知的財産権侵害について

知的財産法とは何か

情報は、有体物とは異なり、複数の者が同時に利用することが可能です。

このような情報の性質から、情報の公開後は、模倣を容易かつ大量に行うことが可能であり、情報創作者がこれを排除することは困難です。

この状態を放置しておくと、情報創作のインセンティヴが減退してしまい、社会全体の損失につながってしまいます。

そのため、他者による無断での利用行為を禁止することによって、創作インセンティヴを保障し、社会全体の厚生を増大させる必要があります。

考える女性しかし、既存の情報の利用を許容することによって新たな情報創作が促進される側面もあり、情報保護を過度に強化すると、かえって社会厚生を失わせることになりかねません。

保護するべき情報とそうでない情報を峻別し、その線引きを社会に告知することによって、情報利用の萎縮を防止することも求められます。

このように、知的財産法は、特定の情報の排他的保護を定めるのみではなく、権利の及ばない情報の自由な利用をも積極的に保障している法律なのです。

 

 

知的財産法の分類

知的財産法としては、主に、以下のような法律があります。

①工業所有権法

特許法:発明(技術的なアイデア・思想)を保護

実用新案法:考案(発明よりも技術レベルが低いもの)を保護

意匠法:製品のデザインを保護

商標法:商品やサービスに付される標識・マーク、営業上の信用を保護

 

②著作権法

人間の精神的創作活動のうち、文化的所産を保護

 

 

特許法等の罰則について

特許権、実用新案権、意匠権、商標権(併せて工業所有権)は、いずれも特許庁への出願に基づいて付与される権利です。

以下では、工業所有権の代表的なものとして、特許権の刑罰規定を紹介します。他の権利についても同様の刑罰規定が存在します。

特許権侵害罪(特許法第196条、196条の2)

「特許権又は専用実施権を侵害した者は、10年以下の懲役、若しくは 1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(特許法第196条)

六法全書特許権または専用実施権を侵害した者とは、正当な権限なく、業として、特許発明の技術的範囲に属するものを実施した者のことをいいます。

特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲(クレーム)の記載に基づいて定まります(特許法第70条1項)。

出願人が特許を受けようとする発明を特定するために記載し、公開されるものなので、これが出発点とされています。

実施とは、特許法第2条3項各号に定められた行為のことであり、特許発明ごとに何が実施に当たるかは異なります。

特許法第2条3項を見てみます。

特許法第2条3項

この法律で発明について『実施』とは、次に掲げる行為をいう。

  1. 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
  2. 方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為
  3. 物を生産する方法の発明にあっては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

弁護士牟田口裕史イラストまた、特許発明を自ら実施しなくても、一定の行為は「間接侵害」として、特許権侵害となります。

他人の侵害行為の幇助・予備にあたる行為のうち、特許権発明の実施に密接に関与すると評価できる行為を行った者には、特許権侵害の責任を負わせても許容されると考えられています(特許法第101条各号)。

間接侵害についても、特許法は罰則規定を設けています。

特許法第196条の2です。

特許法第196条の2

第101条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行った者は、5年以下の懲役若しくは 500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

特許法第101条は以下のとおりです。

特許法第101条

次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。

  1. 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
  2. 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
  3. 特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
  4. 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
  5. 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
  6. 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為

また、法人の代表者または法人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人の業務に関して、特許権侵害等の一定の違反行為をした場合には、行為者を罰するほか、事業主体であるその法人に対しても罰金刑が科されます(特許法201条1項)。

これは、犯罪行為の防止を強化することを目的とした規定です。罰金による抑止力を確保するために、自然人よりも資力があることが多い法人には、より高額の罰金刑が設けられています(同項1号)。

 

 

