顎骨折とは?後遺症や日常生活への影響について解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


顎(あご)骨折とは、上の顎あるいは下の顎を骨折することをいいます。

顎を骨折してしまうことで、食べることが不自由になる(咀嚼機能障害、言葉が発しづらくなる(言語機能障害)、歯が折れてしまう(歯牙障害)、痛みが残ってしまう(神経障害)といった後遺障害が残る可能性があります。

以下では、顎を骨折した場合の症状や後遺障害の具体的な内容について詳しく解説していますので、参考にされてください。

この記事でわかること

  • 顎の骨折の症状
  • 顎の骨折による後遺障害の内容
  • 顎の骨折による賠償額の相場
  • 顎の骨折の適切な賠償金を獲得するポイント

顎骨折とは

顎(あご)骨折とは、上の顎あるいは下の顎を骨折することをいいます。

上の顎を骨折することを上顎骨骨折(じょうがくこつこっせつ)といい、下の顎を骨折することを下顎骨骨折(かがくこつこっせつ)といいます。

上顎と下顎のイメージ

 

 

顎を骨折するとどんな症状が現れますか?

顎を骨折すると、次のような症状が現れます。

  • 痛みがある
  • あごの部分が腫れている
  • 顎がうまく開けない
  • 噛み合わせが悪い
  • 顎が変形している
  • うまく食べたり飲んだりできない
  • よだれを流してしまう

 

 

顎の骨が折れるとどうなる?

顎を骨折した場合には、骨折と同時に皮膚や粘膜を損傷したり、歯が折れてしまうことがあります。

顎を骨折することで、腫れたり、痛みが生じるなどの症状とともに、口が開けにくくなったり、噛み合わせが悪くなるなどの症状がでます。

また、言葉をうまく発音できなくなり、人とのコミュニケーションが難しくなることもあります。

 

顎骨折のとき食事はどうなる?

顎骨折では顎の痛みや口の開けづらさがあります。

そのため、食事をすることが辛い作業になってしまうことが予想されます。

手術後しばらくは柔らかいものを食べることになります。

 

顎骨折は全治何ヶ月?

顎骨折は一般に1ヶ月から1ヶ月半程度で治癒します。

手術の際は通常1週間程度の入院が必要となります。

手術後は1ヶ月ほどで骨折部の怪我は治ります。

手術が成功すれば、噛み合わせが悪くなるなどの症状が改善します。

参考:日本形成外科学会ウェブサイト

 

 

顎骨折の原因

顎を骨折する原因は、交通事故、スポーツ事故、顔面を殴打されるなど、顔面に対して大きな力が加わった場合に骨折することが多いです。

交通事故では、自転車やバイクで走行中に車両に接触されて顔面を打ちつけた場合や、歩行中に車両から衝突されフロントガラスやバンパーに顔面を打ちつけてしまったような場合に顎を骨折してしまうことがあります。

骨折の程度によっては、すぐには気づかない場合もありますが、痛みがある場合には、すぐに医師に痛みがあることを伝えましょう。

痛みがあることを伝えていないと、カルテや診断書に記録が残らず、保険会社から、交通事故との関係性を争われる危険性があります。

痛みがある場合には、速やかに医師に申告してレントゲンやCTなど必要な画像撮影を行いましょう。

 

 

顎骨折の後遺障害認定の特徴と注意点

咀嚼機能障害・言語機能障害

咀嚼(そしゃく)機能障害とは、食べ物を噛んだり、飲み込んだりすることが難しくなる障害のことをいいます。

言語機能障害とは、言葉がうまく発音できなくなってしまう障害のことをいいます。

顎を骨折した場合には、咀嚼障害・言語機能障害が残ってしまう可能性があります。

咀嚼障害・言語機能障害の後遺障害等級は以下のとおりです。

等級 後遺障害の内容
1級2号 咀嚼及び言語の機能を廃したもの
3級2号 咀嚼又は言語の機能を廃したもの
4級2号 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
6級2号 咀嚼又は言語の機能を著しい障害を残すもの
9級6号 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
10級3号 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
12級相当 開口障害等を原因として咀嚼に相当時間を要するもの

