物損事故とは?解決までの流れや請求できる賠償金について解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


物損事故とは交通事故が発生したものの、誰もケガをしておらず車や自転車などだけが壊れてしまった場合の事故のことをいいます。

このページでは、物損事故と人身事故の保険・刑事処分におけるの違いや、事故が起きた場合の対応の流れ、賠償金について弁護士が詳しく解説します。

物損事故とは

物損事故とは、一般に交通事故が発生したものの、誰もケガをしておらず車や自転車などだけが壊れてしまった場合の事故を指します。

もっとも、警察の処理として物損事故となっていても、実際には被害者がケガをして治療を継続している場合はあります。

後にも説明しますが、警察が人身事故として処理するには被害者が診断書を警察に提出することが必要です。

警察に診断書が提出されていない事故は、被害者がケガをしていたとしても、警察の処理上は物損事故として処理されているのです。

警察の処理上、物損事故となっていても、交通事故との関係性が認められる範囲で被害者は治療費や慰謝料を請求できるので、こうした状況が生じます。

このように、「物損事故」といっても、ケガ人は出ているものの警察の処理上、物損事故になっている場合と、実際に誰もケガをしていない場合の2つのパターンがあります。

 

物損事故と人身事故は何が違う?

物損事故と人身事故とでは様々な点で違いがありますので、以下説明します。

物損事故 人損事故
自賠責保険の適用 適用されない
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適用される
刑事処分 なし
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あり
実況見分調書 作成されない
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作成される
消滅時効 3年
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5年
減点処分 なし
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あり

※人損事故でも2020年4月1日時点で、事故日(傷害部分のみの場合)あるいは症状固定日(後遺障害がある場合)から3年が経過している場合には、消滅時効は3年となります。

自賠責保険は適用されない

自賠責保険は、ケガをした場合の治療費や慰謝料のために使用できる保険です。

したがって、物損事故の場合には、自賠責保険を利用することはできません

もっとも、警察の処理上は、物損事故で処理されているにすぎず、実際はケガをしていて、ケガと事故の関係性が認められる場合には、ケガの慰謝料や治療費については、自賠責保険に請求することができます

この場合、人身事故証明書入手不能理由書という書面を作成し提出することで自賠責保険を利用することができます。

ただし、この場合も請求できるのは治療費などの人身損害の部分であり、車の修理費用など物的損害を請求することはできません

 

物損事故は刑事処分の対象とならない

人身事故の場合には、過失運転致傷罪という刑事罰が課される可能性があります。

他方で、物損事故の場合には、刑事罰は課されません

故意に他人の物を破損させた場合には、器物損壊罪(刑法261条)が成立しますが、交通事故は過失で他人の物を破損させることになるので、器物損壊罪は成立しないのです。

 

実況見分調書が作成されない

実況見分調書は、事故当事者や目撃者などから事故発生の状況について聞き取りを行い、警察が作成する調書です。

交通事故が発生して人が怪我をした場合には、過失運転致傷罪の罪になるかどうかを捜査するため、この実況見分調書が作成されます。

しかし、物損事故の場合には、上記のとおり、原則、刑事罰はありませんので、捜査の必要がなく、実況見分調書は作成されません

物損事故の場合には、実況見分調書よりも、かなり簡易的に作成される物件事故報告書しか作成されません

 

消滅時効は3年

消滅時効とは、長期間にわたり賠償金を請求せずに放置した場合に、その請求権が消えてしまう制度のことです。

人身事故による人的損害は、事故日あるいは症状固定日(後遺障害がある場合)から5年間で消滅時効が完成します。

他方で、物損事故の場合は、事故日から3年間で時効が完成して請求ができなくなります。

 

物損事故は運転免許の減点処分がされない

人身事故を起こした場合には、被害者の怪我の程度に応じて2点〜20点の減点処分がなされます。

他方で物損事故の場合には、違反点数は加算されず、減点処分はなされません

 

 

物損事故が起きた時の対応

  • 1
    警察への通報
  • 2
    相手方の連絡先を確認
  • 3
    保険会社へ連絡
  • 4
    損害に関する資料の準備
  • 5
    示談交渉

警察への通報

交通事故が起きた場合には、物損事故・人身事故に関わらず、必ず警察に届出をしなければなりません。

これは法律で決まっていることです(道路交通法72条1項)。

したがって、物損事故であっても必ず警察に通報しなければなりません。

 

警察を呼ばなかったらどうなる?

