何日も意識が戻らない。どうすればいい?弁護士が対処法を解説

執筆者:弁護士 大村直仁 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)



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交通事故や労災事故にあわれた方は、あまりに突然の出来事に身体はもちろん、心も痛めて苦しんでおられることと思います。

意識が戻らない日々が続くと、治療費の負担、休業した分に対する賠償、慰謝料、後遺障害が残った場合に対する賠償金の請求など、様々な不安や疑問が生じてくるでしょう。

大切なご家族の方の意識が戻らない中で、不安な日々を過ごしているかと存じますが、この記事がご家族の方にとって少しでもお役に立つことができれば幸いです。

この記事でわかること

  • 意識不明とは
  • 意識不明の原因別の対処法
  • 交通事故等の場合の手続きの流れ
  • 意識不明と後遺障害の認定
  • 示談交渉や裁判は誰がするのか
  • 植物状態となったときの賠償はどうなるのか?

 

 

意識不明とはどんな状態?

意識不明とは、意識障害の中でも、特に覚醒のレベルが下がっており、外部からの呼びかけや刺激に対して反応がない状態のことをいいます。

意識の定義には様々なものがありますが、一般的には、目を覚ましている状態(覚醒)と、周りを認識できる状態(認識)から構成されます。

覚醒と認識について、いずれか一方のレベルが下がっている、もしくは両方のレベルが下がっている状態を意識障害といいます。

意識障害の状態を具体的に評価するために、医療現場では、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)と呼ばれる評価方式、もしくはGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)と呼ばれる評価方式が用いられます。

JCSは0から300の間で表現されており、0が正常な状態で、数字が大きくなるにつれて、意識障害のレベルが上がります。

GCSは健常者は15点、最も重度の意識障害の場合は3点となります。

意識不明の状態については、一般的に、JCSでは100以上、GCSでは8点以上の数値が出た場合のことをいいます。

交通事故による頭部外傷による意識不明の場合、何日も意識不明の状態(数週間程度)が続いた場合でも意識を取り戻し、相当程度回復する可能性はあります。

一般的に、意識障害がある被害者について、6時間以内に外部からの刺激に反応が見られる場合には回復する可能性は高いと考えられています。

 

 

意識不明の原因別の対処法

交通事故などの加害者がいる場合

交通事故などの加害者がいる場合、まずは加害者の特定と、加害者が対人賠償保険に加入しているかの確認が重要となります。

加害者が対人賠償保険に加入していた場合、基本的な交渉の窓口は相手方保険会社になることが多いですが、保険未加入の場合、加害者本人と交渉することになります。

また、被害者本人は意識不明であることから、実際の対応は被害者の家族が行うことが多いです。

家族での交渉が難しい場合には、早めに専門の弁護士に相談しましょう。

未成年者を除く被害者に代わって示談交渉や訴訟を行うために、成年後見制度を利用することがありますが、これについては後に詳しく説明します。

 

労災事故などの会社内での事故の場合

労災事故などの会社内での事故の場合、労災保険を申請することが考えられます。

労働者は、業務中に事故にあった場合、労働監督基準署へ必要な書類を提出することによって、労災指定病院での無償の治療や各種給付金を受給することができます。

労災保険の手続きは会社の協力が必要なので、会社から労災手続きについて説明がなければ、被害者の家族から会社に労災保険を使用するよう話をする必要があります。

労災事故の発生について、会社に責任がある場合には、会社に対して、慰謝料や逸失利益などを請求することができます。

会社に責任があるかどうか明らかでない場合には、専門の弁護士に相談するようにしましょう。

 

原因が不明の場合

意識不明になった原因が不明の場合、まずは救急車を呼んだうえ、警察へ状況を説明することが重要になります。

原因が分かれば加害者側に賠償金の請求をしていくことになりますが、交通事故の相手方が不明の場合は、政府の保障事業に請求していくことになります。

政府の保障事業は、被害者が受けた損害を国(国土交通省)が加害者にかわって塡補(立替払い)する制度であり、最低限の保障を定めたものです。

政府の保障事業は、あくまで最低限の保障を定めたものにすぎないため、適切な賠償を得るためには、弁護士に相談されることをオススメします。

 

 

交通事故等の場合の手続きの流れ

  • 1
    人身事故にくわしい弁護士に相談
  • 2
    後遺障害等級の認定を行う
  • 3
    慰謝料等の賠償金を算出する
  • 4
    示談交渉での解決
  • 5
    裁判での解決 (示談交渉での解決ができなかった場合)