後遺障害の内容は上記のとおりですが、難しい解釈が必要なので、以下で一つ一つ説明します。

咀嚼の機能障害と言語の機能障害に分けて説明します。

咀嚼の機能障害
  • 咀嚼の機能を廃したもの
    固形物は食べることができず、流動食以外は摂取することができなくなった状態です。
  • 咀嚼の機能に著しい障害を残すもの
    お粥(かゆ)や、お粥と同じくらい食べやすい物しか食べることができない状態
  • 咀嚼の機能に障害を残すもの
    固形の食べ物の中でそしゃくできないものがあること、又は、そしゃくが十分できないものがあって、そのことが医学的に確認できる場合を指します。
    ごはん、煮魚、ハム等はそしゃくできるが、たくあん、らっきょう、ピーナッツ等の一定の固さのものがそしゃくできないことが必要です。
    また、「医学的に確認できる場合」とは、噛み合わせがよくないこと、そしゃくするための筋肉に異常があること、口を開けづらい状態(開口障害)であること、歯が折れているが補てつできないことなどが医学的に確認できることが必要です。
言語の機能障害
  • 言語の機能を廃したもの
    4種の語音のうち、3種以上の発音ができなくなった状態です。
    ※4種の語音については、下記で説明しています。
  • 言語の機能に著しい障害を残すもの
    4種類の語音のうち2種類の発音ができない状態
    又は
    綴音(てつおん)機能に障害があって、言葉で意思疎通することができない状態
    ※綴音機能とは語音を一定の順序に結びつけることです。
  • 言語の機能に障害を残すもの
    4種類の語音のうち1種類の発音ができない状態(4種の語音とは、以下の4つの音です。)
    ①口唇音(こうしんおん)
    →ま行、ぱ行、ば行、わ行、ふ、の発音です。
    ②歯下音(しぜつおん)
    →な行、た行、だ行、ら行、さ行、ざ行、しゅ、じゅ、し、の発音です。
    ③口蓋音(こうがいおん)
    →か行、が行、や行、ひ、にゅ、ぎゅ、ん
    ④咽頭音(いんとうおん)
    →は行
  • 開口障害等を原因として咀嚼に相当時間を要するもの(12級相当)
    「開口障害等を原因として」とは、口が開けづらい、噛み合わせが悪い、そしゃくする筋肉が弱くなっていることなどを原因として、そしゃくに時間を要することが医学的に確認できることをいいます。

咀嚼機能障害は逸失利益に注意

逸失利益とは、後遺障害が残ってしまったことで、将来減収することへの補償のことです。

体の痛みがある場合や、関節の可動域(動く範囲)が制限されている場合には、働きづらくなっていることは明らかです。

しかし、咀嚼機能障害は、食べることを制限される障害であり、とても辛い障害ですが、減収することと直結はしません。

したがって、保険会社側から、逸失利益の存否や金額について争われることがあります。

被害者側としては、咀嚼時間が長くなることは、それだけ食事に費やす時間が増えて仕事をする時間も減ることを主張すべきです。

また、咀嚼機能に障害があるということは痛みがともなっていることもあり、集中力に影響することも考えられます。

こうした事情を主張して保険会社と交渉し、適切な逸失利益を獲得する必要があります。

 

歯が折れた後遺障害(歯牙障害)

等級 後遺障害の内容
10級4号 14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
11級4号 10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
12級3号 7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
13級5号 5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
14級2号 3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの

「歯科補てつを加えたもの」とは、歯を現実に喪失、又は、著しく欠損(見えている部分の4分の3以上)した歯に対して補てつした場合をいいます。

補てつとは、歯にクラウン(歯の根の部分に金属の芯を入れる)や入れ歯などを入れる治療のことです。

歯が折れた後遺障害の特徴

咀嚼の機能障害と同様に、歯が折れてしまった場合、直接的には労働能力の喪失に結びつきません。

したがって、保険会社から逸失利益の存否や金額を争われる可能性が高いです。

被害者としては、歯の痛みなどによる仕事への支障を主張するなどして、交渉する必要があります。

また、歯が折れた後遺障害の場合、通常の後遺障害診断書の様式ではなく、歯専用の後遺障害診断書がありますので、注意されてください。

 

痛みの後遺障害

等級 後遺障害の内容
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

顎を骨折した場合、骨折部分に痛みが残ることがあります。

痛みが残った場合の後遺障害等級は、12級13号と14級9号があります。

12級13号の認定基準

12級13号は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、事故により骨折などした部分に痛みが残っていることを医学的に証明できれば認定されます。

