遺産分割協議書での預金の分け方とは?弁護士解説【ひな形付】

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA


身内の方が亡くなった場合(亡くなった方のことを「被相続人」といいます。)、預貯金は相続の対象となります。

預貯金を払い戻すためには、状況によって「遺産分割協議書」を銀行等に提出することが必要となります。

遺産分割協議書の書き方は、相続人の間で預貯金の分け方によって異なります。

複数の相続人が複数の預金口座を分け合う場合、相続人間の公平を実現しつつ、できるだけ負担のかからない方法で行うためには、代償分割の方法を活用するのがおすすめです。

ここでは、遺産分割協議書を作成する場合の預貯金の分け方や、その書き方について、相続専門の弁護士がわかりやすく説明します。

ぜひ、ご参考にされてください。

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは、相続人全員で、誰がどの遺産を相続するのかについて話し合い、全員で合意した内容を記載した文書のことをいいます。

遺産分割協議書は、法律上作成が必須とされているものではありません。

①相続人が1人の場合や、②相続人全員が相続放棄した場合、③有効な遺言書があってその内容に従う場合には、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

遺産分割協議書は、相続において次のような役割を果たします。

  • 預貯金の解約や名義変更、不動産の名義変更、相続税の申告などの相続手続の際に、金融機関や公的機関等に提出し、遺産分割協議で合意した内容を対外的に証明する役割
  • 相続人間で合意した内容を書面にすることで、後のトラブルの発生を防止する役割

 

預貯金の遺産分割協議書の書き方

遺産分割協議書の内容は、どの相続人がどの財産を相続するのかが、第三者から見ても明確にわかるように記載する必要があります。

預貯金口座の場合には、「銀行名」、「支店名」、「口座番号」、「口座名義人」を記載して、財産を特定することをお勧めしています。

具体的な遺産分割協議書の書き方は、預貯金をどのように分けるのかによって変わってきます。

以下では分け方のパターンごとに説明をしていきます。

預貯金が1つのケース

相続の対象となる被相続人の預貯金が1つだけであり、それを複数の相続人で分ける場合、次のような方法が考えられます。

1つの預貯金口座を複数の相続人で分ける方法

例えば、X銀行の口座に預けられている預貯金自体を、相続人Aと相続人Bで分ける方法です。

これを実現するためには、以下の2つの方法が考えられます。

  1. ① 銀行から直接、相続人A、相続人Bの口座に、それぞれの取得分を入金してもらう
  2. ② 代表相続人(相続人代表者ともいいます。)を定めたうえで、銀行から預金の全額を代表相続人に入金してもらい、さらに代表相続人から他の相続人に取得分を送金する

1つの預貯金口座を複数の相続人で分ける方法

銀行によっては、①に対応していないことがあるため、①を希望する場合は、事前に銀行に確認する必要があります。

②は一般的に行われる方法であり、すべての銀行が対応可能です。

②の場合には、振込手数料についても、どちらが負担するのか(双方で折半するのか)などの取扱いを決めておくとよいでしょう。

②の場合、遺産分割協議書は以下のように記載します。

記載例

以下の遺産については、相続人Aが2分の1、相続人Bが2分の1の割合でそれぞれ取得する。

なお、Aは相続人を代表して以下の遺産の解約および払い戻しまたは名義変更の手続を行い、このうちBの取得分については、別途Bが指定する口座に振り込んで引き渡すものとする。

振込手数料については、Bの負担とする。

(1)預貯金

X銀行 ◯◯支店 普通預金
口座番号 ◯◯◯◯◯◯
口座名義人 ◯◯ ◯◯

 

1人の相続人が預貯金を相続(取得)し、他の相続人に金銭を支払う方法(代償分割)

例えば、相続人AがX銀行の預貯金を取得したうえで、相続人Aが相続人Bに対して金銭(代償金)を支払う方法です。

このように、ある財産を相続した相続人が、その財産を相続しなかった相続人に対して金銭を支払って調整する財産の分け方を、「代償分割」(だいしょうぶんかつ)といいます。

