膝蓋骨骨折とは?弁護士が後遺症のポイントについて解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


膝蓋骨骨折(しつがいこつこっせつ)とは、膝の関節の前の部分にある皿のような骨を骨折することです。

交通事故や労災事故で膝を強打した場合に膝蓋骨を骨折してしまうことがあります。

膝蓋骨を骨折することで、膝の関節の機能障害、偽関節の後遺障害、動揺関節の後遺障害、痛みや痺れなどが残る神経障害が残ってしまうことがあります。

このページでは、膝蓋骨骨折の特徴、後遺障害の内容、賠償額の相場について説明していますので、参考にされてください。

 

膝蓋骨骨折とは

膝蓋骨骨折(しつがいこつこっせつ)とは、膝の関節の前の部分にある皿のような骨である膝蓋骨を骨折するものです。

膝蓋骨

膝蓋骨は、膝を曲げたり、伸ばしたりするのをスムーズにする役割を果たしています。

膝蓋骨骨折は、レントゲンで骨折の有無を確認することもできますが、骨折が複数ある場合や靭帯なども損傷している可能性がある場合には、CT、MRI撮影により状態を確認します。

骨の折れ方が比較的軽微な場合には、ギプスを巻いて固定したり、装具を使用して固定するなどした後、リハビリを行うなどの治療を行います。

骨の折れ方が激しい場合には、針金などで骨同士を固定する手術を行うことになります。

 

膝蓋骨骨折の分類

膝蓋骨骨折は、大きく分けて3つの骨折の状態があります。
膝蓋骨骨折3つの骨折

  • 横骨折
    膝蓋骨が横に割れる骨折です。
  • 縦骨折
    膝蓋骨が縦に割れる骨折です。
  • 粉砕骨折
    ほねがバラバラに折れてしまう骨折です。

 

 

膝蓋骨骨折の症状

膝蓋骨を骨折した場合には、膝に強い痛みや腫れが生じます。

膝関節が曲がりづらくなって、階段を登ったり、歩くことが難しくなります。

 

 

膝蓋骨骨折の日常生活への影響

仕事に復帰できるのはいつ?

仕事に復帰できる時期は、骨折の程度と職種によります。

比較的軽微な骨折であり、デスクワークが中心となる場合には、1週〜数週間程度で復職できる可能性があります。

他方で、粉砕骨折など重度の骨折を負っている場合には、手術や入院が必要となり職場復帰に時間がかかることになります。

いずれの場合でも職場復帰にあたっては、主治医と十分に相談することが大切です。

主治医が就労を止めているにも関わらず、無理して働くことは膝の完治を遠ざけることになります。

他方で、医師が就労を許可しているにも関わらず、仕事を休んでいる場合には、加害者側から休業損害(仕事を休んで給料が減ったことへの補償)の支払いを拒まれる可能性があります。

 

膝蓋骨骨折の禁忌は?

膝蓋骨を骨折して3週間程度は、膝に負担をかけないように注意しなければなりません。

松葉杖を使うなどして膝の負担をなくすことが必要です。

膝を曲げることになる正座や、しゃがみ込む動作は避けるようにしなければなりません。

 

膝蓋骨骨折後に歩けるまでの期間とは?

膝蓋骨を骨折して、どの程度の期間で歩くことができるようになるかは、骨折の程度によって変わってきます。

膝蓋骨にひびが入った程度(不全骨折)であれば、痛みはありますが、歩くことができる場合もあります。

完全に骨折している場合には、骨折直後は歩行困難であり、歩行できるようになるまで数週間は要する場合もあるでしょう。

 

膝蓋骨骨折のリハビリ

膝蓋骨を骨折した場合、折れた骨をくっつけるためにギプスで3〜5週間程度固定します。

その後、膝の可動域(動く範囲)を広げるためのリハビリや、骨折後の安静により弱ってしまった筋肉のリハビリ、歩行する練習などを行います。

 

膝蓋骨骨折は全治何日?

