示談金の相場とは?ケース別に刑事弁護士が解説
示談金は、トラブルの解決金として加害者から被害者に支払われる金銭であり、その相場は事件の性質や状況によって千差万別です。
そのため、示談金の相場を考えるときは、どのような事案であるのか、問題となっているトラブルのカテゴリーごとに分けて考えることが有益です。
一般的な示談金の相場を知っておくことは、被害者側と加害者側の双方にとって非常に重要です。
示談金が適切な金額であれば、被害者側が納得して示談に応じる可能性が高まります。
それにより、加害者側も刑事処分の軽減を期待できます。
逆に、示談金の相場を知らないまま交渉を始めると、被害者側の期待と大きくかけ離れた金額を提示してしまい、示談交渉が決裂してしまうリスクもあります。
この記事では、示談金の基本的な考え方から、さまざまな刑事事件における示談金の相場、示談を成立させるためのポイントまで、弁護士が詳しく解説します。
目次
示談金の相場とは?
示談金の相場は、事件の種類や被害の程度によって大きく異なります。
たとえば、例として交通事故の事案を考えてみましょう。
被害者がかすり傷だけの場合と、重傷を負ったケースとでは、示談金の相場が大きく異なることは、ご想像いただけるのではないでしょうか。
示談は、裁判官のような第三者が一刀両断で判断するものではなく、当事者同士の交渉によって柔軟な解決を目指すものです。
その金額についても、法律で基準が設けられているわけではなく、当事者間の交渉によって決まります。
そのため、「相場」という言葉を使いますが、実際の金額は事件の個別具体的な事情によって大きく変動します。
また、加害者の経済状況や反省の度合い、被害者側の意向なども、示談金の金額に影響を与える要素となります。
このように、示談金の相場は一概に「いくら」と断言できるものではありません。
もっとも、過去の類似事例を参考にすることで、おおよその目安を知ることはできます。
示談金とは
トラブルの当事者同士が話し合って紛争を解決することを、「示談」といいます。
示談金とは、示談の際に加害者が被害者に対して支払う金銭のことで、被害者が被った損害を賠償し、和解するために支払われるものです。
刑事事件においては、示談金の支払いにより被害者との和解が成立することで、加害者は起訴猶予や執行猶予、減刑などの刑事処分の軽減を期待することができます。
示談金の性質は、民事上の損害賠償とおおむね同じものです。
「和解金」や「解決金」といった言葉が使われることもありますが、基本的には示談金と同様の趣旨です。
示談金は、被害者が事件によって被った治療費や物損のような財産上の損害と、精神的苦痛に対する慰謝料から構成されます。
ただし、刑事事件の示談においては、被害者の処罰感情を和らげ、許しを得るという意味合いも含まれるのが通常です。
そのため、民事裁判で認められる損害賠償額よりも、高めの金額に設定されることもあります。
示談金が支払われることは、一般的には被害者と加害者の間の紛争が解決していることを意味します。
示談の成立によって、被害者が刑事告訴を取り下げたり、被害者が検察や裁判所に対して「処罰を望まない」という意思を表示したりすることがあります。
示談についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
示談金の決め方
示談金の決め方には、明確な法的基準はありません。
示談は、当事者同士が交渉し、合意することによって成立します。
このため、当事者が納得して合意できるのであれば、示談金の額はいくらでもよいということになります。
逆に、当事者のどちらかに示談をする意思がまったくない場合には、いくらの金額であっても示談は成立しません。
このように、究極的には、示談金の額は個々の事案しだいでどのようにでもなり得るといえます。
とはいえ、実際には、一定の合理的な水準の金額で示談が成立する事案が多いです。
加害者と被害者の双方にとって、無茶な金額にこだわって示談が不成立に終わるよりも、ある程度合理的な金額での示談を受け入れた方が望ましいためです。
示談金の計算方法について、理論的には、以下のような要素を合計して算出することができます。
