鎖骨骨折による後遺症のポイント|弁護士が解説

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)

交通事故により鎖骨を骨折してしまうと、鎖骨がきれいにくっつかない、肩関節が思うように動かない、痛みが続くといった後遺症が残る場合があります

後遺症が残ると、後遺障害が認定される可能性があります

鎖骨を骨折した場合に認められる後遺障害等級と慰謝料について解説します。

鎖骨骨折とは

鎖骨骨折(さこつこっせつ)とは、鎖骨という骨を骨折することです。

鎖骨は、首の下の胸がわにある骨で、首元を触るとでっぱっている固い部分がありますが、これが鎖骨です。

鎖骨という骨は折れやすい部分であり、全体の骨折の10%を占めるといわれています。

参考:鎖骨骨折|一般社団法人日本骨折治療学会

鎖骨骨折のうちほとんどは真ん中の部分で起こるとされていますが、肩側の部分が折れてしまうというケースもあります。

こうした鎖骨骨折については、折れ方によって、ギプスやバンドで固定するか、折れた部分をつなぐために手術をするかといった方法で治療を進めていきます。

 

鎖骨骨折の症状や日常生活への影響

鎖骨を骨折してしまうと、骨折した部分に皮下出血やはれ・痛みが生じることがあります。

そのため、腕や肩を動かすとその痛みがさらに強まるということがあります。

多くのケースではバンドで固定をすることになりますので、骨折した側の上半身を動かすのに支障をきたす可能性があります。

そのため、利き腕側の鎖骨を骨折すると、食べる、書く、パソコンを打つなどの日常生活にも影響が出てしまいます

 

鎖骨骨折の原因

交通事故や労災事故でも鎖骨を骨折することがあります。

バイクや自転車、歩行者など、車の中にいる場合でなく、自分の体が外にある場合に起こりやすくなります。

例えば、バイクに乗っている状態で自動車と接触する交通事故にあった場合、接触のはずみで転倒してしまうことがあり得ます。

このとき、肩を地面に強打してしまうと鎖骨の部分を折ってしまう可能性があります。

また、業務作業中に前に転倒して上半身を打ち付けた場合にも鎖骨を骨折することがあります。

 

 

鎖骨骨折の後遺障害認定

鎖骨を骨折してしまうと、一定期間治療をしても、完全には治らず、事故前の体の状態にはならないことがあります。

主な後遺症としては、

  • 骨折した鎖骨がきれいにくっつかない
  • 肩関節が思うように動かなくなる
  • 折れた鎖骨の部分が痛い

といった症状があり得ます。

そのため、こうした後遺症が残った場合には、自賠責保険の後遺障害の申請を行うことを考えなければなりません。

自賠責保険では交通事故による鎖骨骨折において、①変形障害、②機能障害(運動障害)、③神経障害の3つの後遺障害の基準があります。

 

①変形障害

まず、骨折した鎖骨がきれいにくっつかないという場合、変形障害という後遺障害の可能性があります。

こうした変形障害については、以下のような後遺障害の等級基準があります。

等級 後遺障害の内容
12級5号 鎖骨に著しい変形を残すもの

ここで、「著しい変形を残す」とは、裸になったときに鎖骨の変形が明らかにわかるものかどうかによって判断することになっています。

明らかにわかれば12級5号が認定され、そうでなければ該当なしという結論になります。

そのため、変形障害が残った場合には、鎖骨の部分がわかるようにして正面写真を撮ることが必要になります。

変形がレントゲン写真によってしかわからない程度のずれであれば、この12級5号の後遺障害には該当しないこととなっています。

 

②機能障害(運動障害)

交通事故により鎖骨を骨折すると、肩関節が思うように動かなくなることがあります。

先ほど解説したとおり、鎖骨は肩関節の部分まで伸びていますので、折れた場所によっては、肩の動きにも影響を与えるからです。

したがって、鎖骨の肩側を骨折した場合には、骨折していない方と比べて肩を動かせなくなるという後遺症が残る可能性があります

そのため、自賠責保険では、肩関節の機能障害という後遺障害の基準を用意しています。

等級 後遺障害の内容
10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

この等級基準に該当するかどうかについては、可動域検査を行ってその数値を踏まえて検討されます。

具体的には、可動域検査の結果、けがをしていない側の可動域の半分以下に制限されている場合には10級10号、4分の3以下に制限されている場合には12級6号に該当することになります。

