遺産分割協議書の提出先とは?弁護士が解説【一覧表付】

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

遺産分割協議書の提出先は、必要となる各種相続手続の状況に応じて、法務局、銀行、証券会社、税務署などがあります。

各種の相続手続としては、不動産の名義変更、株式等の名義変更、預貯金の解約・名義変更、自動車の名義変更、相続税の申告等があげられます。

以下では、遺産分割協議書の提出先、必要書類や手続の期限について、相続に詳しい弁護士が解説していきます。

最後まで読んでいただくと、相続発生後の必要な手続きについてご理解いただけるかと思います。

ぜひ参考になさってください。

遺産分割協議書とは?

遺産分割協議書とは、相続人の間で誰がどの遺産を相続するのかを話し合い、全員で合意した内容を記載した文書のことをいいます。

遺産分割協議書は、通常、相続人全員が内容を確認した上で署名し、実印を押します。

そのため、後から「自分は協議に参加していない」、「ほかの相続人が勝手に分配方法を決めた」などと主張する相続人が出てくるといったトラブルを防ぐことができます。

また、相続手続を行う際、相続人の間で遺産の分配について合意していることを対外的に証明する役割を果たします。

 

 

遺産分割協議書の提出先とは

遺産分割協議書の提出が不要な場合

亡くなった方が有効な遺言書を残しており、遺言書に従って分配する場合、相続手続には遺言書が使用されるため、遺産分割協議書の提出は不要です。

また、相続人が一人の場合や、民法で決められた相続の割合(法定相続分)に従って相続する場合にも、遺言書や遺産分割協議書の提出は不要です。

 

利用目的と提出先の一覧表

遺産分割協議書の提出先が必要となる場合の提出先は、下表のとおりです。

遺産分割協議書の提出先は、相続手続の種類によって異なります。

相続手続 提出先
不動産の名義変更(相続登記) 不動産の所在地を管轄する法務局
株式や投資信託の名義変更 上場株式:証券会社
投資信託:証券会社、銀行
非上場株式:株式発行会社
預貯金の解約・名義変更 銀行等の金融機関
自動車の名義変更 運輸支局(普通自動車の場合)
相続税の申告 被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署

 

不動産の名義変更(相続登記):法務局へ提出

土地や建物等の不動産については、不動産とその所有者(登記名義人)の情報が登記簿謄本(登記事項証明書)に記載され、管理されています。

不動産の所有者(登記名義人)が亡くなり、亡くなった方(被相続人といいます。)から遺産を相続した人(相続人といいます。)へと所有者が変わった場合には、その相続人を不動産の新たな所有者として不動産の登記簿に記録する必要があります

この手続を「相続登記」といいます。

相続登記は、土地や建物等の不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。

この申請の際に、遺産分割協議書を提出する必要があります。

 

相続登記の期限

法改正により、2024年(令和6年)4月1日以降は、相続による不動産取得を知った日から3年以内に相続登記をすることが義務化されました。

この義務に違反した場合には、過料などの罰則が課される可能性があります。

また、不動産の名義が被相続人のままになっていると、その不動産を売ったり、不動産を担保に借り入れをしたりすることができません。

さらに、仮に、相続登記をしないまま、その不動産を相続した人が亡くなってしまった場合には、関係者が増えるため、相続手続がより複雑になる可能性があります。

そのため、できるだけ早い段階で遺産分割協議書を作成し、相続登記を済ませておくことが大切です。

 

法務局の所在地・連絡先

全国の法務局・地方法務局の所在地と連絡先の一覧はこちらです。

参考:法務局・地方法務局所在地一覧|法務省

 

預貯金の解約・名義変更:銀行等の金融機関へ提出

被相続人が亡くなって相続が発生した場合、金融機関等は、その事実を把握した時点で、預貯金の口座を凍結し、預貯金を解約して引き出したりできないようにします。

これは、一部の相続人や第三者が勝手に被相続人の預貯金を引き出すなどして、トラブルになることを防ぐためです。

そのため、被相続人の預貯金を相続した人は、銀行等の金融機関で解約や名義変更の手続を行う必要があります。

基本的に、この手続の際に遺産分割協議書の提出が求められます。

もっとも、多くの金融機関では、遺産分割協議書がない場合でも、これに代わる書類を提出することで、手続を行うことができます(金融機関によっては、遺産分割協議書の提出が必須とされることがあります)。

ただし、この場合には通常、金融機関所定の書類に相続人全員が署名し、実印を押すことが求められます。

複数の金融機関に分かれて被相続人の預貯金が存在することも多いため、金融機関ごとに相続人全員が署名や実印を押印することとなると、なかなか大変です。

相続人間のトラブル防止にも役立ちますので、遺産分割協議書を作成し、提出するのがおすすめです。

 

預貯金の解約・名義変更の期限

預貯金の解約や名義変更に法律上の期限はありません。

ただし、2018年に施行された休眠預金等活用法により、10年間動きのない「休眠口座」に預けられており、10年間取引のない「休眠預金」については、一定の条件を満たす場合、金融機関から預金保険機構に移管され、NPO法人の活動などに活用されるため、注意が必要です。

