大腿骨骨折と交通事故の後遺障害について

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

大腿骨骨折

交通事故により大腿骨骨折をした場合の後遺障害については、股関節の機能障害や痛みなどの神経症状が残存する可能性があります。

大腿骨骨折と後遺障害についてご説明いたします。

大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折

大腿骨頸部骨折は難治性の骨折といわれています。

この骨折は股関節内部で起こる骨折で、人工骨頭置換や手術による骨接合などの治療が行われています。

大腿骨頸部は、大腿骨の上端は股関節に中にあります。

上端の球状の部分を大腿骨頭といいますが、この大腿骨頭に続いている幹の部分が大腿骨頸部といいます。

大腿骨頭がその名のとおり頭の先だとすると、首に当たる部分になるため、頸部という名称がつけられています。

この大腿骨頸部が折れてしまうことを大腿骨頸部骨折といいます。

難治性のケガとは

大腿骨頸部骨折は、大腿骨頭骨折と同じく、治療が難しい骨折といわれています。

大腿骨頭には栄養を補給する動脈が通っています。それが骨折によって、動脈が断裂し、損傷した骨頭に栄養が行き渡らなくなります。

その結果、頸部より先の部分で、偽関節や壊死などの合併症がおこる可能性が高くなり、難治性の骨折といわれています。

股関節の機能障害が残った場合は8級7号、10級11号、12級7号、下肢が短縮した場合は8級5号、10級8号、13級8号、痛みが残った場合は12級13号、14級9号に該当する可能性があります。

 

大腿骨転子部(だいたいこつてんしぶ)骨折

太ももの骨が骨盤とくっついている部分は、骨頭といいます。

骨頭のすぐ下が頸部と呼ばれる部位で、さらにその下が、転子部です。

イメージとしては、太ももの付け根付近の骨という感じです。

転子部の中でも、足の小指側を大転子、足の親指側を小転子と呼びます。

大腿骨転子部骨折は、大腿骨の大転子から小転子の間の骨折することです。

転子間骨折、転子貫通骨折とも呼ばれています。

股関節の外での骨折で、血流もよく大腿骨頸部骨折と比べる、骨癒合がしやすい骨折です。

しかし、受傷者は高齢者が多いこと、大腿骨頸部骨折より強い力を受けることから、全身的な合併症が多く、治療が難しい骨折と言われています。

骨折の原因としては、高齢者の場合、屋内での転倒など比較的軽いエネルギーで発生することがあり、また、交通事故で下半身に強い衝撃を受けた場合にも発生します。

左大腿骨転子部骨折により後遺障害が認定された事例はこちらをご覧ください。

 

 

大腿骨骨折の原因

大腿骨骨折は高齢者に多く見られる骨折です。

屋内での転倒など比較的軽いエネルギーで発生します。

したがって、歩いていたところを自動車にひかれたという交通事故の場合には、起こりやすいけがです。

もちろん、若い方の場合でも衝突の衝撃が大きく、転倒した際の外力が強ければ、骨が耐えきれず骨折してしまう可能性は十分にあります。

 

 

大腿骨骨折の発生症状

大腿骨頸部骨折の症状

骨折部である股関節周辺に痛みが生じます。

股関節は下半身の一番上の関節になるため、骨折の程度が大きければ、起立できなくなり、歩行もできません。

また、転位が大きいと、下肢の短縮がおこります。

高齢者の場合は、併存する呼吸器、循環器、消化器など内科的疾患などの増悪、長期間治療による認知症の発症、増悪がする症例が多くあります。

 

大腿骨転子部骨折の症状

股関節の前面から外側にかけての痛みの訴えがあります。

起立ができなくなり、歩行もできません。

太もも付け根からおしりにかけて腫れと皮下出血があります。

骨折による骨のズレが大きいと、下肢の短縮がおこります。

ただ、血流がよい場所のため偽関節や壊死などの合併症は少なくなります。

 

 

大腿骨骨折の診断方法

まずは、単純X線撮影での画像で大腿骨の骨折があるかどうか、診断されています。

その上で、骨折線が不明な場合や骨折の詳細を把握するために、CTが使われています。

現在、CT検査では、骨折した骨を3Dで再現してパソコンで確認できる技術もありますので、医師から説明を受ける際に、自分の骨の状態を見せてもらって、説明を受けるケースもあります。