この数値は原則として、自分で肩を動かす際の可動域ではなく、理学療法士など他の人が補助をして動かす際の可動域の数値を用いることになっています。

肩関節の動きとしては、腕を体につけたところから耳の横まで動かす動き(外転といいます。)で肩のところまで挙げることができなければ、90度以下なので10級10号、180度 ÷ 4 × 3 = 135度(肩と耳の中間)よりも挙げることができなければ12級6号の可能性があります。

可動域制限がある場合でも、例えば外転150度であれば4分の3以下には制限されていないので、自賠責保険の後遺障害には該当しないということになります。

これが後遺症はあるが後遺障害にはならないという典型例になります。

このように機能障害について、後遺障害に該当するかどうかは可動域検査の数値が非常に重要な意味をもちますので、理学療法士の方に適切に測定してもらい、後遺障害診断書にその結果を記入してもらうことがポイントです。

 

③神経障害

鎖骨を骨折すると、骨折した部分の痛みが一定期間治療をしても残ってしまうということがあります。

こうした痛みの症状については、神経症状として、自賠責保険の後遺障害では、以下のような基準が用意されています。

等級 後遺障害の内容
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

12級と14級の違いは、痛みが医学的に他覚的にも証明できるものかどうかという点になります。

鎖骨骨折の場合、骨折した部分がきちんとくっついていて、レントゲン画像上では異常が認められない場合には、12級ではなく14級が認められるかどうかの問題になります(もちろん、非該当という場合もあります。)。

他方で、骨がうまくくっついていないといった状態が確認できると12級13号が認められる可能性があります。

このとき、変形障害の12級5号と神経症状の12級13号の2つの基準に該当する可能性がありますが、同一のけがですので、12級が一つ認められることになり、12級5号と12級13号の併合で11級ということにはなりません。

 

鎖骨骨折後にしびれがある場合は後遺障害を認定できる?

鎖骨骨折後にしびれがある場合には、神経症状による後遺障害として、12級13号か14級9号が認定される可能性があります

しびれは痛みとともに、神経障害として後遺障害の対象になっているからです。そのため、鎖骨骨折の後にしびれが残っている場合には後遺障害の申請を行った方がよいでしょう。

 

鎖骨骨折後に肩こりがある場合は後遺障害を認定できる?

鎖骨骨折の後に肩こりがあるケースは、残念ながら後遺障害の認定はされません

肩こりといった「こり」の症状については、痛みと違って神経症状とは評価されていないからです。

そのため、医師との問診の際に、実際には痛みがあるのに、「肩がこる」といった症状の伝え方をしてしまうと後遺障害には認定されませんので、注意が必要です。

 

 

鎖骨骨折の慰謝料などの賠償金

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、事故により後遺障害が残ってしまったことに対する慰謝料です。

後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害等級に応じて決まっています。

以下では、各障害に認定された場合の後遺障害慰謝料額を紹介します。

 

①変形障害が認められた場合

等級 自賠責保険基準 弁護士基準
12級5号 94万円 290万円

 

②機能障害(運動障害)が認められた場合

等級 自賠責保険基準 弁護士基準
10級10号 190万円 550万円
12級6号 94万円 290万円

 

③神経障害が認められた場合

等級 自賠責保険基準 弁護士基準
12級13号 94万円 290万円
14級9号 32万円 110万円

 

逸失利益

鎖骨骨折による後遺症が残った場合の賠償項目としては、逸失利益というものが挙げられます。

逸失利益とは、残った後遺症によって、将来得られたはずの収入が減ってしまうことに対する補償のことをいいます。

鎖骨骨折による後遺障害の場合、痛みで仕事に影響が出たり、機能障害により、肩をあげることができず、上を向いての作業ができないといった影響が出ることがあります。

このような収入に対する補償が逸失利益で、慰謝料とは別個に算出されます。

逸失利益の計算式は以下のとおりです。

基礎年収 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

このように逸失利益の計算には、ライプニッツ係数という一般の方には馴染みのない係数などを使用しますので、まずは交通事故に詳しい弁護士に相談すべきでしょう。

以下の表は、鎖骨骨折した場合に認定される可能性のある等級の労働能力喪失率をまとめた表です。

等級 喪失率
10級 27%
12級 14%
14級 5%

慰謝料や逸失利益の目安が知りたいという方は弊所のシミュレーターも是非ご活用してみてください。

 