膝蓋骨骨折の全治は、骨折の程度によって変わります。

後遺障害認定のことを考えた場合、痛みや可動域制限が残っているのであれば、最低6ヶ月程度は治療を継続することが必要であると考えます。

骨折の程度が重く、回復のスピードが遅い場合には、症状固定(症状が一進一退の状態で現代医学ではすぐに治らない状態)となるまでに1年以上を要することもあるでしょう。

いずれの場合でも治療の終了にあたっては、主治医の意見を十分に聞いた上で決める必要があります。

 

膝蓋骨骨折の入院期間は?

入院期間は、短い場合だと数日、長い場合には1ヶ月以上かかることもあります。

厚生労働省が発表している「患者調査の概況」によれば、膝蓋骨骨折に限定したデータではありませんが、骨折した場合の平均入院日数は38.5日となっています。

参考:厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況

 

 

膝蓋骨骨折の原因

膝蓋骨骨折は、膝に強い衝撃が加わった場合に発生します。

自動車に乗車中に激しく追突され、その衝撃で膝を車のダッシュボードに打ちつけた場合に膝蓋骨を骨折することがあります。

また、現場作業中に高いところから転倒して膝を打ち付けたような労災事故の場合にも膝蓋骨を骨折することがあります。

 

 

膝蓋骨骨折の後遺障害認定の特徴と注意点

膝蓋骨を骨折した場合には、膝の関節が動かしづらくなる機能障害、偽関節の後遺障害、動揺関節の後遺障害、痛みや痺れなどが残る神経障害があります。

以下では、それぞれの後遺障害について説明していきます。

膝蓋骨骨折による膝関節の機能障害

膝蓋骨を骨折すると、膝の関節が動かしづらくなり可動域制限が生じることがあります。

そういった場合の後遺障害等級は、以下のとおりです。

等級 後遺障害の内容
8級7号 1下肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの
10級11号 1下肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級7号 1下肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの

 

8級7号の「用を廃した」とは?

全く膝関節が動かない状態、あるいは、動いたとしても、怪我をしていない方の膝と比べて10%以下しか動かない場合

 

10級11号の「機能に著しい障害を残すもの」とは?

膝関節の動く範囲が、怪我をしていない側の膝と比べ1/2以下に制限されている場合

 

12級7号の「関節の機能に障害を残すもの」とは?

膝関節の動く範囲が、怪我をしていない膝と比べ3/4以下に制限されているような場合

 

膝蓋骨骨折による偽関節の後遺障害

膝蓋骨を骨折した場合には、隣の脛骨や腓骨も骨折していることがあります。

そうした場合に、骨同士がうまくくっつかず、関節のような状態になることがあります。

こうした状態を偽関節といい、後遺障害に認定される可能性があります。

偽関節となった場合に認定される可能性のある後遺障害は以下のとおりです。

等級 後遺障害の内容
7級10号 偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
8級9号 偽関節を残すもの

 

膝蓋骨骨折による動揺関節の後遺障害

膝蓋骨を骨折した場合には、膝にある靭帯(前十字靭帯、後十字靭帯、外側側副靭帯、内側側副靭帯)も一緒に損傷していることがあります。

動揺関節の後遺障害等級は以下のとおりです。

等級 後遺障害の内容
8級相当 常に硬性補装具を必要とする場合
10級相当 時々硬性補装具を必要とする場合
12級相当 過激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としない場合

 

膝蓋骨骨折後に痛みがあると後遺障害を認定できる?

膝蓋骨骨折で膝に痛みが残った場合には、以下の神経症状の後遺障害に認定される可能性があります。

等級 後遺障害の内容
12級13号 「局部に頑固な神経症状を残すもの」
14級9号 「局部に神経症状を残すもの」

 

12級13号の認定基準は?

