高次脳機能障害と要介護認定の関係について

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)

交通事故により、脳に外傷を負った場合、高次脳機能障害の問題が生じます。

高次脳機能障害と診断される被害者においては、日常生活に近親者をはじめとして、周りの人たちの介護を要するケースも多くあります。

このような場合、自賠責保険における後遺障害の等級認定手続とは別に、介護認定の手続を受ける場合があります。

介護認定制度とは、介護保険制度に基づく介護サービスを受けるために行われる認定手続であって、居住する市区町村に申請手続を行います。

要介護認定では、自立しており、支援の必要性がないという非該当と介護予防サービスを受けることができる要支援1・2、介護保険サービスを受けることができる要介護1〜5の3種類があります。

この要介護認定の手続と自賠責保険における後遺障害の等級認定制度との関係について、名古屋地判平成28年5月25日が判断を示しました。

泣く女性のイメージイラスト事案の概要としては、65歳の主婦が自転車で直進中に自動車と出会い頭で衝突し、外傷性くも膜下出血、脳挫傷、頭蓋骨骨折などの傷害を負い、自賠責保険では、2級1号の認定を受けました。
被害者の弁護士は、この自賠責保険の等級が適切であるとして損害賠償を行っていたところ、加害者側の弁護士が、交通事故直後の要介護5の認定がその2年後には要介護1まで回復していることなどを指摘して、後遺障害は7級が相当であるとして争っていました。

この点、名古屋地裁は、以下のように判決で言及しています。

 

名古屋地判平成28年5月25日

「要介護認定は、自賠責保険における後遺障害認定制度とは制度趣旨が異なり、介護サービスの内容を決定するための決定するためのものであるから、要介護認定の変更は、前記認定判断を左右するものではない。」

この判決文からすれば、自賠責保険の等級制度と要介護認定制度は、その目的が違うため、一切関係がないと判断しているようにも解釈できます。

しかしながら、一概にそのように言い切ることはできないと考えています。

すなわち、要介護認定が全くなされない、つまり非該当の人が1級や2級といった後遺障害が認定されるというのはやはり違和感が残ります。

したがって、この裁判例は、要介護認定の等級が変更されたからといってそれだけですぐに自賠責保険が認定した後遺障害の等級に影響を与えるわけではないということを指摘したにとどまると見ておくのが穏当であると考えられます。

 

 

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