 

鎖骨骨折で適切な賠償金を得る3つのポイント

ここまで解説してきたように、鎖骨骨折の場合には、変形障害や機能障害、神経障害といった後遺症(後遺障害)が残ってしまう可能性があります。

したがって、鎖骨骨折と診断された場合には以下の点に注意が必要です。

 

1 きちんと整形外科での治療を受ける

鎖骨骨折は骨折している以上、レントゲン検査やCT検査を受け、場合によっては手術を受けなければならないけがです。

そのため、きちんと整形外科で検査を行い、定期的な通院を継続していくことが重要です。

鎖骨骨折では、通院が長期間になる可能性もあり、次第に病院に行くのが日常生活もあって大変になってくるケースもありますが、通院をきちんとしておかないと、いざ後遺症が残った場合に、自賠責保険へ手続をするために必要となる後遺障害診断書を医師に書いてもらえないということになりかねません。

リハビリも含めて、しっかりと整形外科での受診をすることが大切です。

 

2 鎖骨部分の写真を撮影しておく、可動域検査を受けておく

鎖骨骨折の後遺症のうち、変形障害として自賠責保険の後遺障害が認定されるのは、先ほど解説したとおり、裸体になったときに変形がわかるものとなっています。

そのため、鎖骨骨折のケースでは、自賠責保険の後遺障害の手続においても、通常の書面による調査と異なり、自賠責損害調査事務所で、実際に被害者と面談を行って確認することもあります。

その際、実際の面談に先立って、自賠責保険へ後遺障害の手続をする段階で鎖骨部分の写真を撮影し、送付しておくことが効果的なこともあり、専門家である弁護士のサポートを受けたほうがよいでしょう。

また、肩に近い方の鎖骨骨折の場合には、肩関節の可動域に影響がでるおそれがありますので、症状固定時にきちんと可動域検査を受けておく必要があります。

その上で、後遺障害診断書に測定した可動域の結果をきちんと医師に記入してもらいましょう。

 

3 休業損害や逸失利益で争いになることが多い

鎖骨骨折の後遺障害の問題点の一つとして、賠償の問題で保険会社とトラブルになるケースが比較的多いということです。

すなわち、鎖骨骨折により休業をした場合の休業損害や後遺障害が認められた場合の逸失利益について争いになることが多いのです。

これは、変形障害のケースで特に多いです。

鎖骨が変形したということが仕事や今後の収入にどのように影響するのかという点が機能障害や神経障害などの後遺症と違って問題になりやすいためです。

保険会社としては、鎖骨が変形したからといって、日常生活には支障がないはずだとして逸失利益を一切認めないということも出てきます。

そのため、鎖骨骨折のけがを負った場合には、交通事故を専門とする弁護士に早めに相談して、示談交渉を進めたほうがよいでしょう。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

鎖骨骨折は交通事故で比較的起こりやすいけがで、なおかつ、後遺症が残ってしまう可能性があります。

そのため、できるだけ早い段階で交通事故を専門としている弁護士に相談してサポートを受けるようにしましょう。

「治療をしているところだから弁護士はまだ早いのでは」と思われる方もいますが、決してそんなことはありません。

早い段階からサポートを受けることで、先々を見越して対応することができ、等級認定や賠償金の額に違いが出る可能性があります。

また、弁護士費用特約に加入されている場合には、治療中の段階で弁護士に依頼しても、ほとんどの場合は特約の範囲の中で弁護士にサポートをしてもらうことが可能です。

デイライトでは、交通事故案件を数多く取り扱う人身障害部の弁護士が、相談から事件処理の全てを行います。

初回無料のLINEや電話相談を活用した全国対応も行っていますので、骨折のけがでお困りの方は、お気軽にご相談ください。

 

 

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