自損事故で警察を呼ばなかったら?車両保険への影響やリスクを解説

監修者:弁護士 鈴木啓太 弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

自損事故で警察を呼ばなかったら、事故の発生を報告しなかったということで、道路交通法違反となります。

「自損事故」とは、運転者自身の不注意によって引き起こされる、他者が関与しない単独の事故のことを指します。

自損事故を起こしたとき、「相手がいないから警察を呼ばなくても大丈夫だろうか?」と考える方は少なくありません。

しかし、警察への届け出を怠ると、道路交通法違反に問われるだけでなく、高額な修理費用や治療費を全額自己負担しなければならない事態に陥る可能性があります。

なぜなら、保険金の支払いを受けるためには、警察が発行する「交通事故証明書」が必要となるからです。

この記事では、自損事故で警察を呼ばなかった場合のリスクや、保険への影響、正しい対処法などについて、弁護士がわかりやすく解説していきます。

自損事故とは?

自損事故とは?

「自損事故」とは、運転者自身の不注意によって引き起こされる、他者が関与しない単独の事故のことを指します。

自損事故は、「単独事故」や「自爆事故」などとも呼ばれるこの種の事故は、文字通り「自分の過失が100%」である点が大きな特徴です。

具体的には、電柱やガードレールへの衝突、駐車場での家屋や壁への接触、縁石への乗り上げ、崖からの転落など、さまざまなケースが該当します。

他者や他車が関わらないため、当事者は運転者ただ一人です。

このため、「大した事故ではない」、「自分だけの問題だから」と判断し、警察への届け出を怠ってしまうケースが少なくありません。

しかし、その安易な自己判断が、後々の大きなトラブルや不利益につながる可能性があることを認識しておく必要があります。

たとえ自損事故であっても、道路交通法第72条(交通事故の場合の措置)に基づき、警察への報告が義務付けられています。

この規定は、事故の大小や相手の有無にかかわらず適用されます。

警察に届け出ることで、事故が公的に記録され、「交通事故証明書」が発行されます。

この証明書は、後述する保険金の請求手続きにおいて不可欠な書類となります。

自損事故は、一般的に「物損事故」として扱われます。

もし、運転者自身が負傷した場合は、人身事故として扱われることもあります。

しかし、自損事故は相手方のいない事故であるため、被害者を救済することを目的とした自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の適用対象外となります。

そのため、ご自身の怪我や車の修理費用を補償するためには、ご自身で加入している任意の自動車保険(人身傷害保険、車両保険など)の利用を検討する必要があります。

この点を理解しないまま、「警察を呼ばなくても大丈夫だろう」と軽視してしまうと、結果的に保険の補償を受けられず、高額な修理費用を自己負担せざるを得ない事態に陥るリスクを負うことになります。

また、事故の報告義務を怠った場合、道路交通法違反に問われる可能性もゼロではありません。

自損事故の場合、警察に自主的に連絡をすれば違反点数は加算されないのが原則です。

しかし、道交法に違反した場合には減点の対象となります。

 

 

自損事故で警察を呼ばなかったら車両保険を使える?

