びまん性軸索損傷による後遺症のポイント|弁護士が解説

執筆者:弁護士 大村直仁 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)


びまん性軸索損傷を患った場合、認知障害、行動障害、人格変化など、脳に関する様々な症状が出てきます

もっとも、びまん性軸索損傷は、細かな脳の損傷であるため、CT検査では分からない場合が多いです。

そのため、びまん性軸索損傷では、脳の検査だけでなく、日常生活での異変に気づくことも重要になってきます。

ここでは、びまん性軸索損傷の後遺障害認定の特徴やびまん性軸索損傷で適切な賠償を得るためのポイントなどについて、交通事故に注力する弁護士が解説しています。

最後まで読んでいただくことで、びまん性軸索損傷について押さえておくべき重要なポイントを理解できますので、ぜひ参考になさってください。

びまん性軸索損傷とは

びまん性軸索損傷(じくさくそんしょう)とは、事故などの際に頭部が衝撃で激しく揺れ、頭がい骨内で神経線維である軸索(じくさく)が広範囲に渡って伸びたり切れたりするケガのことをいいます。

「びまん」とは、病気やけがの症状が特定の1か所だけでなく広範囲に広がっている状態のことをいいます。

軸索(じくさく)とは、神経細胞の細胞体から伸びる長い突起のことで、神経細胞(ニューロン)間の電気信号を伝える部分にあたります。

軸索(じくさく)とは、神経細胞の細胞体から伸びる長い突起のこと

この軸索(じくさく)が強い外圧によって損傷することにより、脳内における情報の交換が上手くできなくなり、高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)などの重篤な脳機能障害が生じます

 

びまん性軸索損傷の症状や日常生活への影響

びまん性軸索損傷の症状

びまん性軸索損傷では、神経細胞間の情報を伝えるための部分にダメージが加わるため、脳内において上手く情報を伝達できない状況が生じます

そのため、外傷直後から意識障害が生じることが多く、仮に意識が回復したとしても、認知障害、行動障害、人格変化、失行(しっこう)といった様々な症状が生じます。

 

日常生活への影響

認知障害
認知障害の症状としては、記憶・記憶力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害などがあります。
新しいことを覚えられない、気が散りやすい、行動を計画して実行することができない、複数のことを同時に処理できないといった影響があります。
行動障害
びまん性軸索損傷の症状として、行動障害があげられます。
周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、職場や会社のマナーやルールを守れない、行動を抑制できない、危険を予測・察知して回避行動をすることができないといった影響があります。
人格変化
びまん性軸索損傷の症状として、人格変化があげられます。
日常生活への影響として、自発性や気力が低下したり、衝動的になったり、怒りっぽく、自己中心的に物事を考えてしまったりします。
失行(しっこう)
失行とは、運動機能に問題がないのに、正しい運動動作ができない状態のことをいいます。
日常生活への影響として、ポットからお湯を急須に入れてお茶を飲むといったような一連の動作ができなくなったりします。

 

 

びまん性軸索損傷の原因

物で頭を殴られた時のような場合は、脳の一部に強い外圧が加わるため、脳挫傷やクモ膜下出血といったような、局所性(きょくしょせい)の脳損傷が生じます。

一方で、びまん性軸索損傷は、頭部に対して強い外圧が加わることにより生じます。

具体的には、頭部外傷時において、脳に回転性の外力が加わり、この回転速度により、神経細胞間を繋げる軸索(じくさく)が損傷することによって発生します。

交通事故や労災事故などで、頭部を地面に打ち付けたり、強い圧力が頭部に加わった場合は、びまん性軸索損傷の可能性があるため、専門の医師や弁護士に相談されることをおススメします。

 

 

びまん性軸索損傷の後遺障害認定の特徴と注意点

びまん性軸索損傷の発見と検査

びまん性軸索損傷の特徴として、脳内において、点状出血(毛細血管の破裂)が生じ、脳室内出血やクモ膜下出血を伴うことが多いです。

もっとも、脳のシワシワの部分である大脳皮質(だいのうひしつ)に明確な損傷は見当たらないため、事故直後の画像所見では発見されにくいという問題があります。

そのため、びまん性軸索損傷においては、事故直後から定期的に、脳萎縮の有無を確認していくことが重要となります。

CT画像では、細かな脳の損傷を発見するには不十分であるため、より精密な検査であるMRI検査や、より精度の高いSWI検査を受診することが望まれます

また、びまん性軸索損傷の場合、上手く話せなくなったり、事故前にはできていた日常生活の動作ができなくなったりする等の症状が現れたりします。

日常生活での言動や行動に違和感を感じた場合は、専門の医者や、交通事故に強い弁護士に相談することをおススメします。

 

びまん性軸索損傷の後遺障害認定の特徴

びまん性軸索損傷で認定される可能性のある後遺障害等級としては、以下のものが考えられます。

後遺障害等級 障害認定基準
別表第1の1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
別表第1の2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
別表第2の3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
別表第2の5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
別表第2の7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
別表第2の9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの

