後遺障害14級の認定率とは?弁護士がわかりやすく解説

執筆者:弁護士 北御門晋作 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)

後遺障害14級とは

後遺障害14級は、1〜14級まである後遺障害等級の中で最も軽い等級になりますが、簡単に認定されるわけではありません。

後遺障害14級に認定される9つの号(症状)は以下のとおりです。

症状
1号 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
2号 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3号 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
4号 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
5号 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
6号 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
7号 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
8号 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
9号 局部に神経症状を残すもの

上記の号の中で特に認定されることが多いのは14級9号「局部に神経症状を残すもの」です。

頚椎捻挫、腰椎捻挫のようなむちうち症の場合に後遺障害に認定されるのは、ほとんどが14級9号です。

後遺障害14級に関して詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

後遺障害14級に認定された場合に請求できる慰謝料と逸失利益

後遺障害14級の慰謝料

後遺障害14級の慰謝料は、裁判基準(裁判になった場合の基準)で110万円です。

自賠責保険基準では、32万円です。

これとは、別途に、入院・通院したことに対する慰謝料として入通院慰謝料を請求することができます。

入通院慰謝料に関して詳しくはこちらをご覧ください。

 

14級の逸失利益

逸失利益とは

逸失利益とは、後遺障害が残ったことで働きづらくなり、将来減収してしまうことに対する補償です。

逸失利益は以下の計算式で計算します。

計算式

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入は、原則、事故前年の年収額となります。

労働能力喪失率は、基本的には、5%とされています。

14級9号の場合の逸失利益

14級9号の認定を受けた場合にも基本的に上記の計算式に変化はありません。

もっとも、労働能力喪失期間について、裁判基準で5年とされるケースが多いです。

5年に相当するライプニッツ係数は、令和2年4月1日以後に発生した事故に関しては「4.5797」、令和4年3月31日までに発生した事故「4.3295」です。

具体例 35歳、前年度年収300万円のサラリーマンが、令和3年1月1日に事故に遭い、後遺障害14級9号に認定された場合

  • 基礎収入 300万円
  • 労働能力喪失率 5%
  • 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数  4.5797(令和2年4月1日以後の事故、労働能力喪失期間5年間)

300万 × 5% × 4.5797 = 68万6955

したがって、上記の例では、逸失利益は、68万6955円となります。

醜状障害の場合の逸失利益

14級4号、5号などの醜状障害(傷跡等の障害)は傷跡が残ってしまったことについての後遺障害であるため、逸失利益が認められないことがあります。

14級のその他の号については、身体の欠損や神経症状などの身体の動作に影響がありますが、醜状障害の場合には、傷跡は残っているものの、身体の動作に影響はないため、働くのには支障がないと考えられるからです。

 

 

後遺障害14級の認定率はどのぐらい?

後遺障害14級の認定率と全体の認定率

損害保険料率算出機構が発表している2021年度版「自動車保険の概況」によると、2021年度に自賠責保険が賠償金を支払った件数は、83万7390件とされています。

その中で、何らかの後遺障害等級に認定された件数は3万8837件です。

14級のみの認定件数は2万4417件と発表されています。

したがって、後遺障害の全体の認定率は約5.5%となり、14級の認定率は約2.9%ということになります。

もっとも、上記の支払件数(83万7390件)は、後遺障害の申請をせずに傷害部分(慰謝料、治療費、通院交通費、休業損害など)のみで申請された案件と死亡案件も含まれているため、純粋に後遺障害申請をした場合の認定率ではありません。

自賠責保険が賠償金を支払った件数に対する後遺障害認定された件数の割合となっていますので、あくまで目安としてご参考にされて下さい。

 

後遺障害14級の占める割合

上記のとおり、2021年度は、合計3万8837件の後遺障害が認定され、その内、2万4417件が14級の認定となっています。

14級に認定された中で、各号の認定の内訳は明らかではありませんが、実務的な感覚では圧倒的に14級9号が多いと考えられます。

また、14級に限らない統計ではありますが、後遺障害全体の系列別構成比によると、「併合・相当」以外の系列が明確である認定が39.9%であり、14級9号の系列である「精神・神経症状」の割合が42.3%であることからすると、14級の中でも14級9号の認定が多いように思われます。

引用元:自動車保険の概状2022年度版(P22、P38)|損害保険料率算出機構

 

 

後遺障害14級に認定してもらうためのポイント

局部に神経症状を残すもの(14級9号)

14級9号の認定の判断はどのように行われるか?