弁護士として結論から申し上げると、自損事故で警察への報告を怠った場合、車両保険を含む任意の自動車保険が使えなくなる可能性が極めて高いです。

これは、保険金請求の手続きにおいて、公的な事故の証明が必要となるためです。

保険会社は、事故が実際に発生し、その内容が正確であることを確認するために「交通事故証明書」の提出を求めます。

交通事故証明書は、単に事故があったことを示すだけでなく、「いつ」、「どこで」、「誰が」事故を起こしたかを公的に証明する、極めて信用力の高い書類です。

保険会社がこの書類を求めるのには、不正請求の防止や、事故内容の正確な把握のためです。

保険会社は、契約者が不正に保険金を請求するのを防ぐために、確固たる証拠を必要とします。

口頭での説明や、個人的な記録だけでは事故の証明として不十分とされるのが一般的です。

特に、自損事故の場合、事故の目撃者がおらず、客観的な証拠が少ないため、交通事故証明書は特に重要な役割を果たします。

また、保険会社は、事故が保険の補償対象となるかどうかを判断するために、事故の詳細な状況を正確に把握する必要があります。

車両保険の場合、契約内容によっては単独事故でも補償対象となりますが、その適用範囲を判断するために、公的な記録である交通事故証明書が不可欠となります。

そして警察に届け出をしなければ、この証明書が発行されず、結果として保険会社は事故の事実確認ができないため、保険金の支払いを拒否せざるを得ません。

たとえ小さなキズやヘコミであっても、あるいはご自身が軽傷を負った場合であっても、警察への届け出が必要となります。

ここで、「ドライブレコーダーの映像があるから、警察を呼ばなくても大丈夫では?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ドライブレコーダーの映像はあくまで補助的な証拠であり、それだけで十分とされるケースは稀です。

ドライブレコーダーの映像は、必ずしも事故の状況全体を鮮明に記録しているわけではなく、画質が悪かったり、アングルが悪かったりすると、事故との因果関係を証明できない場合もあります。

ドライブレコーダーの映像は私的な記録であり、公的な証明力は交通事故証明書には劣るという点には、注意しておく必要があるでしょう。

 

 

警察を呼ばない場合のリスクやデメリット

警察を呼ばない場合のリスクやデメリット

 

保険金が受け取れない

警察に事故を届け出ない最大のデメリットは、保険金を受け取れなくなることです。

保険会社は、事故が実際に発生したことを公的に証明する「交通事故証明書」の提出を求めます。

この証明書は警察が発行するため、警察への報告がなければ手に入れることができません。

自損事故でご自身の車の修理が必要となったとしても、交通事故証明書がない場合、車両保険を利用して車の修理費用をまかなうことができず、全額自己負担となります。

また、自損事故を起こしてその後に怪我の症状(むち打ちなど)が現れた場合でも、事故との因果関係を証明する書類がないため、人身傷害保険や搭乗者傷害保険による治療費の補償を受けられないリスクがあります。

 

道路交通法違反に問われる可能性

警察への報告義務を怠ることには、保険が使えないこと以外にも、複数の重大なリスクやデメリットが伴います。

道路交通法第72条には、交通事故の当事者には直ちに警察へ報告する義務が定められています。

自損事故であっても、この法律の適用対象です。

報告を怠ると、「危険防止措置義務違反」や「報告義務違反」として、以下の刑事罰や行政罰の対象となる可能性があります。

まず、危険防止措置義務違反には1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金、報告義務違反には3カ月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

また、危険防止措置義務違反で5点、報告義務違反で2点の違反点数が加算されることがあります。

これにより、累積点数によっては免許停止処分を受けるリスクが生じます。

特に、電柱、ガードレールなど他人の所有物を損壊したにもかかわらず現場を立ち去る行為は、俗に「当て逃げ」として扱われ、厳しく処罰される対象となります。

 

後日届け出ることによるリスク

自損事故を起こしてすぐに警察に届け出られない状況も考えられます。

そのような場合には、後から管轄の警察署に事故の届け出をすることも許されています。

しかし、後日に手続きを行うことは、さまざまなリスクを伴います。

まず、自損事故から時間が経過していることで、事故があった事実を確認できる証拠が散逸・消失してしまっている可能性があります。

事故を起こした本人が「ここで自損事故を起こした」と主張したとしても、事故現場に追突痕やタイヤ痕など何の痕跡も残されていない場合には、実際にそこで交通事故が発生したと第三者が確認することは難しくなります。

また、事故の報告が遅れた場合には、警察が受け付けてくれないというケースも考えられます。

警察が事故の届け出を受け付けてくれない場合には、当然、交通事故証明書も発行してもらえないため、保険の適用を受けることもできなくなります。

したがって、事故が発生した場合には、できるだけ速やかに警察に事故の届け出を行うことが望ましいでしょう。

 

後日、人身事故に発展するリスク

自損事故の直後は、身体に異常がないと感じていても、後からむち打ちなどの症状が現れるケースが少なくありません。

この場合、物損事故から人身事故に切り替える必要が生じます。

自損事故によって被保険者や家族、同乗者がケガを負った場合には、実際の損害額(治療費、休業損害、逸失利益、精神的損害など)を保険で設定した金額を上限に補償を受けられる可能性があります。

しかし、事故当初に警察に届け出をしていなければ、事故との因果関係を証明することが難しくなります。

その結果、治療費や休業補償といった保険金の補償を受けられなくなるリスクが生じます。

万が一の事態に備え、小さな事故であっても必ず警察に届け出て、記録を残すことが重要です。

 

 

警察を呼ばないことでメリットはある?

