交通事故で診断書は出す?出さない?デメリットを解説

交通事故に遭った場合、「診断書は出すべきか、出さないべきか」の判断に迷う場合、原則として、身体に少しでも不調があれば、速やかに診断書を提出し、人身事故として処理すべきです。
診断書を提出すれば、警察において実況見分調書が作成され、過失割合で争いになった場合に、より適切な割合で合意することが期待できます。
一方、診断書を出さないという選択は、加害者の行政処分を回避できるといった限定的なメリットがある一方で、適切な後遺障害認定を得られない、適切な賠償金を受け取れないといったデメリットが生じることがあります。
この記事では、交通事故で診断書を出すことのメリットやデメリット、診断書を出した方がいいケース・出さない方がいいケース、診断書の提出の仕方や注意点などについて、弁護士がわかりやすく解説していきます。
目次
交通事故で診断書は出す?出さない?
事故によってケガをしたケースで、特に交通事故の診断書を出した方がいいケースは主に以下のようなケースです。
- 事故状況や過失割合について加害者側と争いになる可能性がある場合
- 加害者に適切な責任追及をしたい場合
一方、診断書を出さず物損事故のままにしておく方が良い例外的なケースとして、示談交渉を有利に進めるための戦略的な手段として、診断書の提出を控えるケースが挙げられます。
診断書を提出することには、適正な賠償金や有力な証拠(実況見分調書)を得られる多大なメリットがある一方で、提出しないことには、適切な後遺障害認定や賠償金を受けることが難しくなるといったデメリットが生じる可能性があります。
これらの具体的なメリットとデメリットについては、以下で詳しく解説します。
診断書を出すとどうなる?メリットとデメリット
診断書を出すメリット

①物損事故から人身事故として正式に処理される
交通事故に遭い負傷した場合、医師に作成してもらう診断書は、その後の事故処理や損害賠償請求において極めて重要な役割を果たす法的証拠となります。
交通事故における診断書の提出は、警察による事故の種別を、「物損事故(物件事故)」から「人身事故」へと切り替えるための法的要件となります。
この切り替えは、その後の損害賠償請求プロセスにおいて、被害者にとって重要な法的根拠と証拠を確保する役割を果たします。
②実況見分調書が作成される
人身事故として処理される最大のメリットは、警察が人身事故としての捜査(実況見分)を実施し、詳細な実況見分調書を作成してくれることです。
実況見分調書とは、警察官が現場で当事者の立ち会いのもと、事故発生時の状況(車両の停止位置、衝突地点、ブレーキ痕の長さ、信号の色など)を客観的かつ詳細に記録した公文書です。
この調書は、後に加害者側との過失割合を争う示談交渉や裁判において、客観的証拠となります。
物損事故では、簡易的な物件事故報告書しか作成されず、事故状況の立証が困難になるため、被害者が不利な立場に置かれるリスクを回避できます。
③加害者に適切な処分を受けてもらえる
被害者が交通事故により負傷していることから、加害者に対して過失運転致傷罪などの刑事責任が問われる可能性がでてきます。
加害者の過失割合が大きく、被害者が骨折などの重症を負っている場合には、加害者に刑事罰が科される可能性があるのです。
また、運転免許の違反点数を加算する行政処分が行われる可能性があります。
加算される点数や、加害者の事故当時の点数によっては、免許停止や免許取り消しになる可能性もあります。
診断書を出すデメリット
①被害者にも行政上のペナルティが課される可能性
診断書を警察に提出し、事故を人身事故として処理することは、被害者側にわずかでも過失がある場合、行政上のペナルティにつながる可能性があります。
人身事故として警察が捜査を行うと、事故の原因を作った者(加害者)に対して、安全運転義務違反などの交通違反が適用され、その結果、違反点数が課されます。
この違反点数の適用は、過失の程度に応じて、被害者側にも及ぶ可能性があります。
例えば、被害者自身にも前方不注視などの過失が認められ、事故原因の一端を担っていると判断された場合、人身事故として処理されることで、その違反内容に応じた点数が加算されることになります。
このような違反点数が累積することで、免許停止や免許取消といった行政処分を受けるリスクが生じます。
このように、物損事故のままにしておけば回避できたはずの行政処分が、診断書を出すことで違反点数が累積することは、大きなデメリットとなる可能性があります。
②警察の対応が必要になる
人身事故の場合には、加害者に過失運転致傷等の罪が成立するか警察の捜査が行われますので、その捜査に協力する必要があります。
例えば、実況見分調書を作成するにあたっては、もう一度、現場に行って事故状況を説明しなければならない可能性がありますし、供述調書をとるために警察署に行く必要が出てくることもあります。
このように、診断書を提出した場合には、警察の捜査の協力をする必要があり、手間がかかる可能性があります。
診断書を出さなかったらどうなる?メリットとデメリット
診断書を出さないメリット
①加害者の刑事・行政処分を回避できる
診断書が提出されなければ、警察は被害者の負傷の事実を正式に把握できないため、原則として事故は物損事故(物件事故)として処理されます。
診断書がなければ、警察は人身被害を把握できず、過失運転致傷罪などの刑事罰の適用対象から外れるため、加害者が刑事責任を負わずに済みます。
また、人身事故として処理されることで課される、免許の違反点数加算や免許停止といった加害者の行政処分が回避されます。
このように、被害者側が得られる利益は限定的ですが、被害者自身が加害者の社会的な不利益を避けたいと考える場合に、診断書を出さないという選択がとられることがあります。
一方、被害者自身にも一定の過失があり、かつ相手も負傷している(または負傷を訴える可能性がある)場合には、自分が先に診断書を提出して人身事故に切り替えることが、相手側による診断書提出を誘発し、結果的に被害者自身も人身事故の加害者として扱われ、免許の点数加算という行政上のペナルティを負うリスクがあります。
このような例外的な状況では、ご自身の行政処分を回避するために、あえて診断書の提出を控えることが検討される場合があります。
ただし、このような判断は極めて慎重に行うべきであり、交通事故の専門家である弁護士と十分に協議した上で行うべきです。
②警察の事故処理が簡易化される可能性
物損事故として処理される場合、人身事故で必須とされる実況見分が実施されず、警察による処理が簡易的かつ迅速に終了する傾向があります。
人身事故でなく物損事故(物件事故)の場合、警察の捜査が簡易な物件事故報告書の作成のみで済むため、事故直後の警察対応に要する時間が短くなる傾向があります。
診断書を出さないデメリット
①実況見分が作成されない
診断書を出さないことで警察による事故処理が簡易化され実況見分調書が作成されないことは非常に大きなデメリットになる可能性があります。
実況見分調書がない場合、事故状況の立証は当事者の主張や簡易な警察の記録に頼るしかありません。
この場合、加害者側と過失割合について意見が対立した際、被害者側は自己の過失が低いことを客観的に証明する手段を失い、適切な過失割合が認められない可能性が高まります。
特に、ドライブレコーダーや目撃者がいないケースでは、このデメリットは大きいといえるでしょう。
また、実況見分調書は、後遺障害の申請時、実況見分調書は事故の衝撃の大きさを裏付け、残存症状と事故との因果関係を証明するための重要な資料となりますが、物件事故のままだと作成はされないのです。
②事故が軽微な場合に損害を認めてもらえない可能性がある
交通事故による車両の破損が明確で相当の衝撃があったと考えられる事故であり、事故後、速やかに病院を受診している場合には、物損事故のままでも、大きな問題にならないことが多いです。
破損が大きく、すぐに病院を受診しているということは、事故により怪我をしたと考えるのが自然だからです。
もっとも、軽微な事故の場合には、物件事故のままにしておくと、事故とケガの因果関係を否定する材料の一つとして、「物件事故」のままであることが理由に挙げられることがあります。
診断書を出した方が良いケース