14級9号は、事故が原因で発生した症状について、諸事情を踏まえて神経症状が残っていると医学的に説明できる場合に「局部に神経症状を残すもの」として認定されます。

神経症状として代表的なものは、頭痛、疼痛(痛み)、めまいがあります。

それぞれの認定基準は、以下の表のとおりです。

症状 14級9号の認定基準の文言 意味
頭痛 通常の労務に服することはできるが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの 通常の仕事を行うことは可能であるものの、頻繁に頭痛が起きやすくなった。
疼痛(痛み) 通常の労務に服することはできるが、受傷部位にほどんど常時疼痛を残すもの 通常の仕事を行うことは可能であるものの、ほとんど常に痛みがある。
めまい めまいの自覚症状があるが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないものの、めまいがあることが医学的にみて合理的に推測できるもの めまいはあるものの、眼球がけいれんしたように動いたり揺れたりすることや平衡機能が正しく働いているかどうかを調べる検査の結果に異常が認められない。
それでも、めまいがあることが医学的に合理的に推測できる。

画像上、異常が見られないむちうちによる症状の場合には、他の人が目で見てわかるものではないため、画像以外の事情を考慮して判断されることになります。

具体的な考慮事情としては、事故規模、事故態様、通院期間、通院頻度、治療の経過・内容、症状の一貫性・連続性、神経学的検査の結果、画像上の所見の有無などを考慮して判断されます。

14級9号の認定が難しいわけ

画像上、異常が見られないむちうちによる症状の場合には、他人が、画像などによって痛みの原因を直接確認することができないため、神経症状の有無は、基本的に、自己申告となります。

後遺障害の認定機関も症状が残っているかどうか本当かどうかが分からないというところが審査のスタートになり、結果として、認定が難しいことになります。

後遺障害14級9号に認定してもらうためのポイント

後遺障害14級9号に認定してもらうためのポイントの図

①しっかりと通院を行う

まずは、しっかりと通院を行うことが重要になります。

通院期間が短かったり、通院頻度が少なかったりする場合には、それほどの痛みはないのではないかと判断される可能性もあります。

むちうちの場合、通院期間については、6ヶ月程度を経過していないと認定されることは難しいでしょう。

また、通院頻度も週1回ほどでは認定は厳しいように感じます。

②医師にしっかりと症状を説明する

医師にしっかりと自身の症状を説明することも大事になります。

むちうち症により疼痛がある場合、例えば、診断書に「雨の時に痛みがある」などの記載がなされていると、後遺障害の認定の際に、「ほとんど常に痛みある」のではないと判断されてしまう可能性もあるため、常に痛みがある場合には、常に痛みがあることを主治医に伝えた方が良いでしょう。