不動産や美術品のように、物理的に分けられない財産を相続する際によく使われる分割の方法ですが、預貯金の場合にも利用することができます。

この方法による場合、遺産分割協議書にも代償分割による旨を明記することがポイントです。

代償分割であることを記載すべき理由は、以下の2点です。

  • 預貯金を取得した相続人が、他の相続人に金銭(代償金)を支払った時点で、税務署からその支払行為が「贈与」とみなされ、贈与税を課されるリスクがある
  • 預貯金を取得した相続人が代償金の支払いを行わない場合、他の相続人は、遺産分割協議書を証拠として代償金の支払いを求めることができる

代償分割

上で説明した注意点をふまえて、遺産分割協議書は以下のように記載します。

記載例

1.相続人Aは、以下の遺産を取得する。

(預貯金)
X銀行 ◯◯支店 普通預金
口座番号 ◯◯◯◯◯◯
口座名義人 ◯◯ ◯◯

2.相続人Aは、前項の預貯金を取得する代償金として、Bに対し、金✕✕✕✕円を支払う。

 

預貯金が複数のケース

相続の対象となる被相続人の預貯金が複数あり、それを複数の相続人で分ける場合(例えば、相続人としてA、Bの2人がおり、相続の対象となる預貯金がX銀行とY銀行にある場合)、次のような分け方が考えられます。

 

それぞれの相続人が異なる預貯金を相続(取得)する方法

相続人AがX銀行の預貯金を、相続人BがY銀行の預貯金を、それぞれ取得する方法です。

相続人が異なる預貯金を取得する方法

この場合、遺産分割協議書は以下のように記載します。

【記載例】

1.相続人Aは、以下の遺産を取得する。

(1)預貯金
X銀行◯◯支店 普通預金
口座番号 ◯◯◯◯◯◯
口座名義人 ◯◯ ◯◯

(2) ・・・

ーー中略ーー

2.相続人Bは、以下の遺産を取得する。
(1) 預貯金
Y銀行◯◯支店 普通預金
口座番号 ◯◯◯◯◯◯
口座名義人 ◯◯ ◯◯

(2) ・・・

 

それぞれの預貯金を複数の相続人で分ける方法

上のように相続人Aと相続人Bがそれぞれに別の預貯金(X銀行とY銀行の預貯金)を取得する場合、X銀行とY銀行の預貯金の額に大きな開きがあるときは、相続人Aと相続人Bの間に不公平が生じます。

そこで、上で説明した「1つの預貯金口座を複数の相続人で分ける方法」によって、X銀行の預貯金とY銀行の預貯金のそれぞれを、相続人Aと相続人Bで分け合うことが考えられます。

それぞれの預貯金を複数の相続人で分ける方法

この場合、遺産分割協議書の記載についても、それぞれの口座ごとに、「1つの預貯金口座を複数の相続人で分ける方法」で説明した内容を記載することになります。

具体的には、以下のとおりです。

記載例

1.以下の遺産については、相続人Aが2分の1、相続人Bが2分の1の割合でそれぞれ取得する。

なお、Aは相続人を代表して以下の遺産の解約および払い戻しまたは名義変更の手続きを行い、このうちBの取得分については、別途Bが指定する口座に振り込んで引き渡すものとする。

振込手数料については、Bの負担とする。

預貯金
X銀行 ◯◯支店 普通預金
口座番号 ◯◯◯◯◯◯
口座名義人 ◯◯ ◯◯

2.以下の遺産については、相続人Aが2分の1、相続人Bが2分の1の割合でそれぞれ取得する。

なお、Aは相続人を代表して以下の遺産の解約および払い戻しまたは名義変更の手続きを行い、このうちBの取得分については、別途Bが指定する口座に振り込んで引き渡すものとする。

振込手数料については、Bの負担とする。

預貯金
Y銀行 △△支店 普通預金
口座番号 △△△△△△
口座名義人 △△△△

しかし、このように預貯金が複数の銀行にある場合、代表相続人が、それぞれの銀行ごとに預貯金を取得して他の取得者に分配する、といった流れを取らなければならず、代表相続人に大きな負担がかかってしまいます。

そこで、複数の預貯金を複数の相続人で分けるときは、上で説明した代償分割の方法で行うのがおすすめです。

 

1人の相続人がすべての預貯金を相続(取得)し、他の相続人に金銭を支払う方法(代償分割)