まず、財産的損害として、治療費や、休業損害、物損、将来の逸失利益など、被害者が実際に被った金銭的損失が示談金に含まれます。
このような財産上の損害は、比較的客観的な算定になじみやすいものといえます。
次に、精神的苦痛に対する慰謝料を加算します。
これは、事件による心理的影響や、被害の性質、日常生活への支障の程度などを考慮して算定されます。
さらに、その他の迷惑料として、事件解決までの時間的・精神的負担に対する補償を考慮することもあります。
特に、刑事事件で早期の示談成立を目指す場合などには、被害者の納得を得るために、相場にこだわらずに上乗せした額を提示することもあります。
もっとも、実務上は、このような厳密な積算を行わずに、弁護士の経験に基づく相場観によって示談金の金額を提案することも珍しくありません。
これは、個々の損害項目を細かく計算するよりも、事件の全体像を踏まえた総合的な判断の方が、より適切な示談金の金額を導き出せることも多いためです。
弁護士は、過去の類似事件の経験や裁判例などを参考にしながら、事件の性質や被害の程度、加害者の支払能力などを総合的に考慮して、適切な示談金の金額を提案します。
示談金は誰が決める?
示談金の金額は、最終的には被害者と加害者の合意によって決まります。
たとえば、裁判において裁判官が判決を決めるといったように、第三者が示談金の金額を決めるものではありません。
そのため、被害額の小さな小規模のトラブルである場合や、当事者双方が顔見知りである場合など、自分たちだけで示談金を決めるケースもあります。
もっとも、多くの事件では、弁護士が交渉役として間に入り、示談金の額を含めて調整します。
弁護士は日頃から多くの交渉事件を手掛けていることから、事案の性質に応じた合理的な金額を提案することができます。
ただし、弁護士はあくまで依頼人の利益を守る存在であり、中立の立場で示談成立を仲介するわけではありません。
最終的な決定権は当事者にあるため、納得できない金額であれば、示談に応じる必要はありません。
示談金の限度額とは?
示談金は、当事者の自由な合意によって決められるものです。
示談金には、特に法律で定められた限度額はなく、原則として当事者間の合意によって自由に決めることができます。
しかし、実際には、被害の程度や事件の性質、加害者の支払能力などによって、おのずと限度が生じることになります。
民法上の損害賠償の観点からは、被害者が実際に被った損害や、これと合理的に関連している損害について賠償責任が生じるのが原則です。
この原則に照らせば、実損害を大きく超える金額となると、理論的には正当化しにくいとも考えられます。
ただし、刑事事件の示談においては、謝罪の意思を示して被害者の処罰感情を和らげるという目的もあります。
このため、純粋な民事上の損害賠償額を超える金額が設定されたとしても、一定の範囲では合理的であるといえます。
また、加害者の支払能力も現実的な限度額となります。
いくら高額な示談金が妥当であるとしても、加害者に支払能力がなければ、その額で示談することは困難です。
実務上は、加害者の資産状況や収入、借入可能性なども考慮して、現実的な金額が設定されることになります。
ほかにも、裁判所が認めるであろう損害賠償額も、示談金を考える上でのひとつの指標になります。
類似の事案で裁判所が認めた賠償額を大きく超える示談金は、相場から外れていると判断される可能性があります。
ケース別の示談金の相場
示談金の相場は、事件の類型や具体的な状況によって大きく異なります。
同じような事件でも、被害の程度や加害者の態度、被害者の状況などによって、適切な示談金額は変わってきます。
そのため、示談金の相場を考える際には、事件の類型ごとに典型的なケースを想定して検討することが重要です。
以下では、よく見られるケース別に、一般的な示談金の相場について解説します。
なお、ここで紹介する金額はあくまで一般的な目安です。
実際の示談交渉では、個別の事情を考慮して柔軟に対応する必要があります。
また、示談金の金額は、被害者と加害者の合意によって決まるものであり、必ずしも相場に従う必要はありません。
セクハラの示談金の相場
