10号の「機能に著しい障害を残すもの」とは?

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、肘関節の動く範囲が、怪我をしていない方の関節と比べ1/2以下しか動かない状態をいいます。

 

12級6号の「機能に障害を残すもの」とは?

「関節の機能に障害を残すもの」とは、肩関節の動く範囲が、怪我をしていない方の関節と比べて3/4以下しか動かない状態をいいます。

 

肘骨折後に痛みがあると後遺障害を認定できる?

肘の骨折で痛みや痺れなどの症状が残った場合には、神経障害として後遺障害に認定される可能性があります。

認定される可能性のある等級は以下のとおりです。

等級後遺障害の内容12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」14級9号「局部に神経症状を残すもの」

12級13号の認定基準

12級13号は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」と評価できる場合に認定されます。

具体的には、残っている痛みや痺れなどの神経症状の存在が医学的に証明できる場合に認定されます。

医学的に証明されたといえるためには、肘骨折した後、骨と骨がきれいにくっついていない等の異常な状態が画像(レントゲン、CT、MRIなど)上、明らかであり、その異常が原因で痛みや痺れなどの神経症状が残っていることが認められる必要があります。

 

14級9号の認定基準

14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」と評価できる場合に認定されます。

具体的には、交通事故によって神経症状が残っていることを医学的に説明できる必要があります。

12級13号が、医学的に「証明」できる必要があったのに対して、14級9号は、医学的に「説明」できれば認定されます。

医学的に説明できるかどうかの判断は、事故の規模・態様、治療の期間・頻度・内容、症状の一貫性・連続性、神経学的検査の有無、画像所見の有無などの事情から総合的に判断されます。

 

12級13号と14級9号の逸失利益

12級13号と14級9号といずれも神経症状に対して認定される後遺障害です。

一般に神経症状は、時間の経過とともに緩和されていくと考えられるため逸失利益の労働能力喪失期間は、12級13号は10年、14球9号は5年に制限されることが多いです。

 

 

肘骨折の慰謝料などの賠償金

肘骨折した場合の主な請求項目として、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益があります。

以下では、最も高水準で適切な弁護士基準(裁判基準)を前提として、それぞれの賠償項目について説明します。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、入院や通院をしたことに対する慰謝料です。

弁護士基準では、入院期間、通院期間によって金額が算定されます。

入通院慰謝料の算出のための表を確認されたい場合は、こちらを御覧ください。

また、すぐに入通院慰謝料の概算額を知りたい方は、以下のページの交通事故賠償金計算シミュレーターをご活用ください。

 

肘骨折の後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害に認定された場合に請求することができる慰謝料です。

後遺障害の等級に応じて、慰謝料額が決まっています。

肘骨折した場合の後遺障害慰謝料は以下のとおりです。

 

肘骨折の逸失利益

逸失利益とは、交通事故によって残存した後遺障害によって、働きづらくなり収入が減ってしまうことに対する補償です。

逸失利益は、以下の計算式で計算します。

計算式 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入は、原則として、事故前年の収入の金額で算出します。

例えば、サラリーマンなどの給与所得者は、事故前年の源泉徴収票の「支払金額」で計算することになります

労働能力喪失率は、後遺障害の等級に応じて決まっており、肘骨折による後遺障害等級の喪失率は以下のとおりです。

等級 喪失率
8級6号 45%
10級10号 27%
12級5号、13号 14%
14級9号 5%

労働能力喪失期間は、原則として症状固定となったときの年齢から67歳になるまでの年数です。

ただし、上記したように、12級13号は10年間、14級9号は5年間に制限されることが多いです。

ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数です。

例えば、45歳で年収500万円の方が、肘の骨折で12級5号に認定された場合の逸失利益は、1115万5830円となります。

 

計算式 500万円 × 14% × 15.9369 = 1115万5830円

逸失利益は、計算方法が複雑です。

ご自身の逸失利益の概算を計算されたい場合には下記の交通事故賠償金計算シミュレーターをご活用ください。

 

 

肘骨折で適切な賠償金を得る6つのポイント

肘骨折で適切な賠償金を得る6つのポイント

可動域検査の結果を後遺障害診断書に記載してもらう

肘を骨折した場合には、肘の関節が動かしづらくなる後遺症が残る可能性があります。

こうした場合には、後遺障害申請をすべきです。

後遺障害申請をするにあたっては、後遺障害診断書を提出する必要があります。

後遺障害等級の審査は、後遺障害診断書に記載されていることが対象となるので、後遺障害診断書に肘の関節の可動域(動く範囲)の検査結果が記載されていない場合には、肘の可動域の後遺障害の審査はされません。