相続人AがX銀行、Y銀行のすべての預貯金を相続し、他の相続人Bには金銭(代償金)を支払う方法です。

この方法で預貯金を分ける場合には、上の「それぞれの預貯金を複数の相続人で分ける方法」に比べて、相続人間の公平をより簡便な方法で実現することができます。

1人の相続人がすべての預貯金を取得し、他の相続人に金銭を支払う方法

この場合、遺産分割協議書は次のように記載します。

記載例

1.相続人Aは、以下の遺産を取得する。

(預貯金)
(1)X銀行◯◯支店 普通預金
口座番号 ◯◯◯◯◯◯
口座名義人 ◯◯ ◯◯

(2) 銀行△△支店 普通預金
口座番号:△△△△△△
口座名義人 △△ △△

2.相続人Aは、前項の預貯金すべてを取得する代償として、Bに対し、✕✕円を支払うものとする。

 

 

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遺産分割協議書のダウンロード

遺産分割協議書を銀行等の金融機関に提出する場合には、内容を厳しくチェックされます。

そのため、自分で作成する場合には、弁護士等の専門家が提供しているひな形やテンプレートを活用するのがよいでしょう。

もっとも、遺産分割協議書の作成には専門知識が必要となるため、ひな形・テンプレートは参考程度にとどめて、詳細は相続専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

 

 

預貯金の遺産分割のよくあるQ&A

預貯金を分けて端数が出る場合はどうすればいいですか?


1円以下の端数の取り扱いについては、預貯金の相続人で自由に決めてかまいません。
特に揉める可能性がなければ、遺産分割協議書には「以下の遺産については、相続人Aが3分の2、相続人Bが3分の1の割合でそれぞれ取得する」といった内容を記載しておけば足り、あえて端数の取り扱いを記載する必要はありません。

 

遺産分割協議書には預貯金の金額(残高)を記載すべきですか?


必ずしも遺産分割協議書に預貯金の具体的な金額(残高)を記載する必要はありません。

相続財産が預貯金と現金のみであるときや、誰がいくらを相続するのかを明確にしておきたいときには、記載しておくとわかりやすいです。

しかし、銀行等で相続手続を行う際に、実際の預貯金の金額(残高)と遺産分割協議書に記載された金額に差異がある場合には、銀行等が手続を受け付けてくれない可能性があります。

そのため、複数の預貯金があるため誤記の可能性がある場合や、利息が発生して実際の預貯金の額が変動する可能性がある場合には、預貯金の金額(残高)は記載しない方がよいでしょう。

なお、預貯金の金額(残高)を記載する場合には、かならず銀行で残高証明書を取得して、相続が発生した時点(被相続人が亡くなった日)での正確な金額を記載することが大切です。

 

名義人が亡くなると預貯金を引き出せますか?


銀行等の金融機関は、名義人(被相続人)が亡くなったことを知った時点で、名義人の口座を凍結します。

名義人の口座が凍結されると、相続人は、遺産分割の完了後に、窓口で名義変更等の手続をするまで、預貯金を引き出すことができなくなります。

金融機関が、名義人(被相続人)が亡くなったことを把握しておらず、預貯金が凍結されていない場合、物理的には、預貯金を引き出すことができる状態にあります。

しかし、後に相続人間でトラブルとなる可能性があることから、一部の相続人が無断で預貯金を引き出すことは絶対に避けるべきです。

どうしても預貯金を引き出す必要がある場合には、利用目的と引き出す金額を明示して、相続人全員に書面等で承諾をもらったうえで、引き出すなどの配慮が必要です。

 

預貯金の仮払い制度


名義人(被相続人)が亡くなったときには、葬儀費用等の支払いが発生するため、相続人に資金の余裕がない場合には、預貯金の凍結によって名義人の財産から預金を引き出せなくなってしまうと、相続人が困ってしまいます。

このような場合には、「預貯金の仮払い制度」を利用することで、遺産分割協議を行う前でも、一定の金額(引き出せる金額には上限があります。)であれば、名義人(被相続人)の口座から預貯金を引き出すことができます。

ただし、この制度によって引き出した預貯金を相続人の生活費などに使ってしまった場合、その相続人は「相続放棄」をできなくなる可能性があり、名義人(被相続人)に借金があったときは、借金も引き継がなくてはいけなくなります。

また、後に相続人間でトラブルが発生することを避けるためにも、領収書を取っておくなどして、引き出した預貯金をどのような目的で何に使用したのかといった証拠を残しておくことが大切です。

預貯金の仮払い制度の利用について疑問や不安がある場合には、弁護士等の専門家に相談しましょう。

 

預貯金の相続に必要な書類は何ですか?