それでは、自損事故で警察に連絡しないことにメリットはあるのでしょうか。

結論から申し上げますと、自損事故で警察を呼ばないメリットはありません。

「面倒な手続きをせずに済む」、「違反点数が加算されないのでは?」といった安易な考えから、警察を呼ばないという選択をする方がいますが、それは全くの誤解であり、一時的なメリットと引き換えに、計り知れないリスクとデメリットを背負い込むことになります。

警察に連絡をしないことで得られるメリットは、せいぜい「事故現場での対応が早く済む」という程度です。

しかし、この一瞬の安堵は、以下のような致命的なリスクとなって跳ね返ってきます。

  • 保険金が受け取れないリスク
  • 道路交通法違反に問われるリスク
  • 後々のトラブルに繋がるリスク など

また、「警察を呼ぶと違反点数が加算されるから」と考えて事故の報告をしたくないという方も少なくありません。

しかし、自損事故の場合、適切に警察に届け出て対応すれば、原則として違反点数は加算されません。

違反点数が加算されるのは、事故原因が飲酒運転や無免許運転などの明らかな法令違反である場合、または報告義務を怠った場合です。

つまり、警察に連絡しないこと自体が、違反点数加算の要因となるのです。

 

 

自損事故を起こしたときの正しい対処法

自損事故を起こしたときの正しい対処法

 

二次被害の防止と安全の確保

事故を起こしたら、まず最優先で自身と周囲の安全を確保してください。

道路上に車が停止している場合、後続車との衝突事故(二次被害)を引き起こす可能性があり、これは道路交通法で禁止されています。

速やかに以下の措置を講じましょう。

まず、事故車が動かない場合は、後続車に危険を知らせるためにハザードランプを点灯させます。

もし車が自力で動かせる状態であれば、路肩や安全な場所へ移動させましょう。

また、夜間や見通しの悪い場所では、発煙筒や三角表示板を設置して、後続車に事故の発生を知らせる必要があります。

これらは後続車からの視認性を高め、二次被害を効果的に防ぎます。

これらの措置を怠ると、道路交通法第72条の「危険防止措置義務違反」となり、1年以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

また、公共物に散らばった破片などは、可能な範囲で片付け、安全を確保することも重要です。

 

警察に事故の報告を速やかに行う

自損事故であっても、警察への報告は義務です。

これは道路交通法第72条に明記されており、違反した場合は罰則の対象となります。

事故が軽微だからといって、自己判断で現場を立ち去ったり、警察への連絡を怠ったりしてはいけません。

警察に報告する際は、以下の情報を正確に伝えてください。

  • 事故の発生日時と場所
  • 損壊した物と損壊の程度
  • 怪我をした人の有無と程度

警察に報告することで、事故の事実が公的に記録され、後に「交通事故証明書」が発行されます。

この証明書は、保険会社への保険金請求において不可欠な書類です。

この書類がなければ、保険会社は事故の事実を確認できず、保険金の支払いを拒否する可能性が極めて高くなります。

また、報告を怠った場合は、「報告義務違反」として3カ月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金に処されることもあります。

 

念のため医療機関で受診する

事故直後は、興奮状態にあるため、怪我の自覚症状がないことがよくあります。

しかし、数日後にむち打ち症などの症状が現れるケースは珍しくありません。

そのため、自覚症状がなくても、必ず医療機関で医師の診断を受けてください。

事故直後に受診することで、後に症状が出た場合でも、その症状が交通事故によって引き起こされたこと(事故との因果関係)を医学的に証明できます。

人身傷害保険や搭乗者傷害保険などの保険金を請求する場合には、医師が作成した診断書の取得を要求される場合があります。

万が一、事故から時間が経ってから症状が出た場合、事故との因果関係を証明することが困難になり、保険の補償を受けられないリスクが高まります。

ご自身の身体の安全のためにも、そして将来的な保険請求に備えるためにも、事故後の速やかな医療機関の受診は非常に重要です。

 

 

自損事故の対処法についてのQ&A

自損事故で警察に後日連絡した場合はどうなりますか?