痛みを医学的に証明するには、レントゲン、CT、MRIなどの画像で骨や筋肉などに異常があることを明確に指摘できることが必要です。

顎の骨折部分が、きれいにくっつかず、変形してくっついてしまい、それが原因で痛みが生じているような場合に12級13号に認定される可能性があります。

14級9号の認定基準

14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」に該当する場合に認定されます。

12級13号では、「頑固な」という文言がついていましたが、14級9号ではついていません。

14級9号の具体的な認定基準は、事故によって痛みが残っていることを医学的に説明できる場合に認定されます。

12級13号は、医学的に証明できる必要がありましたが、14級9号は医学的に説明できれば認定されます。

医学的に説明できるかどうかは、諸事情を総合考慮して判断されます。

例えば、事故の規模・態様、症状の一貫性・連続性、治療期間・内容、治療頻度、神経学的検査の結果、画像所見の有無などの事情を総合的に考慮して判断されます。

 

 

顎骨折の慰謝料などの賠償金

顎を骨折した場合の主要な賠償項目としては、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益がありますので、それぞれ説明します。

入通院慰謝料

入通院慰謝料とは、交通事故で顎を骨折してしまい入院や通院をせざるを得なくなったことに対する慰謝料のことをいいます。

入通院慰謝料の基準は、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つの基準がありますが、弁護士基準が最も高い基準となっています。

弁護士基準での入通院慰謝料は、通院期間、入院期間で算定します。

入院がなく、通院のみの場合の慰謝料の金額は以下のとおりです。

等級 後遺障害の内容
3ヶ月 73万円
4ヶ月 90万円
5ヶ月 105万円
6ヶ月 116万円
7ヶ月 124万円
8ヶ月 132万円
9ヶ月 139万円
10ヶ月 145万円

入院されている場合には、入院期間を踏まえた慰謝料金額となります。

下記サイトに、通院期間や入院期間を入力することで、慰謝料金額が算出される自動計算機がありますので、概算を知りたい方はご活用ください。

 

後遺障害慰謝料

顎が骨折したことによって後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料が請求できます。

後遺障害の等級に応じて、以下の慰謝料金額を請求することができます。

1級 2級 3級 4級 5級 6級 7級
2800万円 2370万円 1990万円 1670万円 1400万円 1180万円 1000万円
8級 9級 10級 11級 12級 13級 14級
830万円 690万円 550万円 420万円 290万円 180万円 110万円

 

逸失利益

逸失利益とは、後遺障害が残ってしまったことで、働きづらくなり将来減収してしまうことに対する補償です。

逸失利益は、後遺障害等級に認定された場合に請求することができます。

具体的な計算式は、以下のとおりです。

具体例 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入は、原則として、事故前年の年収額をベースとします。

労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて一定の基準が定められています。

1級 2級 3級 4級 5級 6級 7級
100% 100% 100% 92% 79% 67% 56%
8級 9級 10級 11級 12級 13級 14級
45% 35% 27% 20% 14% 9% 5%

労働能力喪失期間は、原則として症状固定の年齢から67歳になるまでの年数です。

ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数です。

例えば、40歳で年収500万円の人が、顎を骨折して言語の機能に障害を残し、10級3号に認定された場合、逸失利益は以下の計算式のとおり、2474万1450円となります。

具体例 500万円 × 27% × 18.3270 = 2474万1450円

賠償金の概算を確認されたい場合には、下記サイトの交通事故賠償金計算シミュレーターをご活用ください。

 

顎骨折の手術費用はどうなる?

顎を骨折した場合、骨折の程度によっては、手術が必要になる場合があります。

骨折の程度が軽微である場合には、顎をワイヤーで固定する処置を行い、骨がくっつくの待つことになりますが、骨折の程度が大きい場合には、骨折によりずれた骨を元に戻してプレートで固定する手術をすることになります。

こうした手術に必要となる費用は、交通事故と関係性のある範囲で相手の保険会社や加害者に請求することができます。

交通事故で顎を骨折したことが明らかである場合には、保険会社も特に争わず、手術費用を支払ってくれるでしょう。

 

 

顎骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

顎骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

適切な治療を受ける

顎を骨折した後、医師の指示に従って治療を継続することはとても大切です。

自分の判断で治療をやめてしまうと噛み合わせが悪くなるなど、言語機能や咀嚼機能に影響が出ることも考えられます。

また、治療を途中でやめると、後遺障害診断書を医師に書いてもらえず、適切な後遺障害認定を受けることができない危険性もあります。

入通院慰謝料は、通院期間や日数によって計算されるので、この点でも不利になります。

従って、顎を骨折した場合には、医師の指示に従って、適切な治療を受けるべきです。

 