 

 

人身事故にくわしい弁護士に相談する

弁護士が取り扱うことができる分野はとても幅広くあります。

例えば、離婚問題、相続問題、刑事事件、債務整理、成年後見、労働問題、企業法務など、その他にもたくさん取り扱うことができる分野があります。

こうした分野を網羅的に取り扱う場合には、どうしても1つの分野の経験値は少なくなってしまい事件処理のノウハウも蓄積されません。

人身事故を中心的に取り扱っている弁護士は、日常的に保険会社と交渉したり、人身事故賠償実務における経験とノウハウが蓄積されています。

また、何日も意識が戻らない場合は、後で説明する遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)や重度の高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)を発症していることが多いです。

遷延性意識障害や高次脳機能障害については専門性が高い分野であるため、これらを扱うには、特に専門的な知識が求められます。

したがって、交通事故や労災事故などの人身事故を中心に取り扱っている弁護士に相談するべきでしょう。

 

後遺障害等級の認定を行う

後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料と逸失利益も請求することができます。

そのため、賠償金として請求できる項目が増えるため、それだけで賠償額は増額されることになります。

交通事故の後遺障害等級については14の等級に分かれており、それぞれの等級ごとに慰謝料の基準が定められています。

後遺障害の等級が1つ違うだけでも、後遺障害慰謝料や将来得られるはずであった収入に対する損害(逸失利益)に大きな違いが生じるため、適切な後遺障害等級の認定が重要となります。

特に、何日も意識が戻らない被害者の方については、遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)や高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)といった重篤な後遺障害が残ることが予想されます。

遷延性意識障害とは、交通事故などで意識を失い、外界からの刺激に全く反応しない状態に陥った後、呼吸活動や目の対光反射などだけが可能となり、外部との意思の疎通が全くできない状態が長く続くことをいいます。

高次脳機能障害とは、意識はあるものの、物事に対する判断能力や周囲との意思疎通能力に重大な障害が残っている状態をいいます。

特に、高次脳機能障害については、びまん性軸索損傷(じくさくそんしょう)と呼ばれる画像所見では発見されにくい怪我が原因となって発症することがあるため、後遺障害の認定には注意が必要です。

後遺障害の認定について少しでも不安がある場合は、後遺障害の認定に詳しい弁護士に相談されることをオススメします。

 

慰謝料等の賠償金を算出する

後遺障害が認定された場合の慰謝料については、下表のようになります。

後遺障害等級 弁護士基準 自賠責保険の基準
1級 2800万円 1150万円
(要介護の場合、1650万円)
2級 2370万円 998万円
(要介護の場合、1203万円)
3級 1990万円 861万円
4級 1670万円 737万円
5級 1400万円 618万円
6級 1180万円 512万円
7級 1000万円 419万円
8級 830万円 331万円
9級 690万円 249万円
10級 550万円 190万円
11級 420万円 136万円
12級 290万円 94万円
13級 180万円 57万円
14級 110万円 32万円

意識不明の状態に陥った被害者の方については、意識不明の状態からの回復具合にもよりますが、9級以上の後遺障害に認定される可能性があります。

例えば、後遺障害9級10号の場合、加害者側の保険会社が提示する慰謝料の金額としては、自賠責基準の249万円、もしくは保険会社の任意基準として、これを少し上回る金額を提示してくる場合が多いです。

一方で、弁護士基準では、後遺障害9級10号の場合、690万円となるため、加害者側の保険会社が提示してくる金額と比べて、慰謝料だけでも400万円以上の差額が生じます。

加害者側の保険会社等から賠償金額を提示された場合、多くの場合、弁護士基準を大きく下回ります。

適切な賠償金の金額を算定するために、交通事故や労災事故などの人身事故に詳しい弁護士に相談することをおススメします。

 

示談交渉での解決

交通事故や労災事故などにより人に損害を与えた場合、加害者は被害者に対して損害賠償をする義務があります。

その賠償義務がどの範囲に及ぶのかを話し合い、その結果、合意に達して解決することを示談といいます。

示談することで全て事件を解決することになるので、原則として示談後に賠償請求をしたり、示談を取り消すことはできません。

特に、人身事故については、これ以上治療を行っても症状の改善を期待することができないであろうという時点(症状固定)まで、損害額が確定しないため、早々に示談してしまうことは非常に危険です。