警察に通報しなかった場合には、懲役あるいは罰金の刑事罰が課される可能性があります

また、警察を呼ばないと交通事故証明書が発行されません

交通事故証明書は、交通事故が、いつ、どこで、だれが、どのような事故を発生させたのかを証明する書面です。

この書面がないと自動車保険が使用できない可能性があるので、交通事故が起きたら必ず警察に通報しましょう。

 

相手方の連絡先を確認

警察に通報して、双方事情を聞かれている場合には、交通事故証明書で相手方の氏名、住所等の身元は分かります。

もっとも、交通事故証明書が発行されるまでには、一定の日数がかかりますので、事故後、相手方の住所、氏名、電話番号は確認しておいたほうがいいでしょう

 

保険会社へ連絡

自分が加入している保険会社にも連絡を入れましょう。

車の損害金額や過失割合については、保険会社同士で交渉することになるため、保険会社への連絡が必要です。

過失が0%の場合、保険会社は保険金を支払う可能性がなく、利害関係がないので相手方とは交渉してくれません。

もっとも、過失が0%の場合でも、車両保険や弁護士費用特約を使用する可能性もあるので、ご自身の保険会社には連絡を入れたほうがいいでしょう。

 

損害に関する資料の準備

物損事故の場合、修理費用や代車費用などの損害が生じますが、こうした損害の証明のために、修理見積もりなどを取得する必要があります。

保険会社が動いている場合には、保険会社が業者と話をして修理見積もりなどを取得してくれます。

車両以外の物で損害が生じている場合には、その物の写真を撮っておく必要があります。

撮影にあたっては、少なくとも、物の全体が分かる写真、物のメーカーが分かる写真、破損していることが分かる写真は撮影しておいたほうがいいでしょう。

その上で、その物を修理した場合の修理費用の見積もりも取得する必要があります。

洋服などについては、修理見積もりはまでは求められないことがほとんどですが、高級時計など相当の価値のある物については、修理見積もりを取得する必要があるでしょう。

 

示談交渉

損害算定にあたっての資料が揃った後、具体的な損害額の示談交渉を行います。

物損事故の場合には、特に車両の時価額や評価損、過失割合において争いになることが多いです。

事故当事者が保険に加入している場合には、保険会社同士で交渉を行うことになります。

もっとも、過失が0%の場合は、保険会社は保険金を支払う可能性がなく、利害関係がないので交渉はしてもらえません。

したがって、自分で保険会社と交渉するか、弁護士に交渉を依頼する必要があります。

こうした示談交渉の結果、過失割合や賠償額が決定した場合には、書面で合意を交わして示談交渉は終了となります。

 

 

物損事故で請求できる賠償金

以下では、物損事故で請求することができる損害項目を説明致します。

車両の修理代金

修理費用確定までの流れ

事故による車両の修理費用を請求することができます。

修理費用の確定にあたっては、相手保険会社の担当者(アジャスター)と修理業者とで協議して、交通事故による破損の範囲を確定し、どの程度の修理が必要なのかを検討することになります。

この協議を踏まえて、修理工場の方で見積もりを作成し、修理費用金額が確定することになります。

作成された修理見積もりに納得がいかない場合には、保険会社と交渉する必要がありますが説得的な根拠がなければ見積もりを修正することは難しいでしょう。

 

修理しなくても修理費用を支払ってもらえるか?