③神経学的検査や画像撮影を行う

14級9号は、事故が原因で発生した症状について、諸事情を踏まえて神経症状が残っていると医学的に説明できる場合に「局部に神経症状を残すもの」として認定されます。

神経学的検査や画像なども医学的な説明ができるかどうかの判断材料として参照されます

神経学的検査を行い、異常があると診断されると、その異常が神経症状の原因だと説明がつく可能性もあります。

また、MRIを撮影し、首や腰周りの軟骨などの組織の変化があれば、その変化が神経症状の原因だと説明がつき、14級9号が認定される可能性が上がります。

④弁護士に相談・依頼する

14級9号が認定される可能性を上げるためには、弁護士に相談・依頼することも有用です。

後遺障害申請を行うには、「後遺障害診断書」の提出が必須になりますが、その内容に記載がない項目は、後遺障害の有無の審査の対象外となるおそれがあります

そのため、記載の内容に不備がないかどうかを確認するためにも弁護士に相談・依頼することが有用です。

また、後遺障害申請を行う際には、必須の提出資料もありますが、それ以外にも有用と思われる資料が存在することもあります

弁護士が主治医と面談を行い、主治医へ質問状を送付して回答を依頼し、その回答内容を後遺障害の申請の際に提出することもあります。

後遺障害の認定結果に不服がある場合には、異議申立てや裁判を行うこともありますが、自身で対応することは難しいかと思われます。

そのような不服に対する手続を行うために弁護士へ依頼することもあり得ます。

そのため、14級9号に認定される可能性を上げるには、交通事故に詳しい弁護士に相談・依頼された方が良いでしょう。

14級9号の認定に関して、詳しくはこちらをご覧ください。

合わせて読みたい
14級9号の認定基準

 

醜状障害(傷跡が残る障害)

腕、脚の露出面の醜状障害(14級4号、5号)

後遺障害14級4号、5号は、腕、脚の露出面の醜状障害の等級です。

14級4号 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
14級5号 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの

上肢の露出面とは、肘関節から手にかけての部分をいいます(手の部分も含みます)。

下肢の露出面とは、膝関節から下の部分をいいます(足の甲も含みます)。

イメージは、半袖半ズボンサンダルを着用したときに露出される範囲になります。

それ以外の部分の醜状障害

腕、脚の露出面以外についても、醜状の範囲によっては、後遺障害14級が認定される可能性があります。

部位 範囲
上腕又は大腿 片方の上腕や片方の大腿のほとんど全域
胸部又は腹部 その部位の1/2程度以上
背部及び臀部 背部・臀部の全面積の1/4程度以上

醜状障害を認定してもらうポイント

醜状障害については、後遺障害診断書への記載が漏れていることが多いように思います。

後遺障害診断書への記載がなければ、そもそも審査されません

したがって、体に傷痕等が残ってしまっている場合には、後遺障害診断書への記載漏れがないように医師にしっかりと伝えましょう

 

 

適切な賠償金を獲得するために

適切な賠償金を獲得するためには、後遺障害14級に認定されること以外にも大切なことがいくつかあります。

損害を漏らさず賠償請求する

適切な賠償金を獲得するためにまずは、損害を漏れなく請求することが大切です。

以下に代表的な損害の項目を紹介します。

賠償金の内訳(代表例)

賠償金 物的損害 後遺障害の認定に関係なく、損害が発生すれば請求できる項目 修理費用
レンタカー代
壊れた身の回りの品に関する損害
人的損害
(怪我に関わる損害)
治療費
通院交通費
休業損害
慰謝料 入通院慰謝料
後遺障害が認定された場合に請求できる項目 後遺障害慰謝料
逸失利益

上記の図は、あくまで代表的なものであるため、交通事故が原因の支出や損失があり、賠償金として請求できるか気になった場合には、交通事故に詳しい弁護士に確認された方が良いでしょう。

 

弁護士基準により賠償請求を行う

弁護士基準により賠償請求を行うことも金額を獲得するために大切です。

弁護士基準とは、弁護士に依頼した場合に弁護士が参照する基準です。

任意保険会社が提示をする任意保険基準よりも高額に計算され、一番適切な金額に近い基準ともいえます。

そのため、適切な賠償金を獲得するためには、弁護士基準により賠償金を計算することが大切となります。

もっとも、賠償金の計算は、専門的な知識を必要としますので、簡単に金額を算出できるものではありません。

下記のページでは、必要事項を入力すれば弁護士基準での賠償額が算出できる自動計算機を載せています。

最終的に賠償額がどれくらいの金額になるかは、個別事情を踏まえる必要があるので、少しでも不安のある方は弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

まとめ

参考数値ということにはなりますが、後遺障害の認定率は全体で約5.5%、14級のみで約3.2%となっており、認定のハードルは高いことが分かります。

後遺障害の認定は、様々な事情を考慮して審査されるため、的確に有効な証拠を提出することが大切です。

また、後遺障害に認定されるかどうかで賠償額は大きく変わってきます。

後遺障害の認定を受ける可能性を高めるためにも、専門家のアドバイスを受けながら進められることをお勧めします。

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