セクハラ事件の示談金相場は、行為の内容や継続した期間、被害者への影響度などによって、10万円から数百万円と幅広くなります。
セクハラは、その態様が、言葉によるものから身体接触を伴うものまでさまざまです。
示談金の金額も、どのような行為が行われたのかに応じて、幅が広くなります。
言葉によるセクハラの場合、数万円から50万円程度が相場となることが多いです。
不快な性的言動が行われた場合がこれに当たり、身体接触がない事案では、示談金は比較的低額になる傾向があります。
一方、身体接触を伴うセクハラの場合、50万円から100万円程度が相場となることが多いです。
実際に身体への接触を伴う場合、被害者の不快感や精神的苦痛も大きくなるため、示談金も高額になります。
また、職場での権力関係を利用したセクハラや、被害者が退職や転職を余儀なくされたケースなどでは、休業損害や逸失利益も考慮され得るため、示談金が高額化することがあります。
特に、悪質なケースや継続的なセクハラの場合、100万円を超える示談金となることもあります。
強制わいせつの示談金の相場についての解説は、以下のページをご覧ください。
不同意性交罪・レイプの示談金の相場
不同意性交罪やレイプ事件の示談金相場は、被害の重大性を反映して、100万円から300万円程度が一般的な相場となります。
不同意性交罪は、性犯罪の中でも特に重大な犯罪です。
被害者の精神的苦痛も非常に大きいものであるため、示談金も高額になる傾向があります。
具体的な示談金額は、被害の状況や、加害者の意向などによって大きく異なります。
被害者が未成年者の場合や、暴行・脅迫の程度が強い場合、被害者が重篤な精神的ダメージを受けた場合などは、500万円を超える高額な示談金となることもあります。
不同意性交は、被害者に極めて大きな被害をもたらすものであり、加害者として最大限の償いが必要となります。
不同意性交と不同意わいせつの違いについては、以下のページをご覧ください。
不同意わいせつの示談金の相場
不同意わいせつ事件の示談金相場は、行為の内容や被害者への影響によって50万円から100万円程度が一般的です。
不同意わいせつ罪は、被害者の意思に反して性的な行為を行う犯罪です。
その態様は、軽微なものから重大なものまで幅広く存在します。
キスや胸を触るなどの一般的な行為の場合、50万円から100万円程度が相場となることが多いです。
しかし、よりわいせつの程度が強い場合や、暴行や脅迫を伴う場合などの悪質な事案では、100万円を超える示談金となることもあります。
強制わいせつの示談金の相場についての詳細は、以下のページをご覧ください。
盗撮の示談金の相場
盗撮事件の示談金相場は、おおむね10万円から50万円程度が一般的です。
盗撮は、不同意わいせつのように直接的にわいせつ行為をはたらくわけではありません。
しかし、被害者のプライバシーを侵害する卑劣な行為として、近年では厳しい目が向けられています。
盗撮は、犯罪としては、不同意わいせつに比べて軽微な罪という見方もできますが、被害者の受ける精神的なショックは相当に大きいものです。
このため、一般的な盗撮事件では、30万円から50万円程度の示談金が相場となることが多いです。
盗撮の慰謝料についての詳細は、以下のページをご覧ください。
名誉毀損の示談金の相場
名誉毀損事件の示談金相場は、発言内容の悪質性や拡散範囲など被害者への影響によって、10万円から100万円程度が一般的です。
名誉毀損は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する行為です。
その態様は、出版物によるものからインターネット上での書き込みまでさまざまで、示談金の金額もケースによって大きく異なります。
一般的な名誉毀損事件では、10万円から50万円程度の示談金が相場となることが多いです。
限られた範囲での名誉毀損で、社会的な影響が小さい場合は、この範囲内で示談が成立することが多いです。
しかし、インターネット上での名誉毀損や、マスメディアを通じた名誉毀損など、広範囲に情報が拡散したケースでは、被害者の名誉に与える影響も大きくなります。
被害者への影響が重大な事案では、数百万円の示談金が求められることもあります。