 

 

大腿骨骨折の治療方法

若年者と高齢者で、治療方法が異なることが多いです。

若年者

骨のズレが小さい場合、手術をしない保存療法を行われることがあります。

それでも受傷初期は入院の可能性がありますし、入院しないケースでも松葉杖や車いすでの生活をしばらく送ることになることが多いです。

また、骨のズレが大きい場合は骨癒合を得るため、スクリューやプレートなどを組み合わせて、骨を接合する手術が行われています。

手術後に入れたプレートを取る場合と取らない場合がありますが、取る場合には、半年ほど経過した後で再度手術をして、プレートを除去した後に治療終了となります。

高齢者の場合

高齢者の場合、ベットでの生活が長く続くと、筋力の低下が進むのが早く、また認知症も進行しやすく、一気に介護レベルが上がってしまうリスクがあります。

そのため、早い時期にベッドから起き上がり、歩けるようになるため、転位がなくても、人工骨頭置換術を行われています。

 

 

大腿骨骨折の後遺障害

人工骨頭置換をした場合

人工骨頭置換をした場合、以下の等級に認定される可能性があります。

人工骨頭置換をしなかった場合

(1)機能障害

大腿骨を骨折すると股関節が動かしづらくなることがあります。

関節が動かしづらくなることを機能障害といいます。

動かしづらくなった場合に、全て後遺障害に該当するわけではありません。

以下で説明するように一定以上の可動域制限(動かしづらさ)が残っていなければ後遺障害には該当しません。

また、運動障害が認定されるには、その運動障害が残る原因がレントゲンやMRI等で認められる必要があります。

例えば、骨癒合(骨のくっつき方)等に異常が認められるような場合です。

以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。

後遺障害等級についての補足
  • 8級7号
    「下肢の3大関節」とは、股関節、膝関節、足関節(足首の関節)のことをいいます。
    「用を廃した」とは、簡単に言うと、全く股関節が動かない状態、あるいは、動いたとしても、ケガをしていない方の足と比べて10%以下しか動かないような場合をいいます。
  • 10級11号
    「機能に著しい障害を残すもの」とは、股関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の股関節と比べ1/2以下に制限されている場合のことです。
  • 12級7号
    「関節の機能に障害を残すもの」とは、股関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の股関節と比べ3/4以下に制限されているような場合です。

このように、可動域制限(動かしづらさ)の程度に応じて、後遺障害が認定されることになります。

ポイント後遺障害申請の際に必ず提出しなければならない後遺障害診断書には、関節の可動域を記載する欄が設けられています。

この記載欄に、股関節の可動域の記載があれば、後遺障害の審査の対象となりますが、記載がなければ、そもそも審査の対象となりません。

したがって、後遺障害申請をするにあたっては、後遺障害診断書の内容を十分に確認しておくことが重要です。

(2)短縮障害

大腿骨を骨折することで、足の長さが短くなる(下肢の短縮)ことがあります。

足については、数cm長さが短縮しただけでも歩行に影響を与えることがあるので、下肢の短縮について後遺障害等級が設けられているのです。

以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。

上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)(腰付近の骨)から下腿内果下端の間の長さを測定し、健側(ケガをしていない方の足)と比較して後遺障害認定がなされます。

(3)神経症状の後遺障害

大腿骨を骨折したとしても、機能障害や短縮障害が残らず、痛みだけが残るということもあります。

こうした場合には、神経症状の後遺障害(痛みやしびれの後遺障害)に認定される可能性があります。

以下2つの後遺障害等級に認定される可能性があります。

2つの等級の違いは「頑固な」という文言の有無です。

「頑固な」神経症状といえるためには、痛みやしびれがあることについて、医学的に証明できなければなりません。

つまり、レントゲンやMRIなどで、骨や筋肉などに異常があることが認められる場合に、「頑固な神経症状」として12級13号が認定されるのです。

レントゲンやMRIで異常が認められないけれども、痛みが残っている場合には、14級9号に認定されるか問題となります。

もちろん、痛みが残っていれば全て14級9号に認定されるということはありません。

14級9号の場合は、痛みが残っていることが医学的に説明できなければなりません。

事故の態様や規模、治療経過などからして痛みが残っていることについて、医学的に説明できるような場合に、14級9号が認定されるのです。

 