また、口座が凍結されている場合には預貯金を引き出すことができませんので、解約や名義変更の手続はできるだけすみやかに行いましょう。

 

自動車の名義変更:運輸支局へ提出(100万円以上の普通自動車の場合)

被相続人の自動車を相続する場合、相続する自動車の種類や査定額によって、遺産分割協議書を提出する必要があるかどうかや、手続を行う場所が異なります。

査定額が100万円超の普通自動車を相続する場合、新所有者(相続人)の住所地を管轄する運輸支局で自動車の名義変更を行う必要があり、その際には、原則として遺産分割協議書の提出が必要となります。

査定額が100万円以下の普通自動車を相続する場合には、遺産分割協議書の代わりに「遺産分割協議成立申立書」という簡易的な書類を使用することができます(遺産分割協議書を提出することもできます)。

遺産分割協議成立申立書を使用する場合には、自動車を相続する相続人だけが署名して実印を押せば足り、相続人全員が署名して実印を押す必要はありません。

軽自動車を相続する場合、遺産分割協議書の提出は不要です。

なお、軽自動車の名義変更手続は、新所有者の使用の本拠(自動車を使用する場所)を管轄する軽自動車協会の事務所・支所・分室で行います。

以上をまとめると、次のようになります。

種類 査定額 遺産分割協議書の要否 手続の場所
普通自動車 100万円超 必要 新所有者(相続人)の住所地を管轄する運輸支局
100万円未満 不要(遺産分割協議成立申立書を使用)
軽自動車 不要 軽自動車協会

 

自動車の名義変更の期限

相続による自動車の名義変更について法律上の期限はありません

しかし、自動車の任意保険については、名義変更をしていない自動車で万一事故を起こした場合、自賠責保険を超える部分についての補償を受けられない可能性があります。

そのため、自動車を相続した場合には、すみやかに名義変更の手続をしましょう。

 

運輸支局・軽自動車協会の所在地・連絡先

全国の運輸支局の所在地・連絡先は、こちらで調べることができます。

参考:全国運輸支局等のご案内|国土交通省

全国の軽自動車協会の所在地・連絡先は、こちらで調べることができます。

参考:全国の事務所・支所一覧|軽自動車協会

 

株式や投資信託の名義変更:証券会社等または株式の発行会社へ提出

株式については、上場している会社の株式(上場株式)か、それとも非上場会社の株式(非上場株式)かによって、手続が異なります。

上場株式については、被相続人が株式を預けていた証券会社で手続を行います。

非上場株式については、株式を発行している会社との間で直接やり取りをして手続を行う必要があります。

投資信託については、証券会社や銀行で手続を行います。

名義変更の手続を行う際には、基本的に遺産分割協議書の提出を求められます。

もっとも、預貯金の名義変更の場合と同様、遺産分割協議書がない場合でも、これに代わる書類を提出することによって手続を行うことができる場合がほとんどです

しかし、相続人間のトラブル防止の観点からも、遺産分割協議書を作成するのがおすすめです。

なお、被相続人がどの証券会社に株式を預けているのかわからない場合には、「証券保管振替機構」に対して開示請求をすることで、被相続人が株式を預けている証券会社を調べることができます。

また、相続した上場株式について未受領配当金(受け取る権利があったにも関わらず、受け取らないままになっている配当金のことをいいます。)がある場合、株式とは別に相続手続が必要となることがあります。

株式の相続手続を行う際には、証券会社や配当の手続を行う信託銀行に対して、あわせて未受領配当金がないかどうかを確認するのがよいでしょう。

 

株式の名義変更の期限

株式の名義変更について法律上の期限はありません

ただし、株式や投資信託を売却して現金化するためには、名義変更が完了していることが必要となります。

株式や投資信託は価格が変動することから、手続に手間取ってタイミングを逃す可能性もあります。

そのため、できるだけ早く名義変更を完了させておくことをおすすめします。

また、未受領配当金がある場合、受け取りには金融期間が定めた期限がある(3年から5年とするところが多いようです。)ことがあるため、この点にも注意が必要です。

 

相続税の申告:税務署へ提出

相続税は、被相続人の財産を相続した場合に、その相続した財産の価額に基づいて課される税金のことです。

相続税の申告が必要となる場合、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署に、申告書類とあわせて遺産分割協議書を提出しなければなりません。

 

相続税の申告が必要となる場合

相続税の申告が必要となるのは、被相続人から相続した財産(土地、建物、株式、貴金属、宝石、美術品、骨とう品、預貯金、現金など、金銭に換算できるすべての財産が含まれます。)の総額が「基礎控除額」を上回る場合です。