自損事故を現場で警察に届け出なかった場合でも、後日連絡することは可能です。

しかし、道路交通法では事故の報告を「直ちに」行うことが定められているため、後日の連絡は報告義務違反とみなされる可能性があります。

速やかに連絡することで、これらのペナルティが回避できる可能性があります。

そして、後日連絡する際は、事故現場を管轄する警察署に直接出向くか、事前に電話で連絡してください。

この際、事故の正確な日時、場所、損壊状況、車両の傷の位置などを詳細に伝えることが求められます。

時間が経過するほど、警察による現場検証が困難になり、客観的な証拠も失われてしまうため、事故の状況を正確に証明することが難しくなります。

警察が事故の事実を認めれば「交通事故証明書」が発行されますが、時間が経ちすぎると証拠不足で発行されないリスクが高まります。

また、事故後に体の不調が現れても、受診までの期間が空いていると、事故との因果関係を証明することが難しくなり、治療費などの補償を受けられない可能性も出てくるため、注意が必要です。

 

自損事故で警察を呼ばなかった場合、後日いつまでに連絡すれば?

自損事故における警察への報告義務は、法律上「直ちに」と定められており、明確な期限は定められていません。

しかし、これは「できるだけ速やかに」という意味であり、時間が経過するほど報告義務違反としての指摘を受けやすくなります。

一般的には、事故から数日以内に事故現場を管轄する警察署に連絡することが望ましいでしょう。

交通事故証明書の申請には、物損事故の場合は事故発生から3年以内という期限があります。

ただし、この期限内であっても、警察が事故の事実を正確に確認できなければ、証明書は発行されません。

保険会社とのやり取りをスムーズに進めるためにも、時間が経てば経つほど不利になることを理解しておく必要があります。

 

車を擦ったが警察を呼ばなかった場合どうなる?

車を軽く擦った程度の事故であっても、警察への報告は義務です。

たとえ相手がいない自損事故であっても、電柱やガードレール、他人の塀などを損壊させた場合は「物損事故」に該当し、道路交通法に則った報告義務が生じます。

警察に連絡しなかった場合、「報告義務違反」や「危険防止措置義務違反」として、罰金や行政処分の対象となる可能性があります。

また、軽微な擦り傷であっても、車両保険を使って修理したいと考える場合、「交通事故証明書」がなければ保険金請求ができません。

警察に届け出をしていなければ、この証明書は発行されず、修理費用は全額自己負担となります。

 

自損事故で警察を呼ばなくても使える保険はある?

自損事故で警察を呼ばずに、保険の補償を受けられるケースはほぼありません。

これは、保険金請求に際して、交通事故証明書が原則として必要となるためです。

この証明書は、警察に事故を届け出なければ発行されない公的な書類であり、保険会社が事故の事実や状況を客観的に確認するための唯一の手段となります。

自損事故で補償が受けられる主な保険として、車両保険、人身傷害保険、搭乗者傷害保険などがあります。

しかし、交通事故証明書がない場合、保険会社は事故の事実を客観的に証明する手段がないため、不正請求の可能性を疑わざるを得ず、保険金の支払いを拒否する判断を下すのが一般的です。

 

 

まとめ

自損事故は、当事者が運転者のみの単独事故ですが、警察への届け出は法律上の義務です。

これを怠ると、道路交通法違反となり罰則の対象となるだけでなく、保険金も受け取れなくなります。

警察に届け出て交通事故証明書を発行してもらわなければ、車両保険を含む任意の保険は利用できません。

後日連絡しても受け付けてもらえなかったり、証拠が不足したりするリスクが高まります。

車を軽く擦った場合でも、公共物や他人の所有物を損壊させた場合は「物損事故」として報告が必要です。

自損事故を起こして保険の適用を検討されている方は、速やかに警察へ連絡し、適切な手続きを踏むことが重要です。

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