車両が破損すること自体で被害者は経済的に損失を被っているといえます。

したがって、実際に修理していなくても、修理費用に相当する金額の賠償金を受領することができます

その賠償金で車両を修理するかどうかは、被害者の自由です。

 

修理費用額が時価額を上回る場合は時価額が限度

修理費用の金額が時価額を上回る場合には、時価額の限度でしか賠償してもらうことができません。

時価額以上の修理費用を認めれば、当該車両の価値以上の賠償を得ることになるため、妥当でないというのが裁判所の考え方です。

したがって、修理費用が時価額を上回る場合には経済的全損といって、修理するのではなく、時価額での賠償がなされることになります。

 

時価額の増額交渉

保険会社が時価額を提示する場合、中古車の平均的な価格が掲載されているレッドブックと呼ばれる冊子を参考に提示されることが多いです。

レッドブックの価格により時価額を算定することも合理的な方法ではありますが、レッドブックでの価格は、実際の取引市場での価格よりも低額であることが多々あります。

したがって、請求する側としては、インターネット上の中古車サイトなどで、実際の取引価格を調査すべきです。

調査するに当たっては、インターネット上の中古車サイトで、車種、年式、グレード、走行距離、修復歴の有無等が被害車両と一致する車両を検索して市場価格を確認します。

 

経済的全損の場合、買替諸費用も請求できる

買替諸費用とは、全損となったことにより、新たに車を購入する際に要する諸費用のことです。

請求できる買替諸費用には以下のようなものがあります。

  • 被害車両の本体時価額に対する消費税
  • 登録手続きの手数料
  • 車庫証明取得の費用
  • 廃車手続費用
  • 納車の費用
  • 自動車税環境性能割

 

代車費用

代車が認められる期間

車を修理するにあたっては、修理工場に車を預けなければなりません。

また、全損になった場合には、車を買い換えることになりますが、買い替えまで一定の時間を要します。

このような修理期間や買替検討期間において、代車が必要な場合には、代車費用を請求することができます

もっとも、無制限に認められるわけではなく、修理や買替検討するのに相当な期間の範囲内でしか認められません。

代車費用が出る期間は、個別具体的な事情によって変わってきますが、実務的には2週間〜3週間程度が多いと考えます。

 

代車の種類

代車費用として認められるのは、被害車両と比較して代車として相当な車種となります。

もっとも、被害車両が、高級外車であり相当に代車費用が高額になる場合には、高級国産車の代車の範囲までしか認められないこともあります。

 

評価損

評価損とは、交通事故により車両が大きく破損した場合には、修理したとしても修復歴が残り、車両の価値が下がってしまうことがあります。

こうした価値の下落の損害のことを評価損といいます。

評価損は、格落ち損害とも言われています。

評価損が認められるかどうかは、特に以下の点が考慮される傾向にあります。

  1. ① 初年度登録からの経過年数
  2. ② 車種
  3. ③ 走行距離
  4. ④ 損傷の程度

一般的な傾向としては、初年度登録から時間が経過しておらず、走行距離も短く、高級車両で損傷の程度が大きい場合に認められる傾向があります。

特に、以下の箇所を修復した場合には、中古車販売業者に表示義務が生じるため、評価損が認められやすくなります。

  • フレーム(サイドメンバー)
  • クロスメンバー
  • フロントインサイドパネル
  • ピラー(フロント、センター及びリア)
  • ダッシュパネル
  • ルーフパネル
  • フロアパネル
  • トランクフロアパネル

 

評価損の金額は?

評価損の金額の算定は、多くの場合、修理費用の10〜30%程度の範囲で計算されます。

修理費用の50%以上の金額を認めた裁判例もありますが、特殊な事例と考えた方がいいでしょう。

評価損について詳しくはこちらをご覧ください。

 