暴行罪の示談金の相場
暴行罪の示談金相場は、暴行の程度や被害者への影響によって10万円から30万円程度が一般的です。
暴行罪は、人の身体に対して物理的な力を行使する犯罪で、被害者に怪我がない場合に成立します。
そのため、示談金の金額も比較的低額になる傾向があります。
単発的な暴行で、被害者に目立った怪我がない場合、10万円から30万円程度の示談金が相場となることが多いです。
たとえば、掴み合いや軽い殴打などの場合がこれに該当します。
一方、複数回の暴行や、被害者に一時的な痛みなどの傷害に至らない症状が生じた場合は、30万円から50万円程度の示談金となることもあります。
なお、被害者が怪我を負った場合には、暴行ではなく傷害としての示談金を支払うことになります。
暴行罪の慰謝料について、詳しい解説は以下のページをご覧ください。
傷害事件の示談金の相場
傷害事件の示談金相場は、怪我の程度や治療期間によって、10万円から150万円程度が一般的です。
傷害罪は、暴行によって人の身体に傷害を負わせる犯罪で、その刑事責任も暴行罪より重くなります。
そのため、示談金の金額も暴行罪よりも高額になる傾向があります。
ただし、一口に傷害といっても、その程度はさまざまであるため、示談金の金額には大きな幅があります。
たとえば、ちょっとした怪我にとどまるなど、暴行の延長といった事案であれば、10万円から30万円程度の示談金が相場となることが多いです。
他方で、被害者が重篤な怪我を負った場合、50万円から150万円程度の示談金が相場となることもあります。
特に、傷害によって長期間仕事ができなくなった場合や、後遺症によって将来の収入に影響が出る場合は、これらの損害も考慮した示談金となります。
このため、事案によっては、数百万円以上の示談金が必要となるケースもないとはいえません。
傷害事件の示談について、詳しくは以下のページをご覧ください。
風俗トラブルの示談金の相場
風俗トラブルの示談金は、トラブルの内容や被害の程度によって異なりますが、30万円から50万円程度になることが多いです。
風俗トラブルには、サービス内容をめぐるトラブルや、暴行・傷害事件など、さまざまなケースがあります。
比較的よくある風俗トラブルとしては、盗撮やサービス内容に含まれない行為の強要などがあります。
盗撮については、一般的な盗撮事件と同様に、10万円から50万円程度の示談金が相場となることが多いです。
サービス内容に含まれない行為の強要については、30万円から50万円程度がおおまかな相場です。
ただし、そのような行為は、ケースによっては、不同意性交にも当たり得ます。
そのため、事案によっては、数百万円の示談金が必要となることもあり得ます。
風俗トラブルについて、詳しい解説は以下のページをご覧ください。
著作権侵害の示談金の相場
著作権侵害の示談金相場は、侵害の規模や商業的利用の有無などによって数十万円から数百万円程度が一般的です。
著作権侵害は、他人の著作物を許可なく複製・配布する行為で、その態様は個人的な使用から商業的な使用までさまざまです。
個人による小規模な著作権侵害で、被害の規模が大きくない場合は、数十万円程度の示談金が相場となることが多いです。
他方で、販売のような商業目的での著作権侵害の場合、100万円から数百万円の示談金が相場となることが多いです。
侵害行為によって大きな利益を得ていた場合や、著作権者に具体的な損害が生じていた場合は、その損害額を考慮した高額な示談金となることがあります。
特に、権利侵害の対象となった著作物が、人気の漫画や映画といった価値の高いコンテンツである場合、数千万円以上の賠償責任が生じることもあります。
著作権侵害の示談金は、事案によって大きな幅があり、時に非常に高額となり得る点に注意する必要があります。
知的財産権の侵害についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
労災の示談金の相場
労災事故の示談金相場は、怪我の程度や後遺障害の等級によって、数十万円から数千万円程度と幅が広くなります。
労災事故とは、業務中や通勤中に発生した事故によって、労働者が負傷するものです。
