遺留分と遺言、どっちが優先?弁護士がわかりやすく解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

遺留分は遺言よりも優先します。

より具体的には、遺留分よりも少ない遺産しか与えない内容の遺言書がある場合、遺留分の請求をすることによって遺留分を確保することができるという意味で、遺留分が優先します。

この記事では、相続問題にくわしい弁護士が、そもそも「遺留分」や「遺言」がどのようなものであるかを説明したうえで、遺留分を侵害する(認めない)遺言書がある場合のポイントについて、わかりやすく解説します。

遺留分とは?

遺留分(いりゅうぶん)とは、一定範囲の相続人に対して法律が保障している遺産の最低限の取り分のことです。

遺留分を保障されている相続人を「遺留分権利者」といい、その範囲は次のとおりです。

  • 被相続人の配偶者(妻や夫)
  • 子ども
  • 直系尊属(両親や祖父母など、縦のラインでつながる親族のことです。)

※相続人のうち被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていません。

遺留分

遺留分を侵害された場合には、侵害の原因となっている相手に対して、不足する遺留分の金額を請求することができます。

これを「遺留分侵害額請求(権)」といいます。

遺留分侵害額請求について詳しくはこちらをご覧ください。

 

相続の遺留分は何パーセント?

遺留分権利者に保障されている遺留分の割合(パーセント)は、誰が被相続人の遺産を相続するかによって変わります

<遺留分の早見表>

遺産を相続する人 遺留分の割合
配偶者
(妻/夫)
直系尊属
(父母・祖父母)
兄弟姉妹
配偶者のみ 1/2
(50%)
子のみ 1/2

(50%)※

直系尊属のみ 1/3

(33%)※

兄弟姉妹のみ 0
配偶者と子 1/4
(25%)
1/4

(25%)※

※子どもまたは直系尊属が2人以上いるときは、表の取り分(パーセンテージ)を人数で均等割りします。

例1

被相続人の夫のみが遺産を相続する場合、夫の遺留分は1/2(50%)です。

例2

被相続人の妻と子ども(長男・長女)が遺産を相続する場合、妻の遺留分は1/4(25%)です。

また、長男・長女の遺留分は、以下の計算式よりそれぞれ1/8(12.5%)です。

1/4(50%)✕ 1/2 = 1/8(12.5%)

遺留分の割合について詳しくはこちらをご覧ください。

 

遺留分シミュレーターで簡単に計算

遺留分の具体的な金額は、被相続人の遺産の金額に遺留分の割合(上でご紹介した表のパーセンテージ)をかけあわせて計算します。

遺留分の金額 =(被相続人の遺産の金額)✕ 遺留分の割合(パーセント)

ただ、上でご紹介した早見表を見ても、一般の方がこれをもとに遺留分の金額を計算するのはややハードルが高いかもしれません。

そこで、当事務所では相続問題にくわしい弁護士が監修した遺留分のシミュレーターをご用意しております。

遺産のおおよその金額や相続人の人数等を入力するだけで簡単に遺留分の金額の目安を計算することができますので、ぜひご活用ください。

遺留分シミュレーターはこちらをご覧ください。

 

 

遺言とは?

遺言遺言(書)とは、被相続人が、遺産を誰にどのように与えるのかという意志を書き残した書面のことをいいます。

遺言書には主に次の3種類があります。

  • 自筆証書遺言:遺言者(遺言書を作る人のことです。)が全文を手書きして作る遺言書のことです。
  • 秘密証書遺言遺言書の内容を秘密にしたうえで、遺言書が存在するという事実だけを公証人と証人に証明してもらう遺言書のことです。
  • 公正証書遺言:法律の専門家である公証人が遺言者の意志に沿って作る遺言書のことで、公文書としての性質をもちます。

それぞれの遺言書には法律の要件が定められており、その要件をクリアしていない場合には遺言が無効になるリスクがあります。

 

 

遺言書があっても遺留分をもらえる?

遺留分は遺言書よりも優先するため、遺言書があっても遺留分をもらうことができます

遺留分を認めない遺言書の効力

例えば、被相続人の妻と子ども(長男・次男)が相続人となるケースで、被相続人(遺言者)が「遺産の全部を妻に相続させる」という内容の自筆証書遺言を残していたというケースで考えてみましょう。

この場合、この遺言書は長男と次男の遺留分(長男・次男にはそれぞれ1/8の遺留分があります。)を侵害しています。

このような遺留分を認めない遺言書であっても遺言書としては一応有効で、遺留分を侵害しているという理由だけで無効になることはありません。

ただし、遺留分を侵害された長男と次男は、侵害の原因となっている妻に対して、不足している遺留分の請求(遺留分侵害額請求)をすることができ、これによって遺留分を確保することができます

