損害賠償金を「毎月○日」と決めて分割で受け取ることはできませんか?

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

将来の逸失利益や介護費用について、定期的な支払日を決めて受け取る方法での支払いを被害者が求めれば認められることがあります。

 

定期金賠償とは

損害賠償金を年金や給与のように定期的な支払日を決めて受け取る方法を定期金賠償といいます(ただし、定期金賠償につき、法律上明確に定義したものはありません)。

交通事故による紛争の解決を一回的に行うため、損害賠償金は一括して支払うことが原則になっています(一時金賠償方式)。

しかし、判例では後遺障害における将来の介護費用について、定期金賠償を認める例があります。

 

 

定期金賠償の性質

定期金賠償は、一括して賠償金を受け取る一時金賠償を分割で支払ってもらうという分割払いではありません。

一時金賠償を分割払いにするときは、200万円を20年間支払いというようにその支払い総額、支払いの期間が決まっています。

しかし、定期金賠償では、被害者が生きている限り支払いをしますから、支払総額は決まっておらず、さらに支払期間も何年になるのかも決まっていません(正確には、下記で記載するとおり、「死亡まで」や「死亡又は平均余命までのいずれか早いほうの時期に至るまで」という考え方があります)。

 

 

定期金賠償で受け取るメリットとデメリット

メリット デメリット
  • 介護費用を例に挙げると、施設看護や入院看護等の介護状態の変更、介護費用の変動等に対して柔軟な対応が可能となる。
  • 年3%(2020年3月31日以前の改正前の民法では5%)の中間利息控除の回避
  • 一時金賠償では、被害者自身が財産管理等をできない状態である場合に、親族等による浪費や投資失敗のリスクがあるが、定期金賠償ではそのリスクが低い。
  • 加害者に事故のことを忘れさせないという懲罰的機能(ただし、実際支払いをするのが保険会社の場合は、懲罰的機能がなされるかは疑問)。
  • 加害者・保険会社の資産状態が悪化し、履行が確保できなくなるおそれがある。
  • 紛争が一回的に解決しない可能性がある。

 

 

請求の方法

基本的には被害者から定期金賠償の支払を請求します(大阪地判平成5年2月22日)。

反対に、被害者が一時金賠償での支払いを求め、加害者が定期賠償金での支払いを主張している場合はどうなるのでしょうか?

判例では定期金賠償を命じている例と一時金賠償を命じている例があります。

 

1.被害者の主張を否定し、定期金賠償を命じている例

被害者の年齢が平均余命の半分以下の若い年齢のときが多い傾向です。

年齢が若い分将来的な状況が予測しづらいという点が関係していると考えられます。

  • 医療事故で重度の障害なった事案 被害者の年齢1歳10か月(東京地判平成8年12月10日)
  • 交通事故で、女性が植物状態となった事案 被害者の年齢18歳(福岡地判平成17年3月25日)
  • 交通事故で、男性が植物状態となった事案 被害者の年齢23歳(福岡地判平成23年1月27日)

福岡地判平成23年1月27日の事案では、将来の介護については、入院介護が予定されていました。

このように将来の介護状況の変更の可能性が具現化している場合も定期金賠償が考慮される要素となっています。

 

2.被害者の主張を認め、一時金賠償を命じている例

後遺障害の内容、程度、平均余命までの期間、将来の介護状況の変更の可能性が少なくなると定期金賠償は否定される傾向にあるようです。

  • 後遺障害の内容、程度、平均余命までの期間、介護料額などから57歳女性被害者側の定期金賠償支払い要求を否定(横浜地判平成15年10月16日)
  • 入院介護の対象とされていたが、一審の判決後自宅介護が開始されていたため一時金賠償に変更(福岡高判平成23年12月12日、福岡地判平成23年1月27日の控訴審)

 

 

定期賠償金の期間

賠償の期間については、「死亡まで」(福岡高判平成18年4月11日)とする考え方と「死亡又は平均余命のいずれか早いほうの時期に至るまで」(福岡地判平成17年3月25日)とする2つの考え方があります。

なお、「死亡又は平均余命のいずれか早いほうの時期に至るまで」という考え方がとられた場合、平均余命を超えて生存したときは定期金が打ち切られてしまうので、被害者側にとっては不利なものになります。

 

 

新たな問題〜後遺障害逸失利益の定期金賠償〜

比較的最近の裁判例として、後遺障害等級3級の高次脳機能障害にとなった4歳児の後遺障害逸失利益について定期金賠償を認めたものがあります(最高裁令和2年7月9日判決)。

ただし、この裁判例があるからといって、後遺障害逸失利益は全て定期金賠償が認められるかというと、そのようなわけでもありません。

具体的にどのような場合に定期金賠償を認めるかは、裁判例の集積を待つしかありませんが、少なくとも、むちうち等の14級相当の後遺障害逸失利益では、認められないでしょう。

最高裁令和2年7月9日判決の解説について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

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