休車損害

休車損害とは、営業車が交通事故により稼働できなくなり、それが原因で利益が減少した場合に請求できる損害です。

したがって、休車損害を請求することができるのは、トラック、バス、タクシー等の営業車両に限定されることになります。

休車損害が認められるためには、被害車両が使用できなくなったことが理由で利益が減少したことが必要なので、以下の2つの条件を満たす必要があります。

  1. ① 事故後も被害車両を使用する業務があったこと
  2. ② 遊休車がないこと

争点になりやすいのは、②の条件です。

遊休車とは、簡単に言えば、余っている営業車両のことです。

遊休車がある場合には、被害車両に代わってその遊休車を使用して営業すれば利益は減少しないため、休車損害は発生しないのです。

遊休車が存在しないことは、休車損害を請求する被害者側が証明しなくてはなりません。

トラックの保有台数やトラックドライバーの人数などを具体的に示して、遊休車が無いことを主張立証していくこととなります。

休車損害について詳しくはこちらをごらんください。

 

レッカー代

交通事故によって、タイヤがパンクしたり、破損したりすることで、自走できなくなった場合には、レッカー代を請求することができます

レッカー代については、それほど争いになることは少ないですが、複数回レッカーで車両を移動させようとする場合には、トラブル防止のために、レッカーの必要性を相手方に事前に伝えておくべきでしょう。

 

積荷などの損害

車のトランクに入れておいた物が、追突事故にあって破損したときには、その物の修理費用、あるいは、修理費用が時価額を上回る場合には時価額を損害賠償請求することができます。

追突事故でトランクが大破しているような場合には、トランク内の物は賠償の対象になることに争いは生じづらいと考えられますが、比較的軽微な事故の場合には、交通事故と破損の関係性をめぐって保険会社と争いになることもあります

 

 

物損事故から人身事故へ切り替えられる?

交通事故に遭った当初は、興奮していて痛みを感じなかったものの、事故後、間もなくして痛みを感じるようになる場合もあります。

また、事故当初はすぐに治ると思っていたため物損事故にしていたものの、痛みが治らず、人身事故にしたいという場合もありえます。

こうした場合には、物損事故から人身事故に切り替えることが可能です。

以下では、物損事故から人身事故への切り替え方法について説明します。

物損事故から人身事故へ切り替える手順

①警察提出用の診断書を作成してもらう

人身事故にすることで、相手方に過失運転致傷罪の嫌疑がかけられることになります。

したがって、交通事故によりケガをしたことを明確に証明するために診断書が必要となります。

警察用の診断書では、治療に必要な日数も記載されますが、むちうち、打撲の場合には、ほとんどのケースで数日〜10日程度以内で記載されます。

これは、加害者の免許の違反点数にかかわるためです。

被害者が治療に要する日数に応じて違反点数が変わってきます。

15日未満の場合には、加害者の責任が重い場合には3点、軽い場合には2点の違反点数になりますが、15日以上30日未満の場合には、責任が重い場合は6点、軽い場合には4点の違反点数になるのです。

したがって、警察提出用の診断書に治療期間が数日程度で記載されていても気にする必要はなく、この日数を理由に保険会社から数日で治療を打ち切られるということもありません(そもそもケガをしたか疑わしい場合には除きます)。

 

②診断書を管轄の警察に提出する

病院に警察提出用診断書を作成してもらったら、交通事故の発生現場を管轄する警察署に診断書を提出しなければなりません。

提出するにあたっては、事前に管轄の警察署の交通課に連絡を入れて警察署に行くとスムーズに提出できるでしょう。

交通事故発生から病院に行かないまま、一定期間経過すると交通事故とケガの因果関係が認められなくなる可能性があります

したがって、事故後、少しでも痛みを感じたら、念の為、病院に行きましょう。

病院に行ったからといって、必ず診断書を警察に提出しなければならないわけではありませんので、取り返しがつかなくなる前に病院に行きましょう。

 

③物損事故から人身事故に切り替わる

警察に診断書を提出すると物損事故から人損事故に切り替わります

交通事故証明書が「物件事故」で発行されていたとしても、その後、発行される交通事故証明書には「人身事故」に記載が変更されます。

また、人身事故となったことで、加害者に過失運転致傷罪の嫌疑がかかりますので、実況見分調書も作成されることになります。

 