大腿骨骨折の後遺障害慰謝料

大腿骨骨折の後遺障害慰謝料(裁判基準)は、下表のとおりです。

等級が同じであれば、後遺傷害慰謝料(裁判基準)は全て同じです。

例えば、8級7号と8級5号は、同じ8級なので、830万円となります。

 

 

大腿骨骨折による後遺障害部分の賠償額

大腿骨骨折をして後遺障害に認定されたときの、後遺障害部分の賠償額を等級に分けて解説します。

賠償額の計算にあたっては、38歳(就労可能年数29年)、年収460万円を前提として計算します。

※以下の計算は、あくまで概算であり、個別の事案によって異なることがあります。また、以下の計算は、2020年4月1日以降の事故を想定しています。2020年3月31日以前の事故の場合には、ライプニッツ係数が異なるため、金額が異なります。

機能障害のケース

8級7号

後遺障害慰謝料 830万円
後遺障害逸失利益 3971万9160円
計算式
460万円 × 45%(労働能力喪失率)× 19.188(29年に対応するライプニッツ係数) = 3971万9160円
合計 4801万9160円

 

10級11号

後遺障害慰謝料 550万円
後遺障害逸失利益 2383万1496円
計算式
460万円 × 27%(労働能力喪失率)× 19.188(29年に対応するライプニッツ係数) = 2383万1496円
合計 2933万1496円

 

12級7号

後遺障害慰謝料 290万円
後遺障害逸失利益 1235万7072円
計算式
460万円 × 14%(労働能力喪失率)× 19.188(29年に対応するライプニッツ係数) = 1235万7072円
合計 1525万7072円

 

短縮障害のケース

短縮障害の場合、保険会社から労働に支障がないとして逸失利益について争われることもありますので、逸失利益の金額については、この点ご留意ください。

8級5号

後遺障害慰謝料 830万円
後遺障害逸失利益 3971万9160円
計算式
460万円 × 45%(労働能力喪失率)× 19.188(29年に対応するライプニッツ係数) = 3971万9160円
合計 4801万9160円

 

13級8号

後遺障害慰謝料 180万円
後遺障害逸失利益 794万3832円
計算式
460万円 × 9%(労働能力喪失率)× 19.188(29年に対応するライプニッツ係数) = 794万3832円
合計 974万3832円

 

神経症状のケース

12級13号

後遺障害慰謝料 290万円
後遺障害逸失利益 549万3320円
計算式
460万円 × 14%(労働能力喪失率)× 8.530(10年に対応するライプニッツ係数) = 549万3320円
合計 839万3320円

 

14級9号

後遺障害慰謝料 110万円
後遺障害逸失利益 105万3400円
計算式
460万円 × 5%(労働能力喪失率)× 4.580(5年に対応するライプニッツ係数) = 105万3400円
合計 215万3400円

 

 

大腿骨骨折での問題点

大腿骨骨折は非常に治療が困難な骨折です。

また、上述のとおり、治療を尽くしても、後遺症が残ってしまう可能性も十分にあります。

入院や手術を行う可能性が一定程度あるけがですがその際、交通事故の被害者の方が自ら保険会社に連絡をして、保険会社との適宜やり取りをしなければなりません。

保存療法か手術療法のどちらを選択するかどうか、選択した治療法でどのくらいの期間治療をすることが必要なのかについて、保険会社と争いになるケースもあります。

治療を行っても、完全には治らずに、可動域制限や痛みが残ったりしてしまう可能性があります。

人工骨頭置換術を受けた場合には、後遺障害が認定される可能性が高いです。

そのような場合には、症状固定時に後遺障害の等級申請を行わなければなりません。

その際には、理学療法士に可動域を正確に測ってもらい、後遺障害診断書にそれを記録してもらうことも必要になります。

後遺障害の申請は、非常に大変な手続です。

他方で、相手方の保険会社に完全に任せる手続(事前申請)では、透明性が確保できず、オススメできません。

後遺障害の認定手続が終わったあとには、保険会社との示談をすることになります。

 

 

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