身体に何らかの症状や不調がある場合
交通事故に遭い負傷した場合、原則として、ご自身の権利と利益を最大限に守るため、速やかに医師の診断書を取得し、警察に提出して人身事故として処理すべきです。
最も基本的な判断基準は、ご自身または同乗者に怪我があるかどうかです。
交通事故当初、軽微に感じたり、自覚症状がなかったりしても、後日症状が現れることが多々あります。
むちうち(頚椎捻挫)のように、事故から数日~数週間後に症状が顕在化するケースは少なくありません。
事故直後に診断書を提出しておけば、後から症状が悪化した場合でも、物損事故のまま因果関係を否定されるリスクを回避できます。
事故状況や過失割合について加害者側と争いになる可能性がある場合
事故状況やどちらに過失があるかで当事者間に意見の相違がある場合、診断書を提出し人身事故とすることは、適切な過失割合の認定にも役立ちます。
人身事故として処理されることで、警察による詳細な実況見分が実施され、客観的な実況見分調書が作成されます。
この調書は、事故態様や現場の状況を詳細に記録した公的かつ最も有力な証拠であり、後の示談交渉や裁判において、過失割合を決定づける根拠となります。
物損事故のままでは、簡易な記録しか残らず、加害者側の主張に対抗するための決定的な証拠を失ってしまいます。
また、ドライブレコーダーの映像がない、現場に防犯カメラがない、目撃者がいないなど、事故状況を客観的に証明できる証拠が不足している状況ほど、警察が作成する実況見分調書の重要性は高まります。
適切な責任追及をしたい場合
警察に診断書を提出した場合には、加害者は自動車運転過失致傷の被疑者として捜査されます。
また、運転免許の点数が減点される可能性もあります。
もし、物件事故のままにした場合には、こうした可能性は一切なくなりますので、加害者に適切な責任を取ってほしい場合には、人身事故にしたほうがいいでしょう。
診断書を出さない方が良いケース
原則として、交通事故で負傷した場合は診断書を提出し人身事故として処理すべきです。
しかし、例外的に診断書を提出せず物損事故のまま処理する方が、被害者にとって有利になる可能性があるケースも考えられます。
それは、示談交渉を有利に進めるために、診断書の提出を控えるケースです。
物損部分の過失割合の評価が微妙で争点となっている場合、加害者側から人身事故にしないことを条件に、過失割合は被害者に有利に認める、といった打診があることがあります。
こうした打診があった場合には、診断書を出さないという選択肢もあるでしょう。
しかし、安易に自己判断することは極めて危険です。
このような判断は、適切な賠償金額を受けられなくなるという重大なリスクを伴うため、必ず交通事故に精通した弁護士に相談し、総合的なメリット・デメリットを評価した上で慎重に決定すべき事項です。
警察に診断書を出す方法
警察署に診断書の原本を提出する
診断書は、事故処理を担当した警察署の交通課に提出する必要があります。
旅行先や出張先で事故に遭った場合は、現地を管轄する警察署が提出先となります。
提出先は、事故を管轄した警察署の交通課です。
医師が作成した診断書の原本を提出する必要があり、コピーやデータでの提出は認められません。
診断書には、傷病名や全治見込みの期間が記載されている必要があります。
診断書はできるだけ早く提出すべき
警察へ診断書を提出するうえで、法律や制度で定められた明確な提出期限は存在しません。
しかし、事故から時間が経過すると、警察や加害者側から「負傷と事故の間に因果関係があるのか」という疑義を挟まれるリスクが著しく高まります。
客観的な証拠として診断書の価値を最大限に保つため、事故後、速やかに医療機関を受診し、診断書を作成してもらったら直ちに提出すべきでしょう。
一般的には、事故発生から10日程度を目安に提出することがスムーズな人身事故への切り替えにつながります。
また、事故直後に目立った症状がなく、当初物損事故として処理された場合でも、後から症状が現れた場合は、診断書を提出することで人身事故に切り替えることが可能です。
人身事故へ切り替える旨は、加害者側およびその任意保険会社にも忘れずに通知してください。
これにより、加害者側も人身事故として警察の捜査対象となり、正式に実況見分が行われることになります。
交通事故の診断書を出すポイント
診断書を提出するとどうなるのかを理解する
これまで説明したとおり、警察に診断書を提出した場合、以下のようになります。
- 物件事故から人身事故になる
- 実況見分調書が作成される
- 加害者に過失運転致傷等の罪の捜査が行われる
- 加害者に運転免許の違反点数が加算される可能性がある
- 警察の捜査に協力する必要が出てくる
このように、警察に診断書を提出して人身事故にすることで影響を受けるのは、主に加害者側になります。
診断書を提出しないことのリスクを理解する
診断書を提出しない場合には、以下のリスクがあります。
- 軽微な事故の場合、事故とケガの因果関係の評価で不利になる可能性がある
- 実況見分調書が作成されず、正確な事故態様が確定できない可能性がある
- 加害者に刑事罰や行政処分が科されず、適切な償いをしてもらえない
こうしたリスクを踏まえて、診断書を警察に提出するかどうかを判断すべきでしょう。
事故診断書を出す・出さないについての知恵袋的Q&A