びまん性軸索損傷の経過としては、大脳皮質(だいのうひしつ)に明確な損傷は見当たらず、受傷後しばらくしてから、脳室拡大や脳萎縮などの特徴が現れてきます。

したがって、びまん性軸索損傷において、後遺障害が認定されるためには、画像所見だけではなく、医学的意見書や診断書等といった医療資料や、日常生活状況報告書や陳述書等といった被害者側資料が重要となります。

後遺障害が認定された場合については、以下のサイトを御覧ください。

 

びまん性軸索損傷と裁判例

画像所見がないものの7級相当の高次脳機能障害を認めた裁判例(名古屋地裁平成24年2月24日)

1 事案の概要

交差点で、対向車線を走行して右折してきた被告運転の被告車が、直進してきた訴外A運転の原告車(普通自動二輪車)と衝突し、原告は、多数の骨折と脳震盪、上顎骨陥没等の怪我を負いました(事故時25歳・女性)。

自賠責は、関節機能障害で後遺障害等級12級6号の認定をしましたが、高次脳機能障害については認定しませんでした

2 判決の要旨

脳損傷について、画像所見は認められないが、そのことから直ちに高次脳機能障害を否定することはできない。

原告は頭部に衝撃を受けており、本件事故前後の記憶がないこと、及び事故直後に意識障害があり、意識障害の程度は低いが入院中一時記憶障害があり、本件事故後に前記認定の精神状態が現れていることを総合すると、原告は本件事故により高次脳機能障害の後遺障害が残ったものと推認される。

また、脳損傷の程度は低いものであること、記憶障害はあるものの、知的レベルはそれほど低くなっていないこと、本人尋問での原告の状況に照らすと、後遺障害等級としては7級相当と認定し、他の後遺障害との併合6級と認定した。

3 評価

本判例からは、高次脳機能障害は、画像所見がない場合であっても、事故直後の意識障害の強さや、記憶障害の有無等から認められる場合があることが分かります。

そのため、頭部に強い衝撃が加わったことにより、事故直後の記憶がなかったり、意識障害があった場合には、高次脳機能障害の可能性を検討することが重要になります。

少しでも思い当たる節がある方は、専門の医師や弁護士に相談されることをオススメします。

 

 

びまん性軸索損傷の慰謝料などの賠償金

びまん性軸索損傷と賠償金

びまん性軸索損傷で後遺障害が認定された場合の主な賠償項目としては、後遺障害が残ったことに対する慰謝料(後遺障害慰謝料)、後遺障害が残らなければ将来得られるはずであった利益(逸失利益)、将来の介護費用等の賠償金があげられます。

その中でも、後遺障害慰謝料と逸失利益については、高額化することが想定されるため、示談には注意が必要です。

示談するか迷われた場合は、交通事故に強い弁護士に相談することをオススメします。

 

びまん性軸索損傷の慰謝料

びまん性軸索損傷が認められたとして、高次脳機能障害の認定を受けた場合、後遺障害等級と慰謝料額としては、以下のものがあげられます。

等級 自賠責基準 弁護士基準
1級1号 1100万円 2800万円
2級1号 958万円 2370万円
3級3号 829万円 1990万円
5級2号 599万円 1400万円
7級4号 409万円 1000万円
9級10号 249万円 690万円

びまん性軸索損傷については、画像所見での発見が難しいことから、後遺障害の認定が見落とされる場合があります

もっとも、後遺障害として認定された場合、9級10号以上の認定が見込まれるため、慰謝料だけでも相当高額になる傾向があります。

びまん性軸索損傷の疑いがある場合は、医者や弁護士等の専門家と相談することが重要となります。

 

 

びまん性軸索損傷で適切な賠償金を得るための6つのポイント

びまん性軸索損傷で適切な賠償金を得るための 6つのポイント

①事故直後に意識障害が認められたか確認しましょう

びまん性軸索損傷については、事故直後に意識障害や記憶障害を発症する場合が多いです。

また、びまん性軸索損傷に関する過去の裁判例も、事故直後の意識障害の強さや記憶障害の有無を検討しています。

事故直後の記憶がない場合や、事故直後の意識が曖昧な場合は、びまん性軸索損傷を発症している可能性が考えられるため、専門の医師や弁護士に相談するようにしましょう。

 