物損事故から人身事故に切り替えるメリット

物件事故から人身事故に切り替えるメリットとしては、以下の点が考えられます。

  1. ① 実況見分調書が作成される
  2. ② 自賠責保険での審査で有利になる可能性がある
  3. ③ 加害者に行政上、刑事上の責任を問うことができる
①実況見分調書が作成される

物損事故の場合、警察は事故状況について物件報告書という簡易な書類しか作成しません。

他方で、人身事故の場合には、実況見分調書が作成されます。

実況見分調書は、事故が発生する直前の流れが、図とともに具体的に記載されます。

したがって、過失割合に争いがあるような場合には、実況見分調書を踏まえて交渉することも多いです。

特に過失割合が争点になる場合には、人身事故に切り替えて、実況見分調書を作成してもらい適切な過失割合を目指すことを検討すべきでしょう。

②自賠責保険での審査で有利になる可能性がある

骨折など明白にケガをしている場合は問題になりませんが、ケガをするレベルの事故であるか判断が難しい小規模の事故の場合は、人身事故に切り替えておいたほうがいいでしょう(※実際にケガをしている場合です)。

自賠責保険が、事故とケガ(治療費)の因果関係を判断するにあたって、「物件事故」か「人身事故」という点も考慮に入れていると考えられます。

加害者の任意保険会社が治療費の対応をしないと明言している場合には、自賠責保険に治療費を請求していく必要がありますので、特に人身事故に切り替えておくことをお勧めします。

自賠責保険に適切な判断をしてもらうためにも、事故の規模と任意保険会社の対応によっては、人身事故に切り替えたほうがいいでしょう。

③加害者に行政上、刑事上の責任を問うことができる

人身事故に切り替えた場合、加害者は、行政上の責任(運転免許の減点処分等)、刑事上の責任(過失運転致死傷罪)を問われる可能性があります

物件事故の場合は、こうした責任は発生しないため、加害者の責任を明確にしたい場合には、人身事故に切り替えることを検討されてください。

 

物損事故から人身事故に切り替えるデメリット

人身事故に切り替えるデメリットとしては、以下の点が考えられます。

  1. ① 実況見分の立ち会いが必要になる可能性がある
  2. ② 相手方も人身の届け出をする可能性がある
①実況見分の立ち会いが必要になる可能性がある

人身事故になった場合、警察は、実況見分調書を作成する必要があります。

事故直後に、事故状況を詳しく聞き取っていれば問題ないですが、不十分な場合には、実況見分調書を作成するために、もう一度、現場で詳しい状況を説明するよう警察に求められる可能性があります

つまり、人身事故に切り替えた場合には、実況見分の立会のために時間を費やさなければならない可能性があります。

②相手方も人身の届け出をする可能性がある

被害者にも一定の過失割合があるケースで、被害者が人身事故にした場合、加害者も警察に診断書を提出する可能性があります

この場合、事案によっては、被害者も行政上の責任、刑事上の責任を問われる可能性があります。

加害者が軽症で過失割合が小さい場合には、責任を負う可能性が低いと考えられますが、理屈上は、責任を追求される可能性はあります。

 

 

物損事故でよくある質問

物損事故でも慰謝料を請求できますか?

物損の事故の場合には、原則として慰謝料の請求はできません

物の場合には、その物が破損して心が傷ついたとしても、物に対する損害賠償(修理費用、時価相当額の賠償など)がなされれば、精神的な損害も回復すると考えられているからです。

もっとも、事故でペットに重大な障害が生じた場合や亡くなってしまったような場合には、例外的に慰謝料が認められる場合もあります。

判例 ペットに重大な障害が残り、飼い主の慰謝料が認められた事案(名古屋高判平成20年9月30日)