このように、「遺留分を認めない遺言書があっても、遺留分侵害額請求をすることで遺留分を確保することができる」という意味において、遺留分は遺言書よりも優先します。

遺言書と遺留分の関係について詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

遺言書があるときの遺留分のポイント

遺留分を侵害する遺言書があるケースで、遺留分を請求するときのポイントは次のとおりです。

遺言書があるときの遺留分のポイント

遺言書の有効性を確認する

まずは、遺言書がそもそも有効なのかを確認することが大切です。

この記事でも説明したように、遺留分を侵害する(認めない)遺言書であっても一応有効です。

ただし、遺言書については法律(民法)がさまざまな要件を定めており、要件を満たしていない遺言は無効となる場合があります。

遺言書が無効となる場合、その遺言書はなかったものとして扱われ、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。

そこで、まずは遺言書が民法の要件を満たしているか(遺言書の有効性)を確認することが大切です。

【遺言書が無効となるケース】

遺言書が無効となるケースとして、次のようなものがあります。

  • 自筆証書遺言なのに全文が手書きされていない(一部をパソコンで作成している)
  • 遺言書を作った時点で遺言者が重度の認知症だった(遺言能力がなかった)
  • 遺言書を作った日付が不明確(日付が「◯年✕月吉日」のような形で記載されている、日付がにじんで読み取れない状態になっている)
  • 遺言書に遺言者の印鑑が押されていない
  • 遺言書が一部の相続人によって書き換えられた

遺言書の無効が疑われる場合には、話し合いで解決する(遺言書にしたがわないことについて相続人同士で合意する)方法のほか、調停や訴訟を通じて遺言書の無効を確認する方法があります。

遺言書が無効となるケースについて詳しくはこちらをご覧ください。

 

遺留分の時効に注意する

ここまで説明してきたように、遺言書がある場合でも遺留分の請求(遺留分侵害額請求)をすることができます。

ただし、遺留分の請求には1年の期限(時効)があるため、注意が必要です。

遺留分の請求は、①被相続人が亡くなったことを知った日、または②侵害の原因となる贈与や遺贈があったことを知った日、のどちらか遅い日から1年を過ぎると時効が完成し、もはや請求をすることができなくなります(権利がなくなってしまいます)。

遺言書がある場合、多くのケースでは「遺言書の内容を知った日」が②の「侵害の原因となる贈与や遺贈があったことを知った日」にあたります。

1年という時間はあっという間に過ぎてしまうため、請求はできるだけすみやかに行うことが大切です。

また、後になってから遺留分の請求が時効の期限内に行われたか(遺留分が時効にかかっていないか)をめぐって争いとなる場合もあることから、内容証明郵便で請求することによって、期限内に請求をした証拠を残すことをおすすめします。

遺留分の時効について詳しくはこちらをご覧ください。

 

仮差押えを検討する

遺留分を請求する相手に十分な資産がなく、遺産を使いこまれてしまうおそれがある場合には、裁判所に「仮差押え」の申立てを検討しましょう。

「仮差押え」とは、裁判所が相手に対して、相続した遺産を売り払ったり使ったりすることを禁止する処分のことをいいます。

すでに説明したように、遺留分を侵害する遺言書も一応有効なため、遺産はいったんは遺言書にしたがって分けられることになります。

そのため、遺留分について相手と交渉や調停・訴訟などをしている間に相手が遺産を使い込んでしまう可能性があり、相手が十分な財産をもっていないときには最終的に金銭を支払ってもらえないリスク(遺留分の請求が失敗に終わるリスク)があります。

そこで、相手の資産の状況によっては、交渉や訴訟と平行して仮差押えの手続きを検討することが大切です。

 

できるだけ話し合いでの解決を試みる

遺留分に関する争いは、できるだけ話し合いで解決できるように試みるのがポイントです。

どうしても相手が遺留分を支払ってくれない場合には、最終的に裁判所で調停や訴訟を通じて遺留分の支払いを求めることとなりますが、一般的に裁判所での手続きは解決までに長い時間がかかります(半年〜数年程度)。

また、平日の日中に裁判所に行くための手間と労力もかかります。

そのため、当事者同士の話し合いでは感情的になってしまいらちがあかないという場合には、弁護士を通じた交渉をおすすめしています。

交渉の段階で弁護士費用がかかることにはなりますが、調停や裁判になってから弁護士を頼るよりも結果的に短期間で安価に解決できるというケースも少なくありません。

 

相続問題にくわしい弁護士に相談する

遺留分を侵害する遺言書がある場合には、相続問題にくわしい弁護士に相談されることを強くおすすめします。

遺留分が侵害されているのかどうかの判断や、請求できる遺留分の金額の計算、遺言の有効性の判断などを正確に行うためには専門知識が必要となることから、一般の方が自力で行うのはやはりハードルが高いといえます。

相続問題にくわしい弁護士に相談することで、正確な知識にもとづく判断ができるだけでなく、遺留分の請求に関するポイントや注意点について、的確なアドバイスをもらえることが期待できます。

