株式を遺産分割できますか?

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

株式の遺産分割について質問です。

先日、夫が脳梗塞で亡くなりました。

夫は甲株式会社(製造業)の社長をしており、事業を長男(B)に継がせることを考えていたことから、5年ほど前に保有する自社株1000株(100%)のうち、400株を売却により譲渡していました。

甲株式会社は、同族会社であり上場していませんでした。

相続人は、妻である私A(65歳)のほか、長男B(35歳)、長女C(28歳)の3人です。

夫の遺産には、自社株の他に、上場会社である乙株式会社の株式300株、預貯金4000万円があります。

  • 甲株式会社の株式 600株 評価額1500万円
  • 乙株式会社の株式 300株 評価額500万円
  • 預貯金:4000万円

家族会議の結果、甲株式会社の株式については、亡夫の想いを実現するために、長男Bが全部を取得する方向で意見が一致しました。

ただし、各相続人の取得分については、法定相続分どおりにしたいと思っています。

このような場合、遺産分割はどうすればよいでしょうか?

また、遺産分割までに株主権をどのように行使する場合の方法もわかりません。

会社法上の手続も必要らしいですが、どのようにすればよいでしょうか?

 

 

弁護士の回答

遺産分割の対象となります。

 

株式は相続の対象?

相続について、民法は以下のとおり規定しています。

根拠条文
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

引用元:民法|電子政府の窓口

株式は、一身専属権ではありません。

したがって、相続財産に含まれます。

また、株式は可分債権ではありませんので、相続によって当然分割されず、各相続人が相続分に応じて共有することとなります(民法898条)。

したがって、遺産分割の対象となります。

 

 

株式の権利を行使する方法とは?

株式の譲渡について、会社法は、取得した人の氏名等を株主名簿に記載(記録)しなければ、会社や第三者に権利を主張できないと規定しています。

根拠条文
第130条 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

引用元:会社法|電子政府の窓口

したがって、遺産分割前に、株主として会社に対して権利を行使するためには、株主名簿の書き換えが必要となります。

また、本事案にように、株式を相続した場合、遺産分割までは相続人全員が株式を共有している状況です。

このように株式が共有されている状況にある場合、相続人は、当該株式についての権利を行使する者1名を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、基本的にはその株式の権利を行使することができません。

根拠条文
(共有者による権利の行使)
第百六条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。

引用元:会社法|電子政府の窓口

 

相続人の間で権利行使についての争いがある場合

本事案では、長男Bが株式を取得する方向で全相続人が納得しています。

仮に、相続人の間で争いがある場合、権利行使にあたって揉める可能性があります。

このような場合の権利を行使する者の指定方法について、裁判例は、共同相続人の過半数による多数決で決定できるとしています(最判平9.1.28)。

そして、権利行使者として指定された者は、自己の判断に基づき権利行使が可能です(最判昭53.4.14)。

 

 

相続の場合の株主名簿書換え手続とは

非上場株式の場合

本事案において、甲株式株式は上場していません。

このような非上場会社の場合、遺産分割前の場合、戸籍謄本、除籍謄本等を提出して、共有名義への書き換えを請求することが必要です。

遺産分割後であれば、Bが戸籍謄本、除籍謄本等に加え、遺産分割協議書を準備すれば、単独で名義書換を請求できます。

 

上場会社の場合

上場会社の場合、現在、株券が廃止され、株主等の権利の管理は、振替機関及び口座管理機関に開設された振替口座において電子的に行われています。

そして、相続などの場合、振替口座の情報の変更手続が必要です。

振替口座は共有名義が認められていないため、遺産分割前であっても、共有者の中の誰かを代表者として単独名義にするしかできません。

遺産分割後であれば、当該相続人が戸籍謄本、除籍謄本等に加え、遺産分割協議書を準備すれば単独で名義変更が可能です。

 

 

株式の遺産分割協議書の記載例

では、具体的に、どのような遺産分割協議書を作成すればよいのか、以下では今回のケースの例を示します。

 

株式の遺産分割協議書

第◯条 株式について
1 次の株式はBが取得する。
甲株式会社 普通株式 600株
2 次の株式はCが取得する。
乙株式会社 普通株式 300株

第◯条 預貯金について
1 次の預貯金はAが取得する。
◯◯銀行 ◯◯支店 普通 口座番号◯◯◯◯  4000万円(相続開始日の残高)
2 Aは、前項記載の預貯金を取得する代償として、Cに1000万円の債務を負担することとし、Cの指定する口座に◯年◯月◯日限り、振り込む方法により支払うものとする。振込手数料はAの負担とする。

