令和元年5月17日民事執行法改正

貸金返還請求や売買代金請求などの民事裁判の利用者は、裁判所に判決等の裁定をもらうと共に、裁定結果について強制的な実現を図ることを求めています。

もっとも、「○○万円支払え」という判決が出たとしても、債務者(被告)の保有している財産が不明であったり、資産の一部を特定できても回収できる金額が僅少である場合には、多大な労力をかけて裁判をしても徒労となってしまうことがあります。

そのため、平成15年、漸く民事執行法改正により、債務者自身に債務者財産を開示させるという財産開示手続の制度が創設されました。

もっとも、この平成15年改正による財産開示手続は、債務者の不出頭や虚偽陳述に対する制裁が罰則はなく30万円の過料という行政処分の性質を有する秩序罰に過ぎないというような謙抑的な制度設計であったため、実効性が十分ではなく、利用件数もさほど多いとはいえない実情にありました。

そうした状況を踏まえ、令和元年5月17日の民事執行法の改正(令和2年4月1日施行)により、既存の財産開示手続が強化され、また、債権者の申立てによって第三者に債務者財産の情報を開示させる手続が新設されることとなりました。

 

申立て要件の緩和

これまでの財産開示手続では、申立てに必要な債務名義(判決等)からは仮執行宣言付き判決(判決が未確定ではあるものの、強制執行が可能となるもの)、執行証書、支払督促が除外されていましたが、改正民事執行法においては金銭債権についての強制執行の申立てに必要とされる債務名義であれば、いずれの種類の債務名義であっても、これに基づく財産開示の申立てが可能となりました。

 

罰則の強化

従来の財産開示の申立てにおける罰則は先述のとおりですが、改正民事執行法による財産開示制度において、債務者の期日不出頭や、宣誓拒絶、不陳述、虚偽陳述については6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰を科しており、罰則が大幅に強化されています(民事執行法213条1項5号及び6号)。

懲役刑となれば刑事施設に拘置され、前科前歴が付くこととなります。

そのため、特に一定の事業者は刑事罰を受けていないことが登録や資格の要件となっていること等から、債務者の社会的不利益が大きくなり、財産開示制度に実効性を持たせています。

参考:民事執行法|e-Gov検索

 

 

債務者に対する財産開示の申立て

財産開示手続の申立要件

財産開示手続の申立てにあたり、以下の要件が必要となります(民執法197条1項〜3項)。

  1. 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者であること、又は債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者であること。
  2. 執行開始要件を備えていること。
  3. 強制執行を開始したが完全なる弁済を得ることができなかったこと又は知れている財産に対する強制執行を実施しても完全なる弁済が得られないことの疎明があったこと(強制執行の不奏功等)。
  4. 債務者が3年以内に財産開示手続において財産を開示した者ではないこと。

参考:民事執行法|e-Gov検索

 

実施の流れ

財産開示手続の実施決定

申立後に財産開示手続の実施決定が出されると、裁判所より債務者に送達がなされます。

債務者はこの実施決定に執行抗告をすることができ、実施決定が確定しなければ、その効力は生じません。

財産開示期日

実施決定の確定後、執行裁判所が財産開示期日を指定し、債務者(開示義務者)を呼び出すこととなります。

義務者たる債務者は、財産開示期日に出頭し、宣誓の上で債務者の財産について陳述しなければなりません。

債務者は弁護士等を代わりに出頭させることはできず、あくまで本人が出頭する必要があります。債務者が法人である場合には、法人の代表者が出頭することとなります。

一方、債権者である申立人は、期日に出頭しないこともできますし、出頭して許可を得た上で債務者(開示義務者)に対して質問することができます。

 

管轄裁判所

財産開示手続の管轄は、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所となります。

 

 

第三者からの情報開示制度

民事執行法改正により、財産開示手続において債務者以外の第三者から債務者の財産に関する情報を開示させる制度も新たに新設されました。

この制度により、債務者が登記名義人となっている不動産や債務者の給与債権、預貯金債権等に係る情報について、関係諸機関に対して情報の開示を求めることができるようになりました。

もっとも、給与債権については個人情報保護等の観点から他の財産に関する情報よりも秘匿性が高いと考えられたため、不動産や預貯金等に関する開示手続よりも要件が厳しくなっています。

 

債務者の不動産に係る情報の取得

債務者が所有権等の登記名義人となっている不動産(土地・建物)についての情報開示を登記所に対して求めることとなります。

この財産開示手続の申立てができる債権者は、財産開示手続と同様です。

しかし、先行して債務者に対する財産開示手続を行っていることが必要となり、債務者に対する財産開示手続が実施された場合において、この財産開示期日から3年以内に限り、行うことができます。

 

債務者の給与債権にかかる情報の取得

債務者の給与債権に関する情報の開示を、市町村、日本年金機構及び共済組合等に対して求めることができます。

この申立手続きは、養育費の請求権又は人の生命若しくは身体の損害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者のみ行うことができるとされています。

そのため、企業間取引に纏わる紛争や損害賠償請求に関してはほぼ利用は困難であるかと考えられます。

その他の要件は、不動産に係る財産開示手続の要件と同様であり、先行して債務者に対する財産開示手続が行われていること、債務者に対する財産開示期日から3年以内であることが必要となります。

 

債務者の預貯金債権等に係る情報の取得

預貯金や株式等に関する情報の開示を、銀行等や証券保管振替機関等に対して求めることができます。

この申立てが可能となる債権者は、財産開示手続と同様です。

もっとも、不動産や猶予債権に係る情報取得の手続とは異なり、債務者に対する財産開示手続が行われてから3年以内に限るという要件がなく、先行して財産開示手続を行う必要はありません。

また、この手続の申立てを認容する決定は、債務者に送達されず、執行抗告をすることができません。

すなわち、認容決定により直ちに効力が生じます。

 

管轄裁判所

債務者に対する財産開示の申立てと同様、原則として債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てることとなります。

 

開示方法

第三者からの情報提供は、当該第三者から裁判所に対して書面で行われることになります。

その上で、裁判所から債権者(申立人)に対して当該書面の写しが送付され、債務者に対しても情報提供がなされた旨が通知されることになります。

 

 

財産開示手続を希望される方は弁護士にご相談を

債権回収のために財産開示手続を利用する場合、先行して強制執行を行い、その不奏功を受けて初めて申し立てることとなります。

判決や和解調書を得ていたとしても、強制執行や財産開示の申立て等は非常に煩雑な手続です。

また、財産開示制度を利用した後に改めて強制執行を行う必要がでてきます。

そのため、方法の取捨選択も含め、事前に専門家にご相談されることをお勧めします。