法律相談の相場は30分あたり5000円〜1万円前後で、相続問題については初回の相談を無料とする弁護士も少なくありません。

そもそも遺留分をもらえる見込みがない場合には、遺留分の請求に使った時間や労力が無駄になってしまう可能性もあります。

そこで、まずは法律相談を活用して、遺留分をもらえる見込みやその金額などについて確認してみることをおすすめします。

相続を弁護士に相談すべき理由について詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

これから遺言書を作る場合のポイント

以下では、これから遺言書を作る場合に、相続人同士の遺産トラブルを防ぐためのポイントについて解説します。

遺留分に配慮した遺言書作成を検討

遺留分に配慮した遺言書(遺留分を侵害しない遺言書)を作ることができるのであれば、それに越したことはありません。

遺言書を作成する前に、それぞれの相続人の遺留分(の割合)をよく確認したうえで、遺留分を侵害しない形で遺産を分ける方法がないかを考えてみましょう。

事例 被相続人の妻と子ども(長男・長女)が相続人となる場合で、遺産の価値に大きな偏りがあるケース

遺産の内訳:2億円相当の土地・1000万円の銀行預金・200万円の絵画

この事例では、2億円相当の土地を売却して、その売却代金(金銭)を相続させるという方法が考えられます。

また、このケースで一部の相続人(例えば長男)に現預金の余裕がある場合には、長男に土地を相続させたうえで、長男から他の相続人に対して一定の金銭を支払ってもらうという方法も考えられます(このような遺産の分配方法を「代償分割」といいます)。

自筆証書遺言の書き方について詳しくはこちらをご覧ください。

 

遺留分の行使を思いとどまらせる遺言書を作成

以下のような事情がある場合には、どうしても遺留分を侵害せざるを得ないということもあることでしょう。

  • めぼしい財産は持ち家だけだが、残された妻(同居中)のために持ち家を相続させたい
  • めぼしい財産は先祖代々の土地だけだが、どうしても長男に土地を相続させたい
  • 一部の相続人だけが手厚く面倒を見てくれたため、その恩に報いたい(他の相続人の遺留分を侵害してでも多めに財産を渡したい)

このような場合には、遺言書の中に具体的な事情・理由とともに「遺留分を行使しないでほしい」という希望を書き残すことで、遺留分の行使を思いとどまらせるという方法が考えられます。

このような記載をすることで、遺留分権利者が遺言者の思いや事情を汲み取り、遺留分の行使を思いとどまってくれる場合もあります。

ただし、このような記載は「付言事項(ふげんじこう)」といって、法的な効力を持たない記載にすぎません。

遺留分権利者が遺言書を無視して遺留分を請求する場合には、これを止めることはできません。

 

遺言書の無効に注意

すでに説明したように、法律(民法)は遺言書の種類に応じた要件を定めており、要件を満たしていない遺言書は無効になる場合があります。

せっかく苦労して作った遺言書も、無効の場合にはなかったものとして扱われてしまいます。

そのため、遺言書を作成する場合には、遺言書の種類ごとに定められている法律の要件を事前によく確認することが大切です。

特に、自筆証書遺言や秘密証書遺言は誰の目にも触れさせずに遺言書の本文を作ることができるため、遺言書に不備があってもそのまま気づかずに無効となるリスクが高いといえます。

遺言書の無効を避けるためには、遺言書の下書きを弁護士に依頼する、自分で作った遺言書の確認を弁護士に依頼する、などの対策を検討してみましょう。

自筆証書遺言の要件について詳しくはこちらをご覧ください。

 

相続問題にくわしい弁護士に相談する

遺言書の作成については相続問題にくわしい弁護士に相談されることを強くおすすめします。

ここまで説明してきたように、遺言書には無効になるリスクや、遺留分をめぐるトラブルを引き起こすリスクがあり、これらのリスクを回避するためには法律の専門知識が必要となります。

相続問題にくわしい弁護士に相談することで、法律の要件を満たす遺言書を作成することができます(遺言書の無効リスクを回避することができます)。

また、具体的な状況に応じて、遺留分のトラブルを避けるためにどのような遺言書を作るべきかについての適切なアドバイスをもらえることが期待できます。

一度相続トラブルが発生してしまうと、その解決には多くの労力と時間が必要となることから、遺言書を作成する前に弁護士に相談するのがおすすめです。

なお、弁護士にはそれぞれの専門分野があり、相続の分野は高度の専門知識と経験が必要となる分野であることから、弁護士の中でも相続問題にくわしい弁護士に相談することが大切です。

相続を弁護士に相談すべき理由はこちらをご覧ください。

 

 

まとめ

  • 遺留分は遺言書よりも優先します。
    遺留分を侵害する内容の遺言書も一応有効ですが、遺留分権利者は、不足する遺留分の金額の支払いを請求することができ、これによって遺留分を確保することができます。
  • 遺留分を侵害する遺言書がある場合には、相続問題にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。
    相続人同士の争いは感情的になってしまい長期化するケースが少なくなく、また、遺留分の請求については相続法に関する専門的な知識が必要となるためです。

当事務所では、相続問題にくわしい弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しており、相続問題に関するご相談を承っています。

遺留分の請求や遺言書の請求をはじめ、遺産分割協議の進行や遺産分割協議書の作成、相続登記や相続税の申告・節税対策など幅広いご相談に対応することができますので、ぜひお気軽にご相談ください。

 


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