相続した財産の総額が「基礎控除額」を下回る場合、相続税の申告をする必要はありません。

「基礎控除額」は次のような数式で算出されます。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

これをまとめると、以下のようになります。

(相続人から相続した財産の総額) – (3,000万円 + (600万円×法定相続人の数))> 0 必要

(相続人から相続した財産の総額) – (3,000万円 + (600万円×法定相続人の数))≦ 0 不要

具体例 相続財産額が5,000万円で、法定相続人が配偶者と子1人だった場合

(相続税課税額5,000万円 – (3,000万円 + 600万円 × 2人) = 800万円となり、相続税の申告が必要です。

 

相続税の申告期限

相続税の申告は、自己に相続があったこと(被相続人が亡くなったこと)を知った日から10か月以内に行う必要があります。

この期限内に申告しなかった場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの相続税の負担を軽減する特例を利用することができなくなったり、追徴課税を課される可能性があります

10ヶ月の期限内にどうしても遺産分割協議が整わない場合には、法定相続分で財産を分けたと仮定して、「未分割申告」という仮の申告をして相続税を支払います。

当然のことながら、その際には遺産分割協議書の提出は不要です。

申告期限(相続があったことを知ったことを知った日から10ヶ月後)からさらに3年以内に、遺産分割協議をととのえて修正の申告をすることで、税金を多く払いすぎた場合には返金を受けることができます。

もっとも、未分割申告の時点では相続税を軽減する特例を使うことができないため、後に返金を受けられるとしても、一時的な負担が増えてしまうことや、再申告の手間が発生することなどから、できる限り、期限内に遺産分割協議をととのえて申告するのが望ましいといえます。

 

税務署の所在地・連絡先

全国の税務署の所在地・連絡先は、こちらで調べることができます。

参考:税務署の所在地などを知りたい方|国税局

 

 

遺産分割協議書の提出についてのよくあるQ&A

遺産分割協議書のコピーを提出できますか?


 

上で説明した各相続手続においては、基本的に遺産分割協議書の原本を提出することが必要であり、コピーの提出は認められません

そのため、各相続人が、各提出先に原本を提出することとなるため、遺産分割協議書は相続人の人数分の原本を作成するのがよいでしょう。

また、紛争を防止する観点からも、相続人の人数分を作成するのがおすすめです。

なお、相続手続を必要としない相続人に対しては、コピーを渡すだけでもかまいません。

1人の相続人が複数の財産を相続する場合には、遺産分割協議書の原本を提出した後、これを返却してもらうための手続(原本還付)を行うことで、1通の遺産分割協議書の原本を複数の提出先に使用することができます。

原本還付の手続は各提出先によって異なりますが、法務局や税務署などの公的機関では、一般に、次のような手順で行います。

原本還付の手続の流れ
  1. ① 遺産分割協議書のコピーを用意する。
  2. ② 遺産分割協議書のコピーに「この写しは原本と相違ありません」という旨の記載をした上で、その記載の下に氏名を記載し、実印を押す。
  3. ③ 手続をする窓口に、遺産分割協議書の原本と一緒にコピーを提出し、原本還付を希望することを伝える。

 

遺産分割協議書を自分で作成できますか?


 

理論上は、相続人自身で遺産分割協議書を作成することは可能です。

しかし、正確な内容の遺産分割協議書を作成するためには、専門的な知識が必要となるだけでなく、抜け漏れなく相続人や遺産を洗い出したり、そのために様々な書類を集めたりすることが必要となり、多くの時間と手間がかかります。

仮に、遺産分割協議書の内容に不備があった場合には、遺産分割協議書が無効となったり、修正が必要となったりする可能性があります。

そのため、遺産分割協議書の作成は、相続を専門とする弁護士などの専門家に依頼するのがおすすめです。

初回の法律相談を無料とする弁護士が場合が多いので、まずは無料の相談を活用してみるとよいでしょう。

当事務所では、遺産分割協議書のサンプルを素早く手軽に確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動作成できる遺産分割協議書シミュレーターをご提供しています。

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まとめ

  • 遺産分割協議書とは、相続人の間で誰がどの遺産を相続するのかを話し合い、全員で合意した内容を記載した文書のことをいいます。
  • 各種の相続手続を行う際に、遺産分割協議書を求められることがあります。
  • 遺産分割協議書の提出先は相続手続の種類によって異なりますが、法務局や証券会社・銀行等の金融機関、運輸支局、税務署などがあります。
  • 遺産分割協議書は基本的に原本を提出する必要があり、コピーを提出することはできません。
  • 2人以上の相続人がいる場合には、1通の遺産分割協議書を使い回すのではなく、相続人の人数分の遺産分割協議書(原本)を作成することをおすすめします。
  • 遺産分割協議書の提出先で原本還付の手続を行うことで、1通の遺産分割協議書で複数の争続手続を行うことができます。
  • 遺産分割協議書の作成は、理論上、相続人が自分で行うこともできます。
    しかし、提出した遺産分割協議書に不備があった場合、遺産分割協議書が無効となったり、修正が必要となったりする可能性もあることから、相続を専門とする弁護士等の専門家に依頼するのがおすすめです。
  • 当事務所には相続に注力する弁護士や税理士で構成される相続チームがあり、遺産分割を強力にサポートしています。

全国対応も行っていますので、遺産分割でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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