「局部に頑固な神経症状を残すもの」と評価されるには、残存している神経症状の存在を医学的に「証明」する必要があります。

証明するためには、膝蓋骨や周囲の靭帯に異常があることを画像(レントゲン、CT、MRI等)上で指摘できることが必要になります。

 

14級9号の認定基準は?

「局部に神経症状を残すもの」と評価されるには、残存している神経症状の存在を医学的に「説明」できる必要があります。

神経症状の存在を医学的に「説明」できるかどうかは、事故の規模・態様、症状の一貫性・連続性、治療の期間・内容・頻度、神経学的検査の結果、画像所見の有無などから総合考慮して判断されます。

 

 

膝蓋骨骨折の慰謝料などの賠償金

膝蓋骨骨折した場合の主な賠償項目としては、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益があります。

交通事故の賠償の算定にあたっては、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)がありますが、以下では、最も高い水準で適切な弁護士基準を前提に解説します。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、入院、通院の期間の長さによって算出します。

入通院期間に応じて慰謝料額が定まっており、表にして整理されています。

入通院慰謝料の計算方法について、詳しく確認されたい場合には、以下のページをご参照ください。

また、下記ページの交通事故賠償金計算シミュレーターにて入通院慰謝料の概算を計算できますので、ご活用ください。

 

膝蓋骨骨折の後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じて金額が決まっています。

膝蓋骨骨折の後遺障害等級の慰謝料額は以下のとおりです。

等級 後遺障害慰謝料額
7級10号 1000万円
8級7号、9号、8級相当 830万円
10級11号、10級相当 5500万円
12級7号、13号、12級相当 290万円
14級9号 110万円

 

逸失利益

逸失利益とは、後遺障害が残ってしまったことで働くづらくなり、収入が減ってしまうことに対する補償です。

逸失利益は、以下の計算式で算出します。

具体例 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入は、原則として、事故前年の収入の金額で算出します。

労働能力喪失率は、後遺障害の等級に応じて決まっています。

膝蓋骨骨折による後遺障害等級の喪失率は下表のとおりです。

等級 労働能力喪失率
7級10号 56%
8級7号、9号、8級相当 45%
10級11号、10級相当 27%
12級7号、13号、12級相当 14%
14級9号 5%

労働能力喪失期間は、原則として症状固定時の年齢から67歳になるまでの年数です。

ただし、神経症状は時間の経過とともに軽減していくと考えられているため、12級13号は10年間、14級9号は5年間に制限されることが多いです。

ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数です。

例えば、45歳で年収450万円の方が、肘の骨折で12級7号に認定された場合の逸失利益は、1115万5830円となります。

計算式 450万円 × 14% × 15.9369 = 1004万0247円

ご自身で逸失利益の計算をされるのは大変かと思いますので、逸失利益の概算を計算されたい場合は、下記の交通事故賠償金計算シミュレーターをご活用ください。

 

 

膝蓋骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

膝蓋骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

可動域検査の結果を後遺障害診断書に記載してもらう

膝蓋骨を骨折すると、膝の関節が動かしづらくなる可能性があります。

こうした場合には、後遺障害に認定される可能性があるので、後遺障害の申請をされるべきです。

後遺障害申請をするにあたっては、必ず後遺障害診断書を主治医に作成してもらわなければなりません。

後遺障害等級は、後遺障害診断書に記載のある事項について、損害保険料率算出機構の自賠責保険調査事務が審査します。

つまり、後遺障害診断書に記載のない事項については、審査されません。

被害者は膝の関節が動かしづらくなったと言っているのに、後遺障害診断書を見ると、膝の可動域の検査結果が記載されていないことはしばしばあります。

膝の関節が動かしづらい場合には、可動域の検査結果が後遺障害診断書に記載されているか確認しましょう。

 