加害者から示談交渉を持ち掛けられた場合は、まずは交通事故や人身傷害に強い弁護士に相談されることをおススメします。

 

裁判での解決

加害者が任意保険に加入しておらず示談交渉に応じないときや、示談内容について合意に至らなかった場合、裁判での解決が想定されます。

特に、意識不明の状態が何日も続いた場合、遷延性意識障害や高次脳機能障害の発症が考えられるため、慰謝料や逸失利益の額がかなり高額化することが多いです。

例えば、被害者の損害額が1億円の場合、過失割合について10%違っただけでも、1000万円の差額が出るため、示談での解決が難しい場合があります。

そのため、保険会社の提示する過失割合が不当であると考えられる場合には裁判をして裁判所に適正な判断をしてもらう必要があります。

また、裁判になった場合には、遅延損害金(年3%、2020年3月31日以前の事故は5%)や裁判所が認定する賠償額の10%分の金額を弁護士費用として請求することができます。

一方で、裁判になった場合には、加害者側は弁護士がついて反論してくることが多いです。

裁判途中で、被害者にとって思わぬ不利な証拠が出てくることもあり、事案によっては示談交渉の段階よりも賠償額が減額になる可能性があります。

少しでも、裁判での解決を考えている場合は、交通事故や労災事故に詳しい弁護士に相談することをおススメします。

 

 

意識不明のケースのQ&A

被害者が意識不明の場合示談交渉や裁判は誰がするのか?

被害者の意識が何日も戻らない場合、示談交渉や裁判を行うために、成年後見制度を利用することが考えられます。

成年後見制度とは、高齢や障害などのため判断能力が不十分な方々を、法律面や生活面で保護したり、支援したりする制度です。

被害者が意識不明のため、示談内容への合意や、裁判をするか否か判断することができない場合は、成年後見制度を利用することが考えられます。

なお、被害者が未成年者である場合は、親権者(通常は両親)が法定代理権を有しているため、親権者が未成年者に代わって法的に有効な判断を行うことができます。

そのため、被害者が未成年者である場合は、成年後見制度を利用する必要はありません。

被害者が意識不明の場合は成年後見制度が必要?

被害者の意識が戻らず、最終的に遷延性意識障害や重度の高次脳機能障害と判断された場合、被害者は、弁護士へ委任するか否かや、示談交渉、裁判を行うかなどを適切に判断することができません。

そのため、成年後見制度を利用して、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらい、被害者の代わりに成年後見人に判断してもらう必要があります。

成年後見人には誰が選任される?

遷延性意識障害や重度の高次脳機能障害の場合、賠償金額が相当高額化する傾向にあるため、家庭裁判所は、弁護士などの専門職を成年後見人に選任する傾向にあります。

また、親族が成年後見人に就任する場合は、弁護士などの専門職が後見監督人に選任されることが多いです。

デイライト法律事務所では、交通事故や労災事故の初期対応から、示談交渉や訴訟まで、一貫してサポートさせていただいております。

また、成年後見制度に詳しい弁護士が皆様のサポートをさせていただいております。

 

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被害者が植物状態となったときの賠償はどうなるのか?

遷延性意識障害は、遷延性植物状態と表記される場合もあり、いわゆる「植物状態」と同義であるとされてます。

遷延性意識障害は、交通事故による後遺障害としては、神経系統の機能に著しい障害を残し、常に介護を必要とするため、後遺障害等級1級に該当するものであり、労働能力喪失率は100%となっております。

遷延性意識障害については、入院期間が相当長期に及ぶため、治療費、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益、将来の介護費用が相当高額化することが多いです。

また、被害者が植物状態となった場合、被害者本人の慰謝料だけでなく、両親等についても近親者固有の慰謝料を請求することも考えられます。

もっとも、すべての交通事故で近親者慰謝料が認められるわけではなく、慰謝料の金額については明確な基準はありません。

被害者が植物状態になったときの賠償について知りたいときは、交通事故や労災事故に詳しい弁護士に相談されることをおススメします。

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まとめ

当事務所には交通事故や労災等の事故案件に注力する弁護士のみで構成される人身障害部があり、おケガで苦しむ方々を強力にサポートしています。

LINEなどによる全国対応も行っていますので、何日も意識が戻らない被害者のご家族でお困りの方はお気軽にご相談ください。

 

 

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