事案によっては、労災保険による補償と別に、会社の安全配慮義務違反による損害賠償請求が可能な場合があります。
労災の示談金は、治療費のような損害や、精神的苦痛に対する慰謝料、休業損害など多岐にわたる損害項目が考慮されます。
全治数週間程度の軽度の怪我の場合、数十万円程度の示談金が相場となることが多いです。
一時的な怪我で完治し、後遺障害が残らない場合は、比較的低額の示談金で示談が成立することもあります。
一方、重度の後遺障害が残ったような場合や、死亡事故の場合、1千万円を超えるような示談金となることもあります。
特に、重度の後遺障害が残る場合は、将来の収入減少や介護費用などを考慮した高額な示談金となることが考えられます。
労災の慰謝料についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
食中毒の示談金の相場
食中毒事件の示談金相場は、症状の重さにもよりますが、数万円から50万円程度が一般的な相場です。
食中毒は、飲食店などが提供した食品によって、消費者の健康被害が発生するものです。
食中毒は、時に死亡などの重大な結果を招くこともありますが、一般的には一時的な症状にとどまり、短期間で完治することが多いです。
このため、通常の食中毒であれば、50万円に満たない程度の示談金が相場となることが多いです。
交通事故の示談金の相場
交通事故の示談金相場は、怪我の程度や過失割合によって、数十万円から数千万円と幅広く設定されます。
交通事故は、その被害の程度が軽微なものから重篤なものまでさまざまであり、示談金の金額もケースによって大きく異なります。
人的被害のない物損事故の場合、修理費用や代車費用など実損害の弁償が中心となり、慰謝料が発生しないことも多いです。
全治数週間程度の軽傷の事故の場合、数十万円程度の示談金が目安となります。
重篤な後遺障害が残る場合や、死亡事故など重大な事故の場合は、数百万円や、事案によっては数千万円の示談金となることもあります。
交通事故の示談金は、過失割合によって減額されることに注意が必要です。
たとえば、被害者側に20パーセントの過失がある場合、本来の損害額の80パーセントが示談金の基準となります。
交通事故の示談金についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
その他の事件の示談金の相場
以上のように、示談金が発生する主なトラブルを紹介しましたが、他にもさまざまな事件で示談金が発生します。
その他の事件においても、示談金の相場は、事件の性質や被害の程度によって大きく異なります。
示談金の基本的な考え方は共通しており、経済的な実損額に加えて、精神的な苦痛に対する慰謝料や迷惑料などを考慮して、妥当な金額を模索することになります。
たとえば、窃盗や万引きであれば、被害額に加えて数万円から数十万円程度の示談金が相場となることが多いです。
痴漢などの迷惑防止条例違反の場合、10万円から50万円程度の示談金が相場となることが多いです。
示談金の額は、行為の悪質性や被害者への影響の大きさなど、トラブルの実態によって変動します。
刑事事件で示談をすべき4つの理由
刑事事件において示談を成立させることには、加害者側にとって以下の4つの重要なメリットがあります。
不起訴処分となる可能性が高まる
刑事事件で示談が成立すると、不起訴処分となる可能性が高まることが期待できます。
検察官は、容疑者を起訴するかどうかを決める際に、被害者との示談の成否を重要な考慮要素としています。
示談が成立していれば、被害者の処罰感情が和らいでいることや、被害の回復が図られていることを評価して、不起訴処分となる可能性が高まります。
示談が成立しているからといって、必ずしも常に不起訴となるわけではありません。
起訴・不起訴は総合的な判断となるため、その他の事情を考慮した結果、示談が成立していてもなお起訴されるケースもあります。
ただし、示談の成立によって、不起訴処分となる可能性が高まると期待できることは確かです。
特に、初犯で軽微な事件であれば、示談の成立によって不起訴となるケースも少なくありません。