著作権法の罰則について

著作権等侵害の罪(著作権法119条1項)について

著作権等を侵害した者は、10年以下の懲役もしくは 1000万円以下の罰金に処されます。

著作権等の侵害とされるのは、既存の著作物に依拠して、これと類似する著作物を無断で利用する行為です。

カラオケ著作権法は、特許法等とは異なり、営業として行われる行為に限らず、著作物の無断利用について一般的に著作権の侵害を認めているので、個人の方も注意が必要です。

近時、漫画などの書籍データを掲載した海賊版サイトにアクセスできるリンクを自らの運営するリーチサイト(海賊版コンテンツへのアクセスを容易にさせるサイト)に掲載したことについて、サイトの運営者及び管理者に対し、それぞれ著作権法違反で懲役3年前後の実刑判決が下される事例がありました(大阪地判平成31年1月17日)。

また、漫画の画像を海賊版サイトに公開した者に対し、著作権法違反で懲役1年6月、執行猶予3年、罰金50万円という判決が下されました(福岡地判令和元年11月7日)。

加えて、著作権の侵害となる行為を直接的には行っていないとしても、著作権侵害行為によって利益が帰属し、著作権の侵害となる行為を管理支配しているといえるような場合には、規範的行為主体として著作権を侵害したと評価されることがあります(クラブ・キャッツアイ事件、最判昭和63年3月15日)。

既に述べた福岡地判令和元年11月7日に関連して、自らはアップロード行為を行っていないものの、海賊版サイトに漫画の画像をアップロードするよう指示した者に対し、懲役1年10月、執行猶予3年、罰金100万円の判決が下されています(福岡地判令和2年3月18日)。

 

著作者人格権等侵害の罪(著作権法119条2項1号)について

著作者人格権または、実演家人格権を侵害した者は、5年以下の懲役もしくは 500万円以下の罰金に処されます。

 

違法ダウンロードの罪(著作権法119条3項)について

音楽イヤホン自分1人で利用するつもりであっても、著作権等を侵害している媒体であることを知って著作物をダウンロードした者は、2年以下の懲役もしくは 200万円以下の罰金に処されます。

なお、これらの著作権法上の刑事罰に関しても、刑法総則の規定が適用されることから(Winny事件:最判平成23年12月19日)、著作権侵害者を幇助した者は、従犯として処罰されることがあります(刑法62条)。

著作権法119条の規定は以下のとおりです。

著作権法119条

  1. 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者は、10年以下の懲役若しくは 1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
  2. 次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは 500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
    一 著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者
    二 営利を目的として、第30条第1項第1号に規定する自動複製機器を著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となる著作物又は実演等の複製に使用させた者
    三 第113条第1項の規定により著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行った者
    四 第113条第2項の規定により著作権を侵害する行為とみなされる行為を行った者
  3. 第30条第1項に定める私的使用の目的をもって、有償著作物等を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者は、2年以下の懲役若しくは 200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 

 

知的財産のトラブルへの対応

会社に知的財産法違反の疑いがかけられた場合、警察から捜査をされたり、株主への説明責任が生じたりといったリスクが発生してしまいます。

また、メディアに取り上げられ、大きな損失が生じる危険性があります。

迅速に、顛末書の作成や第三者委員会等による調査を実施し、事態が大きくなる前に解決をすることが理想です。

また、知的財産法違反が事実であれば、被害者に謝罪し、示談交渉を行い、社員に周知徹底して再発防止に努める必要もあります。

これらの対応を行うに当たっては、膨大な時間と労力を要します。

時計そのため、通常の業務に割くべき時間と労力を、事件の対応に回さなければならず、会社にとってはデメリットでしかありません。

専門家弁護士に調査等を依頼すれば、知的財産法に違反しているか等について判断をしたうえで、その後の適切な方針を立てることが可能です。

また、外部への説明にも説得力を持たせることができますし、被害者への対応としても、和解をすることのメリットを説明でき、解決金の額も適切な範囲に抑えることが可能です。

当事務所には、企業法務チーム、刑事事件チームがそれぞれ設置されていますし、知的財産法に強い弁護士も在籍しています。まずはお気軽に当事務所にご連絡ください。

 

 

なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか

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