②適切な治療を受けましょう

交通事故や労災事故で怪我をした場合、適切な頻度で、適切な治療を受けることが重要となり、びまん性軸索損傷についても同じ事がいえます。

慰謝料の額は、原則として、これ以上治療を行っても症状の改善を期待することができないであろうという時点(症状固定)までの通院期間・頻度によって決められます。

医師の判断を待たずに、治療を中断させてしまうことは、慰謝料の金額に大きく影響するだけでなく、症状の悪化にもつながりかねません。

そのため、記憶力が落ちた気がする、事故後からうまくコミュニケーションがとれなくなったなどの症状を少しでも感じたら、早めに医師に相談しましょう。

被害者本人では気づきづらい場合もあるので、ご家族も被害者の様子を注意深く観察して、少しでも事故前と違う様子があれば医師に相談しましょう

また、びまん性軸索損傷については、画像での発見が難しいため、セカンドオピニオンを聞いたり、MRI検査やSWI検査といった精密検査を受けることもおススメします。

通院回数と慰謝料の関係について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

③後遺障害を適切に認定してもらいましょう

びまん性軸索損傷について、後遺障害認定を受けた場合、9級10号以上の認定が見込まれるため、慰謝料だけでも相当高額になる傾向があります。

また、後遺障害等級の中でも、9級10号と7級4号の違いだけでも、弁護士基準で300万円以上の差額があるため、適切な等級の認定を受けることが非常に重要となります。

そのため、後遺障害の認定に少しでも不安を感じたら、後遺障害の認定に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。

後遺障害の認定と賠償額について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

④適切な賠償金の金額を算定しましょう

後遺障害として認定されたとしても、加害者側の保険会社から提示される金額は、裁判所の基準を大きく下回ることが多いです。

例えば、後遺障害9級10号の場合、加害者側の保険会社が提示する後遺障害部分(後遺障害慰謝料と逸失利益の合計)の金額としては、自賠責基準の上限額の616万円、もしくは保険会社の任意基準として、これを少し上回る金額を提示してくる場合が多いです。

一方で、弁護士基準では、後遺障害9級10号の場合、後遺障害慰謝料だけで690万円となり、それに加えて逸失利益も請求できるため、加害者側の保険会社が提示から大幅に増額となる可能性があります

加害者側の保険会社等から賠償金を提示された場合は、適切な賠償金の金額を算定することをおススメします。

慰謝料等の計算について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

⑤加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらいましょう

加害者側が提示する示談内容は、慰謝料額の内容だけでなく、後遺障害が残らなければ将来得られるはずであった利益(逸失利益)や、将来の介護費用等の賠償金について適切な金額でない場合が考えられます。

また、一度示談してしまうと、示談内容を取り消すことは非常に難しいため、焦ってサインしないことが重要となります。

加害者側が示談内容を提示してきた場合は、専門家に相談されることをおススメします。

⑥交通事故に強い弁護士に相談しましょう

適切な後遺障害認定が期待できる

弁護士が後遺障害申請をする場合には、後遺障害申請にあたって必須の書類だけでなく、認定に有利となる証拠も添付して申請します

高次脳機能障害の場合、通常必要となる書類に加えて、被害者側で日常生活状況報告書を提出する必要がありますが、こうした書類も弁護士において作成します。

そのため、交通事故に詳しい弁護士に被害者請求を依頼することで、適切な後遺障害認定が期待できるのです。

 

賠償額の増額が期待できる

仮に後遺障害が認定されたとしても、加害者側の保険会社は、自賠責基準に少し上乗せした程度の慰謝料額を提示してくることが多いです。

弁護士が入った場合には、最も高い基準である弁護士基準で賠償額を計算して交渉するため、賠償額の増額が期待できます。

 

弁護士費用特約の活用

弁護士費用特約とは、交通事故に遭った場合に相手方との交渉や裁判等を弁護士に依頼する際の費用を保険会社が被害者の方に代わって支払うという保険です。

つまり、被害者の方は、自己負担なく交通事故に対する対応を弁護士に依頼することができるということです(なお、保険金額には 300万円の上限金が定められていることがほとんどです。)。

弁護士費用特約は、自動車保険を契約している契約者(被保険者)のみだけではなく、家族や同乗者も使用することができます

 

 

まとめ

  • びまん性軸索損傷(じくさくそんしょう)とは、事故などの際に頭部が衝撃で激しく揺れ、頭がい骨内で神経線維である軸索(じくさく)が広範囲に渡って伸びたり切れたりするケガのことをいう。
  • びまん性軸索損傷(じくさくそんしょう)は、外傷直後から意識障害が生じることが多く、仮に意識が回復したとしても、認知障害、行動障害、人格要害、失行(しっこう)といった様々な症状が生じる。
  • びまん性軸索損傷は、頭部に対して回転性の強い外圧が加わることにより生じる。
  • びまん性軸索損傷の発見には、事故直後から定期的に、脳萎縮の有無を確認していくことが重要となる。
  • びまん性軸索損傷として認められた場合、後遺障害等級9級10号以上の認定が見込まれるため、慰謝料だけでも相当高額になる。

当事務所には交通事故や労災等の事故案件に注力する弁護士のみで構成される人身障害部があり、おケガで苦しむ方々を強力にサポートしています。

LINEなどによる全国対応も行っていますので、びまん性軸索損傷による後遺症でお困りの方はお気軽にご相談ください。

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