不起訴処分についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
執行猶予が付く可能性が高まる
次に、仮に起訴されたとしても、示談が成立していれば執行猶予が付く可能性が高まります。
裁判官は、刑の執行を猶予するかどうかを判断する際に、被害者との示談の成否を考慮します。
示談によって事後的に被害の回復が図られていれば、加害者としてすでに一定の責任を果たしているといえます。
このため、示談が成立していれば、ひとまず社会内での更生を図ることが妥当として、執行猶予が付く可能性が高まるのです。
不起訴の場合と同じく、示談が成立していれば必ず執行猶予が付くとまではいえません。
しかし、示談が成立していることにより、執行猶予が付く可能性が高まることは期待できます。
執行猶予についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
刑が軽くなる可能性がある
不起訴にならず、かつ執行猶予が付かなかったとしても、示談が成立していれば、刑が軽くなる可能性があります。
示談が成立していることは、反省を示す情状として有利に考慮されるのが通常です。
処分は総合的な判断となるため、示談が成立していてもなお起訴され実刑判決となるケースもあります。
ただしその場合でも、示談が成立していることは、刑の軽減につながる情状として、有利に考慮されることが多いです。
実刑判決の場合であっても、量刑を決める際に示談の成立が考慮され、刑期が短くなることが期待できます。
このように、起訴や判決のような各種の段階において、被害者との示談は重要な意味を持つのです。
民事責任を果たせる
示談を成立させることは、民事上の損害賠償責任を果たすことにもなります。
刑事事件の多くは、民事上の損害賠償責任も発生させます。
犯罪として刑罰を科されるのとは別の次元で、被害者に与えた損害を賠償する義務が発生します。
示談金は、一般的には民事上の損害賠償の趣旨を含みます。
このため、示談金を支払って示談を成立させることは、民事上の損害賠償責任を果たすことをも意味します。
民事上の賠償金は、被害者から請求されれば、いずれにしても支払わなければならないものです。
そうであれば、示談を成立させることで、早い段階で責任を果たすのが望ましいといえるでしょう。
民事上の損害賠償責任についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
刑事事件の示談の仕方
刑事事件の示談の流れ
刑事事件の示談は、一般的に以下のような流れで進められます。
なお、これらは全て専門的な手続きになりますので、基本的には全ての段階を通じて弁護士に一任することをおすすめします。
① 被害者との連絡
示談を進めるには、まず被害者と連絡を取る必要があります。
一般的には、加害者が直接被害者に連絡することは避け、弁護士を通じて連絡します。
当事者同士の直接的な接触を避けることで、感情的な対立を防ぎ、スムーズに話を進めることができます。
被害者の連絡先がわからない場合、警察や検察を通じて確認できる場合もあります。
②示談交渉
被害者側と連絡が取れたら、具体的な示談の条件を話し合います。
この交渉では、謝罪の方法や補償金額、支払い方法などを決めます。
被害者の気持ちや事件の影響を考慮しながら、双方が納得できる内容を目指します。
示談金の金額など、許容できる条件について、弁護士と入念に打ち合わせておくことが重要です。
③示談書の作成
交渉で合意に達したら、示談の内容を書面にまとめます。
これが「示談書」です。
示談書には、補償金額や支払い期限、被害者が刑事手続きでの処罰を望まない旨などが記載されます。
通常は弁護士が文面を作成し、双方が署名して完成します。
④示談金の支払い
示談書に基づき、合意した金額を被害者に支払います。
支払いが遅れると、反省の態度が疑われることにもなりかねないため、期限内に確実に支払うことが求められます。
支払いが完了すると、示談の手続きはほぼ終了となります。
⑤捜査機関への報告
示談が成立したことを、警察や検察などの捜査機関に報告します。
示談が成立すると、被害者が処罰を望まない意向を示しているため、不起訴処分や執行猶予などの可能性が高まります。