可動域検査結果の記載漏れはしばしば散見されますので、肘に可動域制限が残っている場合には、可動域の検査結果が後遺障害診断書に記載されているか確認しましょう。

 

適切な後遺障害認定をしてもらう

後遺障害の等級に認定された場合には、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。

後遺障害慰謝料は、一番低い等級の14級で110万円です。

また、14級9号の逸失利益は、年収が450万円であれば103万0432円です(労働能力側室期間5年、喪失率5%で計算)。

このように、後遺障害に認定されるかどうかで賠償金額は数百万円変わります。

肘の痛みや関節の動かしづらさが残っているのに、後遺障害に認定されなかったような場合には、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

後遺障害等級に認定されなかった場合や、認定されたものの、等級に納得がいかない場合には、異議申し立てをすることができますので、専門の弁護士に相談してみましょう。

 

示談前に弁護士に相談

加害者側としては、被害者に支払う賠償金の額はできる限り、低額にしたいという思いがあります。

したがって、相手の保険会社が提示してくる賠償金の額は、ほとんどの場合、適切な賠償とはいえません。

交通事故の賠償の基準は、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)がありますが、最も高い基準である弁護士基準で算出した賠償額が適切な賠償額です。

したがって、加害者側と示談する前に、専門の弁護士に相談をして、弁護士基準で計算した場合の賠償額を教えてもらうことをお勧めします。

なお、以下のページに掲載している交通事故賠償金計算シミュレーターによって、弁護士基準での賠償額の概算を計算することができますので、ご活用ください。

 

適切な治療を受ける

肘を骨折した場合には、医師の指示に従い適切に通院を継続することが大切です。

入通院慰謝料は、入院期間、通院期間で計算されるため(弁護士基準の場合)、医師の指示に従って、入通院していない場合には、入通院慰謝料に影響する可能性があります。

肘の骨折をしっかり治すためにも、医師の指示に従って治療を継続することは大切です。

 

適切な休業損害の補償を受ける

肘を骨折した場合には、入院が必要となり仕事を休まなければならないこともあります。

また、入院の必要はなくとも、ギプスで固定していることなどから仕事ができない場合があります。

こうした場合には、適切な額の休業損害をしっかりと補償してもらいましょう。

休業損害にあたっては1日の単価を算出することになりますが、サラリーマンなどの給与所得者の場合、直近3ヶ月の給料を90日で割るのか、稼働日数(実際に働いた日数)で割るのかで金額が変わってきます(稼働日数で割った方が高くなる)。

加害者側は、稼働日数で割ることが適切な事案においても、90日で割る方法で計算して休業損害を提示してくることが多々あります。

そうした場合には、示談交渉の段階で稼働日数での計算をするよう交渉すべきです。

ご自身での計算が難しい場合には、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

専門の弁護士に対応を依頼する

弁護士に依頼した場合には、弁護士が交渉窓口となって、加害者側の担当者と交渉を行いますので、交渉ストレスから解放されます。

また、後遺障害の申請や保険会社との示談交渉等は全て弁護士が行いますので、適切な後遺障害等級と賠償額の獲得が期待できます。

被害者が、弁護士費用特約に加入している場合には、弁護士費用を負担することなく弁護士に対応を依頼することができます。

多くの保険会社の弁護士費用特約は、上限が300万円までなので、ほとんどのケースで被害者に負担なく弁護士に依頼することができます。

弁護士費用特約は、契約者だけでなく、同居している家族や別居の未婚の子ども等も使用することができますので、家族が弁護士特約に加入していないか確認してみましょう。

 

 

肘骨折についてのQ&A

肘が骨折したかどうか調べるには?

肘の骨折の有無については、正確には医師の診断が必要です。

通常、医師は肘関節のX線検査を行って、骨折の有無を診断します。

 

肘の骨折で入院する日数は?

症状にもよりますが、通常は8日〜10日程度です。

 

 

まとめ

肘を骨折した場合には、関節が動かしづらくなったり、痛みが残るなどの後遺症が残ることがあります。

こうした後遺症がある場合には、後遺障害の申請をして適切な等級を獲得することが大切です。

肘を骨折されて、後遺症が残るか不安な方、自分の後遺障害認定が妥当なのか分からない方、保険会社との交渉が不安な方は、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

当事務所では、事故案件を多数取り扱う人身障害部の弁護士が相談対応から事件処理まで全て対応しています。

肘を骨折されて、お困りのことがあればお気軽にご相談ください。

ご来所されての面談でのご相談はもちろんのこと、オンライン相談(LINE、ZOOM、フェイスタイムなど)、電話相談も可能であり、全国対応していますので、お気軽にお問い合わせください。

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