後遺障害を適切に認定してもらう

後遺障害認定を受けた場合には、入通院慰謝料とは別に、後遺障害慰謝料と逸失利益(後遺障害による将来の減収分の補償)を請求することができます。

したがって、後遺障害に認定されているかどうかで、賠償金に数百万円から数千万円の金額差が出ることもあるのです。

適切な後遺障害認定を受けるには、適切な後遺障害診断書を作成することが大切です。

後遺障害診断書のポイントについては以下のページをご参照ください。


 

適切な賠償金の金額を算定する

慰謝料の算定基準は、自賠責保険基準、任意保険会社基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、弁護士基準が最も高い基準になります。

保険会社が被害者に提示してくる賠償額の算定基準は、自賠責保険基準あるいは任意保険基準のいずれかです。

後遺障害等級にもよりますが、弁護士基準と自賠責保険基準、任意保険基準の賠償額を比べると数十万円から数千万円の程度、賠償額に差が出ます。

したがって、弁護士基準で適正に賠償金の金額を算定することはとても重要です。

下記のサイトで弁護士基準での賠償額の概算が計算できるので、是非ご活用ください。

 

加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう

治療終了後や後遺障害等級が確定すると保険会社から賠償額の提示があります。

保険会社の担当者から、その提示は妥当なものであるといった説明がなされることもあります。

しかし、先ほども説明したとおり、保険会社からの賠償の提示は、自賠責保険基準あるいは任意保険基準で計算されており、妥当な賠償金の提示といえないことがほとんどです。

したがって、保険会社の担当者に言われるがままに書面にサインして示談することは避けてください。

示談する場合には、事前に専門の弁護士に内容を確認してもらうことをお勧めします。

 

後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談する

後遺障害認定を受けるためには、自賠責保険に後遺障害申請をする必要があります。

後遺障害申請をするにあたっては、治療を開始した日から症状固定日までの医療記録を提出することになります。

したがって、治療開始の段階から後遺障害に詳しい弁護士に相談して、アドバイスを受けながら治療を継続し、適切な医療記録を残しておくことは重要です。

 

 

顎骨折についてのQ&A

顎が骨折したらどうしたらいいですか?

顎が骨折したら、医師の治療を受けましょう。

顎骨折の原因が交通事故や労災などの場合、慰謝料などの損害賠償が問題となります。したがって、人身障害にくわしい弁護士に相談すると良いでしょう。

 

顎骨折は自然に治癒するの?

顎骨折については、自然治癒は難しいため、直ちに病院を受診すべきです。

顎骨折では、骨折の部位に応じた治療が行われ、手術を要することもあります。

治療としては、骨折の部位に応じて固定するのが通常です。

参考:日本口腔外科学会ウェブサイト

 

顎骨折の固定方法は?

顎骨折の治療は、通常折れた部分を固定します。

上顎骨の骨折の場合、傷が目立ちにくい口の中を切開し、固定用の板とネジを用いて固定します。

板やネジにはチタン製、又は、吸収性の材料が使用されます。

下顎骨折の場合、上顎と下顎の歯に歯列矯正のときに装着するような金属を付けてゴムで固定します。これを顎間固定と言います。

固定の期間は約4週間となります。

参考:日本形成外科学会ウェブサイト

 

まとめ

顎を骨折した場合には、食べることが不自由になる、言葉が発しづらくなる、歯が折れてしまう、痛みが残ってしまうといった後遺障害が残る可能性があります。

こうした後遺障害が残った場合には、その障害の程度に合わせた適切な後遺障害認定を受けることが大切です。

したがって、後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談してアドバイスを受けながら手続きを進めていくことをお勧めします。

また、保険会社からの賠償の提案にも安易に応じるのではなく、事前に専門の弁護士に相談の上、示談するように注意しましょう。

当事務所では、交通事故をはじめとする人身障害分野に注力する弁護士が、相談対応から事件処理まで対応しています。

顎による骨折でお困りの場合には、お気軽にご相談ください。

面談でのご相談はもちろんのこと、LINE、ZOOM、FaceTimeなどを使用したオンライン相談や電話相談も行っており、全国対応しておりますので、お気軽にお問合せください。

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