 

株式の遺産分割協議書のポイント

株式について

相続発生後の遺産の取得については、遺産分割協議書に明記しておくと、今後のトラブル防止につながる可能性があります。

特に、株式については、権利行使のために、当該相続人が承継したことを証明する資料を会社に提出しなければなりません。

したがって、遺産分割協議書が必要となります。

なお、当事務所では各種遺産分割協議書のサンプルをホームページ上に掲載しており、無料で閲覧・ダウンロードが可能です。

 

法定相続分を算出する

具体例

本事案では、遺産の合計額が6000万円となります。

【内訳】

  • 甲株式会社の株式:600株(評価額1500万円)
  • 乙株式会社の株式:300株(評価額500万円)
  • 預貯金:4000万円

そうすると、法定相続分は、妻のAさんが3000万円、長男Bさんと長女Cさんは1500万円となります。

A:6000万円 × 1/2 = 3000万円
B:6000万円 × 1/4 = 1500万円
C:6000万円 × 1/4 = 1500万円

 

どんな遺産をどの程度取得するか調整する

本事案では、長男Bさんが甲株式株式の全株式(1500万円)を取得します。

したがって、甲株式株式の株式だけで、法定相続分(1500万円)に応じた遺産相当額を取得するので、その他の遺産は取得しません。

他に、乙株式株式の株式(500万円)の取得については、Aさんでも、Cさんでも構いませんが、例ではCさんとしています。

したがって、Cさんは、法定相続分に応じた遺産を取得するために、預貯金から1000万円を取得することとします。

また、Aさんは預貯金3000万円を取得すれば、相続人全員が法定相続分に応じた遺産取得となります。

 

代償分割について

本件事案では、法定相続分どおりに分割する場合、それぞれが受け取るべき預貯金は、Aさん3000万円、Bさん0円、Cさん1000万円です。

ところが、例では、まずAさんが預貯金の全額4000万円を取得し、その代りに、Cさんに1000万円を支払うという内容にしています。

このような記載内容にしているのは、手続の円滑化のためです。

すなわち、相続人間の話合いで、銀行預金を分割すると、遺産分割協議書だけでなく、金融機関の所定の書類にも、AからCさん全員の署名捺印を求められるのが一般的です。

そのため、大変な手間暇を要することとなります。

そこで、Aさんに預貯金を集中して相続させ、そのかわりにCさんに代償金を支払うという分割協議にしています。

 

 

株式の遺産分割協議の問題点

遺産に株式があるケースの遺産分割協議には、以下のような問題点が考えられます。

 

非上場会社の株式の評価は困難?

本ケースでは、甲株式株式の評価を1500万円と決めつけていましたが、実務では、この価額をめぐって争いとなります。

なぜならば、非上場会社の株式の評価は、上場会社の株式と異なり、株価が不明確です(日経新聞を見ても株価は掲載されていません。)。

また、非上場会社の株式の評価手法は様々であり、専門性が極めて高い領域です。

弁護士や会計士などの専門家ですら、非上場会社の株価の査定を適切にできる専門家は限定されています。

したがって、まずは非上場会社の株の時価査定をできる専門家探しで難航する可能性があります。

 

特別受益が問題となる可能性

本事案では、事業承継対策として、夫が亡くなる5年前に長男に株式を売却しています。

仮に、これが売却ではなく贈与の場合、特別受益が問題となります。

また、売却していたとしても価額が不相当な場合(タダ同然)も同様です。

特別受益が問題となるケースでは、相続分を検討するために持戻しをしなければならず、計算が複雑となります。

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このようなケースでは、専門家にご相談の上、慎重に進めていくことをお勧めしています。

 

 

まとめ

以上、株式の遺産分割の可否について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

株式は、遺産分割することが可能です。

トラブル防止のためには、遺産分割協議書に誰が何をどの程度取得するか、明記したほうがよいでしょう。

しかし、適切な内容の遺産分割協議書の作成は決して簡単ではありません。

また、非上場会社の株式の場合、株価の時価を算出するのは素人の方には難しいと思われます。

これらをスムーズに行うためには相続税法に対する専門知識と豊富な経験が必要となるため、相続問題の専門家に相談されることをお勧めいたします。

当事務所には、相続問題に注力する弁護士、税理士のみで構成される相続対策チームがあり、相続問題を強力にサポートしています。

相続問題でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

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