預貯金を相続する際には、遺産分割協議書を含む以下の書類を入手して、金融機関の窓口に提出します。

必要書類 備考・条件など 入手先
遺産分割協議書 相続人全員が実印を押していることが必要 相続人が作成
相続人全員の印鑑登録証明書 遺産分割協議書作成時点のもの 相続人の住所地の市町村役場(遺産分割協議書に添付)
法定相続情報一覧図

被相続人の死亡時の本籍地/被相続人の最後の住所地/申出人の住所地/被相続人名義の不動産の所在地を管轄する法務局
被相続人の戸籍謄本類
  • 収入が大幅に減少した
  • 再婚して扶養家族が増えた
  • 法定相続情報一覧図がある場合は不要
被相続人の本籍地の市町村役場
相続人全員の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
  • 有効期限は金融機関により異なります
  • 法定相続情報一覧図がある場合は不要
相続人の本籍地の市区町村役場
相続放棄申述受理証明書 相続放棄した人がいる場合 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
預貯金の相続人の実印・銀行取引印 相続人の住所地の市町村役場
預貯金の相続人の印鑑登録証明書 名義変更の場合のみ必要(払戻しの場合は不要) 相続人が作成(様式は各金融機関の窓口で入手可能)
各金融機関所定の申請書類 相続人が作成(様式は各金融機関の窓口で入手可能)

遺産分割協議書の必要書類について詳しくはこちらをご覧ください。

 

遺産分割協議書を自分で作成できますか?


遺産分割協議書は相続人自身が作成することも、専門家に作成を依頼することもできます。

しかし、遺産分割協議書を作成するためには、様々な書類の収集や財産の調査が必要となります。

それには多くの時間と手間がかかるだけでなく、専門的な知識が必要となることから、相続人自身で行うのはかなり難しいといえるでしょう。

遺産分割協議書に不備があると、銀行等の金融機関に提出した際にやり直しや修正を求められ、相続の手続がストップしてしまう可能性があります。

特に相続の対象となる遺産が複数ある場合には、弁護士等の専門家に作成を依頼するのがおすすめです。

 

 

まとめ

  • 亡くなった方(被相続人)の預貯金について相続の手続を行う際には、状況によって「遺産分割協議書」を作成し、金融機関に提出することが必要となります。
  • 遺産分割協議書の書き方は、相続人の間で預貯金をどのように分けるのかによって異なります。
  • 2人以上の相続人が2つ以上の預金口座を分け合う場合、相続人間の公平を実現しつつ、できるだけ負担のかからない方法で行うためには、代償分割の方法を活用するのがおすすめです。
  • 預貯金を分ける際に1円以下の端数が出る場合、その取り扱いをあえて遺産分割協議書に記載する必要はありません。
  • 銀行等の金融機関が、被相続人が亡くなったことを把握した場合、預貯金の口座は凍結され、遺産分割協議を完了するまでは、預貯金を引き出すことができなくなります。
  • 遺産分割協議書を作成するためには、さまざまな資料を集めたり、調査を行ったりする必要があり、多くの時間と労力がかかることに加え、専門的な知識が必要となります。また、銀行などの金融機関に提出する場合、内容に不備があると、作り直しや修正を求められ、相続手続がストップしてしまう可能性があります。
    そのため、遺産分割協議書の作成は、弁護士などの専門家に依頼するのがおすすめです。

当事務所では、相続案件の経験が豊富な弁護士・税理士からなる相続専門チームを結成しており、相続に関するご相談にワンストップで対応することができます。

遺産分割協議書の作成はもちろんのこと、相続をめぐるトラブルの解決から節税対策まで、幅広くご相談いただけます。

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