弁護士を通じて、示談書を検察庁などに提出することが一般的です。
示談に必要な書類
刑事事件の示談では、示談書が最も重要な書類となります。
示談書は、当事者間の合意内容を記載した法的文書です。
示談も契約の一種であるため、示談書は、示談契約の契約書ということができます。
示談書には、当事者の氏名・住所、事件の概要、示談金額、支払い方法、示談条件などを明記します。
示談書のほかに、必須ではありませんが、示談成立のために謝罪文を作成することもあります。
謝罪文は、直接謝罪できない場合などに作成する書類です。
謝罪文には、事件についての反省の気持ちや、二度と同じ過ちを繰り返さない旨の誓約を記載します。
他にも、被害者が加害者の処分軽減を求める旨の嘆願書を作成することもあります。
ただし、示談書にその意思が明記されている場合、あえて別途嘆願書を用意することは通常は不要です。
示談書の雛形ダウンロード
刑事事件の示談書は、法的効力を持つ重要な文書であるため、適切な形式で作成することが重要です。
示談書を作成する際には、雛形(テンプレート)を利用することが効果的です。
雛形を利用することで、必要な条項が漏れ落ちるリスクを軽減することができます。
ただし、事件の内容はさまざまであり、雛形をそのまま使用することが適切でないケースもあります。
雛形はあくまでも参考として利用するものであり、示談書の作成は弁護士に依頼することをお勧めします。
示談書の雛形については、以下のページをご覧ください。
示談に必要な期間
刑事事件の示談に必要な期間は、事件の複雑さや被害者の意向などによって大きく異なります。
一般的には、交渉から成立までに数週間から数か月程度かかることが多いです。
単純な事件で、被害者が示談に応じる意思がある場合、1~2週間程度で示談が成立することもあります。
たとえば、被害が軽微な窃盗や器物損壊などのケースでは、比較的短期間で示談交渉がまとまることがあります。
一方、複雑な事件や、被害者への影響が深刻な場合は、示談成立までに数か月以上かかることもあります。
特に、性犯罪などの暴力事件の場合は、被害者の回復を待つ必要があり、示談交渉の開始自体が遅れることもあります。
時間がかかることを見越して、示談の交渉は早めに着手することが重要です。
できるだけ早く弁護士に相談し、早々に示談交渉を開始することをお勧めします。
刑事事件で示談をする4つのポイント
刑事事件で効果的な示談を行うためには、以下の4つのポイントを押さえることが重要です。
明確な謝罪の意思を示す
示談交渉において、加害者の誠実な謝罪の態度は、非常に重要な要素です。
被害者は多くの場合、単に金銭的な賠償だけでなく、加害者の心からの謝罪と反省の態度を求めています。
謝罪の際は、事件についての認識を明確にし、自分の行為が相手にどのような被害や苦痛を与えたかを理解していることを示すことが重要です。
単に表面的な謝罪の言葉を並べただけでは、気持ちは十分に伝わりません。
謝罪の意思が伝わらないと、示談を受け入れてもらえないこともあります。
「申し訳ありませんでした」という言葉だけでなく、具体的に何が悪かったのかを自分の言葉で表現することが大切です。
示談を成立させるためには、被害者の感情に配慮しながら、真摯に反省の意を示すことが重要といえます。
被害者への謝罪についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
一刻も早く示談を成立させる
刑事事件の示談では、タイミングが非常に重要です。
早期に示談を成立させることで、捜査段階で不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
もちろん、時期的に遅れてしまったとしても、示談の成立が無意味になるわけではありません。
しかし、もし示談成立が起訴より後になってしまった場合、その時点で不起訴の可能性はなくなってしまいます。
示談交渉には、予想以上に時間がかかることもあります。
示談の効果を最大限に高めるためにも、できるだけ早く示談交渉を開始することが重要です。
適切な示談書を作成する