適切な後遺障害認定をしてもらう

膝蓋骨を骨折して、後遺障害等級に認定された場合、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。

膝蓋骨の後遺障害は、上記したとおり、7級〜14級に認定される可能性がありますが一番低い等級である14級の後遺障害慰謝料は110万円です。

逸失利益は、年収額や認定された等級にもよりますが、数十万円から数千万円になります。

このように、後遺障害に認定されるかどうかで賠償金額は大幅に変わります。

膝の痛みや関節の動かしづらさが残っているのに、後遺障害に認定されなかったような場合には、異議申し立てを検討されてください。

異議申し立てとは、もう一度後遺障害等級の審査をしてもらうことを申し立てるものです。

新しい証拠と主張をまとめて、申し立てすることで、認定が覆り後遺障害認定される可能性があります。

どのような証拠を準備すべきかは、事案によって変わってきますので、後遺障害等級に納得のいかない場合には、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

示談前に弁護士に相談

保険会社も利益を出すことを目的とした会社なので、被害者に支払う賠償金はできるだけ低額に収めたいと考えています。

したがって、相手の保険会社が提示する賠償の提案は、ほとんどの場合、適切な賠償とはいえません。

交通事故の賠償の基準は、3つあります。

自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つですが、最も高い基準である弁護士基準で算出した賠償額が適切な賠償額といえます。

したがって、相手保険会社から、賠償の提案があった場合には、専門の弁護士に相談をして、弁護士基準で賠償額を計算してもらいましょう。

 

 

適切な休業損害の補償を受ける

膝蓋骨を骨折した場合には、骨折の程度によっては入院が必要となり、仕事を休む必要がある場合があります。

また、入院は不要でも、ギプスで固定が必要となり、仕事を休む必要がある場合もあります。

こうした場合には、会社から給料を減額されてしまうため、その減額分をきちんと補償してもらいましょう。

入院のために有給を使用して、会社から給料を減らされなかった場合も休業損害を請求することができます。

注意が必要なのは、休業損害の1日単価の算出の方法です。

給与所得者(サラリーマン)の場合、直近3ヶ月の給料を90日で割るのか、稼働日数(実際に働いた日数)で割るのかで1日単価の金額は変わってきます(稼働日数で割った方が高い)。

保険会社は、稼働日数で割ることが適切なケースにおいても、90日で割る方法で計算して休業損害を提示してくることがよくあります。

そうした場合には、稼働日数で割った1日単価で計算するよう保険会社に主張すべきです。

ご自身での計算や交渉が難しい場合には、専門の弁護士に相談しましょう。

 

弁護士に対応を依頼する

弁護士に対応を依頼した場合には、後遺障害申請や示談交渉を弁護士が行います。

したがって、妥当な後遺障害認定と賠償額を補償してもらえることが期待できます。

また、被害者が、弁護士費用特約に加入している場合には、上限を超えない限り、弁護士費用を負担することなく弁護士に依頼することができます。

多くの弁護士費用特約の上限額は300万円であるため、ほとんどの案件で弁護士費用はこの範囲でおさまり、被害者は負担なく弁護士に依頼できるのです。

弁護士費用特約の適用範囲は広く、契約者のみではなく、同居している家族や別居の未婚の子どもなどにも適用ができます。

交通事故に遭った場合には、ご自身の保険に弁護士費用特約がついていないか、あるいは、家族が弁護士費用特約に加入していないかを確認してみましょう。

 

 

まとめ

膝蓋骨は、膝にあるお皿のような骨で骨折すると、強い痛みや腫れなどが生じ、後遺症として、痛みなどの神経症状、関節が動かしづらくなる機能障害などが残ってしまう可能性があります。

このような後遺症が残ってしまった場合には、適切な補償を受けるために、後遺障害の申請をされるべきでしょう。

弁護士に依頼された場合には、弁護士において後遺障害申請や示談交渉の対応を行うので、適切な後遺障害認定と示談金額の獲得が期待できるでしょう。

当事務所では、人身障害部に所属する弁護士が相談対応から事件処理まで全て対応しています。

人身障害部に所属する弁護士は、事故案件を多数取り扱っていますので、肘を骨折されて、お困りのことがあれば安心してご相談ください。

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