【事案の概要】
加害者が運転するトラックが、被害者の普通乗用自動車に追突し、この乗用車に乗っていた飼い犬が第2腰椎圧迫骨折に伴う後肢麻痺の障害を負った事案です。

【裁判例の判示概要】
裁判例では、「近時,犬などの愛玩動物は,飼い主との間の交流を通じて,家族の一員であるかのように,飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくないし,このような事態は,広く世上に知られているところでもある(公知の事実)。そして,そのような動物が不法行為により重い傷害を負ったことにより,死亡した場合に近い精神的苦痛を飼い主が受けたときには,飼い主のかかる精神的苦痛は,主観的な感情にとどまらず,社会通念上,合理的な一般人の被る精神的な損害であるということができ,また,このような場合には,財産的損害の賠償によっては慰謝されることのできない精神的苦痛があるものと見るべきであるから,財産的損害に対する損害賠償のほかに,慰謝料を請求することができるとするのが相当である。」といった判示しています。
こうした一般論を前提に、被害者が飼い犬を家族の一員であるかのように、かけがえのない存在として飼育していたことなどを認定し、飼い主の夫婦にそれぞれ20万円ずつ合計40万円の慰謝料を認めています。

引用元:名古屋高判平成20年9月30日

 

物損事故のままで自賠責保険に慰謝料などの人身損害を請求できますか?

交通事故によってケガをして、すぐに病院で治療を開始し継続しているものの、警察に診断書を提出しておらず、交通事故証明書の記載が物損事故のままになっているというケースもあります。

こうした場合でも自賠責保険に対して治療費や慰謝料などを請求することはできます

ただし、自賠責保険に請求するにあたっては、ケガをしているのに人身事故にしなかった理由を説明する「人身事故証明書取得不能理由書」という書面を提出する必要があります。

 

ケガをした場合に人身事故にしないことのデメリットはありますか?

  • 実況見分調書が作成されない
  • 事故とケガの関係性の有無の判断材料として扱われている

実況見分調書が作成されない

上述したように、物件事故の場合には、物件報告書という簡易的に事故状況を記載したものしか作成されず、実況見分調書は作成されません。

したがって、過失割合で争いになりそうな場合など、事故態様について明確に自分の主張を残しておきたい場合には、人身事故にされたほうがいいでしょう

 

事故とケガの関係性の有無の判断材料として扱われている

軽微な事故である場合には、任意保険会社から事故とケガの発生の因果関係が争われる可能性があります

つまり、軽微な事故だからケガなんてしないだろうといった主張をされるのです。

自賠責保険においても、事故とケガの因果関係の判断にあたって、人身事故になっているかどうかは判断要素の一つにはなっていると考えられます。

考慮要素としての重要性は低いと考えられますが、考慮要素の一つになっているとは考えられるため、人身事故にできない特別な理由がない限りは、ケガをされた場合には人身事故にされることをお勧めします

 

 

まとめ

  • 物の賠償には、自賠責保険は使用できない
  • 人身事故は、刑事処分や行政処分(違反点数)の対象となるが、物損事故は対象にならない
  • 物損事故では、実況見分調書が作成されず、物件報告書という事故状況が簡略化された書面しか作成されない
  • 物損事故の消滅時効は、事故発生日から3年
  • 物損事故でも警察に通報する必要がある。通報しないと、罰則があり、交通事故証明書も発行されず保険が使用できない可能性がある。
  • 車の修理代金が時価額を超える場合には、時価額までしか賠償してもらえない
  • 時価額賠償異なる場合には、保険会社が提示する時価額を安易に受け入れず、インターネットサイト等で市場価格を確認してみることが大切
  • 代車費用は、修理あるいは買い替え検討のために要する相当な期間内までしか認められず、一般的には2〜3週間程度しか認められない
  • 事故により車の価値が下がってしまうような場合には、評価損を請求できる可能性がある。
  • 評価損の金額の計算にあたっては、修理費用の10〜30%程度になることが多い。
  • 休車損害は、被害車両が営業車の場合に請求することができる。
  • 物損事故から人身事故に切り替えるには、病院で診断書を作成してもらい、事故が発生した場所を管轄する警察署に提出する。
  • 物損での慰謝料請求は、原則は認められないが、例外的に特に可愛がっていた愛犬などに重大な障害が生じたり、亡くなった場合には慰謝料が認められる可能性がある。

 

 

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