警察が診断書を受け取らない場合どうしたらいい?
原則として、警察は被害者からの診断書の提出を拒否することはできません。診断書の提出は、被害者が事故を人身事故として取り扱うよう求める権利を行使する行為だからです。しかし、実務上、軽症の場合や事故から時間が経過している場合には、警察が受け取りに難色を示す可能性があります。
警察が受け取りを拒否しても、毅然とした態度で提出の意思を明確に伝えることが重要です。
それでも拒否が続く場合は、速やかに交通事故に強い弁護士に相談してください。

軽い事故なのに人身にされた場合はどうなりますか?
人身事故は、怪我の程度で決まるものではなく、人的損害の有無で決まります。そのため、被害者が警察に診断書を提出し、事故が人身事故として処理された場合、事故の規模の軽重にかかわらず、加害者側には刑事罰や行政処分(違反点数の加算、罰金など)が科される可能性が生じます。
加害者は、人身事故として捜査の対象となり、実況見分への立ち会いや事情聴取に応じる義務が生じます。
被害者は、後の示談交渉において重要な資料となる実況見分調書を得られるというメリットがあります。

診断書を出さないと人身事故にならない?
原則として、交通事故が人身事故として警察に認定されるためには、被害者が医師の診断書を警察に提出し、「事故によって負傷者が発生した事実」が証明される必要があります。診断書を提出しない場合、警察は人的損害の事実を把握できないため、物損事故(物件事故)として処理を完了します。
物損事故のままでは、実況見分調書が作成されない可能性があるため、人身損害(慰謝料、休業損害など)の賠償請求において、極めて不利な立場に置かれることになります。
まとめ
交通事故における診断書の提出は、人身損害の適正な賠償を受けるために必須要件です。
原則として、身体に少しでも不調があれば診断書を提出し、人身事故として処理すべきです。
人身事故にすることで、実況見分調書という証拠が残ります。
一方、診断書を出さない選択肢には、加害者の行政処分回避といった限定的なメリットがあります
診断書の提出について手続きや交渉に不安があれば交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。
当事務所には、交通事故に注力する弁護士のみで構成される交通事故チームがあり、被害者の方々を強力にサポートしています。
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