示談書は、示談の内容を記載した法的文書であり、その後の刑事手続きに大きな影響を与えます。
示談書は、その内容が適切であることが求められます。
特に重要なのは、「被害者は加害者を許す」という被害者の意思を明確に示す条項です。
被害者の許しの意思が示談書に明記されていないと、検察官や裁判官が示談の効果を十分に評価できない可能性があります。
示談書に不備があると、示談が成立したつもりでも、実は紛争の火種が残っているということにもなりかねません。
示談書の作成にあたっては、弁護士に相談するなどして、専門的な観点を入れることが望ましいです。
示談書の作成については、以下のページをご覧ください。
刑事事件に強い弁護士に依頼する
刑事事件の示談には、法的知識と経験が不可欠です。
示談交渉をする際は、刑事事件に強い弁護士に依頼することが重要です。
刑事事件に強い弁護士は、法律の専門家として、示談成立に向けた丁寧な交渉が可能です。
また、刑事事件に強い弁護士は、示談書の作成やその後の弁護活動など、専門的な手続きを適切に行うことができます。
これにより、示談の効果を最大限に引き出すことが可能になります。
示談交渉は早期に開始することが重要であるため、逮捕や送検などの早い段階で、できるだけ速やかに弁護士に相談することをお勧めします。
示談交渉における弁護士選びの重要性については、以下のページをご覧ください。
刑事事件の示談の弁護士費用
刑事事件の示談を弁護士に依頼する場合、依頼の内容や事件の複雑さなどによって、事務所ごとに費用は異なります。
弁護士費用は、一般的には、着手金と成功報酬から構成されることが多いです。
まず、着手金として、事件の依頼時に20万円から50万円程度が必要となることが一般的です。
着手金は、弁護士に事件を依頼する際に最初に支払う費用で、事件の内容や難易度によって金額が変わります。
次に、成功報酬として、示談が成立した場合や不起訴処分を獲得した場合など、一定の成果が得られた際に費用が発生します。
成功報酬は、得られた成果の内容にもよりますが、不起訴などであれば、着手金と同程度に設定している事務所が多いようです。
また、実費として、交通費や通信費、書類の作成費用などが別途かかることがあります。
たとえば、示談書の作成や、各種証明書の取得費用、被害者とのやり取りに必要な郵送費などが実費として請求されます。
弁護士費用は事前に確認し、契約書を取り交わしておくことが重要です。
費用の支払い方法や、追加費用が発生する条件なども、あらかじめ確認しておきましょう。
刑事事件の弁護士費用について、詳しくは以下のページをご覧ください。
示談金の相場のよくあるQ&A
精神的苦痛の示談金の相場は?

一般的に、軽微な事件では数万円から数十万円程度が目安になります。
他方で、被害が深刻な事案では、100万円を超えることもあります。
精神的苦痛の評価は難しいため、過去の類似事例などを参考にしながら、個別の事情に応じた金額を設定することが重要です。
刑事事件の慰謝料については、以下のページをご覧ください。
まとめ
この記事では、示談金の相場について、示談金の基本的な考え方や、さまざまな刑事事件における示談金の相場、示談を成立させるためのポイントなどを解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 示談金の相場は事件の種類や被害の程度によって大きく異なり、一般的には数万円から数百万円の範囲となる。
- 示談金額は、被害の実損害額のほか、精神的苦痛に対する慰謝料や、被害者に納得を得られるかなどを考慮して両者の合意によって決定される。
- 刑事事件で示談をすると、不起訴処分や執行猶予の可能性が高まることや、刑が軽くなる可能性が高まることが期待できる。
- 刑事事件の示談を成功させるためには、一刻も早く示談を成立させること、適切な示談書を作成すること、刑事事件に強い弁護